俳優、監督、白黒写真家として活躍する斎藤工(齊藤工名義で企画・プロデュース)と、芸人・永野、ミュージシャン・俳優の金子ノブアキ、映像クリエイター・清水康彦により結成された映像制作プロジェクト“チーム万力”の長編映画『MANRIKI』がいよいよ公開!
永野の「ファッションイベントにゲスト出演したときに感じた違和感から着想した」という原案から制作が始まり、常識的観念にとらわれず、永野の脳内を自由な発想で映像化。チーム万力のクリエイティブなエッセンスが詰め込まれた本作には、斎藤、永野、金子をはじめ、SWAY(DOBERMAN INFINITY)、小池樹里杏、神野三鈴なども参加し、その世界観に厚みを加えている。物語は、小顔願望のファッションモデルが訪れた美容クリニックを舞台に、美しき整顔師の猟奇的哲学が展開されていく。
今回Astageは、本作に主演し、企画・プロデュースを務めた斎藤工と原作・脚本を担当した永野にインタビューを遂行。映画界の現状と本作への思いを語ってもらった。
― 斎藤さんと永野さんの才能がお互いに刺激しあい、永野さんの発想から本作が制作されたわけですが、永野さんが感じる斎藤さんの一番の魅力とはなんでしょうか?
永野:僕は昔から闇や負の部分を表現することが得意でしたが、それはダメなことなんだろうなと思っていたんです。ラッセンのネタはいい感じに勘違いしてもらってますが・・・。でも、盛り上がっていることって、絶対に避けられないコンプレックスや闇とか負の部分を面白く笑い飛ばすこと、シニカルな笑いなんです。それが『MANRIKI』で花開いたなと。堂々と「皆さん観てください!」と言いにくいような笑いや、影なところ、人の噂話とか大好きなんですよ、僕(笑)。斎藤くんの中にもあるダークな色の部分に僕も惹かれているのかもしれません。斎藤くんと、最近ではでんじろう先生が好きです。
― でんじろう先生ですか?
永野:今日、斎藤くんと一緒にテレビ番組の収録をしてきたんですが、でんじろう先生と共演してきたんですよ。実際に会ったらマッド感が凄い。子供のころ温かく見ていたのに、ある年頃から狂気を感じてくるみたいな。そういうところが斎藤くんにも感じます。ポジティブなハイタッチしちゃうようなノリとは逆なところ。
斎藤工(以下、斎藤):でんじろう先生は先輩って感じですね。ちょっと崇めてます。
永野:マッドサイエンティストです。でんじろうは爆発に憑りつかれてました。予想外の爆発で、スタッフがみんな慌てているのに彼は一人で笑っているんです。『MANRIKI』はでんじろう先生に観てほしいです。
斎藤:ピンポイントですね。
永野:今はでんじろう先生に観てもらったらいいや!という気分です(笑)。申し訳ないですけど。
永野:万人の人には無理かもしれませんが『MANRIKI』も、その魅力に引っかかった人の心に残って大事にしてくれて、ずっと好きだと言ってくれる映画だと思うんです。
― 斎藤さんはいかがですか?
斎藤:僕もまろやかな番組かと思って、収録に臨んだのですが・・・。
永野:まだ、でんじろうの話してる(笑)
斎藤:『MANRIKI』の完成が3年かかって良かったなと思うところは、役作りとかではなく、永野さんの精神世界に寄り添うというか、浸らせてもらっていた期間にもなったので、演じるキャラクターに全く助走が必要なかった。難航していた期間も含めて向かっていく方向がずっと同じでした。
だから、永野さんをそのまま体現することができたと思います。役を通して内面的に永野さんと同化した瞬間があったと思っています。永野さんのネタもそうなんです。最初は俯瞰して冷静に見ているんですけど、どこかの瞬間にその中に自分を見つけてしまう。それが僕の好きな、今まで観てきた世界中の映画と一緒なんです。外国のコメディとして観ていても、その中の登場人物の少女に強く共感したり。そういう瞬間が永野さんのネタの中にあって、ハッとしている自分がいる。永野さんが自分なんじゃないかという瞬間がこの数年は多々ありました。
永野:撮影中は僕も同じように感じることがたくさんありました。自分を見てるようで笑っちゃうみたいな。もちろん、見た目は全然違いますけど(笑)。雰囲気とか・・・。1年くらいで作ったら狙ってると思われるかもしれませんが、3年かかっていますからね。最後は僕の私小説みたいな感じになっちゃった?
斎藤:僕らが普段観ている娯楽の一部の中にも、永野さんがおっしゃったマッド要素みたいなものが埋まっていると思うんです。それって魅力じゃないですか? 劇物的なものが、旨味とかコクにもなっていくというか。そういうものの好きな度合いが永野さんと共有できるし、僕の好きな基準は永野さんの好きな基準とすごく近いのかなと思いました。
― 観る人によってウケる部分、ハマる部分が違うかも。「ここでウケるのは自分だけかも」と思ったりして。
永野:韓国でも先行上映させていただいたんですが、終始笑いに溢れていました。でも、一人ひとり笑うポイントも違う。僕の癖(へき)なんですよ(笑)。暗いけど、なんか面白いという映画って最近ないかも。そんな映画を作れて嬉しかったですね。
― 斎藤さんは以前、「日本のオーディエンスは難しい」というお話をされていたと思いますが、日本と海外の観客とでは今まで接してきたカルチャーから違いが生まれてくるものなんでしょうか?
斎藤:もちろん、自分もそういう部分はあるのですが、お金を払い時間を作って足を運んだものに何を返してくれるんだろう、と採算をとる考え方がベースにある気がします。
フランスだとチケット代の半分がフランス映画に投資する分なんです。みんな、それを分かってチケットを買っている印象を受けます。あとは制作費と劇場の分。
一方で、日本ではチケットを買うことに対して、贔屓(ひいき)の方が出ていたり作ったということもあるかもしれませんが、それ以上に自分が選ぶというリスクに対して何を返してくれるんだろう、と審査するイメージがあります。審査しながらも、同調圧力みたいな空間になる。それが必ずしも悪いとは思わないですけど、特性としてはあると思います。
昨年、一昨年はヨーロッパの映画祭に集中的に出かけていったのですが、観客が手拍子しながら観る映画があったりして沸いていました。でも、日本ではその映画の興行成績はあまり良くなかったりするんです。メキシコには、僕が好きな鈴木清順監督の映画ばかりを上映している専用の映画館もあるんですよ。今の日本では上映できないようなテーマ性の強い映画に、地球の裏側でいまだに熱狂している現状がある。カルト性と芸術性に神話性をもっているんだなと。『MANRIKI』にも、そういう何かが宿ったらいいなと思いました。
僕は「日本のオーディエンスが満足するもの」という大前提で作られている映画はつまらないと思っていて。誰が出るとか、こういう原作でというニーズありきになっていて、いかに損をしないかを優先してしまうのが日本人だなと思いました。
― “お笑い”には、映画ほど身構えるところがないような気がしますが、永野さんは普段劇場や舞台に立たれていて、観客の違いなどを感じることはありますか?
永野:最近はお笑いの世界も似てきているなと思うところがありますよ。あくまで僕の偏見ですが、自分がお笑いを始めたころは、ワケがわからなくて時間の無駄だったなと思うようなものを観る余裕があったんです。でも、今は賞レースになっている。「1分に何ボケ」とか言っている若い人もいて。それってダサいと思っちゃう。20年前にはそんな言葉はなかった。自分よりヤバイ人がたくさんいたけど、今は全然ヤバくない。クレーバーで話をしていてもハッキリしている。いま一番流行っているのが伏線回収。最初にふっていたものが最後に出てくると得した気になっている。それって笑いなの?って。でも、それが成立しちゃっているんです。映画にもそれが言えると思います。人生のためには何の得にもならないけど俺にはグッときた、グッときた瞬間を目に焼き付けたというほうが大事なんじゃないかなと思います。
― 社会性なんでしょうか・・・。
斎藤:でも、それと同時にほかの映画でも感じるのですが、世代を超えて過度なコンプライアンスに抑圧されている感覚があります。日本は自由のようでめちゃくちゃ不自由だったり、まさに万力のように圧の中にいる。その中の自由だったんだということに気づき出しているじゃないかな。だから、人間性を取り戻すために細胞レベルで劇物的なマッドなものをどこかで欲しているところもある。あまりにも全てがチェーン展開でリスク回避の生活に危機を感じているのも事実だと思います。そういう意味で映画体験というものがそれを脱却する希望の光になって『MANRIKI』(の公開)はいい頃合いで、必然なんじゃないかと考えます。何かわらからないけど誰かの奥底に突き刺さっちゃう要素が詰まっている映画だと思います。
― 映画ではよく見ると、ところどころに細かいテイストが詰め込まれています。例えばスーパーの「チャーシュー祭り」とか(笑)。
永野:スーパーの「チャーシュー祭り」はそのままナチュラルにそこにあったんです。特に狙っていたわけではないんですが、チャーシューだけで祭りを開催するんだってね(笑)。
斎藤:「チャーシュー」というくくりで祭りですからね。ナルトとかでもよかったかも。
永野:その心意気。一点突破主義!(笑)
でも、小ボケではなく一つひとつに思いはありますよ。
斎藤:監督は清水さんなんですが、永野さんはほぼ現場にいらっしゃって最後の味付けは永野さんがしていた気がします。神野三鈴さんが放つ「負けないぞ」というセリフがあるんですが、永野さんが鈴木蘭々さんのデビューシングル曲の「泣かないぞェ」の言い方に変えてほしいと言って。神野三鈴さんは日本を代表する舞台女優さんで世界的な演出家に多くの演出を受けている方なんですが、「こんな演出を受けたことはない」と唖然として、永野さんの大ファンになってしまって。永野さんの精神世界を体現しなきゃと「ぞェ」だけで葛藤し、走り方もこだわっていました。総合芸術感が凄いです。
スタッフにもファッション界の重鎮が揃っているんですが、画角や光の使い方、音の使い方が永野さんの世界に合致しました。僕は永野さんのことをアーティストと思っていて、この人の頭の中は世界に通ずる才能だと感じています。研ぎ澄まされた人たちとそれを切り取って作品を作っていくことが楽しかったですね。色んなことが成功している映画だと思います。僕のヘアメイクも場面によって変えているんです。作り込んでいるわりにその場のノリみたいなものがあって。でもセンスある方々が軸となっていたので、それも取り込んでくれたクリエイティブな現場でしたね。みんなが永野さんを信頼していたので、各部所が同じ方向を向いていました。
永野:なぜか、みんな波長が合いましたね。
斎藤:みんな、永野さんの信者になっていったんです。
撮影:ナカムラ ヨシノーブ
映画『MANRIKI』
<あらすじ>
駆け出しのファッションモデルが仕事欲しさに小顔矯正を決意。美容クリニックを営む美しき整顔師に小顔矯正施術を依頼し、モデルは変身を遂げる。整顔師の猟奇的哲学と万力によって・・・。その後、 整顔師はクリニックを去り、新たな野望の地へ向かう。場末の街で美人局をするフーテンと年増。彼らと整顔師が突如遭遇することにより、物語は加速してゆく――。
企画・プロデュース:齊藤工 永野
原作・脚本:永野
主演:斎藤工
出演:永野 金子ノブアキ SWAY 小池樹里杏 / 神野三鈴 他
音楽監督:金子ノブアキ
監督・脚本・編集:清水康彦
制作プロダクション:イースト・ファクトリー
共同配給:HIGH BROW CINEMA / 東映ビデオ
©2019 MANRIKI Film Partners
公式 HP:http://crush-them-manriki.com
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/manrikimovie/
公式ツイッター:https://twitter.com/manrikimovi
11月29日(金) シネマート新宿ほか全国順次公開
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