第75回カンヌ国際映画祭「コンペティション」部門
最優秀男優賞、エキュメニカル審査員賞受賞!!
第75回カンヌ国際映画祭授賞式後 (日本用囲み取材)
第75回カンヌ国際映画祭において、現地時間28日(土)夜(日本時間:29日未明)に「コンペティション部門」の授賞式が行われ、是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』の主演ソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞した!
カンヌ国際映画祭において、韓国人俳優が「最優秀男優賞」を受賞するのは初となる快挙!さらに、是枝裕和監督作品がカンヌ国際映画祭で同賞を受賞するのは、2004年に『誰も知らない』で柳楽優弥が受賞して以来2度目となる。なお、是枝監督は、本作品で「エキュメニカル審査員賞」(カンヌ国際映画祭の独立賞で、キリスト教関連の団体から「人間の内面を豊かに描いた作品」に与えられる賞)を受賞しており、本賞と合わせて2冠の快挙となる。
授賞式の後に是枝監督の日本用の囲み取材が行われた。
Q1:男優賞は2度目。俳優を際立たせる監督だと思います。いかがですか?
A:自分の映画に出た役者が褒められるのが一番嬉しい。素直に嬉しいです!
自分が褒められると疑ってかかりますけれど(笑)、役者が褒められる時は本当に嬉しいです。
特に今回はソン・ガンホさん。予想はしていなかったのですが、このプロジェクトにとって彼の男優賞というのは、さっきティエリー・フレモー(カンヌ映画祭総代表)にも話しましたけれど、
この作品にとっての最高のゴール、とても美しいゴールだなと思って、そのご挨拶をしてきました。
Q1′:美しいゴールというのは是枝さんがおっしゃったんですか?
A:はい、僕がいいました。
Q2:ソン・ガンホさんとはどのようなお話をされたのですか?
A:受賞の後は、トロフィーを持って抱き合っただけです。まだそんな言葉を交わすというよりは、本当に良かったと抱き合いました。
Q3:受賞後の会見でもソン・ガンホさんはすごく是枝監督のお話をされていたのですが、何かお二人の間に生まれた特別な絆はありますか?「日本との違いはない、仕事では感じなかった」とソン・ガンホさんが言っていました。そういう意味では監督とソン・ガンホさんはつながっているんだなと思って。
A:そうですね。それは日本でやる時も変わらないから。どう信頼関係を築いてお互いが何を求めるのか、言葉を尽くして話すということも大事ですし、撮りながらそれをどういう風に、関係を深めていくかという。彼が積極的にアプローチをしてくれたので、本当に助けられましたし、良い関係が築けたのかなと。
Q4: 監督が総合監修をつとめた『十年』で短編映画デビューした早川監督がカメラドール(新人監督賞)のスペシャルメンションを獲られましたが何か話しましたか?
A:話しました。授賞式の前に立ち話ですけど。ただこちらに来ているのはわかっていたので。少し早めに入ったので、2人で話す時間をいただいたので、褒め称えて(笑)。
長編デビューでここに来られて、本当に素晴らしいスタートだなと。心からおめでとうを伝えました。
本当は「十年」の短編でご一緒して、その企画を時間をかけて長編に仕上げてのデビューなので、自分としては長編へ向かうための背中を押すような関わり方ができた方が本当は良かったなとちょっと反省したものですから、せめてここで少し僕の後押しが何かプラスになるかわかりませんけれど、エールを送りました。
でももうきっと彼女はこれで、学生部門で来て、長編デビューで受賞して、このあとコンペが待っているという形だと思いますので、どんどんこういう形で、去年濱口さんが獲って、今年早川さんがこういう形で続いていくというのは日本映画にとってもいい流れだなと思います。
Q5: 先ほどおっしゃった、この作品にとって“最高のゴール”の意味をもう少し教えていただけますか?
A:『誰も知らない』の時にも授賞式に呼ばれて一体何の賞なんだろうなと思っていたら、全く予想をしていなかった男優賞というのをいただいて、頭が真っ白になって何を言ったらいいのかわからなくなりましたけれども、結果的には色んな意味でとても良かった。
今回、この日韓の合同チームで主演の役者が男優賞というのは、韓国映画界でも男優賞初なので、ソン・ガンホさんも国際賞で単独というのは初だと思うので、そういう意味でも、今韓国国内でも結構盛り上がっているはずですし、僕ら…多分共演した役者たちもスタッフももらって一番嬉しい賞だと思う。
彼がこの作品のキモだったし、本当にムードメーカーだったし、チームリーダーだったし、彼がこういう形で評価されたのは何よりでした。
Q6:俳優に賞を獲らせるというか、いい演技をさせる秘訣があると思うんですけ何ですか?
A:いい演技をさせるという感じではないんですけど・・・
ただ、今回は本当にお互いに僕も彼の演技を観ながら脚本を現場でなおしていく、編集をみてもらって、というか彼がみるので(笑)、観て意見がもどってきて、そういうフィードバックが撮影の裏で毎日あった。そのことがやっぱ僕にとって判断の基準になりましたし、そういう信頼関係の中で進められたというか、結果的に作品の中に残っている彼の芝居の質も上げたと思いますし、そういうことなんじゃないかなと。
僕が何か引き出したというよりは、そういう感じなのかなと。
Q7: 今、信頼関係という言葉が出ましたが、日本と韓国の関係がぎくしゃくすることもありますが、是枝監督とソン・ガンホさんの関係を見ていると希望を感じるのですが、いかがですか?
A:パク・チャヌクさんとも話していて、これをきっかけに、もっと日韓のスタッフとかキャストとかの交流が進むといいねと。お互いにお互いから学ぶことが沢山あるだろうし、そこからまた新しいものも生まれてくるだろうから、そういうことが進むといいなという話を今していました。
Q8:(日韓の関係は)進むでしょうか?
A:えー進むんじゃないですかね。ポン・ジュノさんとかと話していても、日本の役者で撮りたいという気持ちをすごく感じるし、色んな役者さんの中でもおそらく韓国の監督たちとやってみたいと思っている人はすごく多いと思いますよ。そういうことが進んでいくのを僕はとてもいいことだと思いますけれどね。
Q9: 前回の取材でもウクライナのような政治的な問題がある映画祭でしたけれども、映画ができる役割はどのようなことだと思いますか?
A:もちろん直接的な何かに加担していくということへの映画の力はあると思いますけど。今回感じていたのはコロナ禍を乗り越えて3年ぶりに通常のこの時期に開催されて、もちろんいろんな事情で参加することができない監督や方たちがいらっしゃったと思いますが、そこに集った人たちが、みんな映画というものを信じて、みんな映画の愛でつながっているということを示す、発信するということが一番大事で、それが一番大きな力だと思います、間接的かもしれないですけど。
Q10: 今回韓国のキャストと来てみて、カンヌで一番楽しかったことは何ですか?
A:レッドカーペットって別に誇らしいだけの場所じゃないよとしゃべったりしてましたけど、今回あのキャストとあの場所に立ってみて、撮影のカメラマンが“ソン・ガン・ホ”っていうんですね、あちこちから、何だかわからないけど(笑)。それにソン・ガンホさんが応じてくれるので、それに合わせて歩いているのがとても楽しかった。みんなあれで和んだ。緊張が一気にほぐれた。掛け声みたいに名前をソン・ガン・ホって呼ぶんです。あの瞬間は楽しかったです。
Q11: 中継映像で監督が涙を流されている姿がアップになった時があったのですが…
A:泣いてないです(笑)。白いので拭いてましたけど。3度下がるやつを一本もっていて、半分まで来たら拭こうと思っていました。泣いてないです(笑)、でもうれしかったですよ、本当に名前を「ソン・ガンホ」って呼ばれたときは。みんな、ソン・ガンホさんが評価されるのは納得だから、本当にうれしかったですね。泣いてはいないですよ。
Q12:パク・チャヌク監督も受賞して、韓国映画の快進撃が続いていますが、さらに配信ドラマ、テレビドラマも間髪無く出てくるではないですか?日本の監督としてその中に飛び込んだわけですが、そこから何か持ち帰って、俺ももっとぶつけるぞ!みたいなのはありますか?世界に向けて。
A:学ぶことも沢山ありましたし、そのことで日本の映画の、映画だけに限らないかもしれませんが映像産業、映画文化も含めて変えなければいけないところは明解になってきているはずで。でもそれは監督だけではできないので、日本の映画界全体が危機感を持つべきだと僕は思いますし、多分もう何年かこのままいくと手遅れになるなと個人的には思っていますので、何かしらのアクションを促し、自分自身は今回のことをいろんな勉強と反省を持ち帰って、また日本で撮りながら、またチャンスがあれば海外でいろんな方たちと組んで吸収して持ち帰って、その繰り返しですね。
Q13:脚本賞を取った監督が、『万引き家族』のことを長々と話していたのですが、すごくほめていたんですが、カンヌで有名になった実感はありますか?
A:あります(笑)。声をかけられることが増えました。うれしいですけどね、単純に。今海辺のパーティ会場にいて、ソン・ガンホさんに会いに行って、ティエリーに挨拶して、ハビエル・バルデムがいたので、ずっと追い掛け回して(笑)、一緒に写真撮ってもらおうと思ったんですけど。そしたら振り向いて「あっ」っていわれたんです。あ、俺のこと知っていると、ちょっとうれしかったです(笑)。そしてキュアロンもいたので、4年ぶりだから久しぶりですねって、3人で一緒に写真撮りました。
Q14:次はハビエル・バルデム主演ですか?
A:スペインかぁ、、、大変だな、、(笑)。夢は広がりますね。
Q15:言葉の壁というよりも、もし映画に壁があるとしたらなんでしょうか?ないんだったらなぜ皆もっと一緒につくれないんでしょう?まったく外国の壁を感じないで見てられましたし、それでも是枝さんの映画だったし、でも韓国映画だったし。
A:それを目指してどうやればそうなるのか?監督だけではできないので、スタッフ、キャストの協力の下にチャレンジしているものではあるんですけど。。本当にできているかどうかは、まだ自分でも確信はないので。試行錯誤ですね。
Q16:ソン・ ガンホさんが賞をもらったということはひとつ具体的な形になったと思いますが?
A:そうですね、一つの結果ではあるとは思いますけど、まだもうちょっと自分で検証が済んでいないので、もう少し自分でやれたことと、やれてないことをチェックしないと、本当に言葉のわからない国で撮っても大丈夫だよと自分で言えるかはまだわからないです。
Q17:ハリウッドもあるんですかね?
A:ハリウッドというと大きくなってしまいますが、英語圏で撮ってみたいというのはあるので、いつになるかわかりませんけど今回の総括がすんだら考えてみようと思います。
Q18: 英語圏で撮りたいのは、より広い観客に向けたいからですか?
A:いえ、撮りたい役者がいるからです!(笑)
Q18′:だれですか?
A:それは内緒です。(笑)
Q18′′:(決まったらという答えに対して、役者に)粉はかけてますか?
A:まだそこの段階まではいかないのですけど、いろいろ働きかけもあるので、それは役者ではなくても。
いろんな動きがあるので。それはチャンスがあるならば。
第75回カンヌ国際映画祭 開催期間:5月17日(火)~5月28日(土)
世界中から選りすぐりの映画、そして映画人が集結する世界最大級の国際映画祭。今年は、コンペティション部門の審査員長にフランスの俳優ヴァンサン・ランドン(『TITANE/チタン』※第74回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作)を迎えた。今年「コンペティション」部門に選出されたのは計21本。現地時間28日の授賞式で、各賞が発表された。
『ベイビー・ブローカー』
<ストーリー>
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、<赤ちゃんポスト>がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が<赤ちゃんポスト>に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づき警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。
一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、決定的な証拠をつかもうと、静かに後を追っていくが・・・。
こうして、<赤ちゃんポスト>で出会った彼らの、予期せぬ特別な旅が始まる――。
■監督・脚本・編集:是枝裕和
■出演:ソン・ガンホ カン・ドンウォン ペ・ドゥナ イ・ジウン イ・ジュヨン
■製作:CJ ENM
■制作:ZIP CINEMA
■制作協力:分福
■提供:ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.
■配給:ギャガ
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6月24日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国ロードショー