映画『あんのこと』の完成披露上映会が、5月８日、東京・イイノホールにて行われ、主演の河合優実をはじめ、共演の佐藤二朗、稲垣吾郎と、入江悠監督が舞台挨拶に登壇した。
2020年6月に新聞に掲載された「少女の壮絶な人生を綴った記事」に着想を得て、実話をもとに『ビジランテ』や『ギャングース』の入江悠監督の手で映画化。本作は、社会の中で「見えない存在」にされてしまった人々を、鎮魂と後悔の思いを込めて、まっすぐに見つめる衝撃の人間ドラマ。底辺から抜け出そうともがく少女・香川杏を河合優実、杏を救おうとする型破りな刑事・多々羅を佐藤二朗、2人を取材するジャーナリスト・桐野を稲垣吾郎が演じ、『PLAN 75』のスタッフがとして再集結し、現代社会のリアルな縮図を描き出す。
冒頭で、佐藤は「（本作は）気楽に観れる映画ではないです。皆さんが何かを感じ取っていただければと思います」と挨拶すると、稲垣も「入江監督をはじめとした制作スタッフの皆さま、そして僕ら演者の一人ひとりの熱い思いがぎゅっと詰まった作品。皆さんにお届けできる日を迎えられて本当に嬉しく思っております」としみじみ。
入江監督は「実際にこの映画の（基となる）事件もあったそうですが、時代を切り取って記録するのも映画の役割だと思って脚本を書いて、本当に素晴らしいキャストの皆さんに演じていただきました」と本作の完成を喜び、映画製作の意義にも言及した。
実在する人物を演じた河合だが、「実在する方のお話ということが自分の中で大きくて、とても強い気持ちで大切に触らないとできないと思っていました。脚本を読んだときに、入江さんも同じ気持ちで覚悟しないとできないなと思いながら書いたんだという“気”みたいなものを受け取って。どこまでも真剣に誠実にやるということに最後まで徹していました」と回顧。そして、「その中でご本人に近づきながら、途中から香川杏というこの映画のキャラクターとして、役を生きる方向にシフトしていった感覚です」と続けた。
杏にとって重要な存在となる役を演じた佐藤は「吾郎ちゃん演じる桐野も、僕が演じる刑事・多々羅もこの不遇な少女を救おうとする気持ちは本気だということは一貫して、常に頭においていました」ときっぱり。それでも、「ほら、ふざけてないでしょ？ 僕できるんだから(笑)」と、真面目なコメントに自らツッコミを入れ笑いを誘う。
すると、稲垣が「佐藤二朗さんも、河合優実さんも、稲垣吾郎さんも、スクリーンの中にはいません」と、普段とは違う姿が映し出されていることを強調。すかさず佐藤が「いいこと言う！吾郎ちゃん！」と褒め称えると、稲垣は「その覚悟で観ていただきたい。皆さんにそう思ってもらえたら僕らは成功ですね」とニッコリ。河合も「いま出している姿を忘れて観てもらえれば」と勧めた。
また、稲垣は「これが実話に基づいた話ということで、最初は胸が張り裂けそうで衝撃的でした。杏の心の叫びを届けたいという思いで演じていました」と振り返りながら、「この物語は杏の話ですが、こういうことって、僕らにも起こり得ることで、明日なにが起こるかわからない。急に絶望に陥ってしまうことってあるかもしれない。そんなときにそれを救ってあげられる、安心できる社会、そういう人たちの声をちゃんと聞いてあげて、手を差し伸べられるような世の中を作っていかなきゃいけないなと感じました」と作品を通して社会の在り方について意見を述べる。
本作の脚本と演出の両方を担った入江監督だが、「僕はおっさんなので、杏については河合さんに委ねました。佐藤さんも、稲垣さんも」と演者の感覚に信頼を寄せていた様子。それでも、佐藤や稲垣は「監督の客観性、俯瞰しているところの脚本が素晴らしい」と称える。
「映画の内容とは違い、現場は和気あいあいとしていた」と話した河合だったが、佐藤は「僕もそう思っていたんですが、さっき吾郎ちゃんとも話していたんですが、今日の河合優実がすごく明るく感じたんです。やっぱり（撮影時は役を）背負っていたんだと思いましたね」と話す。
そして、「予告編でも出てくるトンネルのシーンがあるんですが、その撮影の前に河合優実が僕の両手を握ったんです。『大事なシーンを演じる前に、佐藤さんの体温を感じたかった』って。僕もこれはいいシーンにしないと！と思わせてくれて河合に感謝してるんです」と告白する佐藤。監督も「それが画に出ていますね」と。
その言葉に、河合が「あまり言うと、それを思って皆さんが映画を観てしまうかも･･･」と訴える。あわてて佐藤が「あ、ごめんね」、稲垣が「僕らが“不適切”だったね」と、河合が出演し人気を博したドラマ『不適切にもほどがある!』に絡めて謝ると、会場は大うけ。佐藤が稲垣に「それ使おうと思ってたでしょ！？」とツッコミをいれ、さらに会場の笑いを誘っていた。
河合は今回の作品に参加したことに、河合は「特別な役であるし、これを経験できたことは凄く大きかった。この先いろんなことがあるだろうけれど、この経験が自分の糧に絶対になるし、支えになるだろうなと思っています」と胸を張る。
さらに、映画の内容にちなみ、「人生の中で大きく運命を変えた出来事は？」と問われると、河合は「高校3年生のときに映画館で声をかけられ、それが初めての自主映画作品につながったこと」と明かし、佐藤は「妻」と一言。稲垣は「中2くらいからこの業界に入りましたが、メンバーとの出会い。草薙さんと香取さんとは30年になります。3人で新しい地図として今ファンミーティングのツアー中ですが、お客さんの中にはデビュー当時から来てくれている方もいて、親子3代で来てくれる方もね。本当にありがたいですね」と仲間とファンの出会いに感慨していた。
最後に河合が「全員で大切に思って、みんなで真剣に作った映画と心から言えます。この作品を通して考えたこと、受け取ったものを持ち帰っていただけたら嬉しいです」とメッセージを送り、舞台挨拶を締めくくった。
映画『あんのこと』
＜あらすじ＞
21歳の主人公・杏は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、10代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。週刊誌記者の桐野は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。
出演：河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
監督・脚本：入江悠
製作：木下グループ 鈍牛倶楽部
制作プロダクション：コギトワークス
配給：キノフィルムズ
© 2023『あんのこと』製作委員会
公式サイト：annokoto.jp
公式X：@annokoto_movie
6月7日（金）新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開
