『純平、考え直せ』『夜明けまで離さない』で知られる森岡利行監督が、美しき遊女と遊郭に流れ着いた青年の悲愛を過激に描いた映画『悲しき天使』。大正時代の建築が立ち並び、時代から取り残さたような遊郭を舞台に、女の心のケアをする女師として生きていくことを選んだ男・茂と、美しい遊女・一美が、さまざまな人の欲望や悲喜劇が入り乱れる遊郭で、恋に落ちていく・・・。
一美と恋に落ちる茂役をエンターテイメント集団「BOYS AND MEN」のリーダー・水野勝が体を張って熱演。数々の映画やドラマで活躍するなか、役者としてまた一皮むけた姿を見せてくれた水野さんに、話を聞かせてもらった。
― まず最初に、本作の台本を読まれたときの感想をお聞かせください。
これまではグループ活動しているイメージにあった役を演じることが多かったのですが、僕自身はそのイメージではない役をずっと求めていていました。今回、森岡監督と出会い茂という役をいただくことになったのですが、僕にとって未開の地でありとても興味のある役だったのでぜひ挑戦したいと思いました。そして、人間模様が見どころの悲しい物語に凄く惹かれました。
― 作品にどのように向き合ったのでしょうか?
物語の内容は大きく2つに分かれています。前半は茂という男、遊郭という場所、遊女とはどういうものかを描いています。その後一美と茂が愛に生きていく姿を映し出します。それを踏まえて頑張っていこうと思いました。
― “女師”という男性の役作りは大変でしたか?
もちろん“女師”の体験はできないですが、自分も人を好きになったことはあるし、その人を守るためにちょっと過激な行動を起こすような部分は、人として理解できるところもある。共感できること、できないことを1つずつ整理しながらアプローチしていきました。
― では、茂を演じることに躊躇はなかったですか?
全く躊躇することはなかったです。
― 好青年というイメージを壊したい気持ちがあったということ?
役者じゃないと見せられない表情があるし、それができるのが役者。自分は、まだまだ役者と呼べるレベルではないですが、グループ活動だけでは出せない顔を常に表現したいという欲望があります。どの役でも抵抗は無いですし、逆にようやくこのような役がやれるようになったんだなという喜びの方が大きかったですね。
― 以前、昔から役者になりたかったとお聞きしましたが、貪欲に色んな役に挑戦したかったのですね?
そうですね。僕はこれからもグループ活動と合わせて役者の仕事もやっていきたいと思っていますし、そういう気持ちを大切にしていきたいと思っています。
― 茂は常に受身で感情を表に出さないタイプでとても繊細な青年です。演じるうえで考えたことは?
これは今までの自分の経験が生きていると思っています。これまで演じてきた役と、今回の茂という役は遠い位置にあるように思えますが、物語に出てくる好青年やいい人には必ず嫌な人間が出てきていじめられることがあるんです。受けの役という立場はこれまでも多かったので、今までの経験がないとこの茂という役は出来なかったと思います。まずは(相手のことを)受け止めてその中で自分なりに苦悩して行動に移す。誰かを傷つけたり、自分が勝手にかき回すだけの役をやっていたらこの茂という役は苦労したかもしれません。これまでやってきた役のアプローチの仕方と共通する部分がありました。これまでのお芝居があったからこそ今回の役ができたと思っています。
― 特に水野さんの目のお芝居が強調されていたように思えます。
自分で意識して演じたところもありますが、演じたあとに自分で違うな・・・と反省したところもあるんですよ・・・これは僕にしか分からないですけど(笑)。でも、やっぱり茂の感情が自然に演技に出ていたところが大きいと思います。
― 冒頭の木下ほうかさんとのキャッチボールがとてもシュールですが、共演されていかがでしたか?
ちょっといなしてる感じですよね(笑)。木下ほうかさんとはもう4年くらいのお付き合いになりますが、プライベートでもよく飲みに連れてってくれるお兄ちゃんです。いつか仕事で共演したいと思っていて、初めて役者・木下ほうかさんと一緒にお仕事したということで、ちょっと恥ずかしい気持ちもありました。
― お二人のやりとりがとても自然で、アドリブ?と思える雰囲気がありますが。
ほうかさんはセリフをほぼ変えていましたね(笑)。とてもリアリティを大事にされる役者さんで、自分なりの言い回しにしたり不自然だと思うセリフは変えて自分のものにするんです。僕も(アドリブを)やってみたい気持ちもありましたが、この「悲しき天使」という作品は舞台で上演されてきた作品。僕の冒頭の説明セリフはけっこう長いのですが、ずっと受け継がれてきたセリフなんです。全然違うイントロから始まってしまうと、この曲好きだったけど、イントロが違うじゃん・・・となると、舞台からご覧になっている「悲しき天使」のファンの方々の中にはがっかりされる方もいるかもしれないかと。僕はほぼ変えずに臨んだので、ちょっと食い違っているようにも見えるし、いなしているようにも見えるという感じになりました(笑)。
― ところで、少しファンタジーのようにも思える映像ですが、実在する場所なんですよね。
遊郭という場所は昔から日本いろんな作品の題材になっていて、皆さん聞いたことあると思うのですが、今も実際に飛田新地というところがあるんです。「本当にこんな場所が今でもあるんだ・・・」と驚いてもらえるかと。そういう意味でもリアリティがあると思います。
― もし実際に“女師”という職業をやってください・・・と言われたら水野さんはできますか?
僕は職業に全然偏見がないのでできると思います。女師もそうですが、働くことは人のために動く事だと思っているので、この女師という職業も誰かのためになっているので、どんな仕事も一緒だと思うんです。
― 女性の気持ちに寄り添うのですね?
でも、常にイエスマンではダメなので、時には厳しく接しなくてはいけないし精神的には大変な仕事だなと思います。
― 女性を守るためにはヤクザと戦うこともある。劇中ではアクションシーンもありますが、怪我はなかったですか?
そのシーンはマットを敷かずにコンクリートに打ちつけられているので、擦りむいたり痣ができていたりして、本当に痛かったです(笑)。プロテクターも入れてないので、何発か直接当たっていますし、プロレス技をかけられたりアクションシーンは本当に大変でした。でもとてもいいシーンになったと思うので満足です。
― では、アクション以外で大変だったところは?
和田さんを背負って走るシーンがあるんですが、これも大変でした。和田さんをおんぶして何本も走りました。
― 和田さんとの初共演はいかがでしたか?
とても真摯に役に臨まれていて、彼女の女優としての覚悟が見えました。一生懸命この映画を作っていこうとお互い頑張っていました。
― 演技についてお二人で話し合うことはありましたか?
今回はあまりテストがなくて、カメラアングルが決まったらいきなり本番撮影ということもあったので、自分に失わないようにお互い役を大事にしながら撮りましょうと約束して臨みました。集中していないとすぐに本番の声がかかるので。
― 現場の雰囲気はいかがでしたか?
女優の皆さんも気軽に声をかけてくださるし、劇団の方々のチームワークもよかったです。現場に泊まり込みで撮影したので、みんなで一緒にカレーを作って食べたりして演技以外でも「一緒にやるぞ!」という感じでした。
― 劇中に出てくる厨房で作ったんですか?
そうです。そこで作って、隣のカフェでみんな集まって食べました。だから、ずーっと撮影現場で過ごしていました。みんなで1つのものを作ろうという感じでした。
― 森岡監督とお仕事されていかがでしたか?
森岡監督はとにかくタフな方です。劇団を主宰されているので、劇団の皆さん含めてタフなんです。長く「悲しき天使」を上演されてきた歴史や作品にかける想い、そしてその熱さとストイックな姿勢、1つの作品を守ってきた姿に凄く惹かれました。
― これまで「悲しき天使」の舞台をご覧になってきたファンの方もたくさんいらっしゃると思います。
映画のセリフも舞台と同じなので、(本作の)舞台ファンの方にも安心して観ていただけるのではないでしょうか。映画は少し昭和レトロの雰囲気を醸し出した映像になっていて、ライティングやアングルなどで舞台では表現できない奥行も出て世界観が広がっていると思います。
― 濃密な撮影だったようですが、撮影中にハプニングなどなかったですか?
ハプニングというか・・・、不思議な体験はありました。日本文化財に指定されている茨城県にある古い建物での撮影だったのですが、一美ちゃんとヤクザが対峙しているところに僕が廊下から出てくるシーンがあるんです。僕が出番を待っているときに誰かに腰をポンポンと叩かれたんです。ん?と思って振り返ったら誰もいなかった・・・。初めての体験でした。
その時はちょっと気持ち悪いなぁと思ったんですが、そのあと一本背負いされるシーンで腰を痛めたんです。僕はお化けとか霊などは信じないほうなんですが、その時は不思議だなと感じました。
― もしかしたら、「腰の怪我に気を付けて」という知らせだったのかもしれませんね。
そうですね。あと、皆でカレーを食べているときに急に座っていた椅子が壊れたんです。古くもなくキレイな木の椅子だったんですけど。偶然だとは思いますよ(笑)。でも、ちゃんと映画は完成されたので悪い霊ではないと思います。きっとヒット祈願してくれているんじゃないかな。応援してくれていたと思います(笑)。ちょっと神秘的な感じでした。
― 水野さんが一番印象に残っているシーンは?
やっぱりアクションシーンが一番印象に残っています。体を張って頑張りましたし、色々考えながら撮影したので。
― では、最後にこれからご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。
この作品で新しい役どころに挑戦したことは、僕の決意表明でもあります。僕に対してカッコいい姿やいい人のイメージを期待してくださるファンの方もいらっしゃるかもしれません。そういう意味ではこの役は賛否両論あると思います。でも、表現者として分け隔てなく色々な役をやっていくという気持ちを持って臨んだので、僕の新しい部分を発見してもらえたら嬉しいです。濡れ場シーンだけではなくもっと深い部分を見てもらえたら。この作品をご覧になって、この悲しい物語に触れていただければ必ず(登場人物の)誰かに感情移入できると思います。
【水野勝(みずの・まさる)プロフィール】
1990年愛知県生まれ。東海エリア出身・在住のメンバーで構成されたエンターテイメントグループ “BOYS AND MEN”(通称ボイメン)のリーダー。主な出演作は、『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』『HiGH&LOW THE MOVIE 3/ FINAL MISSION』(17)、『世界でいちばん長い写真』(18)、『マジで航海してます~Second Season~』(MBS・TBS/18)、『柴公園』(19)、『ミナミの帝王ZERO』(関西テレビ/19)、『SPEC サーガ完結篇「SICK’S覇乃抄」~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』(19)『劇場版 おいしい給食Final Battle』(20)などがある。
映画『悲しき天使』
忘れんとってな ウチのこと……。
時代から取り残されたような大正建築の遊郭が立ち並ぶ歓楽街。大きな借金を抱えた無職の男・茂はその遊郭で一美という美しい遊女と出会い、女の心のケアをする女師という生き方を選んだ。そして、人生の欲望と悲喜劇が蠢く遊郭という場所で、一美と茂は泥を飲み込み、地獄を彷徨うような恋に堕ちて行く―――
出演:和田 瞳 水野 勝
川上奈々美 重松隆志 森田亜紀 円谷優希 山田奈保 赤羽一馬
水越嗣美 大迫可菜実
酒井健太郎 那波隆史 柴田明良
お宮の松(友情出演)/中西良太
三浦浩一 木下ほうか
脚本・監督:森岡利行
原作:山之内幸夫
制作:山田剛史 製作:キングレコード
制作協力:レジェンド・ピクチャーズ
配給:キングレコード ブラウニー
配給協力:太秦
2020年/日本/91分/カラー/ステレオ
8月7日(金)より シネマート新宿にて 2週間限定レイトショー
水野勝さん
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