10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほかにて公開されるインド映画「花嫁はどこへ?」が、第97回米アカデミー賞の国際長編映画賞のインド代表に選出されたことが発表された。嬉しい知らせが発表された翌々日となる9月25日(水)に、旅好きでも知られる直木賞作家 角田光代さんが登壇してのトークイベントが行われた。
インド映画「花嫁はどこへ?」は、インド、大安の吉日。同じ赤いベールで顔が隠れた2人の花嫁が、たまたま同じ満員列車に乗り合わせ、新郎が花嫁の手を取り違えて下車したことから、予期せぬ事が次々と起こる、笑いも満載のハートフルな物語。
「きっと、うまくいく」主演のインドの大スター、アーミル・カーンがプロデュースを手掛け、各国の映画祭で喝采を浴び、米レビューサイトのRotten Tomatoesでは驚異の満足度100%が続く感動作だ。
本作の試写会を終えた直後、観客の皆さんの鑑賞後のおしゃべりが盛り上がる中、MCをつとめるライターのISOさんと、赤いワンピース姿の角田光代が登場。
「今日、真っ赤にしたのはこの映画に寄せてです」との角田の挨拶に会場が和んだ。
ISOが本作を「本当に気持ちのいい映画で、基本的には軽快なコメディですが、ミステリーを交えつつ社会問題に肉薄していくという点で、僕は「きっとうまくいく」とかを思い出しました。社会問題に広くアプローチする、すごく上手い脚本で、大変感動した作品でした。それにインド映画にしては非常に短い、見やすい映画です」と紹介。
角田も「すごく感動しました。話し運びがすごくうまい。いいセリフが本当にいっぱいあって、うまいなというところがいっぱいあって、素晴らしかったです」と話し始めた。
花嫁を取り違えてしまう新郎ディーパクと迷子になってしまう新婦・プール
花嫁役の2人と、自分の花嫁を取り違えた新郎役の3人はオーディションで抜擢されたことについて、角田は「2人の花嫁の個性が役に合っている」と驚いた様子で「ジャヤさんはすごいしっかりした顔してるし、 プールさんはちょっと頼りないようなお顔をして、面白かったですよね。プールさんはすごく保守的な女性の育てられ方をしたけれども、だんだんいろいろと教わっていく過程が非常に興味深かったです」と、配役の妙に感心。
間違って連れて来られたのに帰ろうとしないもう一人の新婦・ジャヤ(左)
新郎とはぐれて迷子になったプールと彼女を助けてくれるマンジュおばさん(左奥)
角田は「売店のおばさんが素晴らしいですよね。キャラクターもいいし、女性が1人で暮らしても、充実してて楽しいんだとさりげなく教えてあげている。もすごくいいなと思ったし、皆さんもそうだと思うんですけど、警官も(すごくいい)。最後は泣いちゃいますよね」と、登場人物たちに魅了されていた。
ひとくせもふたくせもありそうなマノハル警部補(左)
ISOからは「マノハル警部補役は、元々アーミル・カーンさんが演じるはずだったんですけれども、『ちょっと僕が目立ちすぎるかな』というような理由で辞退。 あのラビィ・キシャンさんになったんです」「この作品は、長年映画界でキャリアを積んできたインド映画界を担う女性監督の1人、キラン・ラオさんがつとめています」という情報ももたらされた。
ちなみにプール役のニターンシー・ゴーエルは子役でデビューし、インスタのフォロワー1119万人を持つ人気女優だが、本作が映画初主演。
もうひとりの花嫁役のプラティバー・ランターは、2020年にデビューし、本作が初の映画出演。Netflixで配信中のドラマ「ヒ―ラマンディ:ダイヤの微笑み」にも出演している。
警官役のラヴィ・キシャンはNetflixでも配信中の「リーガルな人々」では主演をつとめているとのこと。
キラン・ラオ監督によると、ニターンシー・ゴーエルもプラティバー・ランターも、ますます活躍しているとのこと。今後も期待できそうだ。
「気に入った場面は?」との質問の角田の答えには、鑑賞直後とあって観客も大いに共感して爆笑。角田は「フェミニズム的な啓蒙映画とも捉えられるけれども、啓蒙、啓蒙していない。非常にさりげなく、いいセリフを言うので、こっちが『ああ、当たり前のことだった』と気づかされる。納得させられるような気持ちよさがあります」と語っていた。
実は、あまりインド映画を見たことがないと明かした角田。だが、「私はインドには2回行ったことがあって」と実体験で得たインドの印象をこう語った。
「インドの方々って、いい意味でお節介な方が多いなって思っています。長距離バスの休憩所で食事をした際にお金払って店を出たのに、店の人からお金を払ってないから払えと言われて。私が払った、いや、払ってないと言い合っていると、すごい人だかりになっちゃって。そのうち、「払ったよ、見たから」と言ってくれる方がいて、本当にありがたかった。ありがたいと思うんですけれども、その一方で、道に迷って、道を聞くと、わっとまた人が集まってきて、こっちだ、いや、あっちだ、こっちだ、あっちだって教えてくれる。私はそれを見ていて、嘘をついてる人がいるんじゃなくて、この困ってる人間を一刻も早く助けたい、この窮地から救ってあげたいと思う気持ちだけで、あやふやなことも言ってしまっているだけなんだと気づいたことがありました」「その、インドの人たちの人の良いお節介さは、この映画にちょっと凝縮されて出ていて、みんなが花嫁さんを助けてあげようという気持ちがずっとある。それがすごくインドらしいなと思って見ていました」
インドの結婚式も描かれ、さまざまなインドの習慣や美味しそうな食べ物も描かれる本作は、これまでのインド映画とはちょっと違った楽しみ方もありそうだ。
トーク後半には、角田が支援しているプランインターナショナルの活動についても触れられた。角田によると「プランインターナショナルは、女の子の教育や、女の子頑張れということに非常に力を入れてるNGO」とのことで、角田も2011年にプランインターナショナルでインドのオンゴールで人身売買後に保護された女の子たちのシェルターなどを訪ねたという。
「この映画のように、女性だって1人で働いていいし、自立することが可能で、誰かに殴られて従うことはない。『暴力を振るって従わせるのは犯罪だ』という警官のセリフがありましたけども、それも言われないと気づかない。それが犯罪だと言われて初めて『怒っていいんだ』『自分はそう扱われていい人間じゃないんだ』と気づく。気づいた時に怒りが出てくる。そういう話を聞いてたので、この映画がいろんな人の力になるのではとも思いました」と、この映画がくれた気づきも語っていた。
本作品は、10月4日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほかにて公開。米アカデミー賞の行方も、楽しみに見守りたい。
『花嫁はどこへ?』
2024年|インド|ヒンディー語|124分|スコープ|カラー|5.1ch|原題Laapataa Ladies|日本語字幕 福永詩乃 応援:インド大使館 配給:松竹
© Aamir Khan Films LLP 2024
公式サイト https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/