2018 年に、映画館スタッフたちの映画愛、映画館あるあるをキネカゆかりの映画人たちによって映画化された『もぎりさん』。キネカ大森を舞台にした先付ショートムービーは、映画と映画館と映画好きな人々の素敵な関係を描きつつ、キネカに限らず「街の小さな映画館が元気になるように!」と願いを込めた作品で、映画予告後、本編前に観ることのできる約2分ちょっとのショートムービー。
そして、『もぎりさん』に続く、『もぎりさん session2』がついに完成!7月12日より公開する。この度、Astageでは主演の片桐はいりさんにインタビューを遂行。『もぎりさん』への思い、純粋に映画や“もぎり”を楽しむ片桐さんの本音をお聞きすることができた。
― 昨年公開された『もぎりさん』も大好評でしたが、『もぎりさん session2』を制作されることとなったきっかけは?
私が「(session2を)やらないの? やらないの?」って言って無理やりやるようにもっていったんですよ(笑)。昨年『もぎりさん』が7月に封切られ、12月に終わるころに「次はどうするの? 作らないの?」という話になり、「じゃ、やろうか!」ということになりました。
― 前回の公開の時には、すでにキネカ大森は新しく改装されていたんですね。
そうなんです。前回の公開時は改装後の映画館で、古いかつての映画館で作った映画を上映したので、少し不思議な感じでした。今回は撮影も新しい映画館ですので、ロケ地でそのまま映画を観ていただく形になるので、色々仕掛けをしてあるんです。
― 実際に来場される映画館での出来事でありながら、ファンタジックな物語もある内容になっています。
実際に私が「いらっしゃいませ」と言ってチケットをもぎってお客様が劇場にお入りになって、そこでスクリーンにまた私が出てくるという・・・その状態自体がファンタジーであってほしいし、いたずら心なんです。
― 『もぎりさん』は片桐さんの思いがこもった映画とのこと。その思いとは?
映画館で映画を観るということは「こんなに楽しいですよ」とか、「こんな事もあったりします」ということや、「映画館ではこういう事に気を使っています」など、いろんなことを「そうだね」と共感してもらいたくて。「楽しい」というだけの話ではありませんが、映画館で映画を観るという娯楽の楽しさを一人でも多くの人に知ってもらいたいという気持ちが私の支えになっています。世の中の流れとは違うかもしれませんが、「こんなに楽しい!」ということを伝えたいんです。「そんなの古いよ、昭和の話だろ」って言われたらおしまいですが、自分が死ぬまではそうあってほしいなと思っているんです。
― 単館映画館に限らず、シネコンでさえ経営が難しいと言われているこの頃ですが、この『もぎりさん』を観ていると、素直に大森にお住まいの方が羨ましくなります。
そう思っていただけると嬉しいです。「歩いて映画を観にいけるんだよ」ってね。スーパーでちょっとキャベツ買って、そのついでに映画でも観て帰ろう・・・っていうことができるのは、もう奇跡に近いことになっていますね。まぁ、渋谷の松濤とかにお住まいの方はお近くに映画館がありますけどね(笑)。それとはまた違う雰囲気ですし、昔は各街には歩いて行ける映画館があったんです。
― はい。田舎の映画館では2本立て上映だったり、子供のころ夏休みは“東映まんがまつり”に連れて行ってもらった思い出があります。 子供が映画を観ている間に親はデパートで買い物してくるという(笑)。
(映画館に)一日中いていいような感じでしたよね。でも、今でもキネカ大森にはそういう方がいらっしゃいますよ。もちろん推奨して「お預かりします」と言っているわけではないですが、「すみません、子供だけお願いします」と言うので、「はい、○○時に終わりますよ」って感じで。シネコンでもやっているかもしれませんが、今の時代ではなかなか難しいところはあると思います。
― 昭和の映画館の良さが、令和の時代になっても残っていてほしいですね。
伝統芸能みたいにはなりたくないですが、こういう楽しみは残しておいてもらいたい。私は、人間の体や脳はそんなに簡単なものじゃないと思っていて、新しいことに次々と適応していくことばかりが楽しいとは限らないと。暗闇で大きなスクリーンで(映画を)観ることや、人と一緒に笑ったり泣いたりすることが滅びるはずがない!と勝手に思っているんです。そういう意味でも、むしろ映画館で映画を観たことがないという人にも、その発見をしてもらえるように、どんどん発信していかなければいけないなと思っています。
― 『もぎりさん』を観ると新聞の隅に載っている4コマ漫画を思い出します。大事なニュースを後回しにしても、4コマ漫画だけは毎日見てしまうんです(笑)。
まさに、そのイメージなんです。私、子どもの頃毎日朝日新聞の「サザエさん」を切り取ってました。記事は読まなくても「サザエさん」は忘れず読んでいた(笑)。『もぎりさん』というタイトルは、大九明子監督が考えてくださった段階で、これは「サザエさん」と対比しているなと思っていました。私も4コマ漫画の「サザエさん」が念頭にあるんです。「サザエさん」だって、サザエさんばかりが出てくるわけではない。時々全然関係ない話があって、「ワカメがね・・・」って言ったら「ん?」って出てくるようなこともある。『もぎりさん』もそれでいいと思って。最後に私が「ん?」ってひょっこり出てくるだけで全然いいと。よく、長編にしてほしいと仰ってくださる方もいるんですが、基本は4コマ漫画の「サザエさん」なので、TVアニメの「サザエさん」の10分が限界かな・・・って言っているんです(笑)。
― 確かに、まとめて観るより、1回1回が楽しいかも。
なかなか、ここまで短い劇映画はないかと。ショートムービーという意味でコマーシャル的な作品はありますが、ちゃんとオチがある4コマ的な作品は珍しいかもしれません。ぜひ、そういうジャンルを作ってもらいたいですね。でも、映画館では予告の枠を取るのが大変な状況なんです。皆さんが(本作に)興味をもってはいただけるんですが、なかなか多くの劇場で流していただけないのが現状なんです。
― しかし、そんな2~3分弱の作品ですが、出演者は豪華です。
そうなんですよ。観たお客さんもビックリですよね。私も出演してくださるとは思っていなかったんですが、監督がよくご存知の方だったり、ご縁のある方が出演してくださいました。伊勢志摩さんは私がお願いしましたが、佐津川愛美さん以外はほぼ初対面です。久保田紗友さんと、萩原みのりさんは以前『ハローグッバイ』(16)で菊地健雄監督とご一緒されていました。菊地監督は今回の作品では演出していないんですが、現場にはいらしていて(笑)。大九監督は今回出演しているんですよ。
― それは見なくては損ですね!
でも、この作品はお客さんがお金を払って観たいと思って観るわけではなく、ご自分が観たい映画の前にくっついてくるもの。だから「こんなのいらないよ」っていう人もいると思いますが、「いらないよ」という声もあっていいと思っています。それだけ多く観られているということなので。
― “映画館のあるある”がシュールで笑えます。
監督それぞれのカラーがあるので、1つ1つの作品が面白く出来上がっていると思います。作る過程が楽しいんです。この作品に関しては自分が演じているという感覚ではないです。特殊な設定は行われますが、毎日行っている場所(映画館)で、同じこと(もぎり)をやっているので、あえて演じるということではないし。私は演じるより観るほうが好きなんです。だから、『もぎりさん』でも自分が出演すると、自分のことが気になっちゃうです。完成作品を見て、「ああ、こんな顔しちゃった」とか「なんだ、この芝居」というふうに、気になっちゃって。できれば自分の好きな映画には自分は出て欲しくないんです(笑)。そんなこと気にしないで楽しみたいですからね。
― 片桐さんは唯一無二の存在ですから、片桐さんがいないと成立しない素晴らしい映画もたくさんあります。
でも、私はそんなに日常にいるタイプではないですから。しょっちゅう登場する必要なキャラではないので、積極的に出なくてもいいんですよ。だけど、“もぎり”はしたい。地方の映画館からも「もぎりに来てください」とお声をかけていただくんですが、“もぎり”だけをしに行くわけにはいかないし、何か出演作がないと行きにくいので、そこで『もぎりさん』という作品があれば「是非これを上映してください。そうしたら私、もぎりもやります」って言えるんです。
― それでは、「もぎりさん」シリーズはずっとやっていきたいですか?
誰も観たくないと言われちゃったら作れなくなっちゃいますが、ある程度尺が溜まれば、私はそれで全国、いや世界をまわるのが夢なんです(笑)。
― 今回の作品も思わずクスッと笑ってしまう楽しい作品です。
笑っていただけるといいなという気持ちです。今回は2分くらいに収まる長さで、先付けとしてお邪魔にならないような作品になっています。居酒屋で例えるなら、メイン料理が出てくる前にお通しでお腹いっぱいになったら困るし、お通しがイマイチだとメインの料理が期待を持てなくなるので、丁度いい塩梅のお通しになってくれたらいいなと。そして、また来たいなと思っていただけるような、「来月のお通し何?」みたいな存在になってくれたら嬉しいです。
― 女優としても活躍され、ご自身のライフワークとされている“もぎり”をされたり、とても充実した人生を楽しまれていらっしゃる片桐さんですが、これからの目標はありますか?
まだまだ若いと思っていても、あっという間。特にこの20年はあっという間でした。だからあと20年もあっという間に来ると思います。とは言え、今は年齢の捉え方が昔とは違いますよね。70歳はおじいさん、おばあさんと思っていたけれど、今、70歳なんて全然年寄りじゃない。私、50歳になったら年齢は解散だと思っているんです。年齢は自己申告でいいんじゃないかと。そこから先は自己責任で、それぞれ勝手でいいと思うんです。私自身もどこに年齢を置いたらいいか分からないところがあります。もうお婆さんをやらなくてはならない年齢になってきているんですが、なかなかそうもいかないところもあって、実年齢とのギャップがあるんです。本当に年齢というものがわからなくなっているので、逆に俳優もどういうふうに歳を取るのか、役をやっていくのか難しいところだとは思います。
― そして、映画は若い俳優さんが出ればヒットするとは限りません。
日本の映画界では、まだまだ妙齢の女性の方が活躍できる場が少ないのではないでしょうか。50代の女性が主人公の映画なんてほぼないでしょう? 自分が30代の時によく思ったんですが、30代の女性では主人公のお友達では歳が行き過ぎていて、お母さん役には若すぎる。意地悪な上司か、ご近所の人という役くらいしか枠がなくて。でも、一番問題を抱えていて一番悩んでいるのが30代、40代の女性のような気がして、そんな現実的なドラマがなかなか作られない。そういうものが本当は必要なんじゃないですか? 『かもめ食堂』はとても好評でしたが、そのあとに続くものがなかなか出来てこない。そういう作品が広がっていかなかったのはとても残念に思っています。もっと妙齢の女性が大活躍する映画が世にたくさん出てくることを期待しています。
― では、これから多くの女優さんの活躍も期待しつつ、まずは『もぎりさん session2』を多くの方に観ていただきたいと思います。
はい、チャージのいらないお通し(笑)、ぜひ映画館で味わってみてください!
【片桐はいり Hairi Katagiri】
1963年生まれ、東京都出身。
大学在学中から、銀座文化劇場(現シネスイッチ銀座)で”もぎり”のアルバイトをしながら、94年まで劇団で活動。その後は舞台のみならず TV、映画などで幅広く活躍中。主な出演作に映画『かもめ食堂』(06)、『小野寺の弟・小野寺の姉』(14)、『シン・ゴジラ』(16)、『沈黙 サイレンス』(17)、『勝手にふるえてろ』(17)、ドラマ 連続テレビ小説「あまちゃん」(13/NHK)「富士ファミリー」 (16/NHK) 「この声をきみに」 (17/NHK) など多数。 著書に、映画への愛情に満ち溢れたエッセイ 『もぎりよ今夜も有難う』や、『グアテマラの弟』『わたしのマトカ』などがある。
© 東京テアトル
『もぎりさんsession2』
出演:⽚桐はいり、佐津川愛美、川瀬陽太
ゲスト出演:(出演順)今野浩喜、⽇南響⼦、岩井ジョニ男、唐⽥えりか、萩原みのり
監督・脚本:鈴⽊太⼀(第7 話〜第9 話)、瀬⽥なつき(第10 話〜第12 話)
企画:沢村敏
プロデューサー:平林勉
⾳楽:侘美秀俊
タイトルイラスト:岩⽥ユキ
撮影:彦坂みさき 照明:志村昭裕 録⾳:東凌太郎
スタイリスト:齋藤ますみ ヘアメイク:鰕澤真由美
編集:⼩野寺拓也 助監督:北川帯寛 振付:ストウミキコ 謎の監督:菊地健雄
企画制作:東京テアトル Powered by CoMix Wave Films
2019 年/⽇本/カラー/全6 話12 分
©東京テアトル
キネカ⼤森公式HP:https://ttcg.jp/cineka_omori/
●第7 話 「くそガキともぎりさん」1:57 ゲスト:今野浩喜
●第8 話 「恋のもぎりさん」2:06 ゲスト:⽇南響⼦、岩井ジョニ男
●第9 話 「励ますもぎりさん」2:00
●第10 話 「もぎりさん、さようなら」2:06 ゲスト:唐⽥えりか
●第11 話 「もぎりさんところどころ」1:57 ゲスト:今野浩喜、萩原みのり
●第12 話 「終映後のもぎりさん」1:57
7⽉12⽇(⾦)よりキネカ⼤森にて先⾏上映後、
テアトル系劇場などでも公開予定