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映画『家族のレシピ』エリック・クー監督インタビュー! この映画を通じて世の中にもっと愛と慈悲を満たしたい! 斎藤工と松田聖子の演技も絶賛!二人の自然な演技の秘話とは!?

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日本とシンガポール、それぞれの食文化の中でも庶民が愛するソウルフードをモチーフに家族の絆を描いたドラマ、映画『家族のレシピ』が、全国公開中だ。

シンガポールと日本の外交関係樹立50周年をきっかけに製作された本作は、斎藤工演じる主人公・真人が、父親の死をきっかけに幼いころに亡くした母の地元・シンガポールに旅立ち、一度はバラバラになってしまった家族の絆を取り戻すために奔走する物語。

監督は、カンヌ・ヴェネチア、トロント、ベルリンなどの国際映画祭で常に高い評価を得る、アジアの巨匠エリック・クー。日本とシンガポールの食文化の橋渡しを担う真人役に斎藤工、シンガポール在住のフードブロガー・美樹役を松田聖子、その他、伊原剛志、別所哲也に加え、シンガポールからも人気コメディアンのマーク・リーや国民的女優のジネット・アウなど豪華キャストが顔を揃え、シンガポール・日本・フランス合作映画として誕生した。

この度、Astageではエリック・リー監督にインタビューを行い、本作への熱い思い、日本への愛から斎藤工の真摯な姿勢、昔からファンだったという松田聖子の裏話まで、たっぷりと話を聞くことができた。

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― 「食」をテーマにした映画を制作しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

それは、私が(食に)取り憑かれているからでしょう(笑)。そして、亡くなった僕の母へのオマージュでもあります。最後に出てくる料理は、母がよく作ってくれたものを並べました。食と記憶はつながっていて、何かを口に入れるとワァ~とその時の思い出が蘇ってきます。真人がスーツケースを開けると、そこには思い出が詰まっている。そこから食に繋がる物語が始まっていくんです。

― 最後に出てくる料理は監督のお母様へのオマージュとのことですが、それは本作をご覧になる皆さんの家族の味を思い出させるシーンとなるのでしょうか?

まさに、それが僕が意図したところです。自分の愛する人に料理を作ってあげるということは普遍的なもの。ベルリン国際映画祭でもジャーナリストの方が泣きながらインタビューをしてこられました。「家族、誰かが自分のために料理を作ってくれた気持ちが思い出として蘇ってくる」と仰っていました。

― 監督が思うシンガポールと日本の、食、文化、人の違いを教えてください。

私は日本が大好きです。美的感覚があらゆるところに細かく配慮されているんです。例えば、“弁当”にも美学があるし、会席料理は究極な形だと思います。全てのものに見せ方というものが考えられ計算されているのが日本の料理。シンガポールの美味しいものは、いわゆるストリートフード、屋台で作られるものなので、綺麗に見せるのではなくて簡単に紙で巻いていたりします。ただ、今回の主人公が中国系と日本人のミックスの青年ということで、彼が体現する象徴的な「食」は何だろうと考えたときに「ラーメン」と「バクテー」が思いついたんです。ラーメンも元々は質素な屋台の料理でしたよね。バクテーも労働者が食べる非常に質素なものが始まりだったんです。そういうものを彼(真人)に盛り込みたいと思いました。

日本の撮影隊とシンガポールの撮影隊でも違いが現れていました。日本の撮影は予定を立てて、計画に外れないように進めていくスタイル。シンガポールはわりと場当たり的に即興で作っていき、ちょっと予測不可能なところがあります。だんだん仕事をしていくうちに僕の撮り方を日本のクルーの皆さんも理解してくださいました。違いはあっても最後には僕たちはとてもいい友達なったことが一番良かったことです。

― 監督が特に日本の文化に興味を持たれたのはどうしてでしょうか。

日本人というのは礼儀正しくマナーのいい人が多いと思います。これは個人個人が文化に根付いた良識を持って行動しているからだと思います。それが日本の美的なセンスにつながっている。例えば畳をみると、作られ方、置き方一つをとっても非常に深いものがある。私はそんな日本文化を尊重して敬意を払っています。刺身の切り方1つをとっても、刃の入れる角度によって味や見え方も変わってくるんです。

― 凄い!日本人の私たちより日本文化を理解されているようです。たとえば、障子の閉じ方も繊細に映している気がします。色々な意味も含まれていると思いますが。

そうですね。真人が自分探しの旅に出る大切なシーンですから。

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― ところで、日本は高崎がロケ地になっています。なぜ高崎だったんでしょうか? そして、高崎観音がずっとモチーフとしていた理由は?

シンガポールとのコントラストを取るため、日本では小都市で撮影したいと思っていたところ、高崎が候補にあがってきました。高崎について何も知識がなかったので、まずはネットで画像を探したら巨大観音が出てきたんです。私はとても信心深く、自分が幼いころから母が連れて行ってくれた寺院に観音様がいて、今でも観音様に拝んでいます。なので、観音様を見たとたん「あの巨大観音のところに行く!」と言いました。それだけではなく、高崎は風光明媚でとても良いエネルギーを感じました。実際に現地に伺ったところ、市長さんをはじめフィルムコミッションの皆さんが本当に協力的で、高崎での撮影は運命を感じるくらい、私の人生のなかで非常に幸せな日々の1つになりました。

― 言葉を超えた和解と融和の世界を象徴するものとして、高崎の観音様がピッタリだったのですね。

まさにその通りです。

― とても幸せな撮影だったようですが、そのなかで松田聖子さんの撮影は外せないと思いますが(笑)、実際にお会いしていかがでしたか?

僕は、聖子さんのレコード全部持っていますよ(笑)。聖子さんとプロデューサーさんがお知り合いだと知って、「絶対にお会いしたい」とお伝えしたんです。今作の美樹という役がらに聖子さんはどうかな?と思って相談したところ、プロデューサーさんが聖子さんに脚本を渡してくださって。聖子さんは脚本を読んでとても気に入ってくださり、スカイプでお話しました。私はすっかり聖子さんのスターオーラにやられてしまいまして・・・(笑)。しかし、5分も話すと彼女が役の解釈を的確にしていたことが分かり、もう(美樹役は)彼女しかいないと確信しました。聖子さんは英語も堪能でいらして、芯の強いシングルマザーの美樹役にピッタリでした。工さんは真人役にとても共感してくださり、お互いなりきって演じてくれました。ただ、シンガポール人が日本のことを考えて英語で書いた脚本を日本語に訳したものを彼らに渡しているので、現場では(役の)彼らになりきってご自身の言葉で話してもらいました。だからお互いのやり取りが上手くいったんだと思います。

― 二人のやり取りがセリフとは思えない、まるでドキュメンタリー映像を観ているかのようです。

自然ですよね。まさにドキュメンタリー撮影です。非常に有機的なんですが、撮影最中にも私が急に「あれ、入れようよ」と言い出すから、日本のクルーには先が見えなくて、まるでジェットコースターに乗っているようだったかもしれません(笑)。聖子さんもとってもナチュラルに演じてくださって、あまりにも素晴らしくて2テイク以上撮影することはありませんでした。美樹にかなり共感されて、彼女なりにサジェスションの作業をされたようです。キャストたちは単なる演技者ではなく、(演じる上で)一緒に考えて想像したんです。

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― 斉藤さんと松田さんのいつもと違う側面が見えた気がします。

映画を観るたびに、二人の演技が素晴らしくて泣けてきます。特に最後の工さんのシーンは撮影している私たちも泣かされました。今回は本当にチームで作り上げたという印象が強いです。本当に仲良くなって、こうやって日本に来ると「ちょっと飲みに行こうよ」って誘う友達がたくさんできました。今、世の中では困難な事が多くありますが、そういう状況にこの映画が何かポジティブなものを与えることができたらいいなと思っていましたが、まさに私たちクルーがその影響を受け体現し、映画作りによって繋がることができました。

― 斎藤さんは俳優のほか監督業もされていて、共演者の別所さんは監督の以前の作品『TATSUMI マンガに革命を起こした男』で声優として出演されています。作品に対してディスカッションすることもあったのでしょうか?

別所さんは前作において、声色を駆使して7人の役を演じてくれました。声だけの出演だったので、ハンサムなお顔が登場しないのはもったいないということで、今回出演していただきました(笑)。『TATSUMI マンガに革命を起こした男』でシンガポールに来てくださったときに、バクテーのお店に連れて行ったら、あのいい声で「バクテー、美味しい!」と仰ってくださって。これは彼と何かやらなくてはいけないと思ったんです。あまりに(バクテーを)美味しそうに召し上がるので、今作はそこからヒントを得たかもしれないですね。

工さんに関しては、彼の短編も長編も素晴らしくて楽しく拝見しました。同じ監督としていろんなお話ができたのも楽しかったです。工さんに「ホラー好き?」と聞いたら「好きです」というので、実は私がディレクションしているHBOアジアのオリジナルシリーズ「フォークロア(原題) / FOLKLORE」プロジェクトのオムニバスドラマで監督として参加してもらうことになったんです。

― どんどん輪が広がっていくのですね。

そうですね。日本が大好きなので、次の作品もぜひ日本で撮りたいですね。

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― また、本作では戦争についても触れています。歴史上の問題を抱える国々において、芸術は何ができるのか。監督ご自身はどのように考えていらっしゃいますか?

脚本には、「真人が戦争博物館に行く」とだけ書いてあって、工さんには私が現地に到着する1時間前に見学してもらっていたんです。私が到着すると彼は青白い顔をして走ってきて、私の手を取って言うんです。「本当にごめんなさい。僕は何も知らなかった」と。工さんはその日、1日中そのことにとらわれていて別人のようでした。しかし、戦争博物館に行ったことで、なぜおばあちゃんが自分(真人)に対して頑なな態度を取っていたかが理解できたわけです。映画に自分が経験したことがそのまま映っているんです。彼は「この作品を観ることによって、私の経験が観客の皆さんと共有されるということはとても意味があることです」と仰っていました。配給元のフランスの人々も驚いていました。大きな歴史の枠組みは分かっていても、細かい国の歴史については知らないことが多いですよね。
人間にとって人生は続くもの。和解があって許しがないといけないので、そういうことを示すことは必要だと考えます。

― まずは「知る」ということから前進していくのですね。それでは最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

この作品は、スタッフ、キャストみんなの情熱と愛でできている映画です。世の中にはもっと愛と慈悲、許し、和解であふれるべきだと思っています。

【エリック・クー監督 プロフィール】
1965年、シンガポール生まれ。オーストラリアのシティ・アート・インスティテュート(現ニューサウスウェールズ大学アート&デザイン学部)で映画製作を学び、多数の短編の監督を務めたのち、『Mee Pok Man』(95)で長編デビュー。『12 Storeys』(97)がカンヌ国際映画祭・ある視点部門で上映されて以来、同映画祭の常連となる。『TATSUMI マンガに革命を起こした男』(11)、シンガポール・香港合作の『In the Room』(15)ほか、多くの作品を製作。さらにアジアを代表する監督・プロデューサーとして、斎藤工を含む6カ国の監督が参加するHBOアジアのホラーシリーズ「FOLKLORE」(18)のショーランナーを務める。

家族のレシピ ポスター&ちらし表

シンガポール・日本・フランス合作映画
『家族のレシピ』
原題:RAMEN TEH
出演:斎藤工、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子
監督:エリック・クー
料理監修:竹田敬介
スチール:レスリー・キー
公式サイト:https://www.ramenteh.com/

シネマート新宿ほか 全国順次公開中!