直木賞作家・西加奈子の同名児童小説を実写映画化した『まく子』が、3月15日より全国公開した。
かつて子どもだった大人たちへ、信じることや変化を恐れないこと、許すことの強さを教えてくれる、再生と感動の本作。ひなびた温泉街の旅館の息子・サトシと“大きな秘密”をもつ転入生との初恋を軸に、小さな町の不器用な人々の生き様を描き出す。主人公サトシ役を14歳で初主演を務めた山﨑光、その父親を草彅剛、母親を須藤理彩が演じる。
そして、物語の重要な鍵を握るコズエ役を演じたのは、原作のイメージそのままに役を体現した新星・美少女、新音(にのん)。コズエの雰囲気そのままの彼女に話を聞くことができた。
― 今回の出演は、監督から直接オファーがあったとお聞きしましたが、お話があった時のお気持ちをお聞かせいただけますか?
普通のオーディションだと思って出かけたら、会場に行ったら私しかいなくて・・・。監督に直接会えるんだと思ってドキドキしました。監督と二人でお会いして、その場で台本を読みました。(監督の反応の)手応えは悪くなかったと思ったのですが、その後ずっと連絡が来なかったので、「もう終わったのかな・・・」と諦めていたら、「出演が決まった」と連絡をいただきました。驚きましたが、とっても嬉しかったです。
その後オーディションで(コズエ役が)なかなか決まらなくて、私にお話をいただくことになったと聞き、とても光栄でした。
― コズエは “大きな秘密”をもつ普通の女の子ではない役がらでした。演じると聞いてどう思いましたか?
コズエは今までになかった役がらで、参考にするものがなく、台本や原作から感情やキャラクター作りをしなくてはいけませんでした。でも、チャレンジしがいがあって楽しかったです。
― 参考にするものがないのは大変ですよね。
台本を何回も何回も読みました。セリフに慣れてくると、のキャラクター像が私の中でできてきたので、それを忠実に演じるように頑張りました。
― 何か監督からのアドバイスがありましたか?
監督から「目力を入れてほしい」と言われました。初めてサトシくんに会うときも目をガッと開いて「もっと開いて、もっと開いて!」と言われました。眉間にシワが寄らないように気をつけて頑張ったんですが、そのあと目が乾いてしまって(笑)。日光が入ってくる場面もありましたが、瞬きはあまりしないようにして目で印象付けるようにしました。
― 特にコズエが登場する最初のシーンは印象的です。どんなことを意識して臨んだのでしょうか?
コズエは最初はぎこちないところがたくさんあるんです。サトシくんとの接し方もわからないし、感情の出し方もわからない。そこから、最後には自然な笑顔が出て人間味あふれるような表情になるまでの過程を作るようにしていき、最初と最後の表情の差を出すことを意識しました。
― 撮影は時系列で撮っていったのですか?
いえ、全然バラバラでした。なので、逆算して演じていくのが大変でした。
― 大人になっていく成長期を描いている本作ですが、新音さんご自身は「大人」にどんなイメージを持っていますか?
大人になっても、子どものころと「心」は変わらないけど、大人になっていくと「壁」をどんどん作っていくと思うんです。人との接し方とか、人の悪いところも見えて遮断してしまう時もあるだろうし、幼いころの時ほど好奇心も強くなくなるかもしれないと思うから。でも、逆に美しいこともたくさん見られるようになるし、色んなことに出会えて子どもの時にはできなかった体験もできるので、育っていくことは全然怖くないです。知らなかった事もいっぱい知って、子どものときにはなかった感情も生まれてくると思うけれど、成長していって、いつか自分の子供を持ったとき、その子が成長していくのを見ることも嬉しいと思います。だれでも大人になっていくのですが、この映画で改めて「大人」になることって、不思議なことだと感じました。
― 新音さんが「こういう大人にはなりたくないな・・・」と思うのはどんな人ですか?
礼儀のない人にはなりたくないです。社会の中で生きていくには礼儀は大切。挨拶や言葉遣いがしっかりできる人がカッコいい大人だと考えているので、人を偏見の目で見たり差別をしてはいけないと思っています。
― 偉いですね。ご両親からよく教えてもらったことなどありますか?
よく人と目を合わせることが大事だと言われます。歩くときの姿勢に気をつけること。あと、世界には色々な状況の人がいるので、人が傷つくような言葉は使わないこと。人には色んな意見があるので、それぞれ尊重しなければいけないということを小さい頃から教えてもらっています。
― コズエは不思議な子だけれど、でもちょっとこんな子いそうだなと思える存在。新音さんとコズエの似ていると思うところはありますか?
コズエは小学5年生なんですが、何にでも興味を持っている女の子なんです。私も新しいもの、初めて見るものには興味を惹かれて知りたくなるので、その点はよく似ていると思います。
― 逆に違うと思うところは?
コズエは他人との距離感が分からないので、そういうところは私とは違うと思います。
― 共演者も個性的な方が揃いました。サトシくん役の山﨑くんと共演されていかがでしたか?
最初、山﨑くんが年下だと思ってタメ口で話していたら、実は1つ年上だったんです。「あ、ごめんなさい」って謝って(笑)。でも、最初からタメ口でも全然怒らなくて、優しくかったです。サトシくんは硬い印象の役なんですが、山﨑くんは全然そういう感じではなくて、カメラが回っていないときは無邪気に笑っているし、普通に学校にいるような男子ですね。でも俳優としても私より先輩なので、撮影現場では挨拶とか接し方とかしっかり出来ていて学ぶことがたくさんありました。
― 母親役のつみきみほさんはいかがでしたか?
母親役なんですが、あまり一緒のシーンがなく、ただ監督から「つみきさんの演技は凄いよ」と伺っていました。私もつみきさんのような演技ができるようになりたいと思いましたし、完成作品を見て(つみきさんの演技が)凄いな!とつくづく感じました。
― サトシくんの両親役の須藤理彩さん、草彅剛さんも実力派俳優さんです。
草彅さんは、小さいころからよくテレビなどで見ていたので、実際にお会いしたときは「本当に存在しているんだ!」って感激しました(笑)。帰り道でたまたま大きな草彅さんが写った広告看板を見たとき、「私、30分くらい前までこの人とお話してたんだよな」と不思議な感じでした。最初緊張していてちゃんと挨拶もできてなかったんですが、とても優しい方で気さくに話しかけてくださって、でも凄くオーラがありました。
須藤さんは着物がとても似合っていて、歩き方も着物が着慣れているようで綺麗でした。控え室でも優しく話しかけてくださいました。
― コズエちゃんの白いワンピースが印象的ですが、赤いワンピースもステキですね。モデルとしても活躍される新音さんの好きなファッションは?
ありがとうございます。私、あの赤いワンピース大好きです。私は家ではずっとTシャツなんです(笑)。ビンテージものが好きなので、よくお母さんと古着を買い物に行きます。中でも映画“レオン”のマチルダのファッションが好きで、チョーカーとか凄く憧れています。個性的なファッションをお洒落に着こなせるようになりたいです。
― 撮影で一番大変だったことは何ですか?
体調を崩しやすくて、以前の作品で体調を崩して病院に運ばれてしまったことがあったんです。多くの方に迷惑をかけてしまうので、今回は自分の体調管理を一番に考えて注意しました。
― 落ち葉をまくシーンもステキです。
落ち葉をまくシーンでは、スタッフの方が落ち葉の中に光を反射しやすい砂のようなものを混ぜてくださって、とても綺麗に映っているんです。まく時にその砂が目に入ってしまうこともありましたが、気にせずずっとまき続けました。コズエちゃんの表情が一番出るところで、硬い表情が自然と柔らかくなっていったと思います。
― 撮影で楽しかったことは?
共演者の同じ世代の子たちと一緒に宿で過ごす時間がとても楽しかったです。温泉宿に泊まったので、みんなと一緒に温泉入って、露天風呂もあって(笑)。その時は学校の旅行に来ているようでしたが、いざ撮影になるとみんなプロ意識を持って臨んでいました。
― 劇中で、新音さんが一番印象深いシーンはどこですか?
最後のシーンです。最初のときとは全く違う、コズエが一番自然な感じで撮れたので満足しています。
― モデル、女優と活躍されていますが、これからどんな活動をされていきたいですか?
これからは女優としてもっと皆さんに知っていただけると嬉しいです。演技の実力で評価されるような女優になりたいです。
― 憧れの女優さんはいますか?
私は5歳のときに、CMでキャサリン・ゼタ・ジョーンズを見て女優になりたいと思ったんです。私も海外で活躍して憧れの女優さんと同じCMに出られるようになりたいです(笑)。
― 最後に、これから本作をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
大きな秘密をもつコズエがどんどん成長してく心温まる映画です。その成長にする姿に考えを向けてもらえたら嬉しいです。ぜひ観てください。
【インタビュー撮影:ナカムラ ヨシノーブ】
【新音(にのん)プロフィール】
2004年12月10日生まれ。大阪府出身。RADWIMPS「狭心症」のMV出演で注目を集める。その他、第68回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門・正式招待作品として選出された『Blue Wind Blows』(富名哲也監督)に出演するなど今後の活躍が期待される若手注目女優の一人。本作では不思議な魅力を持つ少女・コズエ役という難しい役どころに挑み、無垢な存在感を放つ。
映画『まく子』
監督・脚本:鶴岡慧子
原作:「まく子」西加奈子(福音館書店 刊)
出演:山﨑 光、新音、須藤理彩/草彅 剛
(C)2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)
公式サイト:http://makuko-movie.jp/
2019年3月15日 テアトル新宿ほか全国ロードショー