山田洋次監督最新作『母と暮せば』のクランクアップ記者会見が8月12日、ザ・プリンスパークタワー東京にて行われ、山田洋次監督をはじめ、主演の吉永小百合と二宮和也、共演の黒木華、浅野忠信が登壇した。
本作は、長崎を舞台に、原爆で一瞬にして人生を失った息子とその母親の物語。1948年8月9日、助産師として暮らす伸子(吉永)の前に、3年前に原爆で亡くしたはずの息子・浩二(二宮)が現れる・・・。「作家・井上ひさしさんの『父と暮せば』と対になる作品を作りたかった」と話す山田洋次監督初の、やさしくて悲しいファンタジー作品。
「終戦70年という年に作れたのは運命。僕が作りたい作品だと思ったし、大事な映画になると思って覚悟を決めました」と熱い思いを語る山田監督。今作が山田監督作品初となる二宮は、「現場には独特な空気感があった。監督から紙とペンを渡されて『じゃ、自分の名前を書いてごらん』と言われているような感覚に陥りました。32年生きてきて、自分の名前はこれであっていたかな?『にのみや』って名前は、『二宮』なのか、『二ノ宮』なのか・・・これまでの色々な経験がジャマをして混乱してしまい、これではダメだと思い、書きなぐるように全力で初日の現場に立たせてもらいました」と振り返り、「あらためて長崎の原爆を言及する機会を与えていただき、体現することができました。自分がどう思うか、どう考えるかは役を通して映画に置いてきたつもりです。ぜひ映画を観て感じていただければ」と、アピールした。
『おとうと』以来5年ぶり5回目の山田組参加となる吉永は、「今回が一番監督の情熱を感じました。怖いというか、鬼気迫ると言うと御幣がありますが、心からの演出をなさっていました」とコメント。「監督の情熱に応えられず落ち込むこともありましたが、隣で息子が軽やかな演技をしてくださるので助けられました」と、優しい笑顔をみせた。
そんな吉永と二宮は今作が初共演で親子役。お互い「小百合さん」「和也さん」と呼び合っていたという。二宮は、「僕は『かずなりさん』と呼んでいただいていましたが、ドキドキしちゃいます。身内にも一回もそう呼ばれたことはなかったので、僕の初めての人になりました」とニッコリ。「『和也』と書くので『かずや』と読み間違えられることが多いのです。初めての現場ではなかば『かずや』でもいいかなぁと、自分自身でも思ってしまうのですが、吉永さんは、現場で第三者がいるときは必ず『かずなりさん』と呼んでくださって『この人は“かずなりさん”ですよ』とさりげなく宣伝活動してくれました。『かずや』でいいやと諦めた自分をぶん殴ってやりたい気持ちになりました(笑)」と言って会場を沸かせた。
一方の吉永は、「どうお呼びしていいか分からないでいたら、スッと『小百合さん』と言って下さったので感激して、とても嬉しくて距離がぐっと縮まりました。撮影の間は、本当のお母様よりも私といる時間が長いとおっしゃってくださいまして、撮影が終わった今も(二宮が)テレビで危険なことをしているシーンを見ると『大丈夫かしら、うちの息子・・・』と心配してしまいます」と、微笑ましいエピソードを明かし、会場にも優しい空気が流れた。
『小さいおうち』出演以来、活躍が華々しい黒木は、浩二の恋人・町子を演じ、「今回はセリフも多く長崎弁にとても苦労しました。監督の思いが強く『ちょっと怖いぞ』と思うこともありましたが、長崎の方や監督のお話を聞いて演じました」と明かし、町子に想いを寄せる青年・黒田役の浅野は、「現場に行くと、『母べえ』の山ちゃんに戻ったような気になりました。僕は『父と暮せば』にも出ているので、色々な思いがあって不思議な感じでした。今回はとても重要な役で出演できて光栄でした」と感慨深げに語った。
さらに山田監督が、「息子が突然死んでしまうことが、母親にとってどんなにつらく悲しいことか。愛する人を失い亡霊でも会えたら嬉しいという思いは、皆同じなのではと考えます。この作品は、“母の涙の話”です」と述べると、吉永も「かけがえのない人を失った家族の悲しい思いを描いています」と伝え、この日、日航機墜落事故から30年を迎えたことにも触れ、「坂本九さんという私の大好きな方も亡くなりましたが、遺族の方はつらい過去からどうやって立ち直っていくかということを考えて生きてこられたと思うのです。戦後70年という節目の年に、映画を皆さんに観ていただき、戦争のこと、命のことを考えてもらえるということは、私にとって素晴らしいこと。この作品に声をかけてくださった山田監督に感謝しています」とあらためて真摯な思いを吐露した。
また、二宮が袴姿で寮歌を歌うシーンも見どころの一つと山田監督。「とても良かった。美しい声で、もっと長く歌ってもらいたかった。素敵なショットでした」と絶賛。二宮は「監督につきっきりで歌い方や感情を教えてもらいました」と照れた笑顔をみせた。
会見のあとのフォトセッションでは、先日山田監督と吉永が長崎で平和へのメッセージを書いたランタンと、大きな折り鶴が登場。折り鶴には直筆で、「核のない世界を祈って」(吉永)、「皆で笑って明日を迎える」(二宮)、「普通に幸せな毎日を。」(黒木)、「よろこびをありがとう」(浅野)、「反核」(山田監督)と書き込み、それぞれ平和への願いをメッセージに託した。
映画『母と暮せば』
出演:吉永小百合 二宮和也
黒木華 浅野忠信 加藤健一
広岡由里子 本田望結 小林稔侍 辻萬長 橋爪功
監督:山田洋次
脚本:山田洋次・平松恵美子
製作:「母と暮せば」製作委員会
制作・配給:松竹株式会社
(C)2015「母と暮せば」製作委員会
公式サイト:http://hahatokuraseba.jp/
12月12日(土)より全国ロードショー