第77回カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞において、女性監督として最年少受賞に輝いた山中瑶子が監督・脚本を担った映画『ナミビアの砂漠』。
“今”の時代を生きる若者たちが苦悩と葛藤の中で、互いにぶつかりあい追い詰めながら、自分の居場所を探していく姿をリアルに描く本作。
世の中も、人生も全部つまらない、やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナを河合優実が主演を務め、ホンダ(演:寛一郎)という彼氏から乗り換えた自信家で刺激的なハヤシを金子大地が演じる。
山中監督は金子について「“情けない男”だけれど柔軟性があって、その瞬間瞬間の瞬発力を感じたところが凄く良かった」と絶賛。そんな彼に撮影を振り返りながら本作への思いと魅力を語ってもらった。
― 今作の出演が決まったときのお気持ちは?
本当に素直に嬉しかったです。山中瑶子さんはとても注目していた監督だったので、それの商業映画の一作目に出演できて凄く嬉しかったです。
― 河合さんとは久しぶりの共演になりますが、再共演されて印象の変化はありましたか?
河合さんと初めて共演したときは彼女が10代で、それから4年くらい経ちましたが、その頃から全然変わらないですね。とてもしっかりしていて、今回も河合さんに凄く引っ張ってもらいましたし、いろんな面で支えてもらいました。心強い主演を務められていたと思います。
― ハヤシという役をどのように捉えて演じられましたか?
ハヤシは、いつか自分の脚本が大きいものになればいいなと夢を見ているクリエイターの役ですが、カナと出会って色々変わっていきます。それは寛一郎が演じたホンダもそうですが、カナに振り回されて立場がどんどん変わっていくんです。隠していた過去の秘密をカナに知られてしまいますが、彼はちゃんと罪意識も背負いながら生きていて、繊細で優しい青年。どんどんカナに振る舞わされることに慣れていく姿が面白かったですね。
― 振り回されることに慣れていくのは演じているときも感じられましたか?
演じているときにも感じました。ハヤシも感じているだろうし、僕自身もカナの言動をなんとなく予測できてきて。河合さんがアドリブでガンガン来てくださるのですが、例えば僕がカップ麺を食べているときに、河合さんが僕の箸をテーブルから落とすんです。その時の僕の次の行動は無意識に出ていました。河合さんが何をしでかすか分からないという意識がハヤシと僕の中でリンクしたんですね。ちょっとハヤシの気持ちが分かりました(笑)。
― 山中監督は27歳という若い監督ですが、若い監督ならではの演出や印象に残っているところはありますか?
自由度が高いというか、自分の好きなようにやらせてくれて、その中から良いところを引っ張り出してくれるんです。「そこをもっとやって」というように細かいところを指示しれくれますし、「このシーンはこういうシーンだ」と決めつけるのではなく、一緒にその場で起きたことを大切にして、一緒に作っている感じが役者としても楽しかったです。とても素敵な監督だと思います。
― 演出で特にリクエストされたことはありましたか?
特にはなかったです。たぶん、僕にオファーをしてくれたということは、僕がハヤシと重なる部分があるのだと思うし、そこを狙っていたのかもしれません。僕自身から出るものだけではなく、カナとの掛け合いで起こるハヤシの言葉や行動は、監督と話し合いながら現場で作っていきました。
― 監督から「瞬発力があって同じシーンをもう1回やって」と言われても、「どうやったか忘れました」というようなことがあったそうですね。「野性的なお芝居」という監督のコメントもありましたが、それに対してどう思われましたか?
自覚は全くなくて、僕はちゃんと自分で考えてやってるつもりだったんですけど、監督がいいと思うポイントがけっこう細かくて気づかなかったんです。自分では一応考えているものでも、実際どう演じているのかわかんないですね。やっぱり一番大切なのは現場で起こることをちゃんと拾えるか、そこの空気感みたいなものはこれからも大切にしていきたいと思っています。OKテイクとNGテイクの違いもあまりわからなくて、「あ、これOKなんだ」みたいな・・・。僕は不器用なので、自分で決めてやると絶対にそれ通りにはいかないことは分かっているので、そのときに起きることを大切にしています。監督がいて、それを切り撮ってくれるカメラマンさんがいて映画は成り立つものだから、10割役者ができることは不可能だと思うので、委ねることも大切かと。
― とても繊細な役を丁寧に演じられていますが、演じる上で心がけていたことは?
人間には表と裏があって、ちゃんとその裏を一瞬でも見せられるかというところは意識しました。それをあからさまに見せるのではなく、人間の本質みたいなところ、ハヤシの持っている抜け感のようなものを出すために、少し自分から出る部分を大切にしていこうとは思いました。でも、そんなに深いところまで考えてはいなかったですけど(笑)。やっぱり河合さんとの掛け合いで生まれたことの方が多かったです。
― 特に印象に残っているシーンは?
『ナミビアの砂漠』を観て、凄いケンカをしていてもそれが重くないと思います。それはハヤシの持っている軽さや許せる心があるからなのかなと。監督がやりたかったことって、こういうことだったんじゃないかなと感じました。ケンカのシーンは本当に面白んですよ(笑)。ずっとケンカしていて、“なんなんだ、この画は!”って感じで滑稽。河合さんとはちゃんとコミュニケーションを取りながら臨みました。もちろん、リハーサルのときからアクション部の方と動きを細かく打ち合わせをして進展していきましたが、男女の生々しいケンカを表現するにはどうすればいいかを考え、怪我だけはないように入念に確認していきました。
― ケンカのシーンは本当にリアルに見えます。
河合さんが本当に怒ったときの目をしていたので、本当に怖かったです(笑)。
― その時の金子さんはどういう気持ちで演じられていたのでしょうか?
演じていたときは、「なんだ?はぁ?」「なにガン飛ばしてるんだよ!」みたいな感じでしたね(笑)。彼女が突っかかってくるときこそ冷静というか、バカバカしいと思いながらも、それに付き合うハヤシがいる。そういう感覚で、僕も「来いよッ!」って(笑)。河合さんは手加減なく蹴ってくるんですよ。ちゃんとやっているので痛くはないんですが、迫力あるので楽しかったですね。
― 「来いよ!」という気持ちは金子さん自身がそう思われたのですか?
本当に力でねじ伏せようと思ったら、男ならできると思うんです。でもあのシーンは、「来いよ、来いよ」って怒っているほうが観ている人はきっと面白いんじゃないかなと考えました。兄弟ゲンカを見ている感じで。僕は1人っ子なので、兄弟ゲンカが羨ましかったので、それをちょっと頭に入れてやってみようかなと。
― ケンカのシーン以外にも見どころはたくさんありますが、その中で特にご自身の中で印象に残っている好きなシーンがあったら教えてください。
いっぱいあるんですが・・・、最後のほうでカナと一緒にハンバーグを食べて話しているシーンですかね。カナとちゃんと向かい合ったような気がして、これまで撮ったシーンとは比較にならないくらい違う空気が流れていた気がしました。僕のクランクアップの日だったんですが、お芝居をしているときもそれを感じていて、とても印象的なシーンです。
― 河合さん演じるカナという女性は、男性から見てどんなところが魅力だと思いますか?
もう全てが魅力的だなと僕は思います。本当に厄介だし、振り回されるし、凄く情緒が不安定なんですけど、それでも河合さんが演じることによってとても可愛く、キュートに見える。女性の中には、きっと彼女を見て“これは私だ”って思う人もいるんじゃないかな。他の男性が見たらどう思われるかわかりませんが、僕は凄く魅力的だと思います。
― 金子さんご自身は。女の子のわがままには許容範囲が広い方だと思いますか?
許さないときは許さないですけど(笑)。許さない前提ではありますけど許しちゃうかな……? わからないです(笑)。
― 金子さんが完成作品を観た感想をお聞かせください。
素直に面白い映画だなと思いました。そして、これを僕と同い年の監督が撮ったということも驚きました。寛一郎と僕と山中さんは同い年ですが、若い世代で臨んだ映画です。山中さんは大胆な監督で、バッサリ切るところはバッサリいく。本当に観たことない映画を観た気持ちになりましたし、きっとこれからどんどん日本映画も進化していくんだろうなと感じました。山中さんのような若い監督がどんどん大胆にやって行ってほしいです。大好きな監督作品に出ることができて本当に良かったなと思いました。
― 本作はカンヌ国際映画祭にも出品され、実際に現地に行かれましたが、いかがでしたか?
僕は完全に浮かれていましたね(笑)。なに?この素敵な映画祭は!という感じで。街全体がお祭り騒ぎというか、タキシードを着た俳優と思われる人たちがいっぱい歩いていたり、僕はカンヌ映画祭に行くのは初めてでしたが、本当に凄くモチベーションが上がりました。もっと頑張ろうと思いますし、日本の作品が文化の違う海外の方々にも楽しんでもらえるんだと、自信にもなりました。自分は凄く恵まれているなと感動しました。
― 今作に出演されて、ご自身の中で得られたものは多かったですか?
たくさんありました。山中さんの作品に参加できたこともそうですし、久しぶりに河合さん、寛一郎と一緒に作品を残せて、一緒にカンヌに行けたということは凄く大切な経験でした。この作品に参加したことで、カンヌの皆さんの反応を直に感じることができて、もっと頑張ろう!とあらためて思えたので、僕にとってターニングポイントになる作品になりました。
― ところで、『ナミビアの砂漠』というタイトルから感じるものは?
“砂漠”というと、何もないというイメージだったんですが、この『ナミビアの砂漠』と作品がどう直結しているのか、その真意は監督にしか分からないと思うんですが、“ナミビアの砂漠”は、“何もない”という意味らしいんです。それが一つのテーマなのかなと感じました。
― それでは最後に、これから本作をご覧になる皆さまに向けてメッセージをお願いします。
「『ナミビアの砂漠』って、こういう映画だ」と端的に表現するのは難しいとは思うんですけど、本当に観やすくて面白くて、世界の人にも面白いと思ってもらえる作品です。
どの世代の方にも観ていただきたいですが、特に若い世代の人が観てどう感じるのかというのも凄く気になります。とにかく、観て何かを感じてもらえれば嬉しいです。
撮影:松林満美
映画『ナミビアの砂漠』
脚本・監督:山中瑶子
出演:河合優実
金子大地 寛一郎
新谷ゆづみ 中島歩 唐田えりか
渋谷采郁 澁谷麻美 倉田萌衣 伊島空
堀部圭亮 渡辺真起子
製作:『ナミビアの砂漠』製作委員会
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
2024年/日本/カラー/スタンダード/5.1ch/137分/PG12
公式サイト:happinet-phantom.com/namibia-movie
公式X:@namibia_movie
公式Instagram:@namibia_movie
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