映画『息もできない』の特別上映会が、8月7日、東京・新宿ピカデリーにて行われ、本作の主演かつ監督を務めたヤン・イクチュンと、俳優の東出昌大がトークイベントに出席した。
2009年に公開されるやいなや、世界の映画祭で賞を獲得、日本では2010年に公開され大きな話題となった『息もできない』。父親に激しい怒りと憎しみを抱えて生きていた男・サンフンと、父親との確執を抱える女子高生・ヨニ。孤独なヤクザと孤独な女子高生の不器用な交流から社会の一面を浮き彫りにする衝撃作を手がけたヤン・イクチュンは、本作で監督、主演、制作、脚本、編集をこなし、長編映画監督デビューを果たした。
『息もできない』三夜限定(8月7日、8日、10日)の上映&トークショーの初日に登場した東出は、自ら本作の大ファンと豪語する。「一番好きな韓国映画です。全シーン、全カット素晴らしい」と絶賛。憧れのヤン・イクチュンとの対面に興奮を隠せない様子。
それを受けてヤン監督は「本当に感謝してます。心からありがたいです」と嬉しそうに笑顔を見せ、「東出さん出演の『桐島、部活やめるってよ』を観ましたが、無表情な中にも重みを感じられる演技がとても印象的でした。僕もあと10cm身長が高ければ東出さんのようにカッコよく演じられると思いますが・・・、僕の場合は本当に苦労しなければいけません(笑)」と会場の笑いを誘った。
東出から「この脚本はどうやって書かれたのですか?」と問われると、「真っ先に書いたのがオープニングのシーンです」とヤン監督。「福岡のある人工の湖があるところで書いたんです。当時、短編映画の演出をしている友人が福岡にいて、その作品に出演してほしいと頼まれて10日間くらい滞在していたんです。撮影の合間に街を歩いていたら、おじいさんが釣りをしていて、そのそばでは鶴が飛んでいた・・・というすごく平和な光景を見ました。そんな中でどうして自分があんな暴力的な場面が思い浮かんだのかはわかりませんが(笑)」と話す。さらに「韓国へ戻って、MCをやったり、演技の講師の仕事をしていたんですが、なんだかすべてが面倒になってしまって、仕事を辞める理由として『シナリオを書く』と言ってしまったんです(笑)。2ヶ月半かけてシナリオを仕上げました」と明かした。自身が実際に見たり経験したことを書き連ねるというヤン監督。「私が幼かった時代は、暴力的な大統領がいて、暴力というものが家族にまで影響し、暴力に影響を受けた社会が存在していた。無意識のうちにそれを解消したいという思いがありました」と吐露。その解消方法がシナリオや演出となったと伝えた。
キャスティングについては「当時本当にお金がなくて・・・。キム・コッピさんですが、シナリオを書いている時は実は別の女優さんを当て書きしていたんです。でも、その女優さんからのギャラ請求は「500万ウォン(約50万円)」。でもこちらの予算は300万ウォンで。つまり200万ウォンの差のためにキム・コッピさんになりました」と告白し、会場は大爆笑。とはいいつつ、「実はその二年前にコッピさん出演の短編を観ていて、とても強い印象を受けたのでお願いすることにしました。私は、キャスティングするとき近くにいる俳優さんから探すことが多い。私は現場でのリハーサルや台本の読み合わせをして練習をするのが好きではないんです。初めて経験するという意味もあって一番最初のテイクが好き。自分の演技もリハーサルなしですぐに本番に入るタイプです」と持論を展開。「でも、『息もできない』では俳優から、どういう風に撮影するのか説明してくれないと困ると抗議がきましたね(笑)」と笑った。
また、二人の共演の可能性に話が及ぶと「そんな話がもしあるならばありがたいです!」と意欲を見せる東出。「どんな役でも機会があればやりたいです。国境や政治的な境界をまたいでお互いが芸術分野で頑張れることは本当に素晴らしいことだと思います。自分も尊敬される役者になれればな・・・と島国で思う次第です」と監督に猛烈アピール。ヤン監督は「『ロード・オブ・ザ・リング』のように、CGで東出さんがホビット、私はガンダルフで一緒に出演したいですね」とチャーミングな笑顔を振りまき、会場の雰囲気もほっこり。
今秋公開される映画『あゝ、荒野』(前篇2017年10月7日、後篇10月21日公開)に、俳優として出演するヤン監督。「昨年撮影したんですが、今より10kg痩せていました(笑)。ボクシングも運動も頑張って、菅田さんと熾烈な戦いを乗り切りました」と自信をのぞかせる。「今はこんなにお腹が出てしまいました」とぽっちゃりお腹を突き出す姿に会場は大ウケ。終始和やかなトークイベントとなった。
『息もできない』
【STORY】
偶然の出会い、それは最低最悪の出会い。でも、そこから運命が動き始めた…。「家族」という逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる取り立て屋の男サンフンと、傷ついた心を隠した勝気な女子高生ヨニ。歳は離れているものの、互いに理由なく惹かれあった。ある日、漢江の岸辺で、心を傷だらけにした二人の魂は結びつく。それは今まで見えなかった明日へのきっかけになるはずだった。しかし、彼らの思いをよそに運命の歯車が軋みをたてて動き始める…。
監督・脚本:ヤン・イクチュン/編集:イ・ヨンジュン、ヤン・イクチュン/撮影:ユン・チョンホ/美術:ホン・ジ
録音:ヤン・ヒョンチョル/製作:ヤン・イクチュン/音楽:インビジブル・フィッシュ
出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン
提供:スターサンズ
配給:ビターズ・エンド、スターサンズ
R-15+/DCP
©2008 MOLE FILM ALL Rights Reserved