鬼才・筒井哲也が描く人気コミックを原作に、廣木隆一監督の手で実写映画化され、只今絶賛上映中の映画『ノイズ』。
本作は、一人の凶悪犯が持ち込んだ≪1つのノイズ≫が平和な島を飲み込み、島中の人間を巻き込んでいく驚愕の新感覚サスペンスエンターテイメント。
島の復活のため“黒イチジク”の生産に勤しむも、誤って元受刑者のサイコキラー・小御坂睦雄(渡辺大知)を殺してしまう泉圭太を藤原竜也、圭太と幼馴染の猟師・田辺純を松山ケンイチ、同じく幼馴染の新米警察官の守屋真一郎を神木隆之介が演じ、圭太の妻に黒木華、刑事・畠山に永瀬正敏のほか、伊藤歩、渡辺大地、酒向芳、柄本明ほか豪華キャストが集結した。
ヒリヒリとした緊張感の中、事件の核心に迫っていく刑事・畠山努を演じた永瀬正敏さんに今回お話を伺うことができた。刑事役は久しぶりだという永瀬さん。役への思いと映画の見どころ、さらにはご自身の俳優としての原点までたっぷりと語っていただいた。
― 脚本を最初にお読みになったときの感想と、出演の決め手をお聞かせいただけますか?
脚本を読ませていただいて、ちょっと偉そうな言い方かもしれませんが、凄いポテンシャルを感じたんです。ラストの持っていき方がおざなりの事件ものやサスペンスではなく、そこに何かプラスアルファされてる脚本だと思って。それが映像になったときにどうなるんだろうという興味が沸きました。あと、僕は廣木監督とお仕事したことがなかったので、ぜひ一度ご一緒したいと思っていましたので出演をお受けしました。
― 久しぶりの刑事役だそうですね?
そうなんですよ。いつも捕まえられてばかりで悪い役が多くて(笑)。
― 刑事・畠山という役をどのように捉えて演じられたのでしょうか?
たぶん、畠山はある程度のところで最も黒に近いグレーの感情を持ったのでしょう。それを警察官として導こうとしているのだけれど、物的証拠など決定的なものが見つけられなくてちょっとイラついている。
映画をご覧になる皆さんは“誰が殺したのか”最初に分かってしまうので、その気持ちを刑事2人に乗せて観てくださると思うんです。「違うそいつじゃない、そっちじゃない」とか、「そうそう、そこへ行って」もしくは「見つけないで!」のように。でも、そこに行ったら「あれ違うんだ?」となって・・・。畠山と(伊藤歩さん演じる)青木という役は、観ている方々と気持ちを共有することができる役だと思ったので、そのときの素直な感情で動いていかなければいけないと思いました。いわゆる“匂わせ”をしすぎると良くないだろうと考えました。
あとはいかにガムを噛み続けるかですね・・・これは冗談ですけど(笑)。あれだけ噛んでいたら味ないでしょ?っていうくらい噛んでますから(笑)。
― 畠山刑事の言動にはハラハラさせれます。特に意識された点はありますか?
監督とはクランクイン前にも撮影中もいろいろお話をさせていただきました。その中で多少セリフの言い回しなどが変わっていったところもあります。やはり台本上の字面だけでは見えないところ、実際に撮ってみないと分からないこともありますし。監督も「もう少しスカしたほうがいいかな」「もうちょっとガツンと言ってみましょうか」というように仰ってくださって、そのさじ加減は細かく相談し合いました。
― 廣木監督はどの作品においても、長回しで撮影されることが多いとお聞きしますが、今回ご一緒されて監督の印象はいかがでしたか?
はい、長回しでしたね(笑)。でも、芝居の気持ちが切れないので、僕ら役者にとっては凄く嬉しいことです。細かくカットを入れる撮影方法もありますが、最近はカットを割っても頭から最後までお芝居を通して、それを何度もやるって事が多い気がします。やっぱり人間ですからいくら役者でもロボットみたいに全部同じ芝居はできないんですよ。「え?ここをワンカット?」と驚くところもありましたけど、監督に「このシーンはワンカットで!」って言われると、現場の俳優部はもちろんですが、スタッフの方々も一気にテンションが上がって、体温も少し上がっている感じがします。絶対いいシーンを撮るぞ!成功させるぞ!と気合いが入るんです。そういう緊張感がある現場はやっぱりいいですね。
現場に役者の控え室というか、休憩室みたいな場所があるんですが、藤原くんが松山くんに声をかけて、目の前で突然自主練習を始めたりするんです。最近はあまりそういう現場を見ることがないですね。僕は二人が真剣にやってる後ろ姿を見ながらコーヒー飲んでいたり、写真撮ったりして・・・迷惑かけちゃったかもしれませんが(笑)。そういう陰の努力の部分もこの映画の中に入ってるんじゃないかと思います。
― このコロナ禍での撮影も大変だったのでは?
その緊張感もありました。1人でも感染した人が出でしまったら大変なので、皆さん凄く注意しながら進めていました。島が舞台なので、地元の方々やエキストラの方々にもご迷惑をかけられないので、とても気を使われていたと思います。
― 緊張ある現場だったのでしょうか?
(コロナ禍は)受け入れざるを得ないというか、それでも今映画を作るのだから、そういう状況を受け入れるしかない。でも、力を抜くところは抜いてっていう感じでした。みんな仲良くて和気あいあいとした雰囲気でしたよ。
― 今作には個性豊かな実力派俳優の方が揃いましたが、中でもダブル主演を務められた藤原竜也さんと松山ケンイチさん、そして神木隆之介さんの演技とお三方のバランスもとても素晴らしいですね。ご一緒されていかがでしたか?
3人とも1人で主役を張れる方々ですし、それぞれ本当に凄かったです。藤原くんの座長っぷりも素晴らしかったし、松山くんの嘘のない芝居も素晴らしかった。そして、神木くんの役に真摯に向かっている姿も。神木くんとお芝居をしていて僕の刑事役の肉付けの仕方が少し変わった気がします。
― 『ノイズ』というタイトルですが、最初に渡辺大知さん演じる小御坂が島に入ってきたことが1つのノイズとなり事件が起きてしまう。そこから物語は始まりますが、畠山たちが島に入ってきたことも1つのノイズと考えられますか?
ある意味、全員がそうかもしれないですね。島の中でも生活していれば生活している中でのノイズがあるでしょうし、友情関係のノイズや仕事上で上司と部下の関係にもあるかもしれない。実際に生活している中にはどこにでも小さなノイズって結構あるのかも知れないですよね。何気ない一言で「なんだあいつ」みたいになることもあるじゃないですか。そんな日々の小さなノイズが強くなっていくと大きなノイズになるんだろうなと感じました。この映画はそういうところも表現しているのではないかと思います。
― 最初は小さな島の話だと思っていても、観終わったときには他人事とは思えないかもしれませんね。永瀬さんは完成作品をご覧になっていかがでしたか?
その通りだと思います。畠山はあまり感情を表に出さない人間ですが、あるシーンで集まっていた人たちに対して、思わず感情をあらわにしてしまう場面があるんです。その人たちには悪気はないんですが、今のSNSの時代の背景を含めて考えさせられるところでもあります。様々な要素が絡み合い、それをエンターティメントとして完成させている、廣木監督の凄さを感じた作品でした。
― その中で特に印象に残ってるシーンや注目ポイントがあったら教えてください。
藤原くん、松山くん、神木くん、それぞれのキャラクターのお三方の目の表情が印象的でした。それが見どころの一つだと思います。何かを抱えてしまった、抱えざるを得なかった、その人たちのそれぞれの目の表情。後半は特に注目してほしいです。
― 少し話が変わりますが、永瀬さんが俳優をずっと続けられてきた俳優の魅力、永瀬さんが感じている映画の魅力とは何でしょうか?
僕のデビュー作が相米慎二監督の作品だったのですが、相米監督から現場で1回もはっきりとOKをもらっていないんです。「そんなもんだろう」とか「次いこうか」みたいな声がOKなんです。デビュー作がそんな感じだったので、僕は役者としていつかまた一緒になったときに、思わず相米監督の口から「OK!」って言わせる役者になってやろうということを目標にしてきました。
ところが、相米さんが先に天国に行ってしまったので、永遠に「そんなもんだろう」の役者になってしまって・・・。未だにそこをずっと追いかけてる感じがします。1つの作品を撮り終えると、相米さんがこれ観たらOKを言っているかなとか考えてしまいます。相米さんはずるいですよね、先に逝っちゃったから。そこが今でも僕の一番の原動力なのかも知れません。
僕は相米監督の現場でデビューするまでは一切お芝居の練習とかやったことがなかったですし、ずっと田舎の音楽好きの兄ちゃんでした。初めて体験した現場で映画というものにやられちゃったんですね。それもやっぱり相米監督のせいですね(笑)。僕は映画を観ることでも、演じることでも人生の節々で、色々な出会いも含めてたくさん助けられてきているので、僕にとってはやはりなくてはならないものです。役者は呼ばれなくなったら終わりですけど、それでも何か映画の現場には関わっていたいと思っています。
― 私たちもずっと永瀬さんの演技を見続けたいです。それでは最後にこれからこの作品をご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
次から次へと大どんでん返しの猛ラッシュで、息つく暇もない展開。たぶんあっという間に観終わってしまうと思います。それをぜひ映画館で体感していただきたいですね。今の世の中の状況を考えると声高には言えませんが、ご自分の健康を守っていただいて大きなスクリーンで観ていただけたら嬉しいです。
【永瀬正敏 Masatoshi Nagase】
1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。
相米慎二監督の『ションベン・ライダー』(83)で俳優デビュー。山田洋次監督の『息子』(91)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞のほか、多くの作品に出演し、数々の賞を受賞している。台湾映画『KANO~1931海の向こうの甲子園~』では、金馬映画祭で主演男優賞に初めてノミネートされるなど、国内外で活躍。主な作品に『あん』(15/河瀨直美監督)、『64-ロクヨン-前編/後編』(16/瀬々敬久監督)、『Vision』(18/河瀨直美監督)、『パンク侍、斬られて候』(18/石井岳龍監督)、『ある船頭の話』(19/オダギリジョー監督)、『カツベン!』(19/周防正行監督)、『ファンシー』(20/廣田正興監督)、『名も無い日』(21/日比遊一監督)などがある。また、写真家としても活躍。多数の個展を開き、20年以上のキャリアがある。2018年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
インタビュー撮影:ナカムラヨシノーブ
映画『ノイズ』
絶海にぽつりと浮かぶ孤島“猪狩島”――過疎化に苦しむ島だったが、島の青年・泉圭太(いずみけいた)が生産を始めた“黒イチジク”が高く評価され、島には地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民たちには復活という希望の兆しが見えていた。そんな平和な日常がある男の登場によって一変する。男の名前は、小御坂睦雄(こみさかむつお)。圭太と幼馴染の猟師・田辺純(たなべじゅん)、新米警察官の守屋真一郎(もりやしんいちろう)の3人は小御坂の不審な言動に違和感を覚え追い詰めていくが、その日の夕方、圭太の娘の失踪を機に、誤って小御坂を殺してしまう。
島の未来、そして家族の未来を守るため、3人はこの殺人を隠すことを決意。しかし、小御坂の足取りを追って県警が大挙に押し寄せて静かな島は騒然とする――。なんと小御坂は元受刑者のサイコキラーだったのだ。圭太たちの殺人、警察の捜査、島民たちの結束、そして次々と増える第2、第3の死体…。果たして圭太たちはすべてを隠し通せるのか!?凶悪犯が持ち込んだ一滴の悪意<ノイズ>が、染みのように徐々に広がっていき、平和な島を飲み込んでいく。そして、あなたの想像を裏切る衝撃の結末が待ち受ける―。
主演:藤原竜也 松山ケンイチ
出演:神木隆之介 黒木華 伊藤歩 渡辺大知 酒向芳 迫田孝也
鶴田真由 波岡一喜 / 寺島進 / 余貴美子
柄本明 / 永瀬正敏
原作:筒井哲也「ノイズ【noise】」(集英社 ヤングジャンプ コミックス GJ刊)
監督: 廣木隆一
脚本: 片岡翔 音楽: 大友良英
企画・プロデューサー:北島直明
製作・企画: 日本テレビ放送網
制作:クレデウス
配給:ワーナー・ブラザース映画
クレジット: ©筒井哲也/集英社 ©2022映画「ノイズ」製作委員会
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/noisemoviejp/
公式Twitter:@noise_movie #ノイズ
大ヒット上映中!