柚月裕子のベストセラー小説「孤狼の血」を原作に、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』など、骨太な構成で社会の裏側に鋭く切り込んでいく白石和彌監督の手で映画化した『孤狼の血』が5月12日より公開する。本作は、暴対法成立以前の広島・呉原市を舞台に、暴力団系列の金融会社社員失踪事件をきっかけに捜査する警察と、暴力団組組織間の激しい抗争を描く、昭和の熱き男たちの物語だ。
役所広司が演じる暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾役とバディを組み、大上の捜査に戸惑う若き刑事・日岡秀一役に挑んだのは、今や日本映画に欠かせない人気実力派俳優となった松坂桃李。さらに真木よう子、江口洋介、竹野内豊、石橋蓮司など豪華キャストが勢揃いする中、心の揺れ動きを繊細かつ大胆に演じきった松坂と、常に作品に新風を吹き込む白石監督。『彼女がその名を知らない鳥たち』に続きタッグを組んだ二人が本作の魅力と、映画に対する熱い気持ちを話してくれた。
◆桃李くんの役に向き合う姿が日岡と重なるんです(白石監督)
― 松坂さんは白石監督とは2回目のタッグになりますが、改めて白石監督によって新しい自分を見せることができましたか?
松坂桃李(以下、松坂):いや~、だいぶオモチャにされましたね(笑)。それがとても心地よくて楽しかったです。もう僕の中ではいい思い出しかありません。撮影は朝まで続いたりして体力的にはキツかったんですけど。朝までの撮影・・・、キツかったですね。
白石和彌監督(以下、白石):あの日はキツかったね~。最初は桃李くんを見るために300人くらいギャラリーの人たちが集まっていたんだけど、最後は2人になっていたもんね(笑)。
松坂:そうそう、徐々に減っていって(笑)
白石:桃李くん、もう(最後まで残っていた2人には)ハグしてあげたら?って (笑)
― ハグされたんですか?
松坂:いや、ハグしてません (笑)。でも、呉の方たちは温かかったですね。
白石:うん、温かかったね。
― 監督からご覧になって松坂さんが変わったなと思ったところはありましたか?
白石:『彼女が知らない鳥たち』の時から、「この人(松坂)は一緒に勝負できる人なんだ」と気づいていました。『彼女が知らない鳥たち』の撮影は短期間だったので、今回ようやくたっぷり時間が取れて、変わったというより、むしろ僕のほうが桃李くんの魅力により気づいていったという感じです。
― 松坂さんは、日岡とご自身の共通点はありますか? 白石監督から見て松坂さんと日岡の共通点は?
白石:やっぱり、物事に向かっていくことに嘘がなく真っ直ぐなところは、桃李くんがいつも役に向かっている姿勢と重なると思います。
松坂:日岡がガミさん(役所演じる大上)に向き合うところは、いま監督が仰ってくださったように、僕が作品に向き合う姿勢がそうでありたいなと思っているので、(日岡と)同じであるかは自分では判断できませんが、僕自身共感できる部分でした。
白石:あと、美人局(つつもたせ)をしなさそうな感じとかね(笑)。
松坂:美人局ねぇ・・・(笑)
白石:しないでしょ?え、してるの?
松坂:しないですよ(笑)。
― 観ているうちにどんどんテンションが上がっていく本作ですが、監督が一番テンションがあがったシーンは? 松坂さんも劇中で声を荒げるなど、これまでやったことのないことに挑戦されたと思いますが、一番テンションが上がったところはどこですか?
白石:やっぱりファーストカットですね。パチンコ屋に入る直前の役所さんと桃李くんの歩きのシーン。撮影の仕度が終わって二人が出てきたときに、一気に世界観が見えました。しかも、ファーストカットが終わったとき役所さんが「緊張したー!」と言ったんです。役所さんほどの方でも緊張するんだと思いました。「俺、ヤクザに見えますかね?」って聞くんです。「いや、刑事ですから」って(笑)。
松坂:ホントですよね。間違ってるから (笑)。
白石:そこからずっとテンションあがりっぱなしです。撮影最終に近づいて、真珠を抜くシーンがあるのですが、まだこんなシーンあったの?と。そんな繰り返しだったような気がします。
松坂:僕は新しい作品が決まったときの衣装合わせで、テンションがあがります。まず、『孤狼の血』という作品を知ってテンションあがりますし、衣装を着てみて、ああでもない、こうでもないと話合いをしていくうちにだんだん自分の気持ちがヒートアップしていき、そしてクランクインが待ち遠しくなっていくんです。僕も最初の方の牛乳をぶっかけるシーンは笑っちゃいました。あと、真珠を取り出すシーンは興味深かったですね。「わー、すげーなー! これは絶対使えないだろうな」と思っていたら、試写観て「あ、使ってるわ」って(笑)。ホント、楽しかった。
◆役所さんは現場での愛され方を役によって変える人(松坂)
― 大上には昭和のアウトロー感、日岡には清麗な感じ、そして後半へ向けてのアプローチについてどのような演出があったのでしょうか?
白石:原作者の柚月先生は『仁義なき戦い』の世界観を持って今作を書かれていたと思いますが、それとは別に桃李くん(演じる日岡)の役どころはとても現代的。その日岡をどう見せていこうか考えましたが、最初は台本の字面で書いてあることを真に受けてやっていけばいいだろうと思っていました。桃李くんの演技で感心したのは、後半のアプローチの仕方。それは桃李くんの作りかたが正解だったんだろうと、編集しながら気づきました。
― 編集するときに気づくことがあるんですね?
白石:ありますよ。桃李くんは不思議とそれが多いんです。普通の役者は現場で気づくのですが、桃李くんは編集の時に正解だったりするんです。「なるほどな、頭いい~!」と思いましたね。
松坂:マジっすか?? そんなこと初めて言われました。ありがとうございます!
― 白石監督からの賛辞を受けていかがですか?
松坂:そんな感じだったと思います・・・冗談です(笑)。
後半は、色々な真実を知った日岡の姿を徐々に見せていきたいなと思っていました。また、いろんな事を知っていく過程を自分の中で溜めていきたいと気持ちがあったので、その辺を意識して演じました。
― ところで、大上役の役所広司さんは、お二人から見てどんな方?
白石:今回、何から何まで見たことのない役所さんでした。「映画『渇き。』とは違う役所さんを作りたいんです」と役所さんにもお話していました。これは桃李くんにも共通していることですが、凄く剥き身な自分で演じるんです。もちろん、役を演じないといけないので、メイクして衣装を着て役に入っていくわけですが、変な小細工をしないでちゃんと腰を据えて演じようとしている感じがするんです。
先日、『三度目の殺人』の是枝監督とお会いしたですが、役所さんについて共通の意見でした。「特別な事をしようとしないのに、どうしてああなるんでしょうかね?」と言ったら、是枝さんも「わかんないんですよね・・・」と仰っていました。たぶん役所さんご本人は意識されていないと思いますが、その存在感とか、これまでの生きざまが作り出しているのかもしれません。桃李くんもあまり小細工をしないで勝負できる役者です。前張りはよくしてるけどね(笑)。
松坂:前張りはしないとね(大笑)。役所さんとは、映画『日本のいちばん長い日』から2回目の共演になりますが、役所さんは『日本のいちばん長い日』の時は撮影期間中、誰とも話さないんです。ピリッとした空気をずっとまとっていて。でも、この『孤狼の血』に入ったときは全然テンションが違う。スタッフやキャストの皆さんと気さくに会話しているし、温かくコミュニケーションをとっている姿がガミ(大上)さんとリンクするんです。現場での愛され方を役によって変えている気がします。それが完成作品を観ると、なるほど~!という感じに繋がるんです。もしかしたら全体図が最初から見えているのか・・・ご本人に聞いてみないとわからないところですが、僕は2作共演させていただいてそう感じました。『日本のいちばん長い日』の陸軍大臣(阿南惟幾役)の時は近寄りがたい方だったのに、今作では、こんなに仲良くしていいんですか?ご飯一緒に行っていいんですか?って (笑)。次回作はどんなテンションになるか、全くわからないですね。
― 白石監督から賛辞を受けている松坂さんですが、本作の演出で「これは勘弁して・・・」というような無茶振りはなかったですか?
松坂:無茶振りではないんですが・・・、濡れ場のようなシーンのときに毎回茶化すのはやめてくれ!って感じでしたね(笑)
白石:(笑)。俺が?無茶振りというよりも?(大笑)
松坂:無茶振りというより、妙なハードルの上げ方をするんです。「できるよね!」って。
― 以前、白石監督は「服を脱ぐシーンでは松坂くんの右に出るものはない」って仰っていましたね。
白石:そう。いない、いない(笑)。
松坂:いや、いるいる(笑)。
白石:『娼年』でも、三浦監督は何も演出していないでしょ?(笑)。
松坂:してますよ。めっちゃリハーサルしてますから。アドリブじゃないですから(笑)。
◆僕らの世代にはない、この時代に生きていた人たちの生きざま(松坂)
この映画はアメリカン・ニューシネマ(白石監督)
― 昭和63年という抗争の時代を生き抜いた人たち、その生きざまは現代の人たちには持ち得ないもの。そういう時代を知っている役者の方も数多く出演されていますが、共演されて何かインスパイアされたことはありますか?
松坂:この(昭和63年ころ)時代に生きていた方たちの、世の中への抗いかた、表現の仕方が明らかに今の時代とは違う気がします。反骨精神やストレートな表現、打たれ強さとか、今の僕らの世代にはなかなかないものだなと凄く感じます。
白石:舞台設定が暴対法(暴力団対策法)設定少し前の昭和63年ということに凄く意義がある。この映画はアメリカン・ニューシネマで、大上のやり方がいつまでも続かないだろうなという哀愁があるんです。『仁義なき戦い』の根幹には戦争があり、日本の国民がみな等しく貧しくなり、国土も等しく焦土となって暴力が生まれていくという、平等からスタートしていますが、『孤狼の血』はそうではない。その核になるのは何か、この作品に臨むにあたり、それをずっと探していました。30年経って、僕らはその時代を知りいろんな事を感じることができたから、この映画を作ることができたんだと思います。
― 広島のロケ地がたくさん劇中に出てきますが、特にお気に入りシーンや場所は?
松坂:この映画の冒頭のシーンが好きですね。あのシーンで、「この映画はここからが入口だよ」ということを観客の皆さんに教えてくれるような気がします。観ていてワクワクする。「ファーストシーンでこれが来るんだ!」みたいな。これ以上あるの?って、ハードルがあがるんですよね。
白石:僕はロケハン(ロケーション・ハンティング)が好きなんですが、その前のシナハン(シナリオハンティング)の時に、海に浮いている牡蠣いかだを見て、「あそこで何か撮影したい」と思っていたんです。船で撮影するのも楽しかったし、牡蠣いかだは楽しかったなぁ。
松坂:牡蠣いかだのシーンなんて、今後あまりないんじゃないかなというくらい新鮮でしたね。
白石:マルカツ水産という牡蠣漁師の方が全面的に撮影に協力してくださって、どうせなら桃李くんにも牡蠣を食べてもらおうと思ったんです。でも、ちょうど牡蠣を食べてはいけない時期で、口に含んだら全部吐いてくださいって言われて。食べれないのか・・・って(笑)。
松坂:そのシーンで、ピエール瀧さんと僕を連れてきたという年配の方が座っているんですが、その方は呉の人なんですよね?
白石:そう。マルカツ水産の本物のお父さん。
松坂:あの方、めちゃくちゃいいですよね。何に関しても動じないし、凄いなこの人って。
白石:いいよね~。そういえば、あの時ピエール瀧さんが「監督、知らないかもしれないけど、俺泳げないからね」って。付き合い長いけど、瀧さん泳げないんだ・・・って。
― 白石監督の作品に出てくるダーティで色気のある格好いい、男の色気や凄みは、どのようにして出されているんですか?
白石:あまり意識はしていないけれど、でも、それはヤクザだろうが、男だろうが、女だろうが、人間には怖い部分があればその振り子の反対の部分がある。できるだけその部分も見せたいと思っています。格好いいだけを映していてはダメで、滑稽に転んだり、悲しくしたりする瞬間を隙があれば突っ込もうといつも意識しています。そこが(映像に)繋がっているかは自分自身では分析できていませんが、もしかしたらそういうことかもしれません。桃李くんも役所さんももちろん格好いいけれど、滑稽なところも映したいし、それが延いてはキャラクターとして一人の人間の造形に繋がっていくと思っています。
― 今回の松坂さんのキャラクターについて意識されたことはありますか?
白石:前半はただただ振り回されていますね。
松坂:もう、ボッコボコ(笑)。
白石:日岡がガミさんに振り回されば振り回されるほど、そのあとに本作の意味が分かって、ワクワクして面白くなっていくと思います。
<Astage 撮影:中村好伸>
映画『孤狼の血』
【ストーリー】
物語の舞台は、昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島。所轄署に配属となった日岡秀一は、暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾とともに、金融会社社員失踪事件の捜査を担当する。常軌を逸した大上の捜査に戸惑う日岡。失踪事件を発端に、対立する暴力団組同士の抗争が激化し…。
第69回日本推理作家協会賞受賞、「このミステリーがすごい!2016年版」国内編3位に輝いたベストセラー小説「孤狼の血」が、2018年5月12日、待望の映画化!
キャスト:役所広司、松坂桃李、真木よう子、音尾琢真、駿河太郎、中村倫也、阿部純子、中村獅童、竹野内豊、滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲ、
ピエール 瀧、石橋蓮司、江口洋介 ほか
原作:柚月裕子「孤狼の血」(角川文庫刊)
監督:白石和彌
配給:東映
コピーライト:©2018「孤狼の血」製作委員会
公式サイト:http://www.korou.jp/
5月12日(土) 全国ロードショー!
松坂桃李さん、直筆サイン付きチェキプレゼント
応募はこちらから