B級映画を超越し、傑作を生み出した《大映》
世界を視野に入れた自由な映画作りとは
映画祭開催 記念・トークイベント
4月14日(土)~5月11日(金)、角川シネマ新宿にて開催中の「大映男優祭」(配給:KADOKAWA)。長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、川口浩、船越英二、田宮二郎、京マチ子、山本富士子、若尾文子、中村玉緒、藤村志保、関根恵子(高橋惠子)、渥美マリ等…伝説の映画俳優を数多く輩出してきた大映。映画会社・大映株式会社の創立75周年にあたる2017年を記念し、大映を彩った数多くの映画作品の中から、長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎をはじめとした華やかな男性たちが主人公の「大映男優祭」が4月14日(土)よりスタートした!
大映創立から75年にあたる昨年、「おとなの大映祭」「大映女優祭」を企画・開催。その最後を飾るのが「大映男優祭」。日本の映画史を彩る男優たちの美しさに溺れる作品群は、長谷川一夫主演で大映初のカラー作品となる『地獄門』(第7回カンヌ映画祭でグランプリ)をはじめ、市川雷蔵主演の『薄桜記』、勝新太郎主演の『座頭市物語』など、大映の看板俳優の名画など映画通をも唸らせる作品が上映される。その他に田宮二郎主演の『白い巨塔』や船越英二『黒い十人の女』、川口浩主演の『おとうと』など映画ファンに楽しんでいただける艶やかで贅沢な特集上映だ。
大映男優祭」の開催を記念し、4月15日、薄幸の美剣士が辿る数奇な運命を、市川雷蔵が演じた時代劇の代表作『斬る』の上映後、日本映画大学名誉学長であり、映画評論家の第一人者として活躍中の佐藤忠男さんを招き、トークイベントを開催した。のちに<剣三部作>となる三隅×雷蔵コンビの最初の作品で雷蔵時代劇の頂点の一つである名画『斬る』の魅力や、当時リアルタイムで見ていた大映俳優たちの魅力を存分に語って頂ける貴重な機会となった。
1925年(大正14年)から1975年(昭和50年)まで、50年間刊行された映画評論雑誌『映画評論』に携わり、大映の当時のことを良く知っていらっしゃる佐藤忠男さん。
佐藤:戦争中の大映が始まった時から知っています。戦時統制の一環として小規模企業を整理・統合、 1942年(昭和17年)、新興キネマ・大都映画・日活製作部門を軸とした合併が行われ、永田雅一(専務)、河合龍齋(専務)、真鍋八千代(監査役)、波多野敬三(常務)、六車脩(常務)、薦野直実(常務)、吉岡重三郎、鶴田孫兵衛、林弘高(東京吉本)の9氏が発起人となり、1942年1月27日大日本映画製作株式会社(大映)が誕生、松竹、東宝との3社体制が成立した。当時の松竹は家庭を描くことに定評があり、東宝はモダンな都会系が多かった。日活は生真面目な作風が特徴でしたね。それに比べて色々な会社が統合されてできたなかりの頃の大映は、会社のカラーがなかったように思います。
ただ、大映には永田雅一がいた! 彼はスカウトの名手と称されていたんですが、次々有能な人材を引き抜いいてきたんです。
永田さんは本当に弁が達つ人で、相手を一日中説得し、最後には「私が大映に行けば日本のためになるんじゃないか」って気にさせてしまうんですよ。引き抜きのプロです。そんな永田さんに自社のスターを引き抜かれるのではっと脅威を感じた松竹は、永田対策として永田さん自身を松竹にスカウトしたらしいです。
そんな永田さんが世界の永田として注目を集め出したのは、 黒澤明監督の『羅生門』(1950年)です。本来、黒澤作品は東宝で制作予定でしたが、当時、東宝がストライキに入っていて、偶然にも大映で作成されることになるんです。日本映画として初めてヴェネツィア国際映画祭金獅子賞とアカデミー賞名誉賞を受賞し、黒澤明や日本映画が世界で認知・評価されるきっかけとなった。そして『羅生門』に引き続き、永田さんは世界にの永田として海外を視野に入れた作品旁を行います。衣笠貞之助監督に『地獄門』(1953年)ではプロデューサーとして撮影に細かな指示を出していたようです。国内では賛否のある作品ですが、本作は第7回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール、第27回アカデミー賞で名誉賞と衣裳デザイン賞を受賞しました。 原作が西洋文化に精通している菊池寛ということもあり、西洋にウケる要素のある作品でしたが、それ以上に永田さんは何が海外で評価されるが見抜けていた事は素晴らしいと思いました。
その後、世界を見据えた作品作りとして、社外から溝口 健二監督、市川崑監督、川島雄三監督らベテランで才能豊かな監督を引き抜き、彼らには規制のない、自由な環境で映画を作らせていましたね。
ただ大映はそれだけではないんです。永田さん自らが育てた大映育ちの監督たちには、お決まりのスタイルで撮影するB級作品も作らせていたんです。娯楽要素の強いB級作品は、当初、作品としての評価が低かった。しかしこのB級作品の中には掘り出し物がたくさんあります!! それは大映のスタッフの熱意ですよね。B級作品を極める職人芸があるからこそだと思います。
今回上映された市川雷蔵主演の『斬る』も。企画としてはB級ですが、スタッフが職人芸を発揮し、美術作品とも言えるチャンバラを作り出しています。企画はB級といってもスターは一流。スタッフはスターたちの特徴をよく理解し、スターがより輝ける作品を生み出すことに必死になっていた。だからこそ、B級で終わるはずだったものの中から傑作が生まれたんです!
大映作品はそうしたスターの特徴を生かした作品が多く、1つのスタジオの中に全く異なる輝きを放つスターが共存していたんです。
例えば。立ち居振る舞いが美しい市川雷蔵はきちんと立っている姿が絵になります。しかしその美しさの中には冷たさもある。
勝新太郎は雷蔵のようにきちんと立てない。どこか不格好。どしっと立っている印象です。雷蔵のように美しく立つのが伝統美とされていたのですが、 50年代~60年代には「世間なんか知らない」という少し斜に構えた雰囲気の役者が世界中に現れました。ケーリー・グラッド、マーロン・ブランドやジェームス・ディンなど味のある役者が注目されたのですが、日本代表でいえば勝新太郎でしょうね。
また長谷川一夫は名人中の名人。何でもできるし、特に女性のファンが多かった。彼が映画の中でウインクをすれば、観客の誰もが自分にウインクしてくれたと夢中になってしまう逸話があります。これは歌舞伎で鍛えた芸からきているんだと思いますが、長谷川さんの場合、自分が前に出るのではなく、お客様が喜ぶことを第一に考えるお客様本位の演じ方。特に女性に対するサービス精神に溢れていた。作品の中でちらっと見せる優しさが魅力で、こんな優しさをもった人は他のチャンバラ役者にはいなかったですね。
大映第2期ニューフェイスに合格した船越英二は、和製マルチェロ・マストロヤンニと称されることがありますが、彼は個性的でも、美男子でもない。平凡の男。ごく平凡ながら、その平凡さを武器に、自分の魅力をアピールし、生真面目に演じることでのし上ってきた人です。最初は役柄も真面目青年しか与えられず、もっぱら主演女優の引き立て役が多かった船越さんですが、その後、人間的逞しさを併せ持つ性格俳優へと成長していきました。
大映演技研究所10期生として入社した田宮二郎さんには、一度だけお会いした事がありますが、彼は本当に野心家。その野心家な部分は「白い巨塔」など作品の中に生かされています。田宮さんは英語もできるし、自分に自信がある野心家なのはいいのですが、過剰だった…。彼は映画のポスターで出演者の名前が書かれている箇所で3作品ぐらい番手を下げられたことに腹をたて、なんと社長に直訴したんですが、会社の方針に歯向かったとしてクビになりました。当時は5社協定があったので、大映からクビになった役者は他社の作品にも出れず、映画界から追放される結果となりました。
当時、石原慎太郎の弟の石原裕次郎が脚光を浴びていて、どこの配給会社も太陽族系の作品を作っていました。大映が作った太陽族映画の唯一の傑作と家は、川口浩の「処刑の部屋」ですね。川口浩も勝新太郎と同じく、直立できないタイプの男です、ふにゃふにゃした印象なんですが、 「処刑の部屋」では教授をいきなり殴るシーンが強烈でしたね。
またこれらの才能豊かなスターを演出した監督に、外部からスカウトしたベテランの監督ではなく、若尾文子とタッグを組み、『妻は告白する』『清作の妻』『「女の小箱」より 夫が見た』『赤い天使』『卍』『刺青』などの佳作にして重要な作品群を残した増村保造監督など、スタッフ陣も優秀でしたね。増村保造監督は東大に2回入っているぐらいの秀才で、小学校しか出ていない永田さんとでは合わない点もあったと思います。きっと身内とはいえ、増村保造監督には永田さんも何もいえなかったじゃないでしょうか。
溝口 健二監督、市川崑監督らのベテラン、そしてB級企画を突き詰めていくチーム、この2つが共存していた。会社のカラーに縛られることなく、時代に合わせて自由な発想で作品を作った大映には見ごたえのある作品がたくさんありますよ!
今回行われる大映男優祭の中には、そうしたB級企画から生まれた傑作が多数含まれています。この機会にぜひ埋もれてしまっている傑作を見てください。作品に本気で向き合った監督、キャスト、スタッフの思いを感じていただけるはず!! 男優祭は5月11日(金)まで絶賛上映中!!
『斬る』
<あらすじ>
小諸藩士である養父の高倉信右衛門から許しを得た高倉信吾は、3年間の武道修行に出ます。やがて3年の歳月が流れ、信吾の帰りを最も喜んだのは義妹の芳尾でした。信吾は藩主牧野遠江守の求めにより、水戸の剣客として知られる庄司嘉兵衛と立会います。その際に信吾は「三絃の構え」という異様な構えの型を見せ、嘉兵衛を破りました。やがて、下城中の信吾は、信右衛門と芳尾が隣家の池辺親子に命を奪われたと知らせを受けます。池辺義一郎は、伜義十郎の嫁に芳尾を望んだが、断わられこれを根に持ち行った行為でした。そこで信吾は池辺親子を国境に追いつめます。その際に討ち取ることはできたものの、信吾は自分の出生の秘密を知ることとなります…。
(作品について)
薄幸の美剣士が辿る数奇な運命を、大映のみならず、日本映画界きっての伝説的な美男子で知られる“市川雷蔵。のちに「剣三部作」となる三隅研次監督と市川雷蔵コンビの最初の作品で雷蔵時代劇の頂点!
本作『斬る』の監督である三隅研次は、勝新太郎の代表作『座頭市物語』の監督。市川雷蔵は大映で同期入社であり親友であった勝新太郎から「雷ちゃんは顔で斬る」と言わしめたほどのイケメン。シナリオの脚色に映画監督としても知られる新藤兼人が執筆している点も見逃せない作品です。
公式サイト:http://cinemakadokawa.jp/daiei75-danyu/
4月14日(土)~5月11日(金)、角川シネマにて開催