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10月1日~4日『黒いハンカチーフ』新国立劇場 中劇場にて上演 演出 河原雅彦、主演 矢崎広 インタビュー

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マキノノゾミ脚本の名作、男たちの騙し合いをスリリングに描いた『黒いハンカチーフ』が、河原雅彦演出、矢崎広主演で上演される。
2001年に初演され、その後、ドラマ化もされ、再演も重ねた人気作品に矢崎広をはじめ、浅利陽介、橋本淳、松田凌、桑野晃輔と若手俳優が挑む。
昭和30年代という舞台を、どう見せてくれるのか。稽古場を訪ねた。_DS_9597

―矢崎さんは4半ぶりに河原雅彦さんと一緒ですね。前回の『時計じかけのオレンジ』のときには「自分の力不足を感じた」とのことでしたが、4年半を経て河原さんとの本作が決まった時の心境は如何でしたか?
矢崎:河原さんと久しぶりにご一緒できるということで、楽しみの部分の方が多かったです。同時に4年半過ぎたとはいえ、弱音を吐くわけではないのですが、今回の『黒いハンカチーフ』は大きな役だと思ったので、大変だろうなぁと思いました。役者として全力でぶつかっていけたら…と意気込みもありました。IMG_3695

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―河原さんは矢崎さんの役者としての成長を、どのように感じていらっしゃいますか?
矢崎:(耳をふさごうとしつつ)大丈夫かな…。
河原:うーん、なんて言うか……
矢崎:ほら~(笑)
河原:4年半前のことを覚えてない…(笑)。彼がその後、いろいろと活躍しているのは知っていましたが…。4年半ぶりにこうしてやることになりましたが、最近の演劇では、こんな男前な「ド主役」というのは珍しいですよ。そんな大役をを矢崎くんが演じる機会に向き合えるのは楽しみでした。

―その真ん中に立つ役をオファーされたときは如何でしたか?
矢崎:河原さんがおっしゃるようにかっこいいというかハンサムな役ですし、頂いた時には年齢も少し上の設定でしたので、「役としては頑張らないといけないな」と思いましたが、作品としては「面白いなぁ」と思いました。「ハリウッド映画のような作品だな」と思いつつ読みました。でもどう舞台になるのか、ちょっと想像できなかったので、そういう意味でも難しいと、それが第一印象でした。

―本作の演出をするということで、最初に浮かんだ「こうしたい」というのは、どんなことでしょうか?
河原:マキノノゾミさんがおっしゃっているように古き良き犯罪ものとして読みました。マキノさんがイメージされた「スティング」は王道ですが、僕はガイ・リッチ-やタランティーのノワールで育った世代です。物語は昭和30年代という戦後しばらくたったエネルギーのある時代、けれんみに溢れる時代の物語。そのけれんをつかって、マキノさんは「スティング」をイメージされたんでしょうし、僕としてはガイ・リッチ-やタランティーノ的な手触りで立ち上げたいと思っています。
なにせ戯曲がしっかり書かれているので、基本線を押さえれば、話がぶれない点が心強いですよね。でもマキノさんはおっかないです(笑)。顔合わせでは俳優陣に「句読点1つ変えるな」みたいに言われました。でも吉田メタルさんは句読点どころか言語障害という役に勝手に変更してしまったので、台詞すらまともに聞こえていない。怒られるのではないかな(笑)。不安なのは、そのことぐらいですね。

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―舞台ならでは…という見どころは?
河原:映像でできるような人を騙すトリックは、舞台ではできませんね。生身の人間が生の舞台で空気を作って駆け引きをする。どんでん返しに次ぐどんでん返しという展開なので、観客も騙していかなきゃならないわけで、そのためには、騙すほうも騙されるほうもチームになってお客を騙さないと上手くいかない。非常に演劇的な、俳優の魅力・技術が必要な舞台だし、それを楽しんでもらえたらと思っています。
矢崎:河原さんのおっしゃったとおりだと思います。舞台はカメラが何台もある、お客さまの目がたくさんある。一人を騙しているわけではないというところで、カンパニー全員で協力して作ったものを見て頂くというのが舞台の魅力ですし、今、僕自身、そこをがんばっているところです。

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―1人で台本と向き合っていた時もあったと思いますが、稽古が始まって皆さんと動き始めて気が付いたことは?
矢崎:僕はたくさんあります。今回は河原さんをはじめ、スタッフさんもキャストのみなさんもすばらしい先輩方がいっぱいいらして勉強になります…というか、自分の至らないところばかりですね。自分が作ってきたものよりも、稽古場で毎日芝居に対する考え方がかわっている状況です。それでもまだまだなのですが、役者としては本当に充実している幸せな稽古場だと思っています。
河原:演出上のある程度の作戦は練って来ますけれど、やはり稽古場で演じる役者さんからもらうものが大切だと常々思っています。発見としては、矢崎くんもそうだし、若いイケメンの人たちは、顔で損をしてるなあって(笑)。

―例えば?
河原:本作だと元々主人公の「日根」は、三上市朗さんにあて書きされているものでしょ。三上さんは矢崎くんとは全然違うタイプですよね。三上さんは無頼な無骨な、三國連太郎のようなタイプのハンサムで、その三上さんにマキノさんが当て書きしたものを、現代のシュッとしたハンサムの矢崎くんがやるというのは難しいのではないかと最初は思っていました。お客さんも美形はなにかと気になるので、場面によっては存在を消したほうが良くても、ファンのお客さんからするとなかなかそうもいかないわけですよ。それにハンサムは威力もあるけれど、ついつい顔に頼ってしまうところもあるから。イケメンな人たちは今回きちんと役作りから入ることや、本を理解するというところを、より深くやっていかないと悪目立ちに見えてしまう危険性が高い。そういう意味ではハンディだから、この世界観の中に生きるためにはどうするかを、矢崎くんは稽古場や家でもよくやってくれています。ハンサムな人がハンサムな役をやるのはすごく難しいけど、登場人物になり切れた時にはハンサムがより活きるわけだから頑張って欲しいですね(笑)。
とはいえ、最近は稽古の中で「大丈夫かな」と思えるところも増えてきていて。矢崎くんでやる意味のある『黒いハンカチーフ』に持っていけそうな感じになってきました。
矢崎くんは真面目だから、稽古場でも台詞をぶつぶつ言ったり、物憂げな顔でよく芝居を考えたりしています。「主演が現場でどう居るか」は大変なのです。主演は現場の雰囲気づくりをにこやかに大らかにしなくてはならない。主演がナーバスになると、現場がナーバスになってしまう。ま、矢崎くんも最近ようやく余裕が出てきたように感じますがね。
矢崎:ホントですか…?!

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―矢崎さんは時代も空気感も違う役をプライベートにまで引きずったりはしませんか?
矢崎:河原さんから教えて頂いた映画を今、たくさん見ています。「あの時代の映画をたくさん見たい」とはまっているので「プライベートにも影響がでている」とも言えるのかもしれませんね。あの時代の役者さんはカッコいい。色気があるというか、男が憧れるところがあるなぁと思っています。

―観客としては「劇場に騙されに行く」という感じでいいのでしょうか?
矢崎:何も考えずに来ていいですよ(笑)。
河原:騙すというのはデリケートで難しいです。演技し過ぎると嘘に見えるし、しなきゃしないで舞台が弾まない。ストーリーを知っていてもよくできた映画は、何回観ても面白いし、何回でも騙されますよね。生身の人間がやると、つい頑張りがちになる。騙す側も騙される側もお客にあまり考えさせちゃダメ。その一方でこれだけ「騙し騙され」がコロコロある作品は、ひきのあるシーンにしなくてはならないっていうね。

―先日、矢崎さんと鳥肌実さんの2ショットがツイッタ―に上がっていましたね。
矢崎:僕が出会ったことがないタイプの方で(笑)、魅力がつまっている、素敵な方です。
河原:鳥肌さんはスゴイですよ。敵は巨大で怖くて憎い方がいい。「コイツは悪い」という悪役の方が観ている方は楽しい。鳥肌さんはそれに相応しい。「この役を一生やればいいのに」と思うくらいの当たり役に出会ってしまいましたね。これから『黒いハンカチーフ』を一番やりたがる人になるでしょう。一声目から「コイツはなんとかした方がいい」と感じさせてくれますから。

―そんな敵は厄介ですね。
矢崎:鳥肌さんはつけ入るスキが無いわけではないので。
河原:目隠ししたままの闘牛みたいで、わりとよけるのは簡単です(爆笑)。その前に避けなくてはならないのが伊藤正之さん演じるチャーミングなヤクザです(笑)。でもチャーミングな人って、実は怖い。ニコニコ笑って、心の中は…と。伊藤さんも一幕の巨悪です。
昭和の偉大な俳優たちはイケメンだからスターになったわけじゃない。生命力とワイルドさを含めた過剰な人間力がの魅力が根底にあった。だから今回の舞台では、翻訳劇ぐらいの勢いで少々やりすぎな演技でちょうどいい。そうでないと、当時の時代感がでないですから。稽古の最初は現代的でしたが、「時代感を大事に」となってくると、この作品独特の面白みがたくさん出てきました。すべての役者が重要で、それぞれが楽しんで稽古をしています。

―お客さまに届けたいものは?
矢崎:『黒いハンカチーフ』という作品のこの時代にお客様をタイムスリップさせる…この時代を使ってのエンターテイメントを楽しんで頂ければと思います。若いお客さまも見て下さると思いますので、日常とは違ったところを楽しんで頂けたらと思います。僕が当時の映画を面白いと思って見ている、それと同じ感覚を楽しんで頂けたらと思います。そのためにはもっと頑張らなくてはいけないですが。
河原:上質なエンターテイメントなので、メッセージ性ではなく、ただ楽しんでもらえるものになればいいと心がけています。矢崎くんもチャレンジしているので、たぶん「見たことのない矢崎だ」とお客さんに思って頂けるのではないかと…。こういう縁あって仕事をするときに、互いにそういうものを残していきたいなぁと思っています。

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河原雅彦(かわはら まさひこ)
1969年7月7日生まれ。演出家 脚本家 俳優。
演劇集団「ハイレグ・ジーザス」で人気を博す。2006年シス・カンパニー公演『父帰る/屋上の狂人』の演出で第14回読売演劇大賞・優秀演出家賞を受賞。演出を手がけた2014年公演『万獣こわい』が第22回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞。舞台の演出作に『いやおうなしに』『ショーシャンクの空に』 『TEXAS』『八犬伝』『時計じかけのオレンジ』『押忍!!ふんどし部』など。映画脚本『ピカンチ』シリーズ全作 『ハチミツとクローバー』など。

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矢崎広(やざき ひろし)
1987年07月10日生まれ
2004年『空色勾玉』で舞台デビュー。その後『時計じかけのオレンジ』『ドラキュラ』『大江戸鍋祭』など数多くの舞台を経験後、ミュージカル『薄桜鬼』シリーズの土方歳三役や、『MACBETH』『アルテノのパン』等の主演を経て、『フランダースの負け犬』『ジャンヌ・ダルク』ミュージカル『タイタニック』、『女中たち』等幅広い役とジャンルに挑戦している。

<公演概要>
【公演名】 「黒いハンカチーフ」
【作】 マキノノゾミ
【演出】 河原雅彦
【出演】 矢崎広、いしのようこ/浅利陽介、橋本淳、松田凌、桑野晃輔/村岡希美、宮菜穂子、まりゑ、武藤晃子、加藤未和/吉田メタル、鳥肌実、神農直隆、高木稟/三上市朗、おかやまはじめ、伊藤正之
【公演日】 2015101日(木)~4日(日)
【チケット料金】 S席7,800円、A席5,500 (税込)
【お問合わせ】 る・ひまわり TEL:03-6277-6622
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<あらすじ>
昭和32年。「関東菊壱組」の下っ端チンピラ「宮下」が、組から政界へ渡った賄賂の証拠をネタに、大物政治家を強請った。宮下は、婚約者である娼婦「夢子」を、自らの代理として取引現場に向かわせるが、その途中、夢子は車に引き殺されてしまう。宮下と娼婦仲間の女達は、殺された夢子の仇を討つ為に、戦前の天才詐欺師「フジケン」を父に持ちながらも詐欺稼業を嫌い、医師になった「日根」に助けを求める。断り切れない日根は、新聞に三行広告を載せる。
『黒いハンカチーフ拾った。落とし主の連絡を乞う』
それはかつて、伝説の詐欺師フジケンが、大きなヤマを仕掛ける時だけ使っていた暗号広告だった。
高度成長期の日本を舞台に、世紀の詐欺事件が遂行されようとしていた。

<登場人物>
日根(ヒルネ先生)・・医師、伝説の詐欺師「フジケン」の息子 矢崎広
佐登子・・喫茶「ノアール」のママ いしのようこ

宮下・・ポン引き 浅利陽介
神谷・・詐欺師。フジケンの仲間 橋本淳
鬼塚・・本富士署の巡査 松田凌
村木・・牛島の手下/ボーイ・・帝国ホテルのボーイ 桑野晃輔

京子・・娼婦 村岡希美
富美子・・娼婦 宮菜穂子
曜子・・娼婦 まりゑ
夢子・・娼婦 武藤晃子
美都子・・日根診療所の看護婦 加藤未和

キヨシ・・牛島の片腕、元ボクサー/海老沢喜一郎・・海老沢修二の息子、岡山市議会議員 吉田メタル
海老沢修二・・衆議院議員 鳥肌実
小田切昭男・・海老沢修二の第一秘書 神農直隆
ホルンを吹く男(耕平)・・謎の傷夷軍人 高木稟

銭田・・富士署の警部補 三上市朗
松平・・詐欺師。フジケンの仲間 おかやまはじめ
牛島・・関東菊壱組組長・全国性病予防自治会連合副理事長 伊藤正之