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映画「くじらびと」第30回JSC賞受賞! 大和大学での講義「自然との共生 インドネシアの伝統捕鯨をとらえたドキュメンタリー作品『くじらびと』の現場からの報告」レポート

グアム国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した映画「くじらびと」の石川梵監督が、日本映画撮影監督協会が開催する第30回JSC賞(ドキュメンタリー等の分野で豊かな感性と技術成果を上げた撮影監督に贈られる)を受賞。受賞式が1月5日に行われた。
この日は、石川梵監督が、大和大学(大阪府吹田市、学長:田野瀬良太郎)にて講義「自然との共生 インドネシアの伝統捕鯨をとらえたドキュメンタリー作品『くじらびと』の現場からの報告」を開催しており、石川監督は、その講義の終了後にオンラインにて授賞式に登場した。(映画「くじらびと」は、大阪・十三のシアターセブンにて1月14日(金)まで上演中)

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石川梵監督 第30回JSC賞 表彰盾を手に

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 第30回JSC賞授賞式後 大和大学学生・関係者、日本映画撮影監督協会関係者と共に

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映画「くじらびと」は、石川監督が30年にわたり通いつめたインドネシアの小島・レンバタ島のラマレラ村で行われている伝統的な捕鯨と村の人々の日々を描いたドキュメンタリー映画。
小さな船に乗り、銛1本で行うくじら漁の迫力ある映像と、村人の人々の生活と感情をしっかりと描いたことが高く評価され、第30回JSC賞受賞となった。

講義「自然との共生 インドネシアの伝統捕鯨をとらえたドキュメンタリー作品『くじらびと』の現場からの報告」 

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講義は、大和大学社会学部1年生200名余りが受講。石川梵監督が、大和大学の佐々木正明教授と共に行った。

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講義は石川監督のキャリア紹介から始まった。
「秘境カメラマン」だったと自称する石川監督。写真家として多数の受賞歴を誇ってきたが、映画監督となるきっかけは、2015年のネパール大地震の直後に、救援隊と一緒に入ったこと。そこでひとりの少年と出会い、彼らを救いたいという思いから映画作りを始め、生まれたのが処女作・映画「世界でいちばん美しい村」(2017年)。
この作品もグアム国際映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞、観客賞他、多くの映画賞を受賞。映画の完成後も、ネパールの支援を続けているそうだ。

続く2作目が本作「くじらびと」だ。
主人公となる498世帯、1834人のラマレラ村の人々は、“年に10頭くじらが獲れれば、村民全員が暮らして食べていける”と、必要以上の捕獲をせず、銛1本での伝統的なくじら漁で暮らしている。
そのくじら漁の様子を、石川監督は自らくじら漁の船に乗り込み撮影。さらにドローンで船上、上空、水中の同時撮影を行うことで、大迫力の映像を可能にした。

石川監督は、ラマレラ村はよそから来た人たちが住み着いた村で、イスラム教徒が多いインドネシアだが、この村はカトリック教徒の村であること。農作物が育たない土地であったために、クジラの肉を干して、山の幸と交換するなどして暮らしてきたこと。さらには、かつては近代的な捕鯨をやり、捕鯨の時期ではないときには網漁をやったことがあるが、結局はそれを拒否し、伝統的なくじら漁(船にモーターは付けるようになったが)へと戻った歴史があることなどを教えてくれた。

映画では大迫力のくじら漁の映像と共に、穏やかに暮らす人々の日々が描かれる。だが、ある日大事件が起こってしまう。マンタ漁で漁師のベンジャミンが海に引き込まれて行方不明となってしまったのだ。

事故の原因を陸に求め、それを乗り越えようとするラマレラ村の人々の姿をカメラは追う。

石川監督は「ドキュメンタリー映画に筋書はない。時間をかけて撮っていく中で、物語が自然に生まれる」と語った。
石川監督は90年代からラマレラ村に通い出したが、最初の3年はまったくくじらが獲れず「梵が来るとくじらが獲れない」と言われたこともあったと言う。
それでもラマレラ村に通い続けて「飴をくれと言っていた子供が、10年経つとタバコをくれと言ってくる。そういう関係となったから、葬式もクジラ漁での危険な場面の撮影も自由にさせてもらえた」と言う。
実は小さなくじら船では、立って撮影することすら簡単ではない。しかも撮影中は視界が狭く、銛打ちの紐に巻き込まれ海に引きずり込まれるといった危険もある。命がけの撮影でもあるのだ。

石川監督は、死にかけのくじらの銛に素潜りでつかまりながら撮影したエピソードも披露。「くじらの目から怒りが伝わってきた。そんなクジラを助けようと仲間のくじらがやってくる」「クジラの目が泣いているのを見て、クジラの気持ちを撮れていなかったことに気が付いて、クジラの視点からも撮り始めた」と語り、くじらに感謝しくじらと共に生きるラマレラ村の人々の姿との両面を描くことを大切にしたことを明かした。

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ここで佐々木教授から、日本と捕鯨の歴史についてや反捕鯨運動についての解説と課題提議があり、1本の映画をまた違った観点から見ることができた。

さらに、佐々木教授は映画「くじらびと」成功の秘訣を資金調達(クラウドファンディング)や撮影法からも指摘。
中でも佐々木教授が学生たちに強く語りかけたのは、石川監督が決定的瞬間の撮影のために諦めず粘り強く撮影を続けたこと。石川監督も多くの苦労話を交えて語ってくれた。

映画を見た学生からのさまざまな感想も紹介され、「今の我々の生活が、何かの犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいけないと感じた」という感想に、この映画が与えてくれる新たな視点にも気付かされた。

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石川監督は「アメリカがドキュメンタリー映画の黄金期を迎えていると言われている。現実が一番面白い時代になってきた」「クラウドファンディングや機材の進化で少人数でスペクタクルな映画を撮れる時代になった。ドキュメンタリー映画はこれからどんどん変わっていくと思う」と語る。さらに「『世界でいちばん美しい村』を見た人たちが、映画に登場した人たちを助けようと、現実とリンクして現実を変えていっている。それが映画だ」と映画への大きな期待と映画を撮る喜びを教えてくれた。

最後に石川監督は学生たちに「こんな人たちがホントにいるんだと、実際に旅して見て、感じてほしい。実際に体験することは見るのとは違う。仮想空間だけでなく、実際に会って、触れ合ってほしい。きっと変わる」と語り掛けて90分の講義を終えた。

映画「くじらびと」
2021年9月3日劇場公開
俳優/アンプラグド 制作/Bonfilm
監督・撮影/石川梵 第2撮影/山本直洋 編集/熱海鋼一 音響/帆刈幸雄