恋愛脳のスペシャリスト 中野信子さんが女性たちへアドバイス
~ 映画『カフェ・ド・フロール』から学ぶ心の痛みを癒す方法~
絶賛公開中の映画『カフェ・ド・フロール』。4月16日、東京・恵比寿ガーデンシネマにて、話題の脳科学者、中野信子さんを迎えトークショーを開催した。
Q1、この作品は、1960 年代のパリと、現代のカナダはモントリオールの2 つの時代が舞台になっています。主演は、フランスを代表する歌手であり、女優のヴァネッサ・パラディです。ご覧になっていかがでしたか?
中野: 最初タイトルを聞いたとき、パリのサンジェルマン・デ・プレにあるカフェ・ド・フロール(有名なカフェ)の話かと思いました(笑)。
仕事の都合でパリに住んでいた時期があり、サンジェルマン・デ・プレから歩いて5 分くらいのところに住んでいました。それで、よくお店に通っていたんです。この映画のタイトルは、曲の「カフェ・ド・フロール」の方ですね。映画のなかで使われる楽曲の選び方が面白かったです。(モントリオールとパリが舞台になっている点については)パリに住んでいる人は、‘大陸に閉じ込められた感じ’を持っていて、なんとなく新大陸への憧れがあり、そこら辺がこの映画の隠れたギミックかなと思っています。
Q2、気になった登場人物はいますか? 1960 年代パリのシーンのヴァネッサ・パラディ演じるシングルマザー、現代のシーンで若い恋人を選んだDJ の元夫(ケヴィン・パラン)、心に傷を負った元妻(エレーヌ・フローラン)といましたが。
中野: 見どころはヴァネッサ・パラディの熱演ですね。母親として常識的ではないけど愛情深いという、常識的な人からすると、ちょっと行き過ぎかなって思えるような愛情のあり方をすごく良く演じられていて、さすがだなって思いました。
Q3、ヴァネッサ・パラディ演じる、シングルマザーは、ときに激しすぎるほどの愛情をもって子供を育てています。中野さんのご専門から、「ねたみ」と「愛情」の関係についてご紹介いただけますか。
中野:これはちょっと難しい話ですけど(笑)、向社会行動と(こうしゃかいこうどう)いうのがありまして、集団やコミュニティの中を結
束させる行動があります。これをつかさどるのが‘オキシトシン’という物質です。女性の場合は、これが出産をきっかけに体内に増えます。増えると子供に対する愛着が形成されるのですが、それと同時に「ねたみ」も強まります。なぜなら、子供や家族に対する愛着ゆえに集団からよそ者を排除したい、という気持ちが同時に強まるからです。それはよそ者が危険だと思うからです。そういう理由から、ねたみ感情も強まると解釈されています。ヴァネッサの演技からも、すごく「愛情の深さ」と「ねたみの強さ」を感じることができると思います。彼女の演技は、ジョニー・デップとの別れという、彼女自身の経験からもきているのかなとも思いました。
補足:ヴェネッサ・パラディとジョニー・デップは長年のパートナー関係を解消し、ジョニー・デップは、今年2 月に23 歳年下の女優アンバー・ハードと結婚。
Q4、元妻は、別れた夫との痛手を友人に話したり、他の人に話をしにいったりしますが、“心の痛手”を “人に話す”という行為は、実際にどういう効果があるのでしょうか?
中野:これには二つの意味があります。まず、自分のモヤモヤを「言語化」することによって「客観的」にみられるようになるので、そのときにある種のカタルシス的な癒しが得られます。もう一つは言語化し、誰かと共有してもらうことによって、一人で背負わなくていいと考えられるようになるんです。これはつらいときに推奨したい方法ですね。話すのは、信頼できる人ひとりだけでいいと思います。
Q5、劇中、「ソウルメイト」という言葉が出てきます。初めて会ったのに“懐かしい感じがする”人がいるのは、どうしてそのように(脳が)感じるのでしょうか?
中野:このソウルメイトという単語は非常に、非科学的ですよね。これは科学では否定も肯定も出来ないです。サイエンティストがどうみるかというと「美しい勘違い」という言い方をします(笑)。この映画でも元妻キャロルは自分のソウルメイトだと思っていた夫アントワーヌの裏切り行為にすごく傷つくんです。その悲しみをどうやって癒すかというのがこの物語のキーになります。この監督のすごさが分かる人には分かると思います。ちょっとスピリチュアル風な描き方をしているようでいて、科学者が観ても、ちゃんと言い訳ができているな(筋が通っている)と感じられる映画です。どんな方が観てもきっと納得する点があると思います。
Q6、すでにご覧になられた方のなかには、1960 年代のシーンと、現代のシーンが交差することで、「場面がめまぐるしく変わってついていけない…」という方もいらっしゃるようです。どういった点を 気にとめておくと、楽しめるでしょうか?
中野:ハリウッド的な分かりやすいストーリーに慣れてしまうとつらい映画かもしれませんね。この作品は非常にハイコンテクストで考えながら見なければいけないと思います。しかし、あえて考えずに「画面の美しさ」とか「俳優・女優の表情」を印象として焼き付けておいてほしいですね。ストーリーは、もしかすると分からない部分があるかもしれませんが、無理についていこうとせず、分からないままとっておいてほしい。記憶にとどめたシーンや、俳優の表情など、その意味に3 年後に気付くかもしれません(笑)。長く味わえる映画ですね。頭で考えず場面の美しさに酔ってほしいですし、また音楽の使い方にも着目してほしいですね。私は、解釈がいくらでもできる余地のある、こういう作品は好きです。素晴らしかったです。
【中野信子さん プロフィール】
脳科学者/医学博士/認知科学者。1975 年生まれ。
世界で上位2%のIQ所有者のみが入会できるMENSA の会員。現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行っている。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。
『カフェ・ド・フロール』
<ストーリー>
1969 年フランス・パリ。シングルマザーのジャクリーヌ(ヴァネッサ・パラディ)にとって、障害を抱える息子ローランは生きがいで、かわいくて仕方がない。二人は肩を寄せ合うように生きてきた。一方、時代は飛び 現代のカナダ・モントリオール。DJ として活躍するアントワーヌには、2 人の娘がいて両親も健在。生活にも不自由していないが、別れた妻キャロルは離婚の痛手から立ち直っていない。彼がある女性と運命の恋に落ちてしまったからだった—。愛の記憶と音楽の記憶がつながり、決して交わることのない2 つの時代の人生が交差するとき、日常を超えた物語が生まれる。最後に待ち受ける“愛が起こした奇跡”とは?!衝撃的なラストが意味するものとは?
★主演のヴァネッサ・パラディは、ジョニー・デップの元パートナーで2 人には子供もいる。しかしジョニーは、魅力的で若い女優アンバー・ハードに一目ぼれをして、恋人の関係から今年ついに結婚することに。ヴァネッサは傷つき、ジョニーと別れた状況が、映画のシチュエーションと似ていると話題に。★
監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ 『ダラス・バイヤーズクラブ』(2014 年アカデミー賞3 冠)、『Wild (原題)』(本年度アカデミー賞W ノミネート)
出演:ヴァネッサ・パラディ 『ジゴロ・イン・ニューヨーク』、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フローラン、エヴリーヌ・ブロシュ『トム・アット・ザ・ファーム』、マラン・ゲリエ
2011 年/カナダ・フランス/カラー/英語・フランス語/シネスコ/5.1ch/120 分
© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所、在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、ユニフランス・フィルムズ
配給:ファインフィルムズ
公式HP:http://www.finefilms.co.jp/cafe
恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開中