今年で3回目を迎えた「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」が、東京・YEBISU GARDEN CINEMAにて11月1日(金)に開幕。オープニングセレモニーに続いて、オープニング作品の「ラスト・ダンス」(原題:破.地獄)が上演され、上演後には監督のアンセルム・チャン(陳茂賢)と、出演するダヨ・ウォン(黄子華)、マイケル・ホイ(許冠文)、ミシェル・ワイ(衛詩雅)、チュー・パクホン(朱栢康、トミー・チュウ)が登壇してのトーク・イベントが行われた。
陳茂賢 衛詩雅 許冠文 黄子華 朱栢康
「ラスト・ダンス」は、香港での公開が2024年11月9日に予定されている最新作。
注目ポイントは、一世を風靡した『Mr.Boo!』(76)シリーズの大スターのマイケル・ホイと、人気コメディアンで、2023年に大ヒットした『毒舌弁護人~正義への戦い~』に主演したダヨ・ウォンの32年ぶりの共演。
10月に開催された第21屆香港亞洲電影節の開幕作品となったことでも、注目度の高さがうかがえる。ハワイ国際映画祭、東京国際映画祭での上演に続いて、「香港映画祭 Making Waves」での開幕作品となった。
これまでほとんど映画に描かれたことのない香港の葬儀業界を描く本作。原題の「破地獄」とは、道教に基づく香港の民間信仰による葬式の儀式。喃嘸師傅と言われる僧は独特のステップを踏んで剣を振るい、9層の地獄を表す9枚の瓦を割り、位牌を抱えて火を飛び越えることで、故人の魂を地獄から救い出す。(儀式の様子は予告編でも一部見ることができます)
香港では葬儀の手配を仕切る葬儀社と、喃嘸師傅といわれる僧が組んで葬儀を行い、特定の宗教を持たない香港人が、この葬式を依頼するとのことだ。
【あらすじ】
主人公は「香港では息をするにも金がかかる」と言うダオシェン(ダヨ・ウォン)。パンデミックでウエディングプランナーを廃業し、恋人の叔父の葬儀社を引き継ぐ。
当初は伝統的な考えに固執するパートナーの喃嘸師傅のマン(マイケル・ホイ)と衝突するが、彼と仕事をするうちにダオシェンの人生観にも変化が生まれていく。
マンと、喃嘸師傅を継ぐことが当然とされた長男(チュー・パクホン)、救急救命士の娘(ミシェル・ワイ)との確執や、葬儀依頼人とのエピソードも丁寧に描かれる。
【トーク・イベント レポート】質問はメールで司会に届き、司会が代読するかたちで進行。
―マイケルさんとダヨさんへ、共演した感想は?
マイケル:前々からダヨさんのことは知っていて、1人でスタンドアップショーをやるなんてすごいと思っていました。1人でお笑いをやって、全部ひとりで稼ぐわけですからね。(笑)1人でやって、誰も笑ってくれなかったらどうしようかと、他人事ながら心配はしていました。「マジック・タッチ」(原題:神算)で共演して、ダヨさんはやっぱり役者になりたかったのかなとずっと思っていました。今回、32年ぶりに共演することができて大変嬉しく思っています。
ダヨ:(日本語で)“これは人生”。当時は、とても役者になりたくて、一生懸命やってきたんです。32年経った今は、別に役者をやってもやらなくてもいい、何をやってもいいと思っていたのに、どういうわけかマイケルと一緒に映画を撮ることになってしまった。だから、こういうことが(日本語で)“これは人生” 。
マイケル:(そして、その意味を理解して)“そうですねぇ”(と日本語で返し、場内拍手喝采)
―ラストの葬式場面でのダヨさんの弁舌がとてもよかったです。撮影は順撮りでしたか?
ダヨ:あのシーンは最後ではなかったと思いますが、最後の方で撮影したと思います。このシーンの撮影には、いろいろと考えるところがありました。というのは「南音」という広東地方の伝統的な謡いで、もう再び会うことは難しいでしょうという歌詞で歌いますが、マイケルさんがこの曲を映画の前半で歌っています。それをこの場面で、彼のために私が歌わなければならないということで、非常にこみ上げるものがあって、悲しくなってしまい、涙を流してしまいました。でもこの映画の前半で涙を流したミッシェルに対して「亡くなった人の前で涙を流しちゃダメですよ。涙を流すと、亡くなった人がなかなか行けなくなってしまうから」という私の台詞があるんです。なのに、ここで自分もまた泣いてしまった。本当に大変悲しい気持ちでした。
―監督はなぜこの題材を選ばれたのですか?
チャン監督:この「破地獄」ある種の民間伝承のような、道教のやり方です。元々は中国南部から伝わってきたものですが、一般的には年取った人には、この儀式はあまりやりません。というのは、中国には古くから、人間には原罪とでもいうような罪があり、亡くなってから地獄へ行くのか、天国へいくのかの審判を受けなければならないという言い伝えのような考え方があります。若くして亡くなった人が、できるだけ地獄に陥らないように、道師が地獄から若い人を救おうとするのが、この儀式です。香港にはいろんなこの宗教信仰がありますが、特定の宗教がない場合は、この道教の民間伝承のやり方でやります。香港を代表するような文化だと思います。
タイトルの「ラスト・ダンス」というのは、映画をご覧いただいた皆さんはもうおわかりになっていると思いますが、人生における最後の舞、踊りです。生と死はコントロールできないもので、受け入れるしかないんですよね。そのためのラスト・ダンスです。
―この脚本も手掛けている監督は、どの段階でこのキャスティングを考えていましたか?
この映画の中で私が探求したかったテーマの1つは、人間の命、生命とは一体なんなのかということで、それはずっと持ち続けています。脚本を書く手法はいろいろありますが、この映画のように生と死という大きなテーマを描くときには、やはり登場人物がとても大事だと思います。 まず私の頭には浮かんだのは、伝統と現代を象徴するような2人のキャラクターがいると、この芝居の展開には都合がいいと。それがマイケルさんとダヨさんです。いろんなことが描かれますが、マン道師は、葬儀は亡くなった人を救うものだという考え。一方、ダヨさん演じるダオシェンは、生きてる人もいろんな地獄に直面する場面があるのだから、死んだ人より生きてる人を救うことが最も大事だと考えています。このメッセージをまず脚本に入れました。
さらにリサーチとして道師にインタビューをしたところ「女にはこの仕事はできない。女はけがれているから」という話を聞きました。私は男尊女卑には批判的な考えですので、男尊女卑という考えに一発食らわそうとミッシェルが演じた役が必要になりました。一方、家族はとても大事ですけれども、実は毎日会っていても何を考えてるのかは、よくわからないですよね。そこでトミーの役が必要になりました。そうして、頭の中で物語がどんどん出来上がっていきました。
さらに詳しくお話ししますと、亡くなった息子をそのままの姿で守っていきたいという母親が登場しますが、これも1つ考え方です。そして、LGBTについて、香港は進んでいると思われているかと思いますが、法律はまだ遅れていると思っています。そういった頭の中にずっとあったことが、いろんな登場人物としてこの映画に登場しています。
ここで、ダヨから「文化の違う日本人の感想が聞きたい」とのリクエストがあり、答えたのは子供のころからマイケルの大ファンという方。「(感動して)もう泣きそうです」と聞いて、マイケルも破顔して「ハロー」と手を振った。
そして演じたマン役についての質問に「口下手の頑固親父で、自分とも、これまで演じてきた役ともまったく違う。でも自分の父親とすごく似ていて、自分の父親を演じているなと思っていました。私自身は真逆で娘・息子に何でも話すし、ひたすら褒めちぎります。マンも心の中では愛しているのに、口に出せないだけ。だからこの役が大好きなんです」と教えてくれた。さらに「ダヨさんが知りたいと思っているだろうから、私は皆さんに質問します。皆さんのご両親はマンさんように保守的ですか?」と問いかけ、ダヨと一緒に首を伸ばして客席を見渡していた。
「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema 香港映画の新しい力」
東京 2024年11月1日(金)~11月4日(月) YEBISU GARDEN CINEMA
大阪 2024年11月9日(土)~11月11日(月) テアトル梅田
福岡 2024年11月15日(金)~11月17日(日) ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
公式サイト https://makingwaves.oaff.jp/
公式X @MakingWaves_HKC 公式Instagram @makingwaveshkc
主催:香港国際映画祭協会 協力:大阪アジアン映画祭
後援:香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部 助成:香港特別行政区政府 文創産業發展處