映画『フラワーショウ!』が、7月2日より公開されることを記念し、本作のモデルとなった、ランドスケープ・デザイナー、メアリー・レイノルズ氏が来日。本作は、歴史ある世界最高峰の花の祭典<チェルシー・フラワーショー>で、あえて華やかな華を使わず、雑草とサンザシの木だけで挑戦し、見事優勝を勝ち取った真実の物語。彼女の考える本当の“美”とは?
裸足でインタビュールームに現れ、「今、ちょっと公園に行ってきたの」と、ステキな笑顔で向かい入れてくれたメアリー氏。強い意思をもって生きていく大切さを、肩の力を抜いた自然体で語ってくれた。
―― ヴィヴィアン・デ・コルシィ監督と出会ったときの印象はいかがでしたか?
初めて彼女に会った時は、あまり“自然”とは繋がりがない人なのかな?と勝手に思っていたんですが、それは大きな間違えでした。自然に対してとても大きな情熱を持った人でした。昔は弁護士をされていたんですが、映画の製作資金も自分で集めて、初めて映画監督もすることを周りに説得できるというパワフルな方でした。
―― メアリーさんと監督は似ているところがあるのでは?
確かに、似ているところがあるのかもしれませんね。私のことが書かれている映画の物語と彼女が脚本家・映画監督にたどり着くまでの道のりは似ているかも。誰も私たちのことを信じてくれなかったし、(成功までには)苦労がありました。監督は弁護士という法律家としてのバックグラウンドが、色々なことを乗り越えていく原動力になったのかもしれませんし、一人であれだけの作品を作り上げたということは非常に感銘を受けます。アメリカにジョセフ・キャンベルという神話学者がいたんですが、全ての人の物語はサークル(円)を描いている。そういった意味では同じような円を描いているのかと思います。
―― メアリーさんを演じられたエマ・グリーンウェルさんの印象は?
笑顔がキュートで、とてもステキな女性でしたよ。最後の方はヴィヴィアン監督も感覚もミックスされていた役作りもあって、非常に素晴らしい仕事をしてくれました。彼女はイギリス人で今はアメリカに住んでいますが、役作りのために私の住むアイルランドにしばらく滞在していたんです。私の歩き方や話し方を研究していたそうなんですが、英語のアクセントがちょっと違うんです。少しダブリン寄りなのよね・・・わかります?わからないわよね(笑)
―― 作品の中にスピリチュアルなエピソードが出てきますが、そんな神聖とも言える体験がメアリーさんの発想にインスピレーションを得たり、そこに導かれたりすることがあるのでしょうか?
映画の中にも出てきますが、その(スピリチュアルな)世界に初めて触れたのが少女時代の体験です。私はアイルランドの南東部に位置するウェックスフォードというところで生まれ育ちましたが、両親は農家を営みながらもフルタイムの仕事をしていました。そして私は6人兄妹の末っ子で歳も離れていたので、けっこう一人で自然の中で遊んでいることが多かったんです。5、6歳の時、たまたま入りこんでしまったところで、低木に囲まれてしまい出られなくなったんです。最初は「どうしよう・・・」と思って怖かったんですが、しばらくしてみると、日差しはきれいで、蝶や蜂が飛んでいて・・・。周りの自然・植物が私の気を引こうとしている感覚になって、長い時間そこで過ごしていました。その体験が、自分と自然との繋がりに気づく最初のきっかけになり、そこから色々な体験に導かれるようになっています。でも、これは私に限ったことではなく、誰でも持とうと思えば持てる繋がりだと考えています。特に変わったことではないですね。ただ、私にとってはそこ(自然)が一番安全な場所なんです。劇中に出てくるエチオピアの体験も本当です。他にも何かを感じて急に物事が転回することがあったことはこれまでも何回も経験しています。眠る前は理解していなかったことが、夢を見ることでその現実を知ったりすることもありました。誰でも体験できることだと思いますよ。
―― 映画が作られていくプロセスの中でメアリーさんが驚かれたことはありますか?
私は実際の撮影にはあまり関わっていませんが、映画の撮影というものを知らなかったので、先に“庭”を作りあげてから遡って撮っていくという時系列を初めて知りました(笑)。よく考えればわかることなんですけどね(笑)。「そーなんだ!」と驚きました。あとは、映画を作るにはたくさんカットを撮らなくてはいけないんだなと、ビックリしました。
―― ガーデニング界に新風を吹き込んだメアリーさん。何事でも伝統を超えて新しいことを行う時には大きなエネルギーが必要だと思いますが、あなたにとってのエネルギーの源は何ですか?
やはり私は、源となるところからエネルギーを得ています。すなわち、それは“自然”です。大地のエネルギーを受けているということは、足元から日々感じています。それを感じるには裸足でなくてはいけません。人間がプラス+で、大地がマイナス-というように化学的にも理にかなっている。しかし、最近はゴムのソール靴などで歩き回っているので、あまり直に触れることが少なく、“自然”と離れてしまっているので、意識的に繋がりを持つようにしています。
ただ、ロンドンのような場所は地下が発達(ライフラインや地下鉄など)しているので、裸足でもなかなかエネルギーを感じられなくなっています。ニューヨークもそうだったわ・・・。でも、なぜか東京では自然との繋がりを感じます。それは人々にも感じます。実は旅もあまり好きではなくて、なるべくアイルランドに居たいほうで、長期で他の地域にいたことはないんです。自然そのものと、本当の自分であること、自分の言葉にきちんと耳を傾けることが大事だと思っています。本当に“自然=地球”を守らなくてはいけない気持ちが強いんです。母性ともいいましょうか、大きな責任感を感じるんです。自分の心臓は、まるでこの地球のミニチュアバージョンだと感じるくらいで、ちゃんと地球を守らなければいけないということを忘れてしまった人々に、「人間が地上にいられるのは、Guardian(守護者)でなければいけない」ということを思い出させることが、私の役割なのではないかと思います。
―― この物語で、あなたは色々な困難に出会っても、それを上回るような強い意志や好奇心に突き動かされて進んでいるように思えます。新しい事に挑戦するとき、恐いと思ったり気弱になったことはないのでしょうか?
先に出ました、ジョセフ・キャンベルが言っていたように、皆の道というものは、同じ物語と一緒で円環になっているんですね。己が行かなければいけない道は、自分を知り、いろんな壁や困難を乗り越えていくのです。その道には必ずギブアップ寸前で諦めそうになる瞬間があるんですが、それをなんとか乗り越えてこそ円環を閉じることができるんです。あなたも自分の人生のなかで(もう少しで諦めそうになったけど頑張ったという)凄い瞬間があったのでは?
―― ご自身がヒロインとなった映画を観た率直な感想は?
非常に奇妙な感覚です(笑)
―― 日本には四季もありますし、日本のみなさんもとても草花が好きです。しかし、日本の特に都心ではなかなか大きなガーデニングを楽しむスペースがありません。小さなスペースでも自然を楽しむ方法、アドバイスがあったら教えてください。
この作品にも出てきますが、私たちが多くの自然とつながりを絶ってしまった大きな原因は、自分たちの食するものを自分たちで作らなくなってしまったことだと思うんです。そうすると大地に価値を感じなくなり、ただ美しければいいんだというふうに思って道を外してしまう。なので、今自分ができること、バルコニーで自分の食べるものを育ててみること。それができなければ、地元の農家さんのお手伝いをしてみるのもいいかも。
今、ご存知のように多国籍企業が農業、もしくは食のシステムを牛耳っていて数人の方がそれで金儲けをしているという状況です。そのシステムで与えられる食料は、水にとっても人間にとってもよくない。砂漠化や飢饉などを引き起こしているのに、このことに触れる人はほとんどいません。地球をこわしているのに・・・。油田よりさらに深刻に、私たちの地球を破壊していることだと思います。
そういうことを絶つためにも、自給自足で作ること、あるいは周りの農業のみなさんのサポートからしていたければ嬉しいですね。
【メアリー・レイノルズ(42) プロフィール】
1974年2月25日生まれ、アイルランド出身。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンにてランドスケープ・デザインの優等学位を取得、同年ランドスケープ・デザインの会社を設立。その後、アイルランドの個人宅のガーデン・デザインやアイルランドのテレビ局(RTE)で、デザインのアドバイスを行う。
そして、2002年にチェルシー・フラワーショーのショー・ガーデン部門に初エントリーで金賞を受賞。アイルランド人として初めての受賞であり、当時の歴代最年少受賞記録を樹立。翌年、英国政府より依頼を受け、ロンドンのキュー王立植物園(世界遺産)の野生庭園の設計を手掛ける。その庭園は、サマーフェスティバルの為の数か月限定の予定だったが、人気を博し5年もの間維持された。
2011年には、ガーデニング番組(BBC局)の司会も務め、絶大な人気を博すランドスケーブ・
デザイナーのダーマッド・ギャビンが選出する、「世界で最も偉大なランドスケープ・デザイナー10人」に選ばれた。今年の4月には、初めての著書「THE GARDEN AWAKENING(庭の目覚め)」がロンドンのRHSスプリングショーで出版される。
映画『フラワーショウ!』
【STORY】
アイルランドの田舎で育ったメアリーは、「自分のデザインした庭で世界を変えたい!」という夢を叶えるため有名なガーデンデザイナー、シャーロットのアシスタントに応募。晴れて採用されるも、高慢で貪欲な彼女にコキ使われた挙句、長年書き溜めていたデザインノートまで盗まれクビに…。どん底のメアリーがひらめいたのは、毎年世界中から注目される「チェルシー・フラワーショー”で金メダルを獲る」ということ。コネもお金も経験もないメアリーだが、わずか8枠に殺到した2000人の応募者の中から見事合格し、一路チェルシー・フラワーショーへ。ライバルはデザイン泥棒シャーロットになんとチャールズ皇太子!?夢の金メダルを目指し、メアリーの挑戦が始まる!!
監督・脚本:ヴィヴィアン・デ・コルシィ
出演:エマ・グリーンウェル、トム・ヒューズ、クリスティン・マルツァーノ
配給:クロックワークス
© 2014 Crow’s Nest Productions
公式サイト:http://flowershow.jp
人は自然の美しさを求め世界中を旅します。
しかし、現代の庭園は自然が本来持っている素朴な美しさを見失っている・・・
この素晴らしい自然が永遠に失われる前に、私たちはそれぞれのやり方で守っていくべきです。
チェルシー・フラワーショー願書
メアリー・レイノルズ