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映画『愛のまなざしを』仲村トオル インタビュー!「撮影のことをほとんど覚えていないんです」・・・その理由とは?

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(67)

鬼才・万田邦敏監督が手がけた映画『愛のまなざしを』が只今、絶賛全国公開中。
本作は妻を亡くし、二度と誰も愛せないと思いつめて苦しむ精神科医と、突然彼の前に現れた、誰からも愛されない孤独な女が、日常を捨て激しく求めあう様を描く、「愛」の本質を見つめ、人間の性とエゴをあぶりだした愛憎サスペンス。

万田邦敏監督が、カンヌ国際映画祭にてW受賞した『UNloved』、比類なき傑作『接吻』に続き、共同脚本・万田珠実と三度目のタッグを組んだ。精神科医・貴志役を仲村トオル、貴志が溺れていく女・綾子役を杉野希妃が務め、貴志の亡き妻を中村ゆり、貴志の義弟・茂を斎藤工、貴志の息子・祐樹を藤原大祐が演じる。その他、片桐はいり、ベンガル、森口瑤子など、ベテランが脇を固めている。

Astageでは主演を務める仲村トオルさんにインタビューを遂行! 万田監督作品の魅力や独特な演出方法、そして、「ほとんど覚えていない」という撮影現場・・・その理由を語ってくれた。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(39)

― 今回、万田監督との三度目のタッグとのことですが、今作の出演オファーをお受けになったときのお気持ちと、シナリオをお読みになった感想をお聞かせいただけますか?

お話をいただいてシンプルに嬉しかったです。実は、別の万田監督作品の準備が進められていたのですが中断していたので、今回この作品で参加できるということで、ホッとした気持ちもありました。

最初にシナリオを読ませていただき、一つは万田監督と初めてご一緒した『UNloved』と次の『接吻』という映画と同じように、また変わった女の人が出てくるな・・・という印象でした。もう一つは、きっとまた途切れない緊張感がラストまで続くいい映画になるんだろうなという予感です。さらに、もう一つあげるとしたら、大変な撮影になるだろうなと (笑)。

― 万田監督とご一緒できる喜びの方が大きかったのですね。そんな万田監督の魅力とは?

最初に『UNloved』という映画で、“形”から入るというよりも“形”だけの演出を受けました。「3歩歩いて止まって、左側から振り返ってください。あごを引いてください。もう少し。引きすぎです、もう少し上げて」というような演出や、「セリフに抑揚はいりません。低い音で、強く、死ぬ気で!」というような。僕にとって新鮮な経験でしたし、それがスクリーンに映ると、見たことのない自分がそこにいて、新鮮な世界が広がっていました。監督の言う通りの形で監督の言う通りの音を出せば、こんなにも面白くなるんだと。なるべく自分を空っぽにして、操り人形のように言われた通りに体を動かし、その結果映るものがとても面白い、というところが万田監督の演出と作品の魅力だと思います。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(33)

― なるほど。仲村さんが演じられる精神科医は優しい先生ですが、心がここにないという印象を受けますが、仲村さんが役作りをされたということではないのですね?

そうですね。僕が役を作ったつもりはまったくないです。自分でこうしたいと思って演じたシーンはないと思います。たぶん約20年前の『UNloved』のときと比べると、万田監督のストライクゾーンは少し広がったと思いますが、監督が求めている音はこのトーンかなと考えることと、言われない限りは余計なことはしない、という意識で臨みました。

完成した作品を観て思うことですが、例えば精神科の医者が患者に声をかけるときは、刺激的じゃない声を意識するだろうな、悲観的には響かないけど軽々しく楽観的には聞こえないような声のトーンは、あれぐらいだったのかなと思ったりしました。
貴志の心の重要なところがそこにないと感じてくださったのは、ある意味、僕の心があそこにないからだと思います。でも、それをネガティブには感じていません。客観的に完成作品を見たときには、この人は常にどこかから亡き妻の声が聞こえるような感覚を持ってるんじゃないかなということを感じますし、貴志の心の大事なものがあの瞬間、あの診察室にないと見えるのは、監督の狙い通りだろうし実際僕がそういう状態だったからだと思います。

― それは監督が素材としての仲村さんを分かっていらっしゃるからそのように演出されたのかもしれませんね。

まさに僕の場合は、俳優は素材調達人だと思っています。こんな料理を作るから、白身の魚で来てくださいって言われたら、それにふさわしい魚を釣って現場に持って行くみたいな感覚ですね(笑)。
『UNloved』から万田監督はそれを求めているような演出スタイルでしたし、もっと強烈でした。もちろん、今回は僕がどういう人間か、どう言ったらどういうふうに動くかというのを、最初に組ませてもらったときよりよくご存じなので、最初のときとは多少は違うかもしれませんけれど。
監督は「気持ちを込めて」とか、「このセリフはこういう意味です」みたいなことは全然おっしゃらないので、僕もそこで自分なりのものを極力入れないようにしました。言われた動き以外のことはしない。でも求められていることは懸命にやっていました。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(48)

― 貴志が綾子と関係を持つようになり、だんだん感情的にもなってくる。それもやっぱり監督が細かく指示されたのですか?

そうです。なんでこんな動きをするんだろうなって思ったことはありましたけど(笑)

― 公園で斎藤工さん演じる茂と対峙したときも変な歩きかたをしていますね。

いっぱい変な動きをしてます。このシーンも監督の指示通りに斎藤くんと“踊った”に近い感覚です。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(29)

― その動きの意味を監督に聞くことはなかったのですか?

不思議だなと思っても、監督にその意味を聞くことはなかったです。演劇の稽古をしているときにもある感覚ですが、1ヶ月から1ヶ月半ぐらい稽古して本番を迎える途中で「これってどういう意味ですか」と尋ねると、「わかりません」という演出家の方もいれば、答えを教えてくれる方もいます。ただし、それはその日の時点の答えであって、本番初日までに変わるかもしれないのに、それを聞いてしまうとその答えに縛られてしまう可能性がある。「答えなんて聞いたらおしまいよ」と仰る先輩の女優の方もいらっしゃいました。僕もそうですが、自分が不思議に思った行動の意味を聞いて説明を聞いてしまうと、それ以上の広がりがなくなってしまう。観客の皆さんが見て、「何か変だな」「面白いな」と感じていただければ、それがそれぞれの答えだと思うんです。

― ところで、杉野さん演じる綾子は女性から見るとなかなか共感できない存在かと。でも、どこかに「自分の中にも彼女のような一面があるんじゃないか」とか、彼女の行動を少し羨ましくも思う気持ちにもなるかもしれません。杉野さんと共演されていかがでしたか?

杉野さんとは最初にプロデューサーとしてお会いしていたので、撮影が始まる前は、現場ではプロデューサー的な顔とか発言があるのかな、そういうときは少し離れてた方がいいだろうなと少し気にしていましたが、現場ではそういうことは全くなかったです。本当に女優として、綾子として立っているという感じで、とてもありがたかったですし素晴らしかったと思います。
確かに、綾子は自分が幸せになるためだったらどんな嘘もつき、自分が愛されるためだったら平気で人を傷つける・・・、本当に共感できる人はいないだろうと思うようなキャラクターです。ただ神様が「どんな手を使ってもいいですよ。どんな嘘をついてもいいですよ、幸せになりたいんでしょ、愛されたいんでしょ?」って許してくれたら、やるかもしれないという可能性が多くの人にあると思います。彼女はもしかしたら貴志にとっては天使のような存在だったのかもしれません。その結果、共感はできないけれど、心のどこかが共鳴してしまうのかもしれないと感じました。

― そんな綾子のような女性が実際にいたらどう思いますか?

客観的に見たら、近寄りたくないですよね。嘘ばっかり言って面倒くさいし(笑)。でも、映画のヒロインとしてはとても魅力的だと思います。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(7)

― 撮影中に特に大変だったこと、辛かったことはありましたか?

1日の撮影の量が多くて大変だなと思った記憶はありますが、完成作品を何度見ても本番中の記憶がほとんどないんです。それは、例えばカットになったシーンを聞かれても覚えていなくて、「斎藤くんと2人の屋上のシーンですよ」と言われて、「ああ撮ったな」という感じ。そのときのことを思い出そうとしても「雨が降りそうだな」「降ったらこのシーンが撮れないのは嫌だな」ということは思い出すのですが、そのあと斎藤くんが言ったセリフとか、斎藤くんに抱きしめられる芝居があったことは全部頭から消えてしまってるんです。
自分でもどういう状態だったのかなと考えるのですが、それは貴志という体を動かすことに懸命になっていて、自分自身で何かを見たり感じたりしてなかったからじゃないかなという気がします。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(16)

― それは仲村さんご自身がその現場に貴志という存在を置いてきてしまったから? だから思い出せないのでしょうか?

そうかもしれないです。ある日撮影が終わって、次の日の朝も早いから早く帰らなければと思っていたところに、(杉野)希妃さんに「(ポスターの)写真を撮っておきたいんです」と言われて、「え? 今からですか?」と思ったこととか(笑)、コインパーキングで車を出すときに小銭がなくて、コンビニを探し回ってもコンビニがなくて、酒屋さんに入ったら「うちは両替できません」と言われて、仕方なくウイスキーを買ったな、というような記憶は鮮明に残っているんですけどね(笑)。

― なかなか興味深いお話をありがとうございます(笑)。 危険な愛の形を描いた本作ですが、ちなみに仲村さんご自身が周りからダメだよと言われても愛してやまないものはありますか?

あまりダメとは言われていませんが、過ぎるとダメだよって言われるけど愛してるのはお酒ですね。僕の楽しみです(笑)。

― それでは、最後に仲村さんが感じるこの作品の魅力、『愛のまなざしを』というタイトルの意味を含めて、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

この作品は、たぶん多くの人が共感はできないけど、心の闇に近いような部分で共鳴していただけると思います。そして、自分のことを普通だと思っている多くの人でも、何かきっかけがあれば出会うことがあるかもしれない出来事。そのプロセスを目のあたりにするような映画です。タイトルにある“まなざし”は、見ていて欲しいという気持ち。貴志の、妻が愛を持って今もまだ自分を見ていてくれるという思いこみ、望み、僕はそんなふうにとらえている気がします。

『愛のまなざしを』仲村トオルさん-(3)

【滝沢貴志役:仲村トオル Toru Nakamura】
1965年生まれ、東京都出身。1985年、映画『ビー・バップ・ハイスクール』(85~88/全6作 ) でデビュー。86年より、30年間に渡り制作された「あぶない刑事」シリーズ全作に出演したほか、「チーム・バチスタ」シリーズ(08~14)、「家売るオンナ」シリーズ(16/17/19)など、数々の映像作品に出演している。90年代後半より海外の作品にも参加。韓国映画『ロスト・メモリーズ』(04)では第39回大鐘賞映画祭最優秀男優助演賞を受賞。中仏合作映画『パープル・バタフライ』(05)は第62回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されるなど、活躍の場を拡げる。2000年代より「偶然の音楽」(05/08)、「奇ッ怪」シリーズ(09/11/16)、NODA・MAP「エッグ」(12/15<PARIS国立シャイヨー劇場招聘公演含む再演>)、KERA・MAP 「グッドバイ」 (15)、ケムリ研究室no.1「ベイジルタウンの女神」(20) などに出演し、演劇のキャリアも重ねている。万田邦敏監督とは映画『UNloved』(02)で出会い、『ありがとう』(06)に賛助出演。『接吻』(07)では、第23回高崎映画祭主演男優賞を受賞した。このほかの主な映画出演作は『K-20 怪人二十面相・伝』(08)、『劒岳 点の記』(09)、『行きずりの街』(10)、『北のカナリアたち』(12)、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(17) など。
※『ロスト・メモリーズ』『パープル・バタフライ』は邦題/日本公開年記載

 

11月20日(土) に、『愛のまなざしを』の大阪での仲村トオルさんの舞台挨拶が決定しました!!

■テアトル梅田
1 回目 9:45 の回 上映後
2 回目 12:15 の回 上映前
登壇:仲村トオル、万田監督(予定)

■イオンシネマ シアタス心斎橋
1 回目 12:30 の回 上映後
2 回目 15:10 の回 上映前
登壇:仲村トオル(予定)

愛のまなざしを_ポスタービジュアル

映画『愛のまなざしを』
<あらすじ>
亡くなった妻に囚われ、夜ごと精神安定剤を服用する精神科医・貴志(仲村トオル)のもとに現れたのは、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子(杉野希妃)。恋人との関係に疲弊し、肉親の愛に飢えていた彼女は、貴志の寄り添った診察に救われたことで、彼に愛を求め始める。いっぽう妻(中村ゆり)の死に罪悪感をいだき、心を閉ざしてきた貴志は、綾子の救済者となることで、自らも救われ、その愛に溺れていく…。しかし、二人のはぐくむ愛は執着と嫉妬にまみれ始め、貴志の息子・祐樹(藤原大祐)や義父母との関係、そしてクリニックの診察にまで影響が及んでいく。そんな頃、義弟・茂(斎藤工)から綾子の過去について知らされ、さらに妻の秘密までも知ることとなり、貴志は激しく動揺するのだった。自身の人生がぶれぬよう、こらえてきた貴志のなかで大きく何かが崩れていく。失った愛をもう一度求めただけなのに、その渦の中には大きな魔物が存在し、やがて貴志の人生を乗っ取り始める。かたや綾子は、亡き妻にいまだ囚われる貴志にいらだち、二人の過去に激しい嫉妬をいだく。彼女は貴志と妻の愛を越え、極限の愛にたどりつくために、ある決断を下すのだった――。

◆予告編

出演:仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実 万田邦敏
配給:イオンエンターテイメント 朝日新聞社 和エンタテインメント
2020年/日本/日本語/102分/英題:Love Mooning/HD/カラー/Vista/5.1ch
(c)Love Mooning Film Partners

公式HP:http://aimana-movie.com/
Facebook:aimana.movie
Twitter:aimana_movie
Instagram:aimana_movie

全国公開中!

ヘアメイク:宮本盛満
スタイリスト:中川原 寛(CaNN)

インタビュー撮影:ナカムラヨシノーブ