「羊と鋼の森」で2016年の本屋大賞1位を受賞した作家・宮下奈都の小説デビュー作を、仲野太賀と衛藤美彩がダブル主演、新鋭・中川龍太郎が監督を務め、映画化した『静かな雨』。
2019年釜山国際映画祭正式出品、第20回東京フィルメックスではコンペティション部門に正式出品され、最も観客の支持を集めた“観客賞”を受賞した本作は、“真の愛”と、誰もが感じたことのある“愛”の前での人間の無力さを描き出す、美しく、切なく愛おしいラブストーリー。
足に麻痺があり、日々を穏やかに過ごしながら、こよみ(衛藤美彩)と共に生きようとする行助役を繊細に演じた仲野太賀。原作に魅了されたという彼に本作の魅力について語ってもらった。
― 本作へ出演されるきっかけは何だったのでしょうか?
中川監督から直接オファーをいただきました。以前、中川監督の作品に出演させていただいた縁もあり、監督が初めて原作ものを映画化されるということだったので、少しでも力になれればと思い参加させていただきました。
― 原作を読まれていかがでしたか?
原作を読んだときは、本当に無垢で美しい物語だなと感じました。シンプルな話ですが、そこには日常のささやかな美しさみたいなものが散りばめられていた。そういうものを映画にするので、原作の美しさを大事していければいいなと思いました。
― 物語はとても静かに始まっていきます。心情の変化を表現するのが難しい役どころだと思いますが、役作りはどのようにされたのでしょうか?
行助は右足が不自由で、それは彼にとってコンプレックスなのかもしれない。そのコンプレックスが行助のパーソナリティーになるし、なおかつ、こよみさんと過ごすなかで、コンプレックスを抱えた人間だからこそ痛みに対する敏感さ、他人の痛みに寄り添える優しさがあると考えたので、そこは大事にしようと思って臨みました。
― 実際に行助を演じられていかがでしたか?
全体を通して難しかったです。物語はとてもシンプルです。そのシンプルな流れの中でいかに行助やこよみさんが豊かに実感を持って演じられるかというところが、今作の肝となると思ったので、こよみさんと接しているときは自分に嘘がないように一瞬一瞬のやり取りを大事にしました。
― 今回、河瀨直美さんが女優として出演されています。同じ俳優同士としてご一緒されていかがでしたか?
河瀨さんが出演されると聞いて凄く嬉しかったです。映画を撮っている監督としての河瀨さんしか知らないので、どんな風にお芝居されるのかとても楽しみにしていました。河瀨さんはこよみさんの母親の役ですが、現場では役に対して事前に色んなことを考えてきていて、アドリブというか、セリフを持ち込んでくださったんです。それがとてもステキで、一気に世界観が出来上がっていきました。それはもう不思議な力でしたね。こういうやり方もあるんだ・・・と勉強にもなりましたし、河瀨さんに現場を引っ張ってもらったような気がします。
― その時の行助との会話の“間”はとても独特な空気が流れていますね。
河瀨さんは、本番で何を言うか直前まで決めていなかったのではないのかな。僕もどういうやり取りが広がっていくのか、カメラが回ってからじゃないとわからなかったんです。
― その時のセリフはアドリブだったのですか?
はい、会話はアドリブでした。河瀨さんは、段取りやテストでも同じようにアドリブをやってくださって、本番でもアドリブ。実際に何がくるかわからなかったので、凄く楽しかったです。そのアドリブが脚本にはない、こよみさんとお母さんを繋げる明確なセリフになっていて、あのシーンを河瀨さんがアドリブで演じてくれたことは、作品全体としても大事な部分になりました。
― 長いシーンではありませんが、とても印象に残ります。
そうですね。こよみさんのお母さんが脚本上ではあまり出てこないので、その部分をどうしようかと監督が話されていたので、そういう意味でも河瀨さんのアドリブはとても効果的で、さすがだなと思いました。
― そんな河瀨さんと自然にお芝居を合わされた仲野さんも素晴らしいです。
僕は行助として素直に受けとめただけです。
― 衛藤美彩さんとの初共演はいかがでしたか?
衛藤さんはとても周囲に気を使われる方。すべてのスタッフさんに心を開いていて、衛藤さんがいるだけで、現場がポッと明るくなっていました。もちろん、見事なヒロインでしたし、監督からこよみさんの理想像を提出されたときに、瞬発的にそこに近づいて表現できる、瞬発性や見せる力みたいなものを持ち合わせていました。アイドルをやってきた百戦錬磨の強さが彼女らしさだと思いました。
― 仲野さんにも刺激になりましたか?
はい、衛藤さんがこよみさんで良かったなと思います。あと、彼女、たい焼きを焼くのが上手でした! 本当に美味しかったですよ(笑)。
― また、自然な演技に合わせるような、光の使い方の映像もステキです。監督とは演技以外の部分で本作についてお話をされましたか?
監督はクランクインする前に、どういうスタッフィングにするのかをとても考えられていました。宮下奈都さんが書かれた原作の美しさを核にして、そこにどれだけあらゆる要素が足されるかによって、いいカオスが生まれるような気がしていたんです。撮影前だったので、とてもステキな撮影をされる塩谷大樹さんを紹介しました。
― 映像的にもステキなシーンが色々ありますね。
月が出ているシーンがあるのですが、物語の中でも月はとても象徴的。二人の出会いのシンボルでもあるし、初めてデートをしてお別れしたときにも月が出ているところは印象的です。
― こよみは事故に遭い、新しい記憶を1日しか留めていけなくなります。行助の心情にも変化が見えてくると思いますが、仲野さんご自身はどう捉えましたか?
行助を演じていても、凄く悩みました。行助はとても心優しくて真面目な人で、ちゃんとこよみさんと寄り添おうとしているんですが、やっぱり同じ朝が繰り返されるたびに、聖人君子には成りきれなくて脆さが出る。そんな優しくなりきれなかった部分に彼の人間味が出るんじゃないでしょうか。そうなった時にどうなるかで、その人の個性が出ると思います。自分の気持ちを押し殺しているだけでは人とは向き合えないですよね。発露することが結果的には向き合うことになるし、それが寄り添うことになる。そうじゃないと長い時を一緒にはいられないだろうなと思いました。
― ところで、仲野さんにとって絶対に忘れたくないことはありますか?
けっこう何でも忘れがちな性格なんですよ(笑)。友達にも「なんで覚えてないんだよ」って言われるんです。でも、学生の時に友達と一緒に過ごした時間は宝物のような時間なので、忘れたくないですね。
― では最後に、あらためて本作の見どころと魅力を教えてください。
この作品は、宮下さんが書かれたとても美しい物語にあらゆる要素を詰め込んでいます。塩谷さんの撮影、衛藤さんの演技や、高木(正勝)さんの音楽・・・、そのほか個性豊なキャストの皆さんが揃って、それを中川龍太郎監督という才能が1つにまとめています。記憶喪失の物語は世の中にたくさんありますが、少し不思議な肌触りを持った、観たことのない映画になっていると思います。どこかにいそうな二人の話でもあり、どこにもいないようなおとぎ話のような話でもある。そんな世界観にぜひ触れてみてください。
【仲野太賀(なかの たいが)プロフィール】
1993年2月7日生まれ。東京都出身。2006年に俳優デビュー。映画『バッテリー』(07)、『桐島、部活やめるってよ』(12)、『私の男』(14)、『あん』(15)など次々と出演。TVドラマでも、「ゆとりですがなにか」(16)や、「今日から俺は!!」でも注目を集める。深田晃司監督作品『ほとりの朔子』(14)、『淵に立つ』(16)、『海を駆ける』(18)、近年の主な映画出演作は『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(16)、『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17)、『来る』(18)、『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(18)、『きばいやんせ!私』(19)、『町田くんの世界』(19)、『タロウのバカ』(19)など、話題作への出演が続いている。
スタイリスト:石井大
ヘアメイク:高橋将氣
映画『静かな雨』
【ストーリー】
たとえ記憶が消えてしまっても、ふたりの世界は少しずつ重なりゆく
大学の研究室で働く、足の悪い行助は、“たいやき屋”を営むこよみと出会う。
だがほどなく、こよみは事故に遭い、新しい記憶を短時間しか留めておけなくなってしまう。こよみが明日になったら忘れてしまう今日という一日、また一日を、彼女と共に生きようと決意する行助。
絶望と背中合わせの希望に彩られたふたりの日々が始まった・・・。
主演:仲野太賀 衛藤美彩
出演:三浦透子 坂東龍汰 古舘寛治 川瀬陽太 村上淳 / 河瀨直美 / 萩原聖人 / でんでん
監督:中川龍太郎
脚本:梅原英司 中川龍太郎
原作:宮下奈都『静かな雨』(文春文庫刊)
音楽:高木正勝
制作:WIT STUDIO、Tokyo New Cinema
企画協力:文藝春秋
配給:キグー
©2019「静かな雨」製作委員会 / 宮下奈都・文藝春秋
2019/日本/カラー/99分/スタンダード/5.1ch デジタル
公式サイト:https://kiguu-shizukana-ame.com/
公式Twitter:https://twitter.com/A_quiet_rain
2月7日(金)より全国順次公開
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