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映画『孤狼の血』主演・役所広司インタビュー!「こういう男たちが格好良いと思えたら男女の関係も面白くなるかも」 女性には「男って馬鹿だねぇ・・・」って観てほしい(笑)

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映画『孤狼の血』が、5月12日、いよいよ公開される。柚月裕子のベストセラー小説「孤狼の血」を原作に、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』など、骨太な構成で社会の裏側に鋭く切り込んでいく白石和彌監督の手で映画化。本作の舞台は暴対法成立以前の広島・呉原市。暴力団系列の金融会社社員失踪事件をきっかけに捜査する警察と、暴力団組織間の激しい抗争を描く、昭和の熱き男たちの物語だ。

主演、暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾役を演じるのは、日本を代表する俳優・役所広司。大上の捜査に戸惑う若き刑事・日岡秀一役の松坂桃李をはじめ、日本映画界を担うスタッフとキャストが勢揃いする中、ダーティーな悪徳警官をエネルギッシュに演じきった役所広司に話を聞いた。

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◆大上は格好いいけど、愛すべき身近な存在

― 出演オファーがあったときにどのように感じられましたか?
原作を読みましたが、原作は映画の脚本よりもっとハードボイルドで格好良かったです。脚本の方は大上が愛嬌あるキャラクターになっているのを感じました。でも、こういう映画久しく観ていないな、僕もこういう映画やってなかったなって思って。とても興味がありましたし、監督のこれまでの作品を観ても凄く勢いがあると感じました。監督と初めてお会いしたとき『元気のある日本映画を作りたいです!』とおっしゃっていたので、ぜひ参加したいと思いました。

― 大上という役は本当に格好いいですよね?
そうですね。原作の大上は格好良すぎて、照れるなぁって感じだったんです(笑)。脚本では監督の色を少し加えた大上だったので、とても愛すべき身近な感じがしました。

― 役を演じるうえで大切にされていたこと何でしょうか?
やっぱり根っこは正義の味方だと思いますが、それをことさらに「自分がやっていることが本当の正義だ」ということではなくて、無意識に暴力団との交渉で1番いい方法だと思っているだけなんです。僕はいい人なんだよ、というところを見せない。やっぱり「悪いやつは悪い」ということをはっきりしたほうがいいと思って演じました。

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― バディを組むこととなる日岡との関係性を描きだすため、意識していたことはありますか?
表現としては意識する必要ないと思いましたが、こいつ(日岡)が自分の後を引き継いでくれる男かもしれないという気持ちは大切にしよう思って演じていました。彼(日岡)の正義感は青いんですが、そういう彼本来の持っている正義に対する思い、正しいことは正しい、これでこれから彼が本当に受け継いでくれる刑事かもしれないという思いが大上にはあったのではないでしょうか。

― そんな日岡を演じる松坂桃李さんとの共演はいかがでした?
松坂くんとは以前も一緒に仕事(映画『日本のいちばん長い日』2015年公開)をしましたし、本作でも前半から後半にかけて成長していく過程は見事です。この映画のラストは、“パート2”ありみたいな感じで、これから松坂君演じる日岡が呉の街で悪を大掃除しそうな物語が始まりそうな感じがしました。

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◆白石監督は昭和の香りと雰囲気があるんです

― 白石組初参戦ということですが、白石監督から現場での印象的な指示や演出はありましたか?
タンを吐くシーンです(笑)。タンを吐くシーンが3場面くらいあるんですが・・・、監督が「カーッ!てやってください」って(笑)。ええっ!?って思いましたが、監督の師匠である若松孝二監督へのオマージュだったようです。映像のなかで「カーッ、ペッ!」というのは僕も初めてでしたが、最近はそういう人街でも見かけなくなりました。でもそれも昭和のアウトローを表現するにはいいのかもしれないと(笑)。

― やはり、それは元々台本には載っていなくて「じゃ、タンをお願いします」と言われたんですか?
そうです、そうです(笑)

― 白石監督とお仕事されていかがでしたか?
白石さんはご自分もよく言われると言っていましたが、昭和の薫りや雰囲気がする監督ですね。若松監督のところで育っているからか、たしかに撮影現場も昭和の監督の雰囲気がします。自分がこのカットが欲しい、大切だというところを粘ってテストを繰り返して時間を掛ける。今はデジタルになって、たくさんの素材をいろんなアングルから撮るというのが主流になっていますけど、白石監督は自分の必要なカットをより丁寧に撮るという監督です。編集でどうこうしようというのではなくて、もう監督の頭の中にはシーンの繋がりがあるという感じです。そういう監督が少なくなっていて、編集の段階でいかようにもできるように、素材をたくさん撮っておかないといけないとか、いろいろ大人の事情があるんでしょうけど(笑)。でもたくさん撮ってもほとんど使わない映像もあるわけですから(笑)。
白石監督の現場はテンポよく速いです。監督の決断と割り切りが早いんです。

― 特に印象に残るシーン、ここの演出はかなり粘られたというところは?
やっぱり、豚小屋のシーンは竹野内豊くん、松坂くん、僕のシーンもそうですが、芝居・セリフ的にも長い部分がありましたし、粘ってやっていたような気がします。まあ、僕が観ていて「ああ、面白い」というのは特に終盤ですね。ラストに向けて凄く勢いがあって。台本を読んだときも、もう爆笑したんですよ、石橋蓮司さんの最後のセリフ(笑)。それを楽しみにして観ていました。

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― クランクイン前に、一番重点をおいて準備したことは何でしょうか?
言葉、方言です。呉弁です。クランクイン前から、そして撮影中もずっと練習していました。言葉からその土地で育った人間が染み出してくる感じがありましたし、実際に呉という街で腰を据えてスタッフ・キャストも撮影に臨みました。街から聞こえてくる言葉も呉弁。そこは大切にしたいなと思いました。

― 呉弁はどのくらいの期間練習されたんですか?
撮影期間が1ヶ月ちょっとだったんですが、その前からですから2ヶ月くらいはどっぷり。いまだにまだ使っているんですよ、ときどき(笑)。

― 演じ終えた後で心境の変化はありましたか?
こういう映画って、僕が若いころに単館系でよく上映していたんです。それが最近はパッタリなくなって。ああいう映画があったな・・・ということを忘れかけたころにこの話が来たんです。日本映画が予算的にも厳しい中で、こういう熱くて激しい映画を作っていた時代があって、日本映画はもっと豊かだったような感じがします。あの頃はもっと色んなタイプの映画があって、非常におもしろかった時代だったんだなと、改めて思いました。東映さんが次にこういうテイストのものを作っていくかは分かりませんが、大手映画会社としては東映さんしかできない、お家芸だと思います(笑)。こういう作品がもう少し増えると面白いかな。女性はこういう暴力的なことは嫌いかもしれませんが、男の子が映画館から出てくるときにね、おっ!ちょっと格好よく強そうな気分になって出てきたな!と思うような映画がもうちょっとあってもいいかなと思いました。

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◆役者は、自分が想像もしなかったような気持ちや解釈が湧いたときが面白い

― 大上は「根っこが正義という部分を見せない」と、ある意味演じ切った男ということで、そのあたりを俳優という職業に重ね合わせていかがですか?
俳優という職業もやっぱり根っこが見えないほうがいいかと。「この人どんな人だろう?」と思わせたほうが、表現するときには得なことがあると思います。昔の俳優さんは私生活が分からなかったり、普段の趣味のこととか、女性関係とかも全然分からなかったんです。でも、今の僕たちの時代はメディアを通して語っているし、知っている人とは実際とずれていくこともありますね。

― 役所さんは結構分からないですよ。
そのほうがいいだろうなと思いますね、本来は俳優は白紙の方がいいと思います。その上でいろんな色に染まっていく方が、見ている方も楽しいんじゃないですか?

― 大上の過去編やってほしいですね!
そうすると若返んなきゃいけないからなぁ(笑)。石橋蓮司さんの義理の弟とか、悪いヤツもいいかもね(笑)。

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― とてもエネルギッシュな作品で、観ているこちらもエネルギーをもらったような気分になりますが、俳優として面白さは何でしょうか?
俳優の面白さは、セリフで言うとこれは日常生活ではとても吐けないセリフを、堂々と役を借りて語れるということです。それは、舞台でも映画でもそうだと思いますが、それが役者の仕事の一つの醍醐味かもしれません。そして、現場でスタッフとキャストと何かを一緒に作っていくとき、自分が想像もしなかったような気持ちや解釈がフッと出て来る瞬間があって、そういう事も役者の仕事の面白いところかも知れません。

― THE・東映というような看板を背負う作品に出演することへ思い入れのようなものや、昔はこういうのだったなという思い入れみたいなものはありますか?
深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズを若いころ観た記憶もあります。こういう男たちが活躍する物語は男が男らしく活躍する、女を、友を、家族を命がけで守るという物語。戦争の話では自分の国や家族を守るために戦うということもありますが、アウトローのヤクザの世界でも、男も女も命がけ、死との狭間にいる生きざまはドラマとして描きやすいと思うんです。そういう激しい作品がもう少し増えても良いんじゃないかと思います。あの時代が豊かだったなって思うのは、予算的には全然豊かじゃなかったけれど、映画監督たちが作り出す個性的な作品がたくさんあったような気がします。

― 暴力の奥にあるものがこの映画には見えると思います。男性だけではなく、この映画を女性の方にどのように観てほしいと思いますか?
「馬鹿だねぇ、男って!・・・でも、可愛いな」って思って観てくれると、この作品は女性も受け入れてくれるんじゃないかなと思います。確かに馬鹿なことをするんですよね、男の子って(笑)。最近映画館に行って、入っていくときの自分と、出てきたときの自分が全然変わっているような錯覚を覚える映画ってあまり観ていないかもしれません。恥ずかしいけど、昔はこの手の映画を観終わると気分が変わっているんですよ(笑)。カーッ!ペッ!ってタンを吐いたりはしませんけど(笑)。

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【役所広司(やくしょこうじ)プロフィール】
1956年生まれ。日本を代表する俳優として、数多くのテレビドラマや映画に主演する。
95年、『KAMIKAZE TAXI』で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。
翌年の『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』では、国内の主演男優賞を独占。また、『CURE』『うなぎ』(いずれも97年)、『ユリイカ』『赤い橋の下のぬるい水』(いずれも2001年)など、国際映画祭への出品作も多く、数々の賞を受賞している。
スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭(14年)では、『渇き。』で日本人初の最優秀男優賞を受賞。
09年、主演の『ガマの油』で初監督を務める。12年に紫綬褒章を受章。
映画の近作としては『関ヶ原』『三度目の殺人』『オー・ルーシー』などがある。

<スタイリストクレジット>
衣裳協力/GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)
<問い合わせ先>
ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070
スタイリスト/安野ともこ(コラソン)

<ヘアメイククレジット>
勇見 勝彦(THYMON Inc.)

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映画『孤狼の血』
躰が痺れる、恍惚と狂熱の126分
【ストーリー】
物語の舞台は、昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島。所轄署に配属となった日岡秀一は、暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾とともに、金融会社社員失踪事件の捜査を担当する。常軌を逸した大上の捜査に戸惑う日岡。失踪事件を発端に、対立する暴力団組同士の抗争が激化し…。

キャスト:役所広司 松坂桃李 真木よう子 音尾琢真 駿河太郎 中村倫也 阿部純子 /中村獅童 竹野内豊/滝藤賢一 矢島健一 田口トモロヲ ピエール 瀧 石橋蓮司 ・ 江口洋介
原作:柚月裕子(「孤狼の血」角川文庫刊)
監督:白石和彌 脚本:池上純哉 音楽:安川午朗
撮影:灰原隆裕 照明:川井稔 録音:浦田和治 美術:今村力
企画協力:株式会社KADOKAWA
製作:「孤狼の血」製作委員会 配給:東映 126分
公式サイト:http://www.korou.jp
©2018「孤狼の血」製作委員会

5月12日(土) 全国ロードショー!