イタリア・アカデミー賞こと、「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」で作品賞・脚本賞の2冠を達成し、ロングラン上映を続ける映画『おとなの事情』。この度、本作を手がけたイタリアコメディの俊英、パオロ・ジェノヴェーゼ監督が来日し、Astageのインタビューに応じてくれた。
月食の夜に集まった大人たちが、食事中にかかってきたスマートフォンの内容をみんなにオープンにするというゲームをきっかけに、これまで隠していた秘密が次々と暴露されていくことに・・・。夫婦や家族、それぞれの悩みや葛藤、愛と嫉妬の様を描く大人の物語。本作を制作しようと思ったきっかけや映画に対する思いをジェノヴェーゼ監督に語ってもらった。
― 本作を日本の映画ファンの皆さんに観ていただくお気持ちをお聞かせください。
イタリアの観客が感じるような気持ちを同じように感じてもらえたら嬉しいですね。映画を作っている人たちは皆、どこの世界でも認められるようになりたいと思っている。どこの国であっても同じような感動を得てくれる、そうあって欲しいと思うものです。もちろん自分もそうです。
― 7人のキャラクターは日本にもいるような普通の人たち。そんな大人たちの話を今、映画にしようと思ったのはなぜですか?
今こそこれを撮るべきだと感じたのは、私たちの世代が唯一、スマートフォンが有る無いの両方の時代を知っている、つまり、スマートフォンの導入によって人間関係が大きく変化したことを知っている世代だと思ったからです。
昔はそれぞれの人の頭の中にあったものが、今、私たちは全てスマートフォンの中に入れている。秘密が入っているスマートフォンを使って私たちは他の人たちとの関係も築いている。それを映画として観せるのは凄く面白いんじゃないかなって考えました。
― 劇中で開くパーティを月食の夜にしたのはどうしてですか?
メタファー的に、月食というのは“何かを隠す”とか“暗くして見えないようにする”という意味がある。私たちのスマートフォンの中には自分たちの秘密が隠されているということで、“月食”の夜にしました。
― 個性が光るキャラクターたち、テンポのいい会話が心地いい作品ですが、キャラクターの設定、またそれぞれのエピソードを集めるのは大変ではなかったですか?
確かに脚本にはとても時間をかけました。難しかったのは、スマートフォンに隠されている秘密という素材はもの凄くたくさんあるわけで、その中から観てくださる人たちが面白いと思い、なおかつ共感してくれるようなテーマを選び出すことでした。本当に大変でした。
― 7人中で、監督が好きなキャラクターはいますか?
全部好きです。それぞれがはめ込まれたピースのように、全員がこの物語を語るのに欠けてはならないものになっていると思います。
― 監督が映画を製作するにあたっての信念は?
自分が観に行きたいと思うような映画を作ろう!といつも思っています。
― 逆に、あまり好みではない映画は?
私自身、映画が大好きで何でも観ます。だから、これが好きでこれが嫌いというジャンルはないのですが、映画において重要なのは、その作品を観ることによって自分の感情に訴えるものがあることだと思っています。
― これまで監督がご覧になった映画のなかで、特に刺激を受けられた作品はありますか?
いっぱいありますが、イタリアコメディをはじめ、フランス映画、英語のブラックコメディ、「(日本タイトル)マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」など、コメディだけど社会的風刺を含んだ映画、そしてアメリカ映画ですね。
― 日本の映画もご覧になりますか?
イタリアにはあまり日本の映画が入ってこないのですが、北野武監督の作品はすごく好きです。そして黒沢明監督はやはり巨匠だと思っています。
― 監督の作品はイタリアを舞台にすることが多いのですか?
イタリア以外もありますよ。次回の作品はマンハッタンを舞台にした映画になっています。
あと、今回のように作品のプロモーションで海外を訪れると、作品を作るうえでとても刺激になりますね。
― 劇中に「日本人のようにねちっこい・・・」というセリフがありますが、イタリア人から見た日本人のイメージは?
そのセリフは別として、イタリア人から見た日本人は「最後まで諦めない」というイメージです。どこからそのイメージが来るのかわかりませんが、たぶん第二次世界大戦の“神風”などから、とにかくやるだけやって、目標に進んでいくという・・・感じでしょうか。
― 日本では若者に限らず、今、人と直接関わることを避けようとする傾向があり、その象徴としてスマートフォンのツールを中心とした生活があると思いますが。
そうですね、自宅に居ながら、このようなコミュニケーションツールを使えば、一度に何百人の人とコミュケーションを取ることができる。誰かに会いに行く必要もない。そっちのほうが楽だし、飽きたらスイッチを切ってしまえばいいわけですから。イタリアでも同じような傾向があります。問題ですね。
― 監督が本作で伝えたいメッセージは?
長年自分の近くにいて、よく知っているつもりになっている人も、もしかしたらあまり解っていないかもしれない・・・ということを、この映画を観て一度考えてほしいです。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督 プロフィール
1966年ローマ生まれ。大学卒業後、広告分野の仕事に就き、300以上のCMを監督して 数々の賞を受賞。その後、映画製作に取り組み始め、ルカ・ミニエロと共同監督した短編映画 『Neapolitan Spell』(1998)がロカルノ映画祭で上映されて脚光を浴びる。以後、2人の 共同監督作品として短編のリメイクである『Neapolitan Spell』(2002)で長編デビューを 飾り、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を受賞。『La banda dei Babbi Natale』(2010)で 初めて単独で監督デビューし、イタリアで大ヒットを記録。本作は国内で興収20億円を 超えるヒット作となり、世界からリメイクのオファーも殺到している。
映画『おとなの事情』
<ストーリー>
「今では携帯はプライベートの詰まったブラックボックス。ゲームをしない?食事中、かかってきた電話、メッセージをみんなオープンにするのよ」。 友人夫婦7人が集う夕食の場で、エヴァはいきなりそう提案した。「何かやましいことがあるの?」と詰め寄る女性陣に、男性陣も渋々ポケットをあ さり、テーブルには7台のスマートフォンが出揃った。メールが来たら全員の目の前で開くこと、かかってきた電話にはスピーカーに切り替えて話す ことをルールに、究極の信頼度確認ゲームが始まる――!
◆監督:パオロ・ジェノベーゼ
◆出演:ジュゼッペ・バッティストン、アルバ・ロルヴァケル、ヴァレリオ・マスタンドレア、カシア・スムトゥニアク
配給・宣伝:アンプラグド
2016 年/イタリア/イタリア語/96 分
原題:Perfetti Sconociuti
©Medusa Film 2015
公式サイト:http://otonano-jijyou.com
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