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映画『泣く子はいねぇが』佐藤快磨監督インタビュー! 「言葉にできない表情や瞬間が詰まった作品! 秋田を世界に届けたい!」

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是枝裕和もその才能に惚れ込んだ、新進気鋭の監督 佐藤快磨の劇場デビュー作、映画『泣く子はいねぇが』が11月20日より公開される。本作は、監督・脚本・編集を務めた佐藤快磨が、秋田県・男鹿半島の伝統行事「男鹿のナマハゲ」から、“父親としての責任”、“人としての道徳”というテーマを見出し、親になることからも、大人になることからも逃げてしまった主人公が、過去の過ちと向き合い、不器用ながらも青年から大人へ成長する姿を描いた完全オリジナル作品だ。

主演には若手実力派俳優として数々の作品にひっぱりだこの仲野太賀を迎え、サン・セバスティアン国際映画祭、シカゴ国際映画祭や東京フィルメックスにも正式出品されるなど国内外でも注目されている。

この度、本作のメガホンを握った佐藤監督にお話しを聞くことができた。本作への思い、故郷への思い、そして映画への熱い思いを語ってもらった。

★泣く子はいねぇが_メイン

― 本作の舞台を監督のご出身である秋田にしたいという思いがあったとお聞きしましたが、その理由は何だったのでしょうか?

2014年に『ガンバレとかうるせぇ』という自主映画を秋田市で撮っていまして、その映画がPFFや釜山国際映画祭で上映されました。釜山に行ったときに、今は亡きキム・ジソクさんというディレクターが、「君にしか撮れない映画だから選んだんだよ」と言ってくださって、そこから秋田には自分にしか撮れない感情や風景があると思ったのです。その時から監督デビュー作は秋田で撮りたいという思いがありました。

― 今作は“ナマハゲ”が1つのモチーフになっていますが、監督の幼少期の思い出がきっかけだったとお聞きしました。

僕が幼少期に友達の家で体験した“ナマハゲ”がトラウマのように残っていて。友人の家だったので、友人は父親に抱きついて号泣しているのですが、僕は怖くても近くに泣きつける大人がいなかったんです。 “ナマハゲ”には、「子供が父親にすがる、父親は子供を守る」というような父性を芽生えさせる側面もある。この映画でそんな側面を見せることができたら、新しい父性をめぐる物語になるのではないかと考えました。

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― 冒頭の“ナマハゲ”のシーンはとてもリアルでインパクトのある映像になっています。撮影にあたって特に意識していたことはありますか?

今作を制作するにあたって5年くらい取材しました。毎年大晦日は各地区のナマハゲについて行って見させていただいたのですが、その時に感じたナマハゲの迫力、子供たちが泣いている姿が画として強烈ですし、世界の人に強く印象に残る画になると思いました。子供たちが泣いている様子が面白くて・・・(笑)。取材しているときからナマハゲの撮り方を考えていたかもしれません。

― 世界中でも、わざと子供を泣かすという画はなかなかないですね(笑)。

そうですよね(笑)。釜山映画祭で企画を持ち込んだとき、色々な国の映画プロデューサーの方々にナマハゲの映像を観てもらったのですが、皆さんが「ショッキングだ」と仰っているのを聞いて、やっぱり面白がってもらえるんだと確信しました。

― 日本の伝統的な文化をどのように残していくかということを考えると、映画として残すということも大きな意味があると思います。

男鹿市は現在とても人口流失が多い状態なんです。昔は若者がナマハゲをやるものだったのですが、今は家庭を持った40代の方々も「自分たちがやらないとナマハゲが終わってしまう」という思いをもって臨んでいました。この映画にそういう思いを映したいし、残したいと強く感じました。

― 地元の方も映画に参加されていらっしゃると思いますが、皆さん喜ばれていたのでは?

皆さん喜んで参加してくださいました。ただ、今作はけっして男鹿のいい部分ばかりを描いているのではないので、そこをご理解いただくために、5年かけて色んな方に出会って「この映画ではこういうことを伝えたいんです」とお一人お一人に声をかけました。その時間があったからこそ、思い切って男鹿で撮影させてもらえたのかなと思います。

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― 主演の仲野太賀さんの熱演が凄いです。監督から見た太賀さんの魅力は何でしょうか?

以前、短編映画『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』(2016)で主演していただきましたが、その時の主人公もどこか情けなく、人間関係に臆病で人との距離感を上手く掴むことができない青年でした。彼は繊細な部分も表現できるし、そこまで溜めた部分を爆発したときの力が凄い。その幅というか濃淡を繊細に演じることができる役者さんだと思っています。自分のような新人の監督でも話し合って誠実に作品と向き合って責任をもって臨んでくださる役者さんです。あてがきではないんですが、その時から太賀くんをイメージして(今作の作品の)脚本を書き始めていました。

― 撮影中も太賀さんとよく話し合いをされていたのですね。

そうですね。その時の感情など全てのシーンにおいて太賀くんと話し合っていました。意見がぶつかるときもありましたが、二人で一つのものを決めていったというより、曖昧なものを重ねていったような気がします。その曖昧さみたいなものが「たすく」という人物の深さや人間味を持たせてくれたのではないのかなと思います。

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― キャスト、スタッフの皆さんと現場で作り上げたという感じですか?

現場で作り上げていったものがとても大きいです。できる限り順撮りにしてもらいましたが、そうでないときも、僕と太賀くんだけでなくスタッフもこの映画のラストシーンに向けて皆で意見を出し合っていきました。

― 全てのシーンがラストに向けて意味があるのですね。そして、主演以外にも素晴らしい俳優の方々が顔を揃えています。

皆さんそれぞれのシーンに思い入れがありますが、吉岡さんは全てのシーンが物語の転回となる大事なシーンだったので、吉岡さんと太賀くんとはそれそれ個々にシーンの解釈を話し合って、お互いが何をしてくるかわからない状態で撮影しました。台本のセリフもシンプルだったので、そのセリフのニュアンスによっては全然違うシーンになるし、相手のちょっとした表情を見ているか、見ていないかによって空気も変わってくる。撮っていても楽しかったです。お互いの思考の読み合いが映っている気がして吉岡さんのシーンは好きですね。

― 地元ということで、柳葉さんの存在も大きかったのではないでしょうか?

はい、柳葉さんの存在は大きかったです。以前、柳葉さんとお仕事をご一緒したことがあったのですが、「秋田の若者が映画で頑張っているんだったら、何でも力になりたい」と仰ってくださって。夏井役はすぐに柳葉さんにお願いしました。現場でも他の皆さんを一緒に盛り上げてくださって、秋田の空気みたいなものを率先して作ってくださいました。

― 物語は若い男性が主人公ですが、歳を重ねた方々から見れば、柳葉さん演じる夏井の気持ちもくみ取ることができます。

柳葉さん、余さん、山中さんは外からの視点を加えてくださいました。そこは役者さんたちの力が大きいと思います。

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― 本作は日本のみならず、サン・セバスティアン国際映画祭、シカゴ国際映画祭ほか、海外でも多くの注目を集めてます。どのように受け止めてられますか?

率直にとても嬉しいです。釜山映画祭に自主映画で行くことができたとき、自分の中でまたこういう場に映画と一緒に来たいという気持ちがあったので、今回の脚本を書きながら“ナマハゲ”を海外の方にも届けたいという思いはずっと持っていまいした。今回は現地には行けなくて、お一人お一人の感想は直接聞けず残念でしたが、まず作品が届いたということが嬉しいことですし、そういう思いをもってみんなで作ってきたので良かったです。今回この作品を選んでくださった映画祭のプログラミング・ディレクターの方からお手紙をいただいたのですが、ラストシーンについて言及してくださって、ちゃんと届いているんだなと思って嬉しかったです。やはり、世界の人たちに自分の生まれ育った秋田に目を向けてもらいたいということが、秋田の物語を撮りたいというところに繋がっているのかもしれません。

― 巨匠と呼ばれるような大先輩監督の作品など、多くの映画作品が世に出てくるなか、佐藤監督のように若い監督の芽が出てくることは映画界にとって喜ばしいことでもあり、大切なことだと思います。監督がその立場にいるということをどう捉えますか。

是枝監督に声をかけていただかなかったら、この作品を撮ることができたか分かりません。自分自身もアルバイトをしながら自主映画を撮っていましたが、どうしたら商業映画を撮ることができるんだろうと悶々としていた時期もあるので、僕はとても運がよかったと思います。自主映画を撮っているときは同年代の監督を意識したり、羨望の眼差しを向けたり嫉妬したりもありました。でも、いい映画はたくさんあったほうがいいと思うので、いろんなところで狼煙(のろし)が上がったほうがいい。そう思えるようになったことも恵まれています。

― 監督が映画を撮るときに心がけていることはありますか?

見たことのない顔がみたいという気持ちが大きいです。言葉に表せない顔を映画の中に見たときはその顔を忘れられなかったりします。そのくらい言葉にできない感情はたくさんあるし、映画はそういうものもすくい取れるもの。そういう表情や瞬間をたくさん撮れたらいいなと思っています。

― 早くも監督の次回作が気になります。今後どんな作品を撮ってみたいですか?

秋田でもう1本映画を撮りたいという希望があります。具体的にはまだ何も考えていないのですが、そろそろ準備しないと・・・(笑)。とにかく映画を撮り続けていけたら嬉しいです。

― 最後にこれから本作をご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。

忘れられない表情や瞬間がたくさん詰まった作品になっていると思います。この映画を観て、忘れていたことを思い出していただければ。ぜひ大きなスクリーンで最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

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【監督:佐藤快磨(さとう・たくま)】
1989年生まれ、秋田県出身。初の長編監督作品『ガンバレとかうるせえ』(14)が、ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2014で映画ファン賞と観客賞を受賞、第19回釜山国際映画祭のコンペティション部門にノミネートされるなど、国内外の様々な映画祭で高く評価される。文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015」に選ばれ、『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』(16)を監督。その後、『歩けない僕らは』(19)などを制作。

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映画『泣く子はいねぇが』
<ストーリー>
秋田県・男鹿半島で暮らす、たすく(仲野太賀)は、娘が生まれ喜びの中にいた。一方、妻・ことね(吉岡里帆)は、子供じみていて 父になる覚悟が見えないたすくに苛立っていた。大晦日の夜、たすくはことねに「酒を飲まずに早く帰る」と約束を交わし、地元の伝統行事「ナマハゲ」に例年通り参加する。しかし結果、酒を断ることができずに泥酔したたすくは、「ナマハゲ」の面をつけたまま全裸で男鹿の街へ走り出す。そしてその姿がテレビで全国放送されてしまうのだった。ことねには愛想をつかされ、地元にも到底いられず、逃げるように上京したものの、そこにも居場所は見つからず、くすぶった生活を送っていた。そんな矢先、親友の志波(寛 一 郎)からことねの近況を聞く。ことねと娘への強い想いを再認識したたすくは、ようやく自らの愚行と向き合い、地元に戻る決意をする。だが、現実はそう容易いものではなかった…。果たしてたすくは、自分の“生きる道”、“居場所”を見つけることができるのか?

出演:仲野太賀 吉岡里帆 寛 一 郎 山中 崇 余 貴美子 柳葉敏郎
監督・脚本・編集:佐藤快磨
主題歌:折坂悠太 「春」 (Less + Project.)
企画:是枝裕和
エクゼクティブ・プロデューサー:河村光庸
プロデューサー:大日向隼、伴瀬萌、古市秀人
企画協力:分福 制作プロダクション:AOI Pro.
配給:バンダイナムコアーツ/スターサンズ
製作:『泣く子はいねぇが』製作委員会
コピーライト:©2020「泣く子はいねぇが」製作委員会

公 式ホームページ:https://nakukohainega.com/
Twitter:https://twitter.com/nakukohainega
Instagram:https://www.instagram.com/nakukohainega/
Facebook:https://www.facebook.com/nakukohainega2020

11/20(金)より、新宿ピカデリー他全国ロードショー

◆映画『泣く子はいねぇが』 本予告映像