映画『桜色の風が咲く』の公開記念舞台挨拶が、11月5日、東京・シネスイッチ銀座にて行われ、主演の小雪をはじめ、共演の田中偉登、吉沢悠と、福島智教授、松本准平監督、結城崇史プロデューサーが登壇した。
本作は、東京大学先端科学技術研究センター教授・福島智氏の実話をもとに、9歳で失明、18歳で聴力を失いながらも、盲ろう者として世界で初めて大学教授となった息子とその母の「生きる希望」を描いた物語。福島智の母・令子を小雪、福島氏の青年期を田中偉登が演じ、夫・福島正美を吉沢悠のほか、リリー・フランキー、朝倉あき等実力派俳優がが顔を揃えた。
結城プロデューサーは「本屋で福島先生の本を手にし、これを映画にしたいという同じ思いで松本監督とスタートした作品。コロナ禍で撮影が中断したこともありましたが、無事に皆さんに作品をお届けすることができて嬉しいです」と公開を喜んだ。
松本監督は、「2018年に初めて福島さんとお会いして対談をしたのですが、映画に対する豊なご意見をいただき、福島さんに興味を抱きました。福島さんの人生に触れてみたいと思った」と企画のきっかけを明かした。
12年ぶりに映画主演を果たした小雪は、「この作品に携わることができて凄く幸せを感じます」としみじみ。母・令子を演じるにあたり、「プレッシャーもありましたが、心の中でこの作品は世に伝えていかなければならない・・・という使命のようなものを感じて、その想いに突き動かされて参加させていただきました」と心の内を吐露。
また、「先生とご家族のご苦労は想像を絶するものがありますが、福島先生は新しい世界への道を切り開き、みんなに希望を与えてくれました。そのエネルギーをかけらを感じながら撮影に臨んでいました」と回顧。「作品を通して先生の力強いエネルギーを感じていただけたら」とアピールした。
一方、タイトルにちなみ髪を桜色に染めてきた田中は「今日は髪の毛にちょっと桜色を入れてきました」とはみかみながら、「目が見えなくなり、耳が聞こえなくなる孤独感と絶望だけでなく、楽しかったことやご家族との会話など、福島先生が感じたことを一滴もこぼすことなく伝えることが僕の使命だと思いました」と真摯に役と向き合った様子。
吉沢は「福島家のみなさんの感じたことを、俳優として疑似体験をさせていただきました。指点字を生み出した令子さんと智さん親子だけではなく、家族も一緒に戦っていたのではないかという思いで臨みました。福島さんからは、実際のお父さんよりもマイルドだったと言われましたが、でも大丈夫だと言ってくださりホッとしています(笑)」と笑顔を見せる。さらに、福島教授から「智が盲ろうになりかけているとき、令子にかけた夫・正美の言葉がとても好きです」と絶賛され恐縮しきりだった。
モデルとなった福島教授は「自分の人生が映画になるのは不思議な感じ」とコメントしつつ、母・令子さんを小雪が演じたことに、「お袋は小雪さんが自分を演じるなんて気恥ずかしいと言っていましたし、家族も『美人過ぎる』と言っていて配役に疑問を呈していました」と報告し、会場の笑いを誘う場面も。
劇中でも披露されている、令子が盲ろう者である智との日常の中から考案した、リアルタイムで言葉を伝える新たなコミュニケーションの手段“指点字”のデモンストレーションも実施され、小雪と田中が挑戦。
まずは小雪から、「智先生ありがとう」と指点字で言葉を。上手く伝えられたか不安げな顔を見せるも、福島教授には「しっかりと伝わりました」の声に安堵。続いて田中が「僕が智(さとし)やで」と伝えたが、福島教授からは「何を打ったのかさっぱりわかりません!」と返ってきて田中がうろたえる。もちろんこれは福島教授のジョークでしっかりと伝わったよう。それでも「もうちょっとスムーズにやれるように頑張って。(智の)将来が不安だからね」とエールを送られていた。
そして、福島教授から小雪と田中にメッセージが送られ、福島教授は小雪に「おふくろ、いつまでも元気で!自分らしい生き方で人生を切り拓いていってくれよな!」と。田中には「俺は40年後のお前だ。コーラやビールを飲み過ぎるな!たとえ20代でも腹が出るぞ!そしてもう一つ、女性に気をつけろ!男と言うのは単純でバカだ。それに対して女性は複雑で賢い。くれぐれも女性には気をつけるように」と伝え、会場には温かい空気で包まれ、福島教授からの言葉に感慨深げな二人。
最後に、「指点字の世界がもっと広がってほしいと思います。多くの方が指点字をできるようになったら、全盲の方の世界も広がるはず。この映画は一つの試みの第一歩。この波紋が世界中に広がっていけばと願っています」とメッセージを送り、舞台挨拶を締めくくった。
【STORY】
見えない。聞こえない。でも僕は“考える”ことができる――。
母と息子が見出していく希望に満ちた未来。
教師の夫、三人の息子とともに関西の町で暮らす令子。末っ子の智は幼少時に視力を失いながらも、家族の愛に包まれて天真爛漫に育つ。やがて令子の心配をよそに東京の盲学校で高校生活を謳歌。だが18歳のときに聴力も失う・・・。暗闇と無音の宇宙空間に放り出されたような孤独にある息子に立ち上がるきっかけを与えたのは、令子が彼との日常から見出した、“指点字”という新たなコミュニケーションの“手段”だった。勇気をもって困難を乗り越えていく母子の行く手には、希望に満ちた未来が広がっていく・・・。
小雪
田中偉登 吉沢悠 吉田美佳子 山崎竜太郎 札内幸太 井上肇 朝倉あき / リリー・フランキー
製作総指揮・プロデューサー:結城崇史
監督:松本准平
脚本:横幕智裕
音楽:小瀬村晶
協力:福島令子 福島智
エンディング曲:辻井伸行「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》 II. ADAGIO CANTABILE」
製作:スローネ、キャラバンピクチャーズ 制作:THRONE INC./KARAVAN PICTURES PTE LTD
助成:文化庁文化芸術振興費補助金 ©THRONE / KARAVAN Pictures
製作国:日本/日本語/2022/ビスタ/5.1Ch/113分/英題:“A Mother’s Touch”
配給:ギャガ
HP:gaga.ne.jp/sakurairo Twitter: @sakurairo114
シネスイッチ銀座、ユーロスペース、新宿ピカデリー他全国順次公開中