デビュー42周年を迎えてなお、熱烈なファンを多数もつパンクバンド”アナーキー(亜無亜危異)”のギタリスト、藤沼伸一が初めて映画監督に挑戦した渾身の作品『GOLDFISH』。
藤沼伸一監督が自身のすべてをモチーフにしたという本作は、人生の折り返し地点を迎えた年代に、自分の人生を問い直すことでアイデンティティが揺れ、ロッカーだけではなく多くのミュージシャンやアーティストに襲いかかる「死の波」を泳ぐ金魚のような者たちの苦悩を描く。観る者に自分自身と向き合うことの大切さ、そして希望を見出してくれる骨太な物語が完成した。
劇中に登場するのは、かつて人気絶頂だったパンクバンド「ガンズ」の30年後のメンバーたち。その中で物語のキーともいえるハル役をこれまでにない強烈なビジュアルで演じた北村有起哉さんに、撮影を振り返りながら本作への思いを聞いた。
― 本作へのオファーを受けた決め手はどこにあったのでしょうか?
大変申し訳なかったのですが、僕は世代的なものもあって“亜無亜危異(アナーキー)”というバンドをあまりよく知らなかったんです。僕の世代はTHE BLUE HEARTSさんだった。でも、THE BLUE HEARTSの、(甲本)ヒロトさんもコメントを寄せていて、けっこう影響を受けていたようなんです。そこでそんな凄いバンドがあったんだと知りました。例えるのも失礼かもしれませんが、X JAPANのhideさんのような方がいたんだと。これは(演じるには)気を付けないといけないぞと思いましたね。逆に無知であったからこそ良かったのかも。もし、もっとその音楽の世界に精通していたら、「無理です。僕は恐れ多いです」と言って辞退していたかもしれませんし、実際に(出演することの)噂を聞きつけて、何人かの先輩から詰問されましたよ。「なんでお前が?」「お前、どこまで知ってるの?」って(笑)。
0から調べさせてもらって準備をしていって、心の整理をしていくという意味ではちょっと異質な体験でした。
― それでも北村さんが挑戦してみようと思ったくらい作品に魅力があったっていうことですか?
そうですね。このバンドと脚本に魅力がありました。
― パンク音楽をあまり知らない人にも、この映画には心に刺さることいっぱいあると思いますが。
僕は元々パンクが好きだったんです。ちょうど僕の世代はバンドブームでもあって、みんながTM NETWORKを聴いているときに僕はTHE BLUE HEARTSを聴いてました。破壊力があって分かりやすいのが好きで、ビジュアル系のバンドには惹かれなかった。ルックスとかじゃなくて直球でくるものが好きだったので、そういう意味では、この作品に参加したいという部分の要素の一つであったかもしれません。すんなりと気持ちが入っていったので。
そういえば、前に森山未來くんから「有起哉さんて、パンクだよね。芝居がパンクだよ」って言われたことがあるんです。言われてみれば確かに、あまり構築しないでバーンとやっちゃうときもありますし。それによって面白い現象を起こすこともある。その破壊を楽しんでるわけじゃなくて、その後どうなっていくかというところが大事なんです。そこに踏み切る覚悟とか勢いというのは割と躊躇したりするものなんですが、僕はなんか楽しかったりするんです。いたずらっ子的なところがあるのかもしれないですね(笑)。
― なるほど。音楽と芝居というジャンルの違いはあっても、やはり表現することで通ずるものがあるんでしょうか?
そうだと思います。
― 今回演じられるハルという役はやりやすかったですか?逆にやり難いところはありましたか?
やり難さは特に感じなかったです。僕はオフの日はあんな感じなんで。昼間っから酒飲んで・・・渋川さんが「おばさんじゃないか」って言ってますが(笑)。本当に堕落するのは早いですからね、休みの日は。本当にダメなんですよ。計画立てて登山とか、釣りとかね・・・無理。休みなんだから休ませてよってね。昼間っからビール飲んで(笑)。でも、今は子供が小さいのでそうもなかなかいかないんですけど (笑)。
― それでは、役をこう作っていこうという感じではなかった?
まあ、割とけだるい感じ、そのままなんじゃないでしょうか(笑)。
― また、共演者の方も強烈な方が揃いました。主演の永瀬さんや、先ほどお話に出た渋川さんら5人とご一緒されていかがでしたか?
楽しかったですよ。5人揃ったシーンはずっと雑談してました。もちろん、オンとオフの切り替えはありますが、ワイワイ楽しくやるような芝居ではないし、みんないい年こいたおっさんが仕方なく、どっこいしょで、また再結成するか、どうすんだよ、みたいな。“青春デンデケデケデケ”じゃないんです。そんな雰囲気でした。
― その気だるさが妙にリアルな感じに映ったりする?
そう、息遣いとか、煙を吐く感じとかね(笑)。一緒にいるといろんなくだらない話ができて、渋川くんと増子さんはミュージシャンとして纏っているもの、ノリが違うなと感じられて、そこがまた面白いんです。明るいというか、華があるというか。役者ってどこかジメジメしているようなところがある。永瀬さんもいい意味でジメっとしているんですよ。感情が内にこもるというか、それが色気だったりするんですけどね。渋川くんと増子さんは思ったことをすぐ口にするような明るさを振りまいてくれていたので、僕もそれにヒョイっとつられて、凄く楽しかったです。お互いイジリながら、「なんだ、その金髪」とか「なんだ、その歯!」とかね(笑)。
― 歯が抜けている状態での話し方は大変でしたか?
息が漏れるからね。さ行が上手く言えないのかな。あと、ちょっとだけ受け口になるんです。やってるときとやってないときがあるので少しムラがあるんですけど(笑)、そういうところで少し別人を表現してた気がします。
― 物語では、30年後に再結成をするか否か、昔いろいろなことがあったけれど、また集まろうと。それが必ずしも輝かしい未来になるという話ではない・・・というところがこの映画の肝になっている気がしますが。
そうですね。今までなかったんじゃないかな。いわゆる青春バンド映画で「がむしゃらに頑張って行こう!」とは全然テイストが違うんです。一部コアなファンがいるけど、厳しく言ってしまえば世間的には再結成しようが、しなかろうが興味ねえよ・・・という。そんな中おじさんたちが重い腰を上げて、それぞれの生活をそれぞれ犠牲にして、それでもやっちゃおうぜ!という、実話ですからね。やっぱり観る人に勇気が湧いてくると思うんです。物置にしまったギターをもう1回取り出してみようかなとか、そういうきっかけになってもらえたらいいですね。
ーイチのひとり娘・ニコや、若いときのイチやハルたちの存在も、おじさんたちの哀愁との対比として見応えあります。
(若い)ハルを演じられた山岸くん、カッコ良かったですねぇ。劇中では二つの時代を描いていますが、若いころの皆が凄く良くて。もうはち切れんばかりのピチピチな新鮮さで。そして、キャリアが長い子たちじゃないということも良かった気がします。本当の意味でフレッシュな顔ぶれが揃いました。それぞれがこの作品と出会って、“これから行くぞ!”というエネルギーもあったと思います。その後の対比が・・・“これが現実です”って感じで(笑)。
でも、最後に皆がバラバラになりそうなときに、アニマルが放つ「絶対やるんだよ俺たち! 絶対今の方がカッコいいから!」というセリフには胸に迫るものがありました。「その通り!」だと。(若いころと)比べるものではないんですけど、また別の音が出るっていうか、
今しかできないものがある。ピョンピョン飛び回ってでかい声を出すのが全てじゃないし若い頃にはできないものも絶対ある。そういう姿はやっぱり励みにはなりますね。
― 北村さんはこれまでもいろんな役を演じられて、俳優人生順風満帆だと思いますが、演じられた役、そしてこの作品をご自分の人生と重ねて見る部分はありましたか?
僕の役と重ねるというか、この作品を通して、これからもやっぱり“戦うことを諦めちゃいやしないぜ”というところはこれからも大切にしないといけないなと思います。例えば斜めから見る視点とか、批評する思考とか、毒をちゃんと持つとか。僕は「清濁併せ呑む」という言葉が好きなんです。これまでもそれを出していたつもりではいるんですが、ちゃんと内包して大切にしていく。批判性があってもいいんです。俳優をやっていると、ただのいい人だとちょっと危険な気がする。なので、そういう意味で戦い続けなきゃいけない。
それは政治とか経済に対してとか何でもいいんです。それを公言していろいろ言う必要はないので、自分なりのその考えをちゃんと自分の中に大切にしまっておく。
― 自分の中にしまっておくってことは、つまりこの映画のテーマでもある“自分と向き合う”ということにも通じるということでしょうか?
そうですね。いくつになっても、死ぬまでそういうふうに何か考えて生きていきたいですね。それが成長と言えるのかわかりませんが、「ああした方が良かったかな」とか、「こうしてみよう」とか。そういうときめくことは自分次第できっと見つけられると思う。スケベなところとかも大事だと思いますよ(笑)。ちょっと立ち止まってみることもいいのかもしれないですしね。
― なるほど。それでは最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
おっさんたちがカッコいいとかカッコ悪いとかの掛け値なしに「またやろうぜ!」と、年齢も考えずに熱くなる姿にきっと感動していただけると思います。ダサくてもいいと思うんです。世間体とかも気にせず向かう彼らを見て、ちょっと胸がスーッとなってもらえたら嬉しいです。そんな映画です。
【北村有起哉 Yukiya kitamura】
1974年4月29日生まれ、東京都出身。
1998年に舞台「春のめざめ」と『カンゾー先生』でデビュー。その後、舞台と映像の両面で活躍。主役・脇役、ジャンル、キャラクターなどの境界線に一切とらわれない表現力でそのふり幅の大きさを縦横無尽に体現している。近年の映画出演作は『太陽の蓋』(16)、『オーバーフェンス』(17)、『長いお別れ』(19)、『町田くんの世界』(19)、『新聞記者』(19)、『生きちゃった』(20)、『浅田家!』(20)、『本気のしるし 劇場版』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、『すばらしき世界』(21)、『終末の探偵』(22)など多数。公開待機作に『有り、触れた、未来』(23)、『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(23)がある。
撮影:ナカムラヨシノーブ
映画『GOLDFISH』
<物語>
「心の銃を使って戦って行くのさ――」
80年代に社会現象を起こしたパンクバンド「ガンズ」。人気絶頂の中、メンバーのハル(山岸健太)が傷 害事件を起こして活動休止となる。 そんな彼らが、30年後にリーダーのアニマル(渋川清彦)の情けなくも 不純な動機をきっかけに、イチ(永瀬正敏)が中心となり再結成へと動き出す。
しかし、いざリハーサルを 始めると、バンドとしての思考や成長のズレが顕になっていく。 ためらいながらも、音楽に居場所を求めよう と参加を決めたハル(北村有起哉)だったが、空白期間を埋めようとするメンバーたちの音も不協和音にしかならず、仲間の成長に追い付けない焦りは徐々に自分自身を追い詰めていった。 そして、以前のよう に酒と女に溺れていったハルの視線の先に見えてきたものは――。
永瀬正敏 北村有起哉 渋川清彦 /町田康 /有森也実
増子直純(怒髪天) 松林慎司 篠田諒 山岸健太 長谷川ティティ 成海花音
Skye(WENDY)Johnny(WENDY) Sena(WENDY) Paul(WENDY)山村美智
林家たこ蔵 うじきつよし 石川久絵 Mioko RICO(REGINA)
PANTA(頭脳警察) 稲田錠(G.D.FLICKERS) 豪起 井上あつし(ニューロティカ)
仲野茂(亜無亜危異) 藤沼伸一(亜無亜危異) 寺岡信芳(亜無亜危異) ユウミ
監督:藤沼伸一
企画・プロデュース:小林千恵
エグゼクティブプロデューサー:篠田学 プロデューサー:片嶋一貴
脚本:港岳彦 朝倉陽子
企画:イプライン ミュージック·プランターズ
製作プロダクション:ポップライン ドッグシュガー
配給·宣伝:太秦 パイプライン
製作:GOLDFISH製作委員会 共同製作:沖潮開発
©2023 GOLDFISH 製作委員会
公式サイト https://goldfish-movie.jp/
Twitter @GOLDFISH_2023
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