ここ数年、多くの観光客が行き来し、互いの文化や食べ物を楽しむ機会が増えている日本と台湾。それと共に日本では、台湾のPOPカルチャーが静かなブームを迎えている。8月15日、東京・恵比寿リキッドルームにて、そんな台湾の魅力がたっぷりと味わえるライブ・イベント<TAIWANDERFUL(台ワンダフル)>が、開催された。
2011年から、日本の夏フェスの定番である<SUMMER SONIC>には、台湾政府の支援のもと多くの台湾アーティストが出演してきた。今年も、<TAIWANDERFUL>に出演したバンド、CHTHONIC(ソニック)、宇宙人(Cosmos People)、APHASIA(アフェイジア)、LTKコミューン(濁水渓公社)のほかにも、大物バンドMAYDAY、Magic Powerと、計6バンドが<SUMMER SONIC 2014>に参加。<TAIWANDERFUL>では、特に<SUMMER SONIC>のアイランドステージに登場するバンドを中心にプログラムが組まれた。
イベント開催にあたって行われた記者会見では、台湾政府を代表して台北駐日経済文化代表処・台北文化センター長の朱文清(チュー・ウェンチン)氏が登壇。「今、台湾の文化省では音楽の普及・発展に努めています。本イベントでは、そんな台湾の音楽をメインに、台湾の文化や食べ物もみなさんに紹介します。ここに来れば、じかに台湾の良さが感じられると思います。存分に楽しんでください」と挨拶した。
また、CHTHONICのボーカルであり、実行委員長でもあるフレディ・リム氏は、「台湾と日本は、歴史においても文化においても、古くから交流があります。しかし、音楽はまだまだ一方通行です。台湾人は日本の音楽をよく知っていますが、日本の方々はまだ台湾の音楽をあまり知りません。今回の<TAIWANDERFUL>の活動を通して、台湾の音楽を日本のみなさんが知るきっかけになってくれたら嬉しいです」と語った。
この日は、ライブ会場から2階のイベントスペースまで台湾一色。16時からオープンしたイベントスペースには、担仔麺や魯肉飯などの台湾料理やマンゴービール、マンゴーかき氷、パールミルクティーなどが楽しめる飲食ブースや台湾グッズの販売コーナーが並び、まるで台湾の夜市のような楽しさに溢れていた。子供連れの客も多く、台湾をこよなく愛する人たちで賑わった。
トークショーも盛況で、台湾を応援するキャラクター、タイワンダー☆と応援ソングを歌うエバラ健太氏によるショーや、台湾を代表するゆるキャラ、台湾セブンイレブンのOPENちゃんをかたどった飾り巻き寿司の実演など、バラエティに溢れる内容。OPENちゃんは実際にイベント会場を練り歩き、2ショット写真を撮るなどして客と交流、身動きできないくらいの混雑になるほどの人気ぶりだった。
他にも、アジアで大成功している台湾の音楽聴き放題サービスKKBOXのブースではトライアルカードを配布したり、台湾雑貨やゲームコーナーもあったりと盛りだくさん。
台湾ヒップホップ/R&B評論家の丸屋九兵衛氏のトークショーでは、写真と共に台湾のPOPカルチャーを紹介。「台湾の人がいかにロボット好きか」と、ロボキティや針金で作ったガンダムの写真を披露すると、会場からは「おおー!」と、歓声が挙がった。「台湾の人達は日本びいきですが、確実に文化の価値観が違います。しかし、相違があるからこそ交流に価値がある!」と、台湾POPカルチャーへの愛情を熱く語ってくれた。
また、「台湾の魅力&映画」を語るトークショーには、映画評論家のよしひろまさみち氏や、台湾で大ヒットした映画『海角7号』に出演した台湾で大人気のシンガー、中孝介らが登場。映画ファンが熱心に耳を傾けた。中氏は、06年に台北での音楽フェスティバルに出演していたところをウェイ・ダーション(魏徳聖)監督が見たことがきっかけで大変な興行収入を記録した映画『海角7号』に出演することになったエピソードを披露。「本人役でということで引き受けましたが、自分の音楽が台湾の人にどう受け止めてもらえるか、不安でいっぱいでした」。しかし、初上映の時、観客たちが物語にビビッドに反応する姿を見て、映画に対する熱を感じたそう。「ウェイ監督は、いつも『資金が足りない、資金が足りない』と言っていて、準備が進まず、クランクインが3か月も遅れたんですよ。まさか、その映画がこんなに大きなヒット作になるとは」と、制作現場の裏話もユーモラスに披露してくれた。また、中氏が主題歌を歌っている、台湾・日本の混成チームが甲子園に出場した実話を描いたウェイ監督の最新作『KANO』(日本では来年公開)や、台湾を代表する映画監督ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の監督引退作として話題を呼んだ『郊遊<ピクニック>』の予告編上映もあり、台湾映画の魅力がたっぷりと紹介された。『KANO』では、実際に撮影に使われたユニフォームも展示され、台湾映画ファンを喜ばせた。
そして19時からは、いよいよ本イベントのメインとなる台湾の4バンドによるライブが、ライブ会場にて開催された。スタンディングの会場は観客でぎっしりほぼ満員。未知なる台湾の音楽に対する期待が高まる中、ライブがスタートした。
トップバッターで登場したのは、1998年に結成され、台湾アンダーグラウンドのミュージックシーンで最も影響力のあるバンドと言われるLTKコミューン。社会的なメッセージが盛り込まれた台湾語の歌詞が特徴的で、若いミュージシャンたちからもリスペクトされているベテランの5人組バンドだ。1曲目の「皇天不貞苦心人」から、台湾らしい泥臭さと、どこか懐かしさが感じられる楽曲で、思わず体がリズムに揺れる。「こんばんわー、私たちはLTKコミューンです!」と、ボーカルの柯董(クートン)が元気に挨拶すると、会場からは「ウォー!」という歓声が挙がった。会見では「初の海外公演として日本に来られたことに感謝します」と語っていた彼ら。楽曲が進むごとに演奏に熱が増し、言葉はわからずとも、彼らが持つ熱い反骨精神が伝わってきた。一方トークでは、前日の夜に新宿・歌舞伎町に繰り出したが、黒服のお兄さんたちから「マッサージどう?」と、声をかけられて動揺したとユーモラスに語り、観客を笑わせていた。代表曲の一つである「グッドナイト台湾(晩安台湾)」では、軽快なリズムに会場からは自然に手拍子が起こり、「カッコいい!」の声がかかるなど、初の海外公演に手ごたえを感じた様子。ラストの「問題社会」まで全7曲を演奏し、笑顔でステージを後にした。
次に登場したのは、07年に結成されたインストゥルメンタル・バンドのAPHASIA(アフェイジア)。ステージに登場すると、ぎっしりの観客を見て「スゴイ!」と一言。「たくさんの人が来てくれて嬉しいです」と挨拶したあと、1曲目の「Rain Season」からライブをスタートさせた。クリーンな音色の2本のギターが美しく絡み合う楽曲が、観客を彼らの音の世界に静かに惹きこんでいく。亜飛西雅は、紅一点のベースに、ギター、ドラムによるシンプルな編成の4人組。アフェイジア=失語症という意味が表すようにボーカルはいないが、彼らがつむぎだす音楽は豊かで雄弁だ。会見で「私達は歌ってはいませんが、歌が無いというわけではありません。楽器を使って歌っているのです」と語っていた通り、ギターの音色がまさに歌声のように聴こえる。静かで美しいと思えば、徐々に音が激しさを増し、分厚い音の洪水へ……様々に変化する楽曲に心が揺さぶられる。幻想的な「Sea Wave」、美しさと激しさが共存する「Every Where」、ノイジーな「Metal Tank」まで、全5曲を披露した。演奏スタイルはクールだが、ハートの熱さが伝わってくる文句なしのカッコよさで、最後は会場中から熱狂的な歓声と拍手が送られた。「機会があれば、また日本で演奏したい」と語っていた彼ら。今回のステージで日本人の心をしっかりつかんだようだ。
彼らに続き、3番目に登場したのは、8月6日に日本デビューアルバムとなる「コスモロジー」をリリースしたばかりのポップバンド、宇宙人(Cosmos People)。高校の同級生を中心に04年に結成されたバンドで、現在はスリーピースで活動中。彼らの音楽は、キュートでポップでダンサブル。理屈抜きに楽しめる明るさを持っており、台湾での人気が上昇中だ。日本でも注目されているだけあって、スタートの「一緒に走ろう(一起去跑歩)」から反応が熱く、そのまま「高雄に行かなきゃ(要去高雄)」「花花」と、ファンにはお馴染みの曲になだれ込む。途中、リーダー&キーボードの小玉(シャオユー)が自分の携帯で観客を撮影するなど、宇宙人ワールド全開で盛り上がった。MCタイムではベースの方Q(ファンキュー)が「あなたたちは新しい友人です」と挨拶。「小玉が撮った写真は、僕たちのFacebookでチェックしてね」とお茶目に語り、本人たちもこのライブをのびのびと楽しんでいる様子が伝わってきた。続いて、日本盤CDのためにレコーディングされた大瀧詠一の中国語カバー曲「幸せな結末」を初披露。彼らの音楽センスのよさが実感できる、心地よくさわやかなサウンドに、会場中がふんわりとした空気に包まれた。また、ノリのいいナンバー「ヤツを蹴っちゃえ(踢踢他)」の前には、小玉が「僕が『宇宙人』と言ったら、みんな『バンザイ』と叫んで」とリクエスト。「宇宙人」「バンザイ」のコール&レスポンスで客と一緒に楽しく盛り上がった。そしてラスト曲「Hey」では、全員でサビの「Hey、Hey」を大合唱。計6曲を披露し、「聴いた人を笑顔にする」と言われる彼らの魅力を、たっぷりと味わわせてくれた。
そして、イベントのラストを飾ったのが、CHTHONICならぬ、今回だけの特別編成であるCHTHONICOUSTIC(ソニコースティック)のステージだ。CHTHONICは、西洋のメタルと東洋のメロディーラインを融合したサウンドで世界的な評価を得ている5人組のメタル・バンド。<SUMMER SONIC 2014>では大きなステージでのパフォーマンスを行なうなど、日本でも大きく注目されている。その彼らが、<TAIWANDERFUL>のために、二胡、アコースティックギター、ドラムによる7人編成のスペシャルなステージを見せてくれた。彼らが登場するとステージ前方に熱心なファンが詰め寄せる。そんな中、静かに1曲目の「Rage of my sword」が始まった。いつもは大音響で演奏されるCHTHONICの楽曲も、この日ばかりは趣がガラリと変わり、より東洋的で神秘的な音が心に沁みわたる。続いて「Legacy of the seediq」「TAKAO」「Broken Jade」等の名曲がしっとりと演奏された。ボーカルのフレディは「今日は終戦記念日です。台湾にとっても日本にとっても特別に意味がある日。すべての人が、戦争は残酷で非人間的な行為であることを知っている。だからこそ、戦争を無くさなければいけない。音楽は、個人の自由と、世界的正義と平等のために戦う勇気を与えてくれる。これからも素晴らしい世界のために戦い続けよう!」と観客に呼びかけ、会場からは大きな歓声と拍手が沸きおこった。そしていよいよライブも終盤に。「Supreme Pain for the Tyrant」では、フレディの友人であり、日本を拠点に活動しているアメリカ人ギタリストのマーティ・フリードマンがゲストとして登場し、これにはファンも大熱狂。会見で「日本の音楽と同じくらい、中国や台湾の音楽を愛している」と語っていたマーティは、CHTHONICOUSTICのステージに一瞬にして溶け込み、観客は、彼がかき鳴らす激しくも美しいギターの音色に酔いしれた。そしてラストは全員で、昨年リリースされたCHTHONICのアルバムのメインチューンである「Defenders of Bu-Tik Palace」を演奏。フレディの訴えかけるようなボーカルにマーティのエレクトリックギターが絡み、壮大で幻想的な世界が広がっていった。演奏が終わった後もフロアには熱い余韻が残り、静かな興奮の中でこの日のライブが幕を閉じた。
今回、出演バンドの選定にあたったフレディは、会見で「今日、登場する4つのバンドを選んだのは、どのバンドも日本の文化に興味を持っていること。そして、それぞれ違うスタイルの音楽を聴かせること」と、理由を語っていたが、その言葉通り、日本の観客は、ジャンルの違う台湾バンドの多様な音楽をたっぷりと楽しむことができた。ライブ、イベントを合わせ、多くの台湾ファンが詰めかけた<TAIWANDERFUL>は大成功! 来年も行なわれることが決まっているという<TAIWANDERFUL>、早くも今から楽しみである。
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