11月9日(水)にBunkamuraル・シネマにて始まり、5日間にわたり多くのゲストを迎え8本の香港映画を上演した、香港特別行政区設立25周年記念映画祭「Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」が、11月13日(日)に最終日を迎えた。
本映画祭で上演された「6人の食卓」「ワン セカンド チャンピオン」の2作品に出演し、本映画祭のミューズともいうべき リン・ミンチェン(林明禎)。11日に上演された「ワン セカンド チャンピオン」(原題:一秒拳王)での監督・原作・出演:チウ・シンハン(趙善恆)との登壇に続き2度目の登場を果たし、「6人の食卓」にまつわる秘話を明かしてくれた。
「6人の食卓」(原題:飯戲攻心)は、今年9月7日に香港で公開されたばかりの日本初上映作。
旧正月の公開予定だったが、コロナ禍第5波のため延期され、9月の上映となったが、公開2か月で興行収入7400万香港ドルを突破。『カンフーハッスル』(原題:功夫)や『少林サッカー』(原題:少林足球)を超え、香港喜劇映画の興行記録を更新中の大ヒットコメディだ。
描かれるのは、ダヨ・ウォン(黃子華)、ルイス・チョン(張繼聰)、ピーター・チャン(陳湛文)演じる3兄弟の人生を、彼らの恋を通して描く物語。
3人が亡き両親から受け継いだ家で賑やかに暮らしていたある日、次男ライが連れてきた恋人は、長男ホンの元カノだった…。
女性出演陣も、ステフィー・タン(鄧麗欣)、イヴァナ・ウォン(王菀之)、リン・ミンチェン(林明禎)と豪華。
この日の上演中も、10回を優に超える大爆笑が起こるという、香港での大ヒットも納得の、切なくも痛快な作品だ。
舞台挨拶に登壇したリン・ミンチェン。日本語で「みなさん、こんにちは!私はリン・ミンチェンです。よろしくお願い致します」、中国語で「この映画を見て、楽しんでください。みなさんの心に響いたら嬉しいです」と挨拶。
映画上演後のQ&Aに登場した際には、まず日本語で「香港映画祭に招かれて、私の大好きな東京でみなさんに会えたこと、光栄に思います。この映画が皆さんの心に響けば嬉しいです。楽しんでいただけましたか?」と話し、さらにマンダリンで「ここからはマンダリンで話しますね」と続けて大きな拍手を受けた。
―本作への出演経緯を教えてください。
最初に脚本を受け取った時に、旧正月に上演する楽しい映画だと聞いて、私も笑わせることができるのだと、とても嬉しかったです。というのも、私もこういうコメディ映画を見るのが大好きなので、私にもチャンスがやってきたと、そして大きなチャレンジだと思いました。演じる役が、私自身によく似た役だったこともあり出演を決めました。
本作での私にとっての一番大きなチャレンジは、広東語でした。それで脚本に広東語の読みかたをローマ字で振り、9つある広東語の声調を書いてラップ風に覚えました。(ここで観客から笑いが起こると、「みなさん、私の言葉がわかるのですか?」と驚いていた)
―撮影時のエピソードを教えてください。
これについてもたくさんお話ししますね。脚本を受け取った時には、誰と共演するか知りませんでした。香港に入って21日間は感染症対策のために隔離されていたので、その間に懸命に台詞と向き合いました。半分ほど覚えた頃に、共演者が素晴らしい先輩方で、中でもダヨ・ウォン兄さん(子華哥)はトークがとても上手で、香港の人たちが崇拝して「子華神」と呼んでいるほどの方なので「広東語の下手な私が、香港で最高の俳優の子華神と共演するなんて!」と思いましたが「もう仕方ない。広東語をがんばるしかない」と思いました。
でもキャストの皆さんと初めて会って本読みをした時、皆さんが私にとてもよくして下さいました。私がとても緊張しているのを見て取ると、香港式マンダリンで話をしてくださり、私はマンダリン式の広東語で話してコミュニケーションをとりました。私はちょっと宇宙人みたいでしたが、とても面白く楽しかったです。
撮影はずっと楽しかったのですが、正直にお話すると、ずっと緊張しっぱなしで、緊張を克服することができませんでした。緊張しなくなったと気が付いた時は、ちょうどクランクアップでした。
嬉しいことに本作が大ヒットしているので、みんな、続編を作りたいと思っています。その時にはもっと準備して、もっと素晴らしい演技をお見せします。
―本作を演じる上での気をつけたことは?
最初から最後まで広東語でした。一番大きなチャレンジでした。というのも、台詞は日常的な広東語ではなく、料理の名前や、事細かな料理の説明が多く、私は覚えるのも難しかったので。演技の点で一番印象深いのは、子華哥とのベランダでの場面です。最初にこの場面の脚本を読んで泣きそうになったので、それから撮影の日まで一度もこのシーンの脚本を見ませんでした。このシーンについては監督と子華哥と座ってしっかり長く話し合いました。私にはセリフも内容も大きなチャレンジで、この話し合いで台詞をカットしたり加わえたりとたくさん調整をしました。こうしたすばらしい話し合いを設けてくれた監督に、とても感謝しています。あのシーンの最後で、私が歩き出して振り返って戻って子華哥をハグします。私自身も阿Meowに共感して、子華哥にハグせずにはおられなかったのです。私にとって一番印象深い場面です。みなさんもあの場面が気に入って頂けるといいのですが。
―映画に出てくる料理について
一番おいしかったのは、広東語で覚えるのが大変だった“梅菜扣肉”(豚バラの梅菜蒸し 客家料理)です。(笑)
でも料理といえば、料理を作ってくれたおふたりを忘れてはなりません。撮影はしばしば午後から翌朝まで続き、私たちも午後から翌朝まで食べるのですが、いつも料理が温かいんです。料理人のおふたりが常にスタンバイしていて、冷めるとすぐに新たに作り直した料理に交換してくれるのです。そして、私は普段から比較的菜食で、もう一人の女性のキャストも菜食だったので、映画の中では肉に見える料理も全部肉ではないんです。でも本当においしくて、食べたくないと思った料理はなかったと思います。
―演じている役名が“アミャオ(阿Meow)”の理由は?
それは監督に尋ねないと分かりません。(笑) ただ劇中での私の(トレードマークともいえる)ジェスチャーは、監督があらかじめ考えてくれていたのですが、それがちょっとダサかったので、監督に「自分で考えても変えてもいいですか?」と尋ねて一日中、鏡の前で考えました。そして、これならいいと、きっと気に入ってもらえて、もしかすると流行るかもしれないと思って、出来上がったのを監督に見てもらったら、監督からも「いいね」と言ってもらえて採用されました。
―今回上演された2作品で演じたのは、誰かを応援するような役でしたが、今後はどんな役を演じたいですか?
私は元々歌手で、俳優になるとは思っていませんでした。演技を勉強したこともなく、演技の経験もとても少ないので、演技への挑戦は毎回、とても素敵な勉強の機会です。本作を劇場で7回見ました。毎回、観客の笑い声を聞く度に、私でも笑わせることができるのだと満ち足りた思いを感じました。コメディの才能があるのかもと、使命感も感じて、コメディを見るのは元々好きでしたけれど、演じるのも大好きになりました。また機会があれば、もっとたくさんのコメディ映画に参加して、皆さんにもっともっとたくさん笑って楽しんでもらえたらと思っています。
そして、最後に観客との記念撮影を申し出たリン・ミンチェン。満席の観客に劇中のトレードマークともいえるジェスチャーをレクチャーして、全員が満面の笑顔で一緒にカメラに収まった。
;