映画&舞台&漫画と3つのコンテンツで描く一大プロジェクト『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』。人魚の子孫の命とひきかえに死から救われ、不老不死となった2人の男の数奇な運命と宿命が、平安時代から現代まで千年にわたり描かれていく。【漫画版】は「平安時代」から「⼤正時代」まで時を越えたストーリーが展開し、【舞台版】では物語の始まりにあたる「平安時代」を、【映画版】では物語の終局の「現代」において記憶を失った男・草介と彼に寄り添う光蔭、そして2人の前に現れた舞の、残された30日間が紡がれる。
舞台版と映画版では、草介役の⾠⺒雄⼤(ふぉ〜ゆ〜)と光蔭役の浜中⽂⼀がW主演を務め、映画版のヒロイン“舞”(=とわ)役を小西桜子が演じる。映画版でメガホンを握ったのは、映画『ハローグッバイ』『望郷』ほか、Netflix 配信ドラマの「君に届け」や「ヒヤマケンタロウの妊娠」などを数々の作品を手掛ける菊地健雄監督。自身も新しい挑戦と話す菊地監督に撮影を振り返りながら本作への思いを語ってもらった。
― 近年は映画のみならず、ドラマでもご活躍されていらっしゃいます菊地監督ですが、今回はいつもとは違うプロジェクトに参加されました。舞台、漫画、映画が連動されているこのプロジェクトに参加する決め手になったのは何だったのでしょうか?
映画は約5年ぶりになります。映画とドラマでは与えられるテーマの違いもあるのでテイストが変わることもありますが、それはそれとして楽しんで作っています。今までは映画だったら映画、ドラマだったらドラマという形が多かったのですが、もともと漫画も好きですし、舞台も学生の頃はよく観に行っていました。これまで自分がやってこなかったようなプロジェクトということに凄く魅力を感じましたし、“1000年”って凄いな!と (笑)。これ(1000年の話)をどうやって描こう・・・という不安な気持ちも正直ありましたが、まず面白そうだなと思って。今まで映画やドラマでもけっこう現実的な話が多く、1000年生きた人の話ということに想像を傾けることはなかったので、これはチャレンジだと思って引き受けさせていただきました。
― 菊地監督の作品は人の裏側をリアルに自然に描くという印象があります。今回はリアルな人間ではないですが、そこはどのように向かいあっていかれたのでしょうか?
やっぱり、1000年生きた人って言われてもね・・・(笑)。脚本家の保坂(大輔)さんとも色々相談しました。1000年という年月は永遠にも近い時間ではありますが、でもその一瞬一瞬に感じていることはあるはず。1000年の間に多少の変化があったとしても、自分以外の人間に対する思いなど変わらない感情もあるんじゃないかということをファンタジーだといって切り捨てるのではなく、観ていただく方にちゃんとした存在として立ち上がるような、そういうものにしたかったのかなと思います。
― 現代の人が昔の時代にタイムリープするという物語はこれまでもありましたが、今回はそれとはまた別物。1000年の間変わらず続いてることにその思いが表れているのでしょうか?
そうですね。その部分は本当に想像になってしまいますが、例えば今回、映画の中でも出てくる海に関して言えば、波が寄せては返すということは、たぶん1000年前も変わっていないと思いますし、もちろんその間にテクノロジーや文明の発達の中で変化してきた部分はある。でも、昔の古典や万葉集などを読んでも、家族のことや恋とか愛について書いてあって、人の思いは変わってなかったというように、変わらないものは絶対あるはず。変わってきたものと変わらなかったものの距離感みたいなものがうまく描き出せたらと考えました。映画の中でも平安時代が少し出てきますし、漫画版では、平安時代が描かれてはいるので、始まりの物語とも最後の方の物語という距離をもって、普遍的なものと変化してきたものを合わせると面白いなと思いました。
― 演じるにあたり、役者の3人に対して1000年の年表を作られたそうですね。
自分が演じる役にどういう来歴があるかということは、それぞれが演じるにあたって影響あると思うし、コミュニケーションを取る上でも、それぞれの思考があまりにもバラバラだといけないので、キャラクターを作り上げていく手がかりとして年表を作りました。
草介は記憶がない状態ですが、普通に考えても記憶をなくした100年前ってかなり昔になるわけで。「今やインターネットがあって、文明がどんどん発達している中で、ある時点でプッツリ何も(記憶が)なかったとしたら、その間はどう捉えたらいいですか?」という質問もあって、当初は正直答えに窮する部分もありました。それで、年表を作って整理していったんです。そうやってディスカッションしていきながら、物語の世界観や各キャラクターの在り方を掴んで基盤を補強していった感じです。漫画で平安の時代は書かれていますが、そこから900年近く何をしていたんだということですから(笑)。具体がないと想像することも難しいですし、このプロジェクトがなかったら、平安時代がどうだったのか頭の中にパッと思い浮かばなかったと思います。なので、共通認識としてポイントポイントでこのようなことがあったんだろうということがあれば、その間はそれぞれが想像力を持って膨らませばより作品が豊かになるんじゃないかと。それでコミュニケーションも円滑になった気がします。
― 本プロジェクトは漫画から始まり、舞台、そして映画で終わります。最後に映画を皆さんにご覧いただくことについて意識されたことはありましたか?
作った順番でいくと、舞台より映画のほうが先だったんですが、舞台を拝見して、本当に凄いなと思いました。想像の遥か上を行っていたという感じがしました。映画制作段階では、そこまで何かを意識したということはありませんでした。ただ、この映画の中でも、無謀にも映画の中で舞台を扱っているんです。僕は舞台の経験がないので、舞台監修をしていただいた中津留(章仁)さんと相談しながら、舞台で描けるもの、映画で描けるもののメディアの差みたいなものは意識していました。演じることは本質的には一緒ですが、その出力の差や色々と細かい部分で舞台の芝居と映画の芝居の違いはあります。舞台はライブという生々しさがありますが、映画は意外とカメラの前で嘘が付けないという生々しさがあるなと感じました。舞台の楽しみ方と、映画の楽しみ方は似ているけど、少し違いもある。辰巳雄大くんと浜中文一くんが(舞台と映画で)同じキャラを演じていても、こうも違うのかというところもありつつ、彼らからすれば、映画を先に演じてから舞台だったので、舞台を観ていると、地続きな雰囲気を発見して、自分が映画を撮っていたときのことをフラッシュバックする瞬間もありましたね。そういう意味でも、観客の皆さんが映画を観てどうリアクションしてくださるのか楽しみです。
― 辰巳さんと浜中さんは主に舞台で活躍されていて、辰巳さんは本作で映画デビューされました。普段舞台で演じられている方を撮影することにおいて苦労などありましたか?
実は、それがほとんどなくて・・・(笑)。小西さんも含めて撮影前にそれぞれリハーサルの時間をいただけたので、コミュニケーションも取れて、こちらがやりたい思いを伝えることができました。ちょっとしたワークショップもやらせていただいたのですが、単に本読みをするのではなく、僕は俳優としてのそれぞれのドキュメントみたいな部分も映画になると思ってるので、頭の中で決め込んで演じるよりも、その場で感じたことを柔軟に出してほしいということを一番に伝えました。
そういう話を事前にできたので、現場ではわりとスムーズに撮影することができました。僕も3人にお会いする前は、舞台の演技が出る・・・という懸念は少しありましたが、見事に3人ともそれはありませんでした。本当に嘘のないお芝居をしてもらうことを心がけていただいて、その場所で衣装をつけて立ったときに感じたことが重要なのだと再認識しました。それぞれが複雑なキャラクターだったので、ここでそのニュアンスをどう出すのかなどは話し合いましたが、感情の動きは演じる中で出たものが映っていると思います。
― なるほど。特にW主演を務められた辰巳さんと浜中さんの印象はいかがでしたか?
辰巳くんは、今回映画出演が初めてで初主演ということもあって、すごく気合いも入っていました。でも、気合いが入ると力が入りすぎるってことも往々にしてありがちなんですけど、いい感じで力が抜けていましたね。やはり舞台やドラマ、バラエティーほか、エンターテイメントのいろんな仕事を経験されてきている方なので、力の抜き方とこちらが求めることに対しての柔軟性っていうのが半端ない。非常に一緒に作っている感じがする役者さんで楽しかったです。はっきり言って、この2人の芝居はいつまでも見ていたくなるんです。
アドリブも自由が利くし、頭でっかちになりすぎず、気合いが空回りすることもなく、凄くクレバーに全体を俯瞰して見ている。周りにも気配りできますし、本当に初主演なの?と思うような座長っぷりでした。間違いなく、この作品全体を僕以上に引っ張っていたと思います。スタッフも含めて周りの人たちがどんどん辰巳くんのことが好きになって、彼に引っ張られてる感じがしました。
俳優としても今後が楽しみです。僕が言うのもおこがましいですが、これからも映画のお芝居の経験を重ねていけば、凄くいい俳優なれるんじゃないかと。気持ちの作り方も放っておいてもいつまでもずっとその状態でいられるし、スタート!がかかる前までふざけていても、集中は決して切らしていない。本当に素晴らしかったので、是非また御一緒したいですね。
浜中くんは、最初に外見の第一印象から感じるクールでミステリアスさが、光蔭役にぴったりだなと思っていたんですが、お会いしたら実はコテコテの大阪人。関西人のノリでとてもユーモアがあって面白い方でした。お芝居をするときの本人の中にも関西人のノリと、クールな部分の体温が高いときと低いときが両方同居しているんです。その感じが光蔭にぴったりでした。誤解を恐れずに言えば、“底が知れない”と俳優としての彼に対して感じました。良い意味で本当に思っていることが見えないというか、交わす言葉は少ないけれど、1を言ったら10が出てくるような凄さもあって、不思議な魅力を持った人だなという印象です。
舞台経験も多いので、ちょっとした目線のあり方や立ち姿は、セリフを話している以上の説得力やニュアンスを芝居で出せる人なので、僕も凄く助けてもらいました。本当に今回は僕はこの3人に“おんぶに抱っこ”だったなと(笑)。
― お三方のお芝居には、観ているほうがいい意味で勝手に解釈させてくれる余白が感じられます。
1000年とか、彼らがいま置かれてる状況や立場って、我々普通の人間は持ってないような力も持っている人たちでもあるので、それを表現することに凄く悩んでいました。あまりやりすぎちゃうと嘘っぽくなりすぎて観ている側が冷めてしまうのではないかという難しさがある。それと彼らの芝居の在り方に加えて、映像的な仕掛けもいくつか埋め込んでいますので、それらをどのように自然に調和させていくかということが肝になります。現実的には起こることがないようなシーンを演出しても、彼らの存在感をもってちゃんと着地させてくれるんです。だからこそ、観客の皆さんが色んなことを想像できるようなシーンであったり、作品全体がそういうものになっている。その狙いの通り彼らに支えてもらったと思っています。
― ほかにも、筒井真理子さんや谷川昭一郎さんなどもキャラクターが立っていています。
そうですね。コンセプトの1つが1000年というファンタジックな設定だからこそ、芝居のあり方やキャスティングという部分で、地に足ついた人たちが演じないといけないと思っていました。現実ではありえない映像もあるので、それをちゃんと支えるのはやはり俳優さんたちの芝居にかかっているわけです。集中してそこに着地できる技量のある人たちがいるから凄く見応えある作品になりましたし、たとえファンタジーだとしても、観客が観るのは人間。劇中で起こっていることがありえないことであっても、その世界の中ではちゃんと本当のこととしてお芝居をしていただけるかどうかというのは、1つの鍵になるので、本当に素晴らしいキャストが集まってくれて、そのパフォーマンスでこの世界観を支えてもらいました。
― 監督としてキャスト演出に苦労はあまりなかったのでしょうか?
なかったですね(笑)。しいていえば、撮影は自然との戦いでした。特にクライマックスにも出てくる海のシーンは重要な局面が多いんです。撮っているなかで、日はどんどん落ちていくし、潮も引いていくので大変でした。また、それぞれの場所にもこだわりました。例えば、筒井真理子さん演じる水島先生がいるクリニックや、草介と光蔭が生活している所がどういう場所であるかということが、芝居にも影響がある。単なる背景ではなく、その場所から何かを想像してもらえるような舞台装置として機能するようなものを選ぶのに苦心しました。お芝居でいうと、ミステリー的な要素も含んでいるので、キャラクターの表裏の塩梅やタイミングには気を遣いました。もっと言えば、映画が描く、キャラクターたちに説得力を持って落とし込んでいくかというのは、ギリギリまで悩みながら、キャスト・スタッフとディスカッションしながら進めていきました。こんなにディスカッションした作品はないというくらい。それだけ、捉え方って人によって全然違うんだと思いましたし、その多様さが現場にも溢れていました。
― それでは、監督から見た本作の作品注目ポイントをお聞かせいただけますか?
もういっぱいあって、全部が見どころと言っても過言ではないです。冒頭のシーンからラストカットまで本当に隙がないものになっていると思いますが・・・、俳優たちの仕事が本当に素晴らしいので、何も考えずそこを観ていただくだけでも楽しめますし、これまたスタッフが素晴らしい仕事をしてるので、映像そのものにも注目していただきたいです。この作品では“水”も一つのキーになっていて、とあるシーンで、彼らが出会う瞬間に水を感じるようなライティングにこだわっています。“光”も単に自然光だけじゃなく、ファンタジックとリアリティのバランスを混ぜ込んでいるので、ありえないようなことが画面の中でもいっぱい起っています。お芝居に加えて映像的な演出も飽きずに観ていただけると思いますし、時代、時間の流れをどう表現されているかも楽しみにしていただきたいです。舞台はもう終わってしまいましたが、漫画、舞台、映画と観る楽しみ方もできますし、1回だけでは観きれないようなボリュームと、観れば観るほど発見が多い作品だと思うので、何回でも観ていただき、とくとご堪能していただきたいです。
あとは、やっぱりクライマックスの3人のお芝居かな。僕自身も何度か涙をこらえて、本当にヤバいなと思う瞬間がありました。過酷な環境でしたが、辰巳くんも浜中くんも小西さんも気持ちが凄く入っていて。辰巳くんはバケモノでしたね。ずっと引っ張っていったのが彼で、それに見事に応えた浜中くんと小西さんも素晴らしかった。本当にラストのお芝居はぜひ何度も見ていただきたいです。
【菊地健雄/Takeo Kikuchi】監督
1978年生まれ、栃木県足利市出身。明治大学政治経済学部卒業後、映画美学校を経て瀬々敬久監督に師事。フリーの助監督としての多数の作品に参加する。2015年『ディアーディアー』にて長編映画を初監督。同作は第39回モントリオール世界映画祭に正式出品されるなど、国内外で高く評価される。2017年には、第29回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門に正式出品された『ハローグッバイ』と湊かなえ原作『望郷』を劇場公開。両作品にて第9回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、おおさかシネマフェスティバル2018新人監督賞を受賞。他の監督作には、映画『体操しようよ』(18)、TVドラマ「生きるとか死ぬとか父親とか」(21/テレビ東京)、「メンタル強め美女白川さん」(22/テレビ東京)、「彼女たちの犯罪」(23/読売テレビ・日本テレビ)。配信ドラマ「ショート・プログラム」(22/Amazonプライム・ビデオ)、「ヒヤマケンタロウの妊娠」(22/Netflix・テレビ東京)、「君に届け」(23/Netflix・テレビ東京)などがある。
映画『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』
<ストーリー>
平安時代から現代まで・・・千年を⽣き抜いた2⼈の男たちと輪廻転⽣を繰り返す⼥の壮絶な物語
⻑い眠りから⽬覚めた主⼈公・草介(⾠⺒雄⼤)は、記憶喪失になっていた。
草介は何も語ろうとしない光蔭(浜中⽂⼀)とともに普通の⼈間として暮らし始める中カウンセラーとして⽣きる⽔島(筒井真理⼦)のアドバイスで、繰り返し⾒る⾃分の夢を舞台にすることになる。その舞台のオーディションにヒロイン候補として現れる舞。(⼩⻄桜⼦)
⾃分が何者かわからない草介は芯の強い舞に惹かれる。草介と出会った舞はわけあって、草介と光蔭と⼀緒に住むことになる。
舞台の本番が近づく中、ひととき限りの楽しい時間を過ごす3⼈。
⼀⽅で、舞の正体を疑う光蔭は複雑な感情を抱いていた。3⼈の⾝の回りで起こる不可解な殺⼈事件。隠さねばならない草介の「正体」。
舞が背負っている因縁と彼⼥に残された30⽇間。
逆らえない運命に翻弄される彼らが選んだ答えとは・・・・。
出演:⾠⺒雄⼤(ふぉ〜ゆ〜) 浜中⽂⼀ ⼩⻄桜⼦ 筒井真理⼦ ほか
監督:菊地健雄
脚本:保坂⼤輔 ⾳楽:吉川慶
主題歌:ふぉ〜ゆ〜「⼼つないで」
製作幹事・配給:東映ビデオ
製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ
Ⓒ僕らの千年プロジェクトⒸ映画「僕らの千年と君が死ぬまでの30⽇間」製作委員会
公式サイト:https://bokura1000.jp/movie/
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