世界各国の映画祭を席巻し、圧倒的な高評価を獲得した、闇と暴力に支配された刑務所を舞台に、不良少年の成長を描く無骨なヒューマンドラマ『名もなき塀の中の王』が10/10(土)より公開される。
本作は何といっても「リアリズム」にこだわっている。監督デヴィット・マッケンジーは撮影中、「最小限のフィクションと、最大限のリアリズムを心掛けた」と語る。脚本を担当したジョナサン・アッセルは、かつてロンドン刑務所で革新的な心理療法士として勤めていた経験を持ち、「肉体的にも精神的にも閉鎖された過酷な環境下で、いかに精神の自由や平穏を得られるか」という普遍的な問いかけは、彼自身の体験がベースになっている。実際、作中の心理療法士のバウマーは主人公エリックの成長を支えるキーパーソンとして描かれている。
また、撮影に使用された「クラムリン・ロード刑務所」は1996年に閉鎖されるまでの151年間、ベルファストの主要刑務所として数多く凶悪犯罪者が収監されていたいわくつきの施設。刑務所としての機能を失った後、10年余り放置されていたが、その後文化財指定を受けて修復が行われ、かつての荘厳な姿を取り戻した。現在では、背筋も凍るような犯罪者の歴史物語を聞きながら、殺人鬼が処刑された絞首台を眺め、ここから出られなかった犯罪者の幽霊を探す「ゴーストツアー」を敢行し人気を博している。
映画『名もなき塀の中の王』で取り上げられる囚人たちの生活というのは、かくも緊張感をはらみながら一触即発状態の中にあり、少しでもその均衡が破られると怒りと暴力は制御不能となってしまう。独自のルールと派閥に支配されており、ちょっとした不注意で半殺しの目に合うような信じがたい世界だ。しかし、これは厳密にいえばフィクションではないのだ。2014年10月英紙「ガーディアン」の記事によれば、イングランドとウェールズを含む英国では、囚人の自殺率は2013年に十年来の高水準を記録し、前年比で69%増えたことを明らかにした。調査レポートの指摘によると、刑務所での網力事件の増加、安全状況の悪化、過密収容などが、囚人自殺率上昇の要因となっている。「ガーディアン」の調査では、2013年1月~2014年10月までに月平均して6人、延べ134人の囚人が自殺した。刑務所内では男性囚人の暴力行為は多く、いじめは普遍化。覚せい剤も入手し易い。過密収容によって、狭い牢獄を囚人2人で使わざるを得ず、1日の食費も年々抑制されていることなども影響している。英国司法省は過密収容と囚人の死亡との関連性を否定しているが、「閉ざされた環境」が囚人に与える狂気―それはまさに作中のエリックが味わった危機と同じものではないか。
生まれながら愛を知らず、暴力でしか自分を示せなかった不良少年は生きる希望を見出し、確かな形に結実させる時までサヴァイヴできるだろうか―――。
映画『名もなき塀の中の王』は10月10日(土)よりK’s cinemaほかにて全国順次ロードショー。
<STORY>
少年院でトラブル続きの暴力的な少年が、成人の刑務所に移送される。そこでも彼の乱暴は止むことがなかったが、心療セラピストとの出会いや、同じ刑務所内に収監されていた父親と再会によって少しずつ変わっていく。暴力でしか自分を示せず、愛を知らなかった少年が、初めて生きる希望を見つけていくのだったが、これまでの行動を問題視していた勢力が動き始め・・・。
監督:デヴィッド・マッケンジー
脚本:ジョナサン・アッセル
出演:ジャック・オコンネル、ベン・メンデルソーン、ルパート・フレンド、ピーター・フェルディナンド、サム・スプルエル
2013年/イギリス/英語/カラー/シネスコ/ドルビー/106分
原題:Starred Up
字幕翻訳:寺尾次郎
配給:彩プロ
後援:ブリティッシュ・カウンシル
(C)STARRED UP FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2013
公式サイト:www.heinonaka.ayapro.ne.jp
10/10(土)、K’s cinemaほか全国順次ロードショー!