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映画『10万分の1』 三木康一郎監督インタビュー!「若い人にもっとALSのことを伝えたい!」白濱亜嵐と平祐奈に託したものとは?

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宮坂香帆の大ヒット漫画『10万分の1』を原作に、実写映画化された本作は、初めて恋した高校生二人が、難病・ALSに立ち向かう感動の純愛ラブストーリー。学校中の憧れの存在・桐谷蓮役を白濱亜嵐、蓮に想いを寄せる桜木莉乃役を平祐奈が演じ、人と人のつながりの素晴らしさ、どんな逆境にも負けない勇気を人々に与えてくれる。

監督は、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』『旅猫レポート』の三木康一郎。今回は、重い病気をテーマにしつつ青春ラブストーリーに仕上げた監督にインタビューを遂行! 作品を映画化した意義や思い、制作へのこだわりをたっぷり語ってもらった。

― 大きなメッセージが込められた作品ですが、監督がこの作品を映画化しようと思った決め手は何だったのでしょうか?

この作品は難病の話ですが、非常に重い題材のなかで、若い二人が未来に向けて生き生きと時を過ごしている原作を読んで、実写化したらしっかりとしたストーリー性がある映画ができあがるのではないかなと思ったのでチャレンジしました。

― 主人公の二人がとても初々しい青春ラブストーリーではありますが、それゆえにその後起きる出来事がとても辛いです。監督はこの流れをどのように構築していこうと考えられたのですか?

原作はどちらかというとLOVE要素が強いのですが、映像化するのであれば、やはり生身の人間が演じるので、病気という部分はもっとリアルになってくる。莉乃が病気を発症する前の部分は、二人が初々しくキラキラした感じを描き、中盤では病気という現実を若い人たちにもしっかり見せたいという気持ちがあったので、少し振り幅を大きくしてみました。

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― W主演を務めた白濱亜嵐さんと平祐奈さんの印象はいかがでしたか? また演出にあたり特に要求したことはありますか?

祐奈ちゃんとは彼女が中学生くらいのときに一度一緒に仕事をしたことがあるのですが、今回久しぶりに再会してみて、「大人になったな」という印象でした。亜嵐くんの第一印象は「カッコいいなぁ」でしたね。亜嵐くんは当時25歳くらいでしたが、特に高校生風に演じてほしいとお願いすることはありませんでした。彼には真面目な青年という印象もあったので、「自分の中の誠実な部分を見つめてください」と伝えました。祐奈ちゃんには「莉乃はこういう人だから、こうやってください」ということは、ほとんど言っていないと思います。

― 莉乃が蓮を見つめる真直ぐな眼差しと、病気になったときの自分を見つめている感情には胸が熱くなるものがあります。

祐奈ちゃんには莉乃という人間をどう演じるかは、自分の思った通りに演じてもらいました。ただ、細かい心情の変化や、「ここでどう思ったか」などの細かな表情の動きはしつこいくらい指示を出しました。

― だからこそ、繊細な演技に見ている側は吸い込まれていくのでしょうね。二人の目チカラに気持ちがこもっています。

僕は恋愛映画を撮るときには、基本的に人物をあまり横から撮らないように決めているんです。お互いを見合っているところにカメラを置くので、目の動きがよく見えるのだと思います。

― なるほど。二人がお互いの気持ちを伝えるときも、ちゃんと顔を合わせていますね。

そうですね。本人の目線になるようにカメラを置くので、ちゃんと見合っているように見えるのだと思います。それゆえに、映像を観ている側も客観的ではなく主観的になっていくのではないでしょうか。

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― 今作ではALSという病気が大きなテーマになっていますが、監督が一番伝えたかったこととは?

ALSは指定難病の一つとして、国に指定されています。発病すると現状では完治するための治療方法がまだないという病気です。本作の映画化のお話をいただいたときに、どういうふうにその病気を見せていけばいいのか凄く悩みました。まず、ターゲットとなる人を考えたとき、僕ら(制作側)としては、若い人たちにぜひ観てほしいと思いました。それをどういうバランスで見せたらいいのかが最も悩んだ一つです。
若い人たちに観てもらうには、あまり深く重くなりすぎるも良くないけれど、そこを軽く描くことも違う。やっぱり若い世代に「ALSという病気があるんだよ」「こういう思いをしているだよ」ということをわかりやすく丁寧に誤解なく伝えるためには、人を好きになる気持ちから入っていくほう理解しやすいのではないかと。病気のことを具体的に説明はしないけれど、主人公の二人にはしっかり病気と向き合わないといけない。それは二人がそれぞれ思う気持ちの中で向き合うということで結論づけました。
脚本の段階で取材していく中、ALS患者の方にお会いしてお話しを伺う機会がありました。撮影が始まってから1年半くらい経ちますが、当時は自分の言葉で話されていた方が今では酸素チューブを付けて寝たきりの状態になられていて、本当に過酷な病気なんです。容赦ないんです。そういう人たちを僕らがよく理解して、若い人たちにしっかり伝えていきたいのです。

ー 患者の方のお気持ちはもちろんですが、その周りで支える人たちの力も大きいかと思います。

そうですね。この病気は体が動かなくなっても意識はずっとあるので、取材の中で「病気にかかった本人は、周りの人に迷惑がかかることが辛い」と話されていました。周囲の人が病気にかかった人をどう思うかということも、この病気ではとても重要な部分でもあるので、そこは逃げないで描かないといけない。でもそれをやりすぎてしまうと現実が大きすぎて、若い人たちが目を背けてしまったら意味がなくなってしまうんですね。

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― 今作を撮影するうえで一番大変だったことは?

大変だったことは、いっぱいありますよ(笑)。特に、莉乃の感情が出る雨のシーンの撮影は大変でした。どういう涙なのか、どういう感情なのか・・・。二人にとってはただ好き嫌いという感情ではない。その時の思いを莉乃(平)に説明することが大変でした。祐奈ちゃも、その当時は20歳そこそこでしたから、病気を理解しつつ、どういう感情なのかを自分のものにしていくことに苦労したと思います。

― ずっと静かに莉乃に寄り添っていた蓮ですが、一度だけ感情を吐き出すシーンがありますが、そこも正直な感情でもあるかと。

蓮は高校生にしてはかなり強い男の子ですが、莉乃の目線で見ると王子様のような誠実な男子。でも、それだけでは病気に立ち向かえないのではないかと。恋愛なら王子様というだけでキュンキュンするだろうし女の子はそれだけで十分かもしれませんが、今回は現実ということをしっかり表現しないといけない。でも、彼は精神を乱すようなキャラクターではないので、一番辛いときに感情を吐き出すんです。

― 二人を囲む人々も大事な存在ですが、特に奥田瑛二さん演じる莉乃のおじいちゃんの温かさが心に染みます。奥田さんと一緒にお仕事されていかがでしたか?

奥田さんとは今作の衣装合わせの時に初めてお会いしたんです。とてもダンディな男性が部屋に入ってきたなと思ったのですが、そのままの感じで(映画に)出ていただきました。その時から劇中の雰囲気でいらっしゃったんです。

― 三木監督は、これまで青春映画をはじめ、ヒューマンドラマ、はたまたホラー作品など、色々なジャンルの作品を手掛けていらっしゃいますが、作品を制作するときにいつも心がけていることはありますか?

色んな方面からお話しをいただき作品に携わることになるのですが、仕事を始める最初の思いはずっと曲げないようにしています。それは「こういうものを撮ってほしい」という依頼でも、僕が「こういうものを撮りたい」ということであっても同じです。原作者や制作企画者等の思いをちゃんと見極めるところから始めます。だから色んなジャンルに臨むことができるんだと思っています。

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― 以前、三木監督が「映画というものは『監督のもの(作品)だ』と言われることがあるが、それは少し違うと思う」とお話しされていましたが、その意図とは?

原作があるものは、生み出している方がいて成り立つもの。もちろん、僕の作品でもありますが、原作者がいたりプロジェクトがあるのであれば、そこにある思いは大事にしたいと思っています。自分の作品だとあまり意気込まず、たくさんのストーリーやたくさんの考え方があるので、そこをちゃんと見ていきたいと思っています。

― それでは、最後にこれからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

ALSという重い病気を題材にしていますが、若い男女の恋愛や、人を想う気持ちにフォーカスしている作品なのであまり気負わず、でも、世の中には苦しい思いをしている人がいるということをしっかり確認しながら、楽しんで映画を観ていただきたいと思います。そして、観終わったあと、今後このように苦しんでいる方々に自分はどうすべきかということを心にとめてもらえれたら嬉しいです。

【三木康一郎(みき こういちろう)】
1970年生まれ、富山県出身。映画監督として、『トリハダー劇場版-』シリーズ(12、14)、『のぞきめ』 (16)、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』 (16)、『覆面系ノイズ』 (17)、『リベンジgirl』 (17)、『旅猫リポート』 (18)、『“隠れビッチ”やってました。』(19) 、『弱虫ペダル』(20)など、数多くの作品を手掛ける。 TV ドラマでは、「世にも奇妙な物語 秋の特別編『昨日公園』」(06/CX)、「東京センチメンタル」 (14、16/TX)、「ポルノグラファー」(18/CX)などがある。

本ポスター_『10万分の1』

映画『10万分の1』
《ストーリー》
告白して気まずくなるくらいなら友達のままでいい。学校中の女子はもちろん、男子からも憧れの存在である桐谷蓮(白濱亜嵐)に想いを寄せる桜木莉乃(平祐奈)は、そう思っていた。ところがある日、蓮の方から打ち明けられ、誰もがうらやむ両想いの日々が始まる。2人で過ごす時間が何よりも大切なものに変わる頃、「10万分の1」の確率でしか起こらない、ある運命が降りかかる──。

出演:白濱亜嵐(EXILE/GENERATIONS from EXILE TRIBE) 平祐奈 優希美青 白洲迅 /奥田瑛二
原作:宮坂香帆『10万分の1』(小学館 フラワーコミックス刊)
監督:三木康一郎
脚本:中川千英子
配給:ポニーキャニオン 関西テレビ放送
コピーライト:©宮坂香帆・小学館/2020映画「10万分の1」製作委員会
公式サイト:https://100000-1.com/

11月27日(金)より 全国公開中!