スクリーンに、喝采を。カーテンコールに、心からの拍手を。
夢へ誘われる、幻想的なバレエに。心を奪われる、情熱的なオペラに。
© 2019 ROH. Photograph by Andrej Uspenski
元プリンシパルで世界的スター、カルロス・アコスタが振付けたバレエの楽しさが詰まった陽気な作品。
ガラ公演でも頻繁に上演される3幕の結婚式の華やかなパ・ド・ドゥには、32回転のグラン・フェッテ、男性ダンサーのダイナミックな跳躍など見せ場がたっぷりある一方、2幕では、森の女王や妖精たちが登場し美しいクラシック・バレエの粋が味わえる。闘牛士や踊り子、ジプシーなど生き生きとしてパワフルな登場人物たちのコミカルなやり取りとスピーディな場面展開が、憂鬱な気持ちも吹き飛ばしてくれる最高の娯楽作だ。日本人プリンシパルの高田茜が主演するのも話題である。
英国ロイヤル・バレエ芸術監督ケヴィン・オヘアは、就任後の最初の大きな仕事として、しばらく上演が途絶えていた『ドン・キホーテ』の新しいプロダクションを構想。2013年、バレエ団を代表する人気ダンサー、カルロス・アコスタが抜擢され初の全幕作品に取り組み、初演では自ら主演した。舞台上でダンサーたちが賑やかな掛け声をかけ、テーブルや馬車の上でも踊り、スペインの街角の雰囲気を出すために、街の人々もたっぷりと踊りを見せる等、陽気な娯楽性をさらに追求した。また2幕では、ロマンティックなパ・ド・ドゥが加えられたほか、ジプシーの野営地では舞台上にミュージシャンが登場して演奏し、新しい振付も登場してエキゾチックな雰囲気を盛り上げた。舞台装置が出演者によって動かされることでさらに活気ある舞台に仕上がり、3幕のフィナーレもより祝祭性の高いものに。ドラマティックな演技を得意とするロイヤル・バレエのダンサーたちは作品に厚みを加え、一人一人の物語がくっきりと浮かび上がってより魅力的な舞台となった。
ヒロインのキトリ役には、古典からドラマティック・バレエ、そして現代作品までレパートリーを広げて進化を続ける日本人プリンシパルの高田茜。ボリショイ・アカデミー出身でクラシック・バレエは得意中の得意の彼女が見せる、グラン・フェッテやスピードと柔軟性が求められるカスタネットのソロは大きな見所だ。夢の場面ではドルシネア姫役も踊り、キトリとは対照的な優雅さと、ひときわ高く美しい跳躍も見せてくれる。バジル役には、陽気なキャラクターが役にぴったりのアレクサンダー・キャンベル。男性ダンサーの魅力が詰まったこの役で、華麗な超絶技巧の数々を見せるとともに、コミカルな演技で作品を引っ張る。
なお、6月のロイヤル・バレエの来日公演で、この『ドン・キホーテ』は上演される予定。
振付を担当したカルロス・アコスタは、2020年1月よりバーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督に就任されることが発表された。
© 2019 ROH. Photograph by Andrej Uspenski
5月17日より公開される、ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン『ドン・キホーテ』。準主役と言うべき森の女王役を踊るのは、別キャストでは主役キトリも踊っている金子扶生。今シーズンは、オープニングの『うたかたの恋』ミッツィー・カスパー役、『くるみ割り人形』の金平糖の精と薔薇の精などで大活躍し、華やかで優雅な踊りで、日本でシネマシーズンを楽しんでいる観客にもおなじみの存在となった。今乗りに乗っている彼女に、『ドン・キホーテ』で2つの役を踊り終えた気持ちと、日本のファンへのメッセージを伺った。
Q.『ドン・キホーテ』では、前回上演された時にも主演されましたが、舞台の上で大きな怪我をされてしまいましたね。因縁がある役ですが、今回はどのような想いで踊られましたか?
A.前回は初めてキトリ役として、全幕をロイヤル・バレエで踊る機会を頂いたところで怪我をしてしまい、今回もキャスティングしていただきました。役へのカムバックとなったわけです。この役で怪我をしたことがトラウマとなってしまい、精神的にもかなり緊張していたのですが、すごく楽しい舞台になりました。しかも、パートナーが直前に怪我で代わって、全然リハーサル時間も取れなかったのです。ゲスト・ダンサーのダニエル・カマルゴと踊りました。彼はとても上手なダンサーで良いパートナーで、落ち着いて楽しんで踊ることができました。そのあと、1か月くらいキトリ役を踊っていなくて、もう出番は終わったと思っていたら、急病人の代役として急きょもう一度マシュー・ボールと踊ることになりました。キトリは踊りがとてもたくさんある役で、一か月以上も毎日練習して舞台に持っていくのですが、その時も急に言われて、びっくりしたのです。何とか無事に終えました。キトリ役を踊るにあたってはいろんなことがあったので、踊り終えたことが一番私にとって今シーズン大きかったことだし、嬉しいことでした。
Q.今回映画館での上映では、森の女王役を踊られていますね。
A.この役は、観た人が考えるよりもずっと難しい役です。4人くらいのダンサーとこの役を交代で踊っているのですが、みんなストレスが溜まっています(笑)。「2分間の舞台なのになんでこんなに難しいの!」と。私もストレスを感じていました。森の女王役を踊っていれば、キトリ役を踊るのも楽になると感じたほどです。この役があまりに難しいので、キトリを踊るときにはストレスなく、もっと楽しめたのですよね。私が踊った3回目がシネマ用に収録されましたが、その後も何回も踊らせていただき、回を重ねるごとに楽しめるようになりました。
Q.『ドン・キホーテ』ではキトリ役と森の女王役の二つの役を踊ったり、代役で急に踊ることになったり、体力的にも厳しかったと思いますが、このハードスケジュールを乗り切るコツは?
A.映画館で中継された公演の三日後にも、キトリ役を踊る予定だったので、頭がごちゃごちゃになりそうでした。体力的にもかなり限界だったのですが、一つずつ丁寧にこつこつ踊っていくことが、精神的にも体力的にも大事なことだと思いました。
Q.今回、この映画館での上映は世界26か国、1139スクリーンでの上映と大規模なものですが(日本での上映はこれから)、金子さんには、その反響はどのように伝わってきていますか?
A.観た後でメッセージを送ってくださる方がいたのはとても嬉しいですね。シネマは、何よりも家族が日本にいながら私の舞台を観てくれるのが一番嬉しいです。「ドン・キホーテ」はまだ日本での上映はこれからですが、「くるみ割り人形」などを楽しんでくれました。映画館上映では、カメラがズームインするので、お客さんが客席から観るのとはまた全然違うので、緊張します。シネマの魅力は、出演者皆の表情が見えることで、客席で見るよりもっと近くで見られるのですよね。
Q.金子さんにとって、キトリとはどんな女の子で、彼女のどんなところを見せたいと思いますか?一方森の女王役を踊るときにはどんなことを心がけましたか?
A.キトリは登場するだけで周りが明るくなるような笑顔の眩しい太陽みたいな女の子。何もしなくても村一番に輝いている子です。町中の男の子を虜にしてしまうような魅力もたっぷり。カルロスが、私が舞台上でそのように見えるように指導してくださったのです。「自分が最初から一番輝いているのだから、何もしなくていい、無理しなくていい」と。こんなスパニッシュの女の子を演じることができるかは正直不安でしたが、キトリのメークアップをし、赤い衣装を着て赤い花の髪飾りをつけ、オーケストラの音楽を聴いて舞台に飛び出るとキトリになるんです。森の女王は、やはり女王なので品格が大事だと思うのですが、その場面だけ、とてもクラシック・バレエ的で、1幕や3幕とは全然違います。クラシック・バレエの美しさを魅せないといけません。その違いを見せられたらいいなと思います。
© 2019 ROH. Photograph by Andrej Uspenski
Q.ロイヤル・バレエの作品は演劇的ですが、高田さんや平野さんは舞台上にいる時に、二人とも心の中で台詞を言いながら演じられているとおっしゃっていました。金子さんは台詞などを口に出してみたりしますか?
A.普通に会話するように舞台の上で演じることを心がけています。そうでないと、自分が何をしているのかがわからなくなるからです。演技する相手が英語を話すので英語のセリフで話していますね。
Q.忙しい毎日だと思いますが、オフの日のリフレッシュ方法やバランスのとり方があったら教えてください。
A.確かにロイヤル・バレエのスケジュールはかなり忙しく、身体的にも精神的にもリラックスできる時間はとても重要です。私は公演のない夜はご飯を作って家でゆっくり映画などをみるのが好きです。いつも時間があまりないので早く作れる物になりがちですが、時間がある時は料理するのが好きですね。
Q.日本の観客の皆さんへのメッセージをお願いします。
A.シネマシーズンの『ドン・キホーテ』はとっても楽しいです!私もお客様と一緒に楽しめるようなバレエなので、ぜひ観に来ていただきたいです。日本公演も近づいていて、予習にもなるのでぜひ!
Q.Instagramに『ドン・キホーテ』のファンの皆様から投稿をストーリーズにまとめてアップされていましたが、金子さんにとってファンはどんな存在ですか?
A.凄い力になります。本当に応援していただけてすごい嬉しいです。
Q.シネマシーズンを通して『ドン・キホーテ』が初めて見るバレエ作品のお客様もいるかと思いますが、日本のお客様に特に注目してほしいポイントを教えてください。
A.シネマで見ると、客席からでは見れない、もっとダンサーを間近で見ることができるので、ダンサーの表情とか物語がすごい分かりやすいと思うので、ぜひシネマシーズンにトライしていただきたいです。(初めての方こそシネマシーズンの方が見やすいと思いますか?)そうだと思います!もちろんですね。あと、シネマだと休憩ごとに物語の解説というか舞台裏映像なども見ることができるので、それも楽しいと思います。
(c) ROH Johan Persson (2013)
ロイヤル・バレエ『ドン・キホーテ』
【あらすじ】
老紳士ドン・キホーテは、読みふけっていた本に登場する美しい姫ドルシネアを夢に見て恋する。ドルシネア姫との出会いを夢見て、従者サンチョ・パンサを引き連れて騎士を気どり冒険の旅に出る。陽光あふれるバルセロナの街角。町娘キトリは床屋のバジルと恋仲だが、父ロレンツォは娘を金持ちの貴族ガマーシュに嫁がせようと目論み、二人の仲には反対だ。街にドン・キホーテとサンチョ・パンサが現れ、キトリこそ夢の姫君ドルシネアだと思いこむ。
恋人たちはジプシーの野営地に逃げ込む。そして再びドン・キホーテの夢の中、ドルシネア姫、キューピッド、そして森の女王や妖精たちが踊り、甘美なひと時が過ぎて行く。キトリとバジルは街の居酒屋で友人たちと祝杯を上げようとするが、そこにはロレンツォやガマーシュも待ち構えていた。バジルは、結婚を許さないなら死んでやると狂言自殺をし、ドン・キホーテに説得されたロレンツォは二人の結婚を認める。そして二人の結婚式が華やかに行われる。恋人たちの仲を取り持ったドン・キホーテはサンチョ・パンサを引き連れ、再びドルシネア姫を追って次の冒険へと旅立つ。
【原版振付】マリウス・プティパ
【演出・追加振付】カルロス・アコスタ
【音楽】レオン・ミンクス
【指揮】マーティン・イエーツ
【出演】ドン・キホーテ:クリストファー・サウンダーズ、サンチョ・パンサ:フィリップ・モーズリー、キトリ:高田茜、バジル:アレクサンダー・キャンベル
エスパーダ:ヴァレンティノ・ズケッティ、メルセデス:マヤラ・マグリ、キトリの友人:崔由姫、ベアトリス・スティクス=ブルネル
キューピッド:アナ・ローズ・オサリヴァン、ドルシネア:ララ・ターク、ドリアードの女王:金子扶生
ロレンツォ(キトリの父):ギャリー・エイヴィス、ガマーシュ:トーマス・ホワイトヘッド
公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/
配給:東宝東和
5月17日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか、全国公開!!