第 73回ベネチア国際映画祭でレッドカーペットに登場。中華圏の芸能ニュースを賑わし、ヨーロッパ映画批評家協会最優秀作品賞を受賞した「マンダレーへの道」(原題:再見瓦城)が、11月21日、東京フィルメックスで上映され、ミディ・ジー(Midi Z 趙德胤)監督をむかえてQ&Aが行われた。
ミディ・ジー監督は1982年生まれ。16歳の時、留学で台湾に来て以来、台湾に拠点を置き、4本目の長編映画(ドキュメンタリーを除く)として撮ったのが、この「マンダレーへの道」。
ミャンマーからタイへ密入国し、出稼ぎにやってくる若い男女を描いた物語は、全編、タイの熱気と、登場人物の焦燥感とエネルギーに圧倒され、彼らの送る厳しい生活に胸締め付けられる思いがした。ベネチア国際映画祭で高く評価されたのも納得の作品だ。
主演はクー・チェンドン(柯震東)、ウー・クーシー(吳可熙)。
クー・チェンドンは、『あの頃、君を追いかけた』(原題:那些年,我們一起追的女孩……。)で一躍注目を集め、『小時代』で若手トップスターとなり人気絶頂の2014年、中国でジャッキー・チェンの息子のジェイシー・チャン(房祖名)と共に麻薬事件で逮捕された彼…といえば、「ああ!」と思い出す方も多いはず。
彼が本作でカンヌのレッドカーペットに立った姿は、その完全復帰を広く印象付けて大きなニュースとなって取り上げられていた。
そんな話題作でもある本作「マンダレーへの道」。上映後に登場したジー監督は、作品の背景や製作秘話を率直に語ってくれた。
まず挨拶として「私はミャンマー出身で16歳で台湾に来ましたが、この映画は私の姉兄が、昔、生活のためにミャンマーからタイへ出稼ぎに行ったので、そのタイでの出稼ぎの時の話です。こんな話は、30年前から現在もずっと起こっていることです」と語ったジー監督。
以降は観客からの質問に答える形で語ってくれた。
―ミャンマーにタイへ越境入国する中華コミュニティの人たちがいるのでしょうか?
Z:ミャンマーには300万~500万…約500万人の中国系の人々がいます。中華系の人たちがミャンマーで話しているのは、私たちが「ミャンマー版の雲南語」と読んでいる中国語です。ミャンマーには135の少数民族がいますが、2008年の調査では、ミャンマーからタイへ出稼ぎに行っている人は300万人近く。その中に、中華系の人々も含まれています。
―過去のジー監督映画もタイとミャンマーを行き来する人の映画だったが、本作は一層悲劇的。監督の考え方に変化があったのでしょうか?
Z:本作は、『歸來的人』(2011年)『窮人。榴槤。麻藥。偷渡客』(2012年)、『冰毒』(2014年)に続く4作目ですが、前3作には脚本がありませんでした。本作が、本当に脚本があって撮った映画になります。本作のエンディングは、1992年に故郷で起こった事件が元になっています。出稼ぎ先のタイから戻って結婚したミャンマーの若者の事件です。それで、前の3作とは随分違っています。
―クー・チェンドンのキャスティングの経緯や、撮影中のエピソードなど、お願いします。
Z:俳優を探している時に、最初は友人にクーを紹介されました。それ以前の作品を見て、彼には演技について生まれながらの才能があると感じました。彼に何度も会って、長く話をしました。そして彼の性格は、単純なところがあると感じました。3つ目の私たちの条件、一番大切な条件は、トレーニングから撮影まで、1年半という時間を本作にもらえることでした。クーとウーは、8~9か月をトレーニングに、2ヵ月近くを撮影にあてました。彼らを連れてミャンマーに行き農民として働いてもらい、女主人公はお椀を洗い、2人をつれて映画の工場に行き、3カ月過ごしました。言葉や労働者としての姿など、トレーニングをしてこの作品ができました。
―ウー・クーシーさんと他のキャストについても教えて頂けますか?
クーもウーも台湾のプロの俳優です。特にウーは、昔は舞台女優として活躍していました。そして『窮人。榴槤。麻藥。偷渡客』『冰毒』でも一緒に仕事をしました。それ以外の俳優は、すべて親戚や友人です。工場長は、私の実の兄です。昔タイに行って、そのままタイに住んでいます。上の姉を演じているのも、私の実の姉です。この物語が、自分たちがタイで経験した話ですから、細かいエピソード…インスタント麺や氷水などは、昔自分たちが働いていた時そのままに描いています。そして今も多くの工場で、同じように働いています。
―ラストに衝撃を受けました。事実に基づくとはいえ、この結末に迷いはなかったでしょうか?
Z:あまりありませんでした。なぜなら事実ですから。一組に恋人たちがタイに出稼ぎに行き、3年後に村に戻って結婚したのですが、結婚後数日で事件は起きました。脚本にするにあたって、双方の両親や家族、タイでもたくさん取材をしてわかったのですが、女性の方はタイで働いている時に、いずれ台湾に行きたい、偽装結婚をして台湾に行きたいと思ったのに、彼氏の方がミャンマーで暮らしたいと彼女を無理やり連れて帰って結婚したのです。結婚しても女性はバンコクに戻りたかった。
映画でも少し描いていますが、男性の方は麻薬もやっていましたので、麻薬のせいで誤って彼女を殺してしまったという見方をする人もいます。また、この男女双方の価値観に違いがあったのだと考える人もいるしょう。女性は偽装結婚しても台湾に行きたかったのですから。
―本作の公開予定は?
Z:本作は香港で12月1日から、台湾は12月9日から公開となります。続いて、ミャンマー、シンガポール、マレーシア。そしてフランス、イギリスは来年以降です。
ジー監督の話からは、監督の故郷・ミャンマーとミャンマーへの人々への思い、そして本作への情熱が伝わってくる。
そして、アイドル的人気スターであったクー・チェンドンが、本作で俳優として成功できた裏には、彼が再起をこの映画1本に賭けていたことが分かって、非常に興味深かった。
最後に司会者から「業界の皆さんもおいでになっていると思います。こんなに素晴らしい映画を、是非日本でも公開して欲しい。皆さまも、応援をお願いします」の言葉が出ると、会場は大きな拍手で応援を約束していた。