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キラン・ラオ監督インタビュー★インド映画『花嫁はどこへ?』「表現としては難しいことも恐れずに入れた」「インドでは身近な人を思い出したという声をもらった」

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ベールで顔が隠れた2人の花嫁が、花婿の家へ向かう満員列車の中で取り違えられたことから始まるインド映画『花嫁はどこへ?』が、10月4日(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほかにて全国公開される。
トロント国際映画祭でスタンディングオベーションを巻き起こし、Rotten Tomatoesでは批評家100%、観客95%という驚異の高評価をキープし、世界中の映画ファンを魅了している話題作だ。

主人公となるのは、取り違えられたふたりの花嫁、プールとジャヤ。予期せぬ旅を通して、全く新しい価値観と可能性を手にした2人が、「幸せって何?」と自らに問いかけながら自分の手で人生を切り開いていく。2人に巻き込まれたインドの人たちの人生模様や暮らしも鮮明に描いて、スリルも笑いもたっぷりの感動作だ。

本作のプロデューサーは、スーパーヒット作『きっと、うまくいく』などで主演を演じたインドの国民的大スター アーミル・カーン。本作の脚本を自らのコンテストで発掘し、長年タッグを組んでヒット作を生み出してきたキラン・ラオに監督を託した。

今回、キラン・ラオ監督にネットインタビューが叶った。

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キラン・ラオ監督は監督デビュー作『ムンバイ・ダイアリーズ』(2011)でいきなりトロント国際映画祭プレミア上映の栄誉を受け、その後、プロデューサーとしても活躍。ムンバイ映画祭の理事も務める。

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花嫁を取り違えてしまう新郎ディーパクと迷子になってしまう新婦・プール

―原作の脚本の魅力はどこでしたか?
一番の魅力は、いろいろと可能性がある原作だったことです。楽しくなる要素も、私たちが映画を通して伝えたいメッセージも取り込むことができる、いろいろと肉付けすることができる、しっかりした骨格になる原作という感じを受けました。

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新郎とはぐれて迷子になったプールと彼女を助けてくれるマンジュおばさん(左奥)

―その肉付けに絶対にこれは入れたい、忘れたくないと思われたポイント教えてもらえますか。
私は自立して生きる女性を登場人物にぜひ含めたいと思っていました。成功している女性、自分が生きたいと思うとおりに生きている女性を登場させたいと。それがマンジュおばさんです。原作にはプールを助ける年配のカップルが登場していましたが、このカップルの女性はプールをケアしてくれる心優しい方でしたが、マンジュおばさんのような方ではなかったので、脚本家のスネーハー・デサイのアイデアでマンジュおばさんに変わりました。マノハル警部補も彼女のアイデアで追加されました。

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ひとくせもふたくせもありそうなマノハル警部補(左)

―インドの風習なども描かれていて新鮮でしたが、どこまでがリアルなのでしょうか?
花嫁の取り違いは、実際に同じようなことが起きたことがあったから、こういった話も生まれたとも言えるのですが、あくまでドラマです。こんなありえないと思えるようなことでも、インドの田舎の村で起きるかもしれない、起こっても不思議はないよね、起こりうるよねと思えるお話です。けれども、こんな間違いもいい方向にできるのだということを描いています。

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間違って連れて来られたのに帰ろうとしないもう一人の新婦・ジャヤ(左)

―描かれていた結婚式の風習や農村の風景や暮らしについては、どこまでリアルなのでしょうか?
物語の舞台としては、北部でよく見かける村にしたかったので、そこはかなりリアリティを心がけました。畑が家のすぐ近くにあって、動物たちの近くに住んでいる一般的な村で撮影をしました。ディーパクの家も撮影のために作った家ではありません。ちょっと改造はしましたが、実際にある家で、今でも建っていますよ。そういう意味では、リアルな村の生活はこだわった点ですね。

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―登場人物が個性豊かで楽しかったですが、このキャストはオーディションで選ばれたとのこと。プールとジャヤのキャスティングの決め手になったのはどんな点でしょうか?
オーディションにしたのは、いわゆるスターとして確立した人はキャスティングしたくなかったから。そして、農村の女性として説得力がある、本当にそう見える人を選びたかったからです。全員をオーディションで決めたのですが、オーディションを行ったのが、コロナ禍の第2波が押し寄せてきたという異例な状況でしたので、通常のオーディションは行えず、メールやネットを使ってのオーディションでした。
プール役は、世間知らずで、とても無邪気な感じの人を、ジャヤは知的で、ちょっと一筋縄ではいかないという感じが一目で見てわかるような人を選びたいと思っていました。
ディーパク役とプール役については、動画で2人を見た瞬間に「見つけた!」と思いました。ジャヤ役はプール役とほぼ同じ背格好である必要があったため、とても難しくて、主演3人の中で最後に決まったキャストですが、テストした時にジャヤに求めていたものすべてに完璧にはまっていると感じました。
今回は、国中の多くの応募者の中から選べました。そして、これだけ才能溢れる人がいて、スターに頼らずにキャスティングできた。本当に恵まれていました。
この映画の後も、プール役のニターンシーとジャヤ役のプラティバーの2人は、インドの観客に愛されて順調にキャリアを積んでいます。これからの活躍が期待できる2人なので、今後の活躍を願っています。

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―この映画ではベールが二人の顔を隠すことで、取り違えが起こりますし、ジャヤは自分の意図を隠すのに、ベールをうまく使っています。フェミニズムの観点からは否定的に見られることもあるベールを活躍させた考え方を教えてください。
ベールは女性を制約するもの、女性の可能性を阻むものですが、ベールについても決定をするのは、あくまで女性自身であると思います。ですから、例えばジャヤが状況を乗り切るために、非常に効果的なツールとしてベールを使っていることにも、それが現れていると思います。大ヒットした映画「シークレット・スーパースター」(2017)(2017)の主役がブルカをツールとして有効に使っていますね。この作品でもベールを身につけるかどうかは個々の女性の決定に委ねられて然るべきで、強制であってはならないという考えです。

―この作品ではユーモアもたっぷり織り込まれていて、とても楽しかったです。
国の直面する様々なものごとや、表現としては難しいと思われることであっても、あまり恐れずに入れたいという思いがありました。それを伝えるのに一番有効な手段というのは、ユーモアや、攻撃的ではない、ちょっと皮肉っぽい攻め方が必要かなと思ったのです。笑っている時こそ、人の心が一番オープンになるとき。そういうときならば、心に滑り込ませる余地があるのではないかと思っています。ちょっとした生活のことや妻の話で、一瞬で気分が変わって和やかになる。ユーモアというのは武装解除だと考えています。
そして自分のことを笑えるというのは、私たちは誰も完璧ではないということを受け入れられるということでもあり、改善の余地があるということだと思います。

―最後に1つ、この作品中には、インドのいろんな世代の女性がそれぞれの考え方や生き方を語る部分がありました。インドで公開された時にはその点について、どんな反響があったのか、教えていただきたいです。
いろいろな世代の女性たちから話を聞く機会を設けましたが、予想以上に皆さんがこの映画を気に入ってくださって、とても温かい反応をくださったことに、常に驚かされました。この映画を見て、自分の母や知り合いの女性や自分のことを思い出したという声がとても多くて、私はこんな花嫁だったとか、たくさん話をしてくださいました。あるジャーナリストの方は、「結婚してから3日後まで夫の顔を見ることがなかった」と話してくれました。花嫁に限らず、他のキャラクターについても、身近な人を思い出したという声があったのですが、女性、男性問わず、 本当に温かい反応だったことは驚きでした。
日本の皆さんに本作をご覧頂けることを、本当に嬉しく思っています。日本の皆さんの反応をとても楽しみにしています。

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『花嫁はどこへ?』
2024年|インド|ヒンディー語|124分|スコープ|カラー|5.1ch|原題Laapataa Ladies|日本語字幕 福永詩乃 応援:インド大使館 配給:松竹
© Aamir Khan Films LLP 2024
公式サイト https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/