俳優でありアーティストとしても活躍する北村匠海が、初めて企画・脚本・監督を務めた短編映画『世界征服やめた』が2月7日(金)より全国順次公開する。
本作は、独特な言葉のセンスとパフォーマンスで注目をあびながら、2011年6⽉23⽇に不慮の事故でこの世を去ったポエトリーラッパー・不可思議/wonderboyの代表的な楽曲の一つである「世界征服やめた」に強く影響を受けた北村匠海が、この楽曲からインスパイアされて脚本を書き下ろし、自らメガフォンをとった作品。自分はちっぽけでも、生にすがることへの尊さと人生の主人公は自分しかいないのだと思い起こさせるヒューマンストーリーだ。
この度、Astageでは北村匠海監督と、彼方(演:萩原利久)とともに行動する同僚の星野を演じた藤堂日向さんにインタビューを遂行。監督の本作への思い、そして本作に必要だったという藤堂さんへの期待と、その期待に見事に応えた藤堂さんの思いをたっぷりと語ってもらった。
― 北村監督が藤堂さんを撮りたいということもこの映画を制作する1つの理由だったと伺いましたが、藤堂さんの魅力をどのように感じられているのでしょうか?
北村匠海監督(以下、北村):出会った当初の彼は、生活に役者というものが結びついていなくて、ただ役者をしたい、演劇が好きだという中で生きていたんです。映画『東京リベンジャーズ』で彼に出会ったのですが、彼の声や彼にしかないものを感じて、凄く尖りがあったんです。芝居に対してちゃんと鋭利なものを持っていて、それをどこにぶつければいいのかわからない。それを受け止めてみたくなったというのが、スタートでした。彼の渇望と星野の生きることへの執着や渇望は、日向自身と僕自身と重なるのではないかと考えて(脚本を)書いていきました。
― それと「世界征服やめた」という楽曲がリンクされたのでしょうか?
北村:「世界征服やめた」という楽曲のメッセージはとても普遍的なんですが、歌詞にもある「人生はきっと流星群からはぐれた彗星のようなもので、行き着く場所なんてわからないのに命を燃やし続けるんだよ」は、全人類に当てはまることだと思って。日向の役者としての存在感と、役者としての日常みたいなものが重なって見えたので「ぜひ!」と出演をお願いしたんです。
藤堂日向(以下、藤堂):ぜひ!ってね。なんか恥ずかしいな・・・(笑)。
― 藤堂さんからご覧になった、俳優としての北村さんと監督としての北村さんの魅力はどう感じていらっしゃいますか?
藤堂:僕の中では友人としての匠海が一番大きくて、その後に役者、歌手という匠海かな。監督の匠海はモニター前で凄く真面目な顔でモニターとゼロ距離くらいで観ていて、傍から見てもわかるくらい集中していて、監督然としていました。「カット!」がかかった瞬間に満面の笑みを浮かべて利久くんのほうに駆け寄って、「そうそう、これなんだよね」と言っているんです。スイッチのオンオフが凄く上手で、常に気を抜いていないんです。切替えの仕方が上手で器用。見ていて本当に本物の監督だ!と思いました(笑)。
― 北村さんは「キャスティングがハマれば、もう特別な演出は必要ない」と仰っていましたが、今回はしっかりハマったということでしょうか?
北村:バッチリでしたね。そこに妥協するつもりはなかったし、改めてキャスティングのありがたみを感じました。今回はすごくピュアに選ばせてもらったのですが、キャスティングする理由には、その作品を成立させるために必要なこともあるし、自分が俳優としてこれまでキャスティングされた経験をふまえて、キャスティングだけでここまで(作品が)見えてしまうことってあるんだなと、凄く感じました。
なので、現場に入るときにもう監督の仕事ってあと他に何やるんだろう?という気分にすらなる2人(萩原と藤堂)でした。もちろん完成したものを見て、監督として「ここをこうすればよかったな」というものはありますが、それはたぶん監督をする人はみんなが持っていると思うし、現場で2人がリアルに見せてくれたものや空気とか、芝居から発生したアドリブを見ていると、本当にこの2人でなければできなかったと、胸を張って言えます。自分もキャスティングされたら、胸を張るべきだなと改めて思いました(笑)。
― 現場で実際に演じられた藤堂さんをご覧になってどう感じられましたか?
北村:僕の想像を超えてくれるシーンがたくさんありました。彼は悩むタイプで、この作品入る前にも色々悩んでいて、星野という役についての考えを聞いていると彼が本当に星野のようにあまりにも振り切って爆発しそうに感じて、「1回ストップしようか」と、その爆発力を止めるまでに至るぐらいだったんです。僕はそれを“感情の準備”と言っているのですが、役に入る前の役作りではなくて、感情を準備する作業が役者にとってとても大事だと思っているんです。日向はその感情の準備をちゃんとやってくれていた。彼が最初に登場するシーンがあるのですが、本読みのときに彼方と星野の2人の関係値も含めて、会話のテンポが良い意味でも悪い意味でも噛み合っていなくて面白いなと思っていたんです。それは日向が星野を通して見つけた答えでそれが凄く良かった。
― 終盤の屋上のシーンがとても印象的で引き込まれます。
北村:感情準備の段階で、日向自身がいなくなっちゃうかもしれないと思うくらいの危うさすら感じていました。屋上のシーンは彼のファーストテイクだったのですが、僕はもう彼を信じていたので、ただOKを出すだけでした。本当に任せっきりになっちゃって・・・、でもこういうのが見れてよかったなとつくづく思いました。
― 藤堂さんはこの役をどう捉えて演じられたのでしょうか?
藤堂:ファーストテイクのシーンは、その時はあまり考えてなかったんです(笑)。いや、考えすぎて、もう行き着くとこまで行ってしまって、迷ったあげく匠海に相談して、1回落ち着いて考えて・・・という感じでしょうか。(感情の準備をした)この気持ちを現場にそのまま持っていき、いろんなことを想起させながら現場に向かいました。
あと、“作る”という感覚があまり好きじゃないですね。リアル感、ライブ感みたいなものを大事にしている現場で一発撮りも多かったですし、匠海も助言は端的にワードで言ってきて、“生きてる”とか、“息吸って”とか、そういう演出をするので、それに合わせて演じるだけでした。自分が星野として、この時のどう思っているのか、屋上のシーンでもセンテンスでどう感じて喋っているのか、星野はどういうことを伝えたいのかを自分なりに深掘りして忘れるというような作業でした。
― ちゃんと組み立てはしているけれど、気持ちはその時のものを出しているという感じでしょうか?
藤堂:しっかり準備しているとそれにならってしまいがちなので、絶対に忘れた方がいいと思うんです。とんでもなく考えて準備はできていて、ただこれを出してもいいし、出さなくてもいいしという感じでした。
北村:彼には僕が一番大事にしている芝居へのアプローチをやって欲しかったんです。利久は自分なりにやるはずだから、芝居のことは彼の悩みも含めてほぼ日向にしか話していなかったですね。やはり“相手がいなければ、その答えなんて生まれない”という僕の中の芝居の理論があって・・・。理論というのはちょっと大げさですが、簡単に言うと答えは現場が待っているということ。日向の中で、こうやろうと自分の答えを持っているのであれば、一旦今やっていることをやめて、そのまま現場に来ればそこで生まれるものが必ずある。僕はそう信じているのでそれを見たかったんです。
― 冒頭の画もシュールですし、監督のこだわりが詰まった作品だと思いますが、ロケ地にもこだわったのでしょうか?
北村:ロケ地では、交差点が一番こだわりがありまして、あと屋上です。ロケハンも大変でした。いろんな交差点があるし、屋上も(候補に)たくさん出てくるんです。
僕は交差点というものがこの楽曲においても、作品においてもキーになると思っていて。みんなの道が欲しかったんです。ここは彼方の道、星野の道、2人で会社に行く登る階段があって、もう一つは、2人の逃げ場所であるような暗いトンネルがあって・・・。その条件がピッタリはまる交差点が本当に奇跡的にあったんです。スタッフさんと一緒にこの作品の血肉みたいなものを探してた期間に見つけた奇跡みたいな場所ばかりです。
屋上もどこまでの柵の高さが彼らを邪魔しないかとか、できれば柵がない方がいいとか。でもその死を連想させるような題材には貸せないというような場所もいっぱいあって、なかなか大変でした。だから奇跡的に快く貸してくださった場所で撮影することができて良かったです。ここだと車停め大変ですねとか、そういうこともありましたけど(笑)。それでも交差点と屋上だけはこだわりたかったんです。
― なるほど。色々な奇跡が重なって出来た作品なんですね。そして、51分という上映時間もとても観やすいです。
北村:そうですね。あまりにも素晴らしい彼らの芝居を切ることができず、その現場で撮った宝物みたいなものを大事にした結果が詰まってます。新しい映画のあり方を提示できるような感じがしていて、けっこう満足しています。
― ところで先日、藤堂さんは「これからどんな役をやりたいか?」という質問に“ハッカーみたいな役”と答えていらっしゃいましたが、どのような役者を目指していらっしゃいますか?
藤堂:僕がとても敬愛している役者さんは樹木希林さんと役所広司さんです。
北村:凄いね。
藤堂:そうですよね(笑)。そこにいるだけで成立しちゃうというか、存在感が強い。お二人に共通しているのがやはり“生きてる”なんです。そこに生きてる感が非常に強くて、それはとてつもなく作品にとって必要なんですけど、本当に難しいしできない。レジェンドなので目標としているのはそのお二方ですが、今はそのために一歩一歩、着実に進んでいけるよう頑張っています。
― 北村監督から見て、藤堂さんがどんな役者になってほしいですか?
北村:日向には必要な役者になってほしいです。彼は作品にとってどんな立ち位置であれ、藤堂日向が必要だというピースになっていける人だと思っていて、年齢を重ねていけばそれが姿形を変えて役所さん的な立ち位置なのかもしれないし、僕の少し年上になりますが矢本悠馬さんみたいな感じかもしれない。ただ、同じ人間はいらないからオリジナルであるべきで、必要とされる役者、彼はどんな役でもハマれる役者になると思っています。日向にもその柔軟性がきっとあると思うんです。なぜなら、好きなことが芝居しかないから。プライベートは別としても、彼の生業として本当に芝居が好きだから、今ここにいるんだろうと思うし、その芝居と常に向き合い続けてほしいなと思っています。皆さん、期待してください!
― 藤堂さんの今後にも大いに期待しています。それでは最後に、本作を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
藤堂:今の世の中、辛いことや悔しいこともあると思うし、生きづらさを感じたり苦悩を抱いている人もいると思います。この映画はとても優しい映画です。自分は救われないと思っている人には特にご覧になってほしいと心から思っています。
北村:僕は昔“不可思議/wonderboy”というアーティストに人生を救われた経験があって、この『世界征服やめた』という映画を作りました。あのときの自分のように、芸術に救われる人がいてほしいという気持ちが僕の原動力でもありますし、僕があの楽曲に救われたように、あの楽曲からできたこの作品を観て救われる人がいるといいなとも思っています。20歳の頃は自分がまさか本当に映画監督ができるとは思ってもいませんでした。僕自身もこの映画を観た皆さんの感想を楽しみにしていますし、その皆さんが僕をこの世界に居続けさせてくれるだろうなと思っています。そんな期待を込めて、この2人(萩原利久と藤堂日向)と、井浦新さんの映画を観てほしいです。ぜひ、映画館に足を運んでいただいて、大きなスクリーンとスピーカーでこの作品を浴びて欲しいです。
【北村匠海(Takumi Kitamura)】
1997年11月3日生まれ、東京都出身。映画『君の膵臓をたべたい』で注目を集め、『東京リベンジャーズ』シリーズほか数々の映画・ドラマに出演。4人組バンド「DISH//」として音楽活動も続けマルチな才能を発揮し活躍中。今回、短編映画『世界征服やめた』で初映画監督を務めた。また、2025年3月20日には主演を務めた映画『悪い夏』の公開が控えている。
【藤堂日向(Hinata Todo)】
1995年11月24日生まれ、愛知県出身。舞台「いつか、どこかに」(演出・園田英樹)でデビュー。出演作に、舞台「毛皮のマリー」(19/演出・美輪明宏)、映画『東京リベンジャーズ』シリーズ(21・23/監督・英勉)『神回』(23/監督・中村貴一郎)など。2025年には1月31日に映画『遺書、公開。』が公開、3月28日には宮澤佑とW主演を務める 映画『夢にいきる』の公開が控えている。
映画『世界征服やめた』
■原案・主題歌:「世界征服やめた」不可思議/wonderboy(LOW HIGH WHO? STUDIO)
■企画・脚本・監督:北村匠海
■出演:萩原利久|藤堂日向|井浦新(友情出演)
■製作・制作プロダクション:EAST FILM
撮影協力:ニコンクリエイツ|制作協力:ニコン|企画協力:Creatainment Japan
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
©️『世界征服やめた』製作委員会
■公式HP: sekaiseifuku_movie.com
■インスタ:@sekaiseifuku_movie
■X:@sekaiseifuku_M
ヒューマントラストシネマ渋⾕ほか 全国順次公開中!
<スタッフクレジット>
ヘア&メイク/佐鳥麻子
スタイリスト/鴇田晋哉
撮影:松林満美
<衣裳クレジット>
(北村匠海監督)
■衣裳クレジット
ジャケット ¥402,600 パンツ ¥103,400 シューズ 価格未定 すべてバリー(バリー・ジャパン カスタマーサービス)
(問い合わせ先及び送本先)
バリー・ジャパン カスタマーサービス 050-1743-8146
(藤堂日向様)
■衣裳クレジット
ジャケット ¥79,200 シャツ ¥88,000 パンツ ¥132,000 すべてカレンテージ(メルローズ) その他スタイリスト私物
(問い合わせ先)
メルローズ 03-3464-3891
★★★北村匠海さん&藤堂日向さん 直筆サイン付きチェキプレゼント!★★★
応募はこちらから