毎年、埼玉県で開催されている国際コンペディション映画際「SKIPシティ国際Dシネマ映画際の、2017年オープニングを飾った映画が『ANIMAを撃て!』だ。コンテンポラリーダンスを通して一人の女性が成長していく姿を描き出した本作が、3月31日に公開。
監督は本作が商業用映画監督デビューとなる新悦・堀江貴大。ヒロイン・果穂を演じるのも映画初出演にして主演となる服部彩加。そして、同じく主演の伊藤役を小柳友が扮する。
ANIMA=ラテン語で「生命・魂」を示す言葉・・・
ドラムを通じて果穂との交流を深め彼女の心を溶かしていく伊藤。自身もかつてドラマーだった小柳に本作についての思い、そして今ある自分を語ってもらった。
― 本作へのご出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。
まず、ドラムとコンテンポラリーダンスを合わせるという話を聞いて、もうそれだけでこの企画はおもしろくなるだろうなと感じました。そして、台本を読ませていただき、それ(面白くなるだろうというもの)が覚信に変わったと同時に、どうなるんだろうという不安も湧いてきて・・・。撮影が進むに連れ徐々に形になっていく行程が楽しかったです。
― 実際にドラマーとしての経験を持つ小柳さんですが、バンドを辞めてからもドラムを叩かれていたのですか?
全然やっていなかったです。以前、テレビ番組に出演したときに即興で叩いたくらいなので、ちゃんとスタジオに入って練習したのは10年ぶりです。改めてドラムをたたくことに自分の中で思うこともありましたが、これは自分と向き合うきっかけになる作品だと思って、ドラムに集中しつつ、芝居も楽しんでいました。
― 久しぶりにドラムを叩くことに抵抗はなかった?
若干ありましたが、抵抗というか、やり始めたらまた(ドラムを)やりたくなっちゃうんじゃないかな、という思いがよぎって。今やっと役者として楽しめるようになってきたので、自分が「またバンドやりたい」って言い出したら怖いなと思うところはありましたね。
― 大丈夫でした?
はい。撮影が終わってもスタジオに入ってドラムを叩くことはありますが、それは息抜きという形で、新しいドラムとの付き合い方ができているので良かったと思っています。純粋に楽しんでいます。
― 俳優になるためにバンドを辞めたとのことですが・・・
もともとモデルをやっていたのですが、本当に“俳優”で自分が食べていきたい、生活をしていきたいと思ったのは24歳くらいかな。兄貴(俳優で作家の小柳心さん)との二人芝居をはじめ、いろんな方との出会いで芝居の楽しさをひしひしと感じ、のめり込んでいきました。19歳のときに映画『トウキョウソナタ』で黒沢清監督と出会ったのが一番大きかったと思います。役として全てを受け入れてもらった作品だったし、そういう作品をずっとやっていきたいという気持ちがありました。そして、「自分たちでも何か作りたいね」と兄と話していて二人でコメディーの芝居を作ったんですが、これもとても反響が大きくて。お客さんの笑いで自分たちのセリフがかき消されてしまうくらいだったんです。その笑いが治まるのを待って次のセリフに移るくらい凄かった。これはやめられないなと(笑)。
― そして、芝居にはまっていった?
はい、どっぷりと(笑)。
― 伊藤瑛という役にはどのように向き合っていきましたか?
自分と近い部分もあったので、自分を通して表現できることは自分の味を出していこうと。あとは、公務員てどんなだろう、元ドラマーってどういうものだろうということをかけ算していきました。監督や(呉田果穂役の)服部さんと話し合いながら作っていきました。
― ご自分と近い部分とはどんなところでしょうか?
作ることが好きということ。劇中に「何かを作ることって、凄く人間的なことだと思うんです」というセリフがあるんですが、実は台本では違うセリフだったんです。現場で直前に変わったんですが、僕ってそういう突然の変更とかとても弱くて。でも、そのセリフはとてもすんなり言えたんです。たぶん近いから、自分が本当に思っていたからこそ言えたんじゃないかと思います。
― 逆に自分とは違うなと思ったところはなかったですか?
特になかったですね。基本的に役を演じるときは、台本を読んでいる段階からその役に寄り添っていってしまうので、あまり自分とは違うというような否定をしないんです。脚本家さんが書かれた一文字、一文字に意味があるので、「この人からこの言葉(セリフ)が出ているということは、自分も必ず言えるはずだ」と常に思っていてそれを大切に演じようと考えています。
― これまでも色々な役を演じてこられていますが、ご自身の素に近い感じがあった?
本当に色々な役を演じていると、自分の素ってなんだろうって思いますよね。舞台で7役を演じることもありましたが、キャラクターは違えど全てを自分に当てはめようとしましたし。
― いつも役に入る前は白紙状態ということでしょうか?
そうですね。常に一度自分のキャンバスを全部白色にして、どういう人間かを考えます。もちろん、役によっては太ったり痩せたり容姿を変えることはありますが、その前にその人の生活や成り立ちがあると思うので。でも身長だけは変えられないですね(笑)。小さい人の役がきたらどうしよう・・・って(笑)。
― 本作が映画初出演となる服部彩加服部さんとの共演はいかがでしたか?
とても楽しかったです。僕は一度自分を白色にして役を作っていくわけですが、彼女はそれもなく白色ですから。その真っ白なところに、僕から受けたものがリアクションとして表れるところが凄く面白かった。服部さんを見ていると自分も基本に戻っていくような感じがして新鮮でした。
― 堀江貴大監督とは同い年だとか?
フレッシュですよね(笑)。監督が同い年というのは初めてだったので、最初はどうやって接したらいいのかと戸惑いました。(同い年なので)仲良くなることは簡単でしたが、ここは一線を引いた方かいいんじゃないかと思って、お互いを尊重する意味でも「撮影終わるまでタメ語はやめましょう。敬語を使いましょう」って言ったんです。監督は凄く役者の意見を取り入れてくださるんです。僕のワガママを聞いてくださって、それを映画にも反映してくれてとてもいい経験になりました。でも、すっかりその立ち位置が根付いてしまって、いまだに敬語で話してしまうんです(笑)。
― では、撮影現場はいい雰囲気だったんですね。
はい、とても。僕も音があるものが好きですし、自分が出した音(ドラム)が映像になることはなかなかないので、映画作品として新しい扉が開いたと思いました。
― 実際にコンテンポラリーダンスとドラムのコラボレーションをされていかがでしたか?
気持ちよかったです。僕は元々ドラムをやっていて、バンドのメンバーがいた。ベースがいて、ギターがいて、ボーカルがいて。今度はその音色が全部なくなって、ダンスになったことで、ドラムにも音色があるんだなと感じましたし、ダンスにも音色があってメロディーがあるんだなと思いました。それって凄い発見じゃないですか。それを皆さんに上手く届くように考えました。やっぱりダンスとドラムって格好良いよなって。ドラムって色々なものに合わせられるんです。
― 芸術的な作品としても楽しめる要素がありますね。
そうですね、アート的な感じですね。さすが堀江監督です。観ていただく方も新しい発見があると思います。
― 最初は無表情だったヒロインの果穂も、ダンスを楽しむうちにとても表情が豊かになっていきます。小柳さんが女性を見て「可愛いな」と思う瞬間はどんなときですか?
う~ん(としばし考えて)女性が話す方言っていいですよね。でも、関西の「ツッコミ」という文化に慣れなくて、普通に怒られているんじゃないかと思ったことがありましたね(笑)。あと、バランスが取れている女性が好きです。太っているとか痩せているとかではなくて、ちょっとした仕草を絵にしたときにバランスがいい瞬間があるんです。そんなときにキュンとしますね。
― 本作では、伊藤さんが部屋のドアをあけて、無心にダンスを踊っている果穂さんを見て衝撃を受けるところから始まりますが、小柳さんがこの人生でどなたからか衝撃を受けたことはありますか?
本当に色々な方から衝撃を受けているからこそ、今の自分があるんだろうなと思いますが、特に俳優の香川照之さんから声をかけていただいたときの印象は強かったです。以前一緒に芝居をしているときに、自分が今までにない表情をしたそうで「お前、今とんでもない表情していたぞ」って言ってくださって、先輩としてとても格好よかったです。また、歌舞伎役者・市川中車(ちゅうしゃ)さんとしてお会する機会があったんですが、「僕はいまだに(香川さんのことを)芝居の父親だと思っています」と号泣しながらお話したら、「俺はずっとお前の父親だからな」と仰ってくださって、今でも凄く影響をいただいています。
― 素敵な出会いだったんですね。これからも多くの出会いがあると思いますが、今後やってみたい役はありますか?
色々考えますが・・・30代は医者かなと(笑)。いままでやってない役を考えると、医者ですね。あまり難しくないセリフの医者がいいですけど(笑)。
― では、これから本作をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
自分も夢を見ていた人間なので、この作品を観て心を打たれました。今、夢を見ている人も、夢を諦めた人も、これから夢を作る人も、色々な方にぜひ観ていただきたいと思います。よろしくお願いします。
【小柳友(こやなぎゆう)プロフィール】
1988年8月29日生まれ、東京都出身。
2006年『タイヨウのうた』(小泉徳宏監督)で映画デビュー後、多くのドラマや映画、舞台に出演。主な出演作として映画『トウキョウソナタ』(08/黒沢清監督)、『阪急電車 片道15分の奇跡』(11/三宅喜重監督)、『カラスの親指』(12/伊藤匡史監督)、『がじまる食堂の恋』(14/大谷健太郎監督)、『アオハライド』(14/三木孝浩監督)、『生きる街』(18/榊英雄監督)、舞台『非常の人 何ぞ非常に~奇譚 平賀源内と杉田玄白~』(13/マキノノゾミ演出)『すべての四月のために』(17/鄭義信演出)、「岸 リトラル」(18/上村聡史演出)など。
映画『ANIMAを撃て!』
脚本・監督:堀江貴大
出演:服部彩加 小柳友 / 中村映里子、黒澤はるか、藤堂海、大鶴義丹 ほか
配給:アティカス
©2017 埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ
公式サイト:http://anima-movie.com/
3月31日(土)~ 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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