ミステリー作家・湊かなえのベストセラーを原作に、映画『ディアーディアー』、『ハローグッバイ』を手がけ注目を集める菊地健雄監督の手によって完全映画化された『望郷』。古いしきたりに縛られ窮屈な生活を送る・夢都子と、過去に確執を抱えたまま死別した父に後悔を持つ中学校教師・航が描き出す、ふたつの親子の過去と未来をつなぐ物語に、貫地谷しほり、大東駿介という実力派俳優が主演を飾った。撮影は全編、原作者・湊氏の故郷、広島・因島を中心とした瀬戸内地方で行なわれ、冒頭からその世界観に導かれていく。
この度、「夢の国」の主人公・夢都子役の貫地谷と「光の航路」の主人公・航役を演じた大東が作品に対する思いを語ってくれた。
― 原作ファンも多い本作ですが、映画化決定で盛り上がるなか、それぞれ主演ということでプレッシャーはありませんでしたか?
貫地谷しほり(以下、貫地谷):私はこれまで元気で明るくておっちょこちょいで、それでたまにマイナス思考な女性という役が多かったのですが、今回、私自身も共感することができる悩みを持った本当に普通の女性を演じるのは、とても新しいこと。そんな役をどうして私にオファーしてくれたんだろうと驚きましたが、私にとってこれは“挑戦”だなと思いました。
大東駿介(以下、大東):原作の「望郷」を読んで、必然的に自分の子供のころと向き合うことになりました。そして、湊先生の故郷で撮影できるというのは『望郷』があるべき形だと思ったので、プレッシャーよりも好奇心のほうが大きかったです。実際、映像を見てみても、凄くノスタルジックで、映画を観ながら常に自分に返ってくる感じがしました。
― お互いの共演シーンは短かったと思いますが。
大東:(共演シーンは)5分くらいだよね(笑)。
菊地監督から「映画どうだった?」って聞かれたので、感想を伝えたら「貫地谷さんは「光の航路」の話をして、大東くんは「夢の国」の話をするんだよね。お互い相手方の話をするんだよね、面白いよね」って言われたんです。
貫地谷:まだ、自分の出演作品を冷静に見ることができてないのかもしれないし、相手の作品がとても新鮮に感じたのかもしれないですね。
貫地谷:共演シーンは2日間くらいで撮影しました。私は撮影が始まってしばらくしてからだったんですが、あとから合流した大東さんは、クランクインしてすぐに最後のシーンを撮っていたので、やりづらかったんじゃないかな?
大東:僕は最後から撮る感じでしたから、ちょっとハードル高かったですね。
貫地谷:まだ積み重ねてない時で、自分がどう着地するかも分からない状態で演じるのだから凄く大変だろうなと思いました。
― 親子の関係が浮き彫りにされる作品ですが、ご自身のお母さん、お父さんとの関係はいかがでしたか?
貫地谷:この作品の家のようではなくても、誰しも勝手に自分で「こういうもの」とルールを作ってしまうことがあるかもしれません。例えば週末に友達のお家にお泊りに行きたいと思っていても、絶対に親にダメだと言われるだろうから言い出せないとか。でもちゃんと話せば「いいよ」と言ってくれることもあったと思うし・・・。私も勝手に自分を縛ってしまうことがありました。「夢の国」では、家のしきたりに縛られているという点もありますが、それぞれがみんな自分で縛っていたのかも。それはこの作品の中の特別なことではなく、共感する部分でもありますね。母親と娘という同性の親子同士というのは、男女で違うものがあるんだろうなと思います。
大東:いつもは演じる役と自分自身が似ているかどうかを考えないし意識したことはないのですが、今回はとても自分と重なる部分が多かったんです。実は僕、小学3年生くらいから自分の父親と会っていないんです。3年くらい前に父親が亡くなってしまい、結局22、23年会っていなかったんですが、亡くなる1年くらい前に「親父に会おうかな」と、ふと思ったんです。でも結局会うことはなくて、ちょうど親父を意識し始めたころに亡くなってしまって会えなかった。そこから自分が親父の存在を感じるようになり、どんな人だったんだろうと興味を持つようになりました。
貫地谷:凄く(作品に)リンクしているね。
大東:そうなんですよ。航は父親と同じ職業を志しているんですが、そこから父親がどんな人間だったかを感じ取っていく。僕は役者になって、自分の出会った作品で親父と向き合っていた。それが親父が与えてくれたことなのかなと考えたんですが、この作品で改めて親父を考えることができました。先日、親父のお姉さんに会って「親父ってどんな人やった?」って聞いたら・・・この話したら長くなるんですが。結論言うと、親父もちょっと役者やっていたんです。
貫地谷:え~!それじゃ、まるっきり同じじゃん!
大東:全然知らないことだったのに、遺伝子レベルで親父のあとを追っていたんだなと思いました。それが僕の「望郷」です。
― では特に役作りをしたということはなかった?
貫地谷:菊地監督がとても細かく見ていてくださるんです。監督に導かれるまま役に向かっていたと思います。役作りというよりも、現場で辿っていったという感じです。
大東:僕もまったく同じです。スタッフさん含めこの作品に関わった人全員がそれぞれの「望郷」を持っていて、この作品の意図を理解してその中にいた。だから、因島で撮るべきだと思ったし、僕も自分一人で背負うようなおこがましさはなく、とてもニュートラルに向き合っていればいいという安心感がありました。
貫地谷:みんな、熱かったよね。
でも、ずるいんですよ(笑)。大東さんのほうはスケジュールが割とゆったりでしたよね。私はけっこうタイトなスケジュールで大変だったんですよ(笑)。睡眠不足にもなっていたのに、大東さんはとっても楽しそうに伸び伸びとしていて(笑)。ご飯もいっぱい食べに行ってたよね。
大東:はい、楽しかったです(笑)。地元のレモン農家の方と仲良くなって、レモンの差し入れをたくさん頂いたり、今後のレモン農家について話あったりとか。島の現状を知ることが航の時間かなと思って。凄く生命力を感じることができました。とても勉強になったし、今後自分が役者として仕事していく上で、これからこういうスタンスを取るんだろうなという発見でもありました。
― 東京と大阪で育ってこられたお二人ですが、実際に島に行かれて感じたこと、印象に残ったことはありますか?
貫地谷:レモン農家にお邪魔したときに、すごく美しくてキラキラしていたんです。外から見ているとそこにいる人のことはよく分からない。実際に島に行ってとても尊いものを見ました。どこにもあってどこにもないものという感じがしました。
大東:僕も尊いものを感じました。都市では建物が次々と新しく立て直されていって、過去がどんどん書き直されているように思うんです。たまに故郷に帰ると、景色に面影がなくなっていたりして。島には、その時の時間がそのまま残っている。その景色に人はいないけど、寂しい気持ちを含めて間違いなくそこに息づかいが残っているんです。それって凄く魅力的なことだと思います。
貫地谷:まさに(劇中に出てくる)ドリームランドもそうですね。それが全てのように感じました。
― 木村多江さん、緒形直人さんとの共演はいかがでしたか?
貫地谷:木村さんは、どんな時もぶれない良いパフォーマンスをされます。そこへの持っていきかたは私にはないものだったので、とても助けていただきました。
大東:僕は緒形さんを親のように、研究するように見させていただいた気がします。あんなにセリフから逃げないで、言葉を真摯に届けようとする俳優さんはいらっしゃらないのではないかと思うくらい衝撃的でした。それは緒形さんの生き方から出てくるもので、凄く重いものだなと感じました。僕は(緒形さんが)生徒とどう接するかという場面の現場を見学させていただいたんですが、とても勉強になりました。
貫地谷:あと、子役の子たちが凄く自由にしていたのも良かったですね。
大東:子役と言ったら申し訳ないくらい素晴らしい俳優さん、女優さんでしたね。
― そんな子役のみなさんの演技も注目ですが、共演されていかがでしたか?
貫地谷:私の娘役の子は、以前ほかのドラマでも親子役で共演しているんです。その子が、渡部篤郎さんのモノマネをする山本高広さんのモノマネをするんですが、それが凄く可愛くて・・・(笑)。本当に可愛くて癒されました。
大東:僕の子供時代の子も、前の作品で僕の子供時代役だったんです。彼は“石”が大好きで石オタクなんです(笑)。地方に行くとその石を知りたくなるらしく、その話を聞くのが楽しかったですね。自分自身、実際に学生時代に幼稚園の教育実習にも行っているので、子供と接するのが好きなんです。
― 劇中では、石の十字架を見つけると何でも願いが叶うというくだりがありますが、もしご自身が見つけられたら何をお願いしますか?
貫地谷:中学生に戻りたい。めっちゃ戻りたいです(笑)。もっと違うやり方があったんじゃないかな?とか考えるんです。でも、先日友達に「○○ちゃんみたいになりたいね」と話したら、「でも、○○ちゃんになったら、今のしおりんは全部置いていかなきゃいけないんだよ。どっちがいいの?」って言われて、「あ、それなら自分のままがいい」と思ったんです。十字架見つけて、自分が自分でいられるなら、やっぱり中学生かな・・・って。同じ道をたどるかもしれないですけどね。
大東:僕は、自分を変えなくていいから過去の自分をDVDで観るように見てみたいですね。僕たちって、ノスタルジーに縛られているんです。常に昔の悲しい思い出も楽しい思い出も忘れていなくて、そして人生を終えるんじゃないかなって、この『望郷』で凄く感じました。
貫地谷:私たちは自分が生きている世界ではないところで演じていますが、お芝居って本当に嘘がつけない、自分をさらけ出していくものなんだなと思います。
【貫地谷しほり プロフィール】
1985年生まれ、東京都出身。02年映画デビュー。04年『スウィングガールズ』で注目を集め、07年NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」で初主演。08年にエランドール新人賞を受賞。13年の主演映画『くちづけ』(堤幸彦監督)でブルーリボン賞主演女優賞を受賞するなど、高い演技力に定評があり、ドラマ、映画、舞台、ナレーションなど、活躍の場を広げている。現在、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に出演中。
【大東駿介 プロフィール】
1986年生まれ、大阪出身。05年日本テレビ「野ブタ。をプロデュース」で俳優デビュー。07年『クローズZERO』、08年『リアル鬼ごっこ』など話題作に出演。また10年「タンブリング」以降、舞台にも活躍の場を広げており、11年「金閣寺」、14年「もっと泣いてよフラッパー」、16年「乱鶯」などでも活躍。漫画原作『東京アリス(Amazonプライム・ビデオ)』に現在出演中の他、待機作に10月7日から放送の『フリンジマン(テレビ東京)』、今秋公開『BRAVE STORM』、18年公開『曇天に笑う』がある、実力派若手俳優の1人である。
映画『望郷』
【物語】
古いしきたりを重んじる家庭に育った夢都子(貫地谷しほり)は、故郷に縛られ生活をしていた。彼女にとって幼いころから本土にある“ドリームランド”が自由の象徴だったが、それは祖母や母(木村多江)のもとで暮らす彼女には決して叶わない“自由”であった。月日は流れ結婚をし、幸せな家庭を築く中、ドリームランドが今年で閉園になるという話を耳にする。憧れの場所がなくなる前に、彼女はずっと抱えてきた想いを語り始める――。
一方、転任の為9年ぶりに本土から故郷に戻った航(大東駿介)のもとには、ある日、亡き父(緒形直人)の教え子と名乗る畑野が訪問してくる。彼は、航が知らなかった教師としての父の姿を語り出し、父親のことを誤解していたと知るが――。
出演:貫地谷しほり 大東駿介 ・ 木村多江 緒形直人 他
原作:湊かなえ「夢の国」「光の航路」(「望郷」文春文庫 所収)
監督:菊地健雄 脚本:杉原憲明
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
制作・配給:エイベックス・デジタル
2017 / JAPAN / 112min / COLOR / 1:1.85 / 5.1ch / ©2017 avex digital Inc
公式サイト:http://bokyo.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/bokyomovie/
公式Twitter:@bokyo_movie
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