第30回映画祭TAMA CINEMA FORUMの「第12回TAMA映画賞」の授賞式が、11月29日、東京・府中の森芸術劇場 どりーむホールにて行われ、受賞作品に携わったスタッフや受賞者が登壇。記念の盾や花束を受け取り、受賞の喜びを語った。
TAMA映画賞は、多摩市及び近郊の市民からなる実行委員が、「明日への元気を与えてくれる・夢をみせてくれる活力溢れる<いきのいい>作品・監督・俳優」を映画ファンの立場から感謝の気持ちを込めて表彰するもの。
今年度の映画賞の選考期間は2019年10月~2020年9月に劇場公開された作品が対象となる。受賞者が手にするトロフィーは「宇宙(SORA)を抱える像」藤原彩人作。
<第11回TAMA映画賞受賞者及び受賞作品>
最優秀作品賞:本年度最も活力溢れる作品の監督及びスタッフ・キャストに対し表彰
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』大林宣彦監督、スタッフ・キャスト一同
『ラストレター』岩井俊二監督、スタッフ・キャスト一同
特別賞:映画ファンを魅了した事象に対し表彰
城定秀夫監督、及びスタッフ・キャスト一同(『アルプススタンドのはしの方』)
岩井澤健治監督、及びスタッフ・キャスト一(『音楽』)
最優秀男優賞:本年度最も心に残った男優を表彰
福山雅治(『ラストレター』『マチネの終わりに』)
濱田岳(『喜劇 愛妻物語』『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』ほか)
最優秀女優賞:本年度最も心に残った女優を表彰
水川あさみ(『喜劇 愛妻物語』『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』『ミッドナイトスワン』)
長澤まさみ(『MOTHER マザー』『コンフィデンスマンJP プリンセス編』)
最優秀新進男優賞:本年度最も飛躍した男優、もしくはもっとも顕著な活躍をした新人男優を表彰
宮沢氷魚(『his』)
北村匠海(『さよならまでの30分』『思い、思われ、ふり、ふられ』『影踏み』ほか)
最優秀新進女優賞:本年度最も飛躍した女優、もしくはもっとも顕著な活躍をした女優を表彰
松本穂香(『君が世界のはじまり』『わたしは光をにぎっている』『酔うと化け物になる父がつらい』『his』ほか)
森七菜(『ラストレター』『青くて痛くて脆い』『地獄少女』『最初の晩餐』)
最優秀新進監督賞:本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督を表彰
HIKARI監督(『37セカンズ』)
ふくだももこ監督(『君が世界のはじまり』)
【授賞者のコメント】
最優秀作品賞
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』には、大林宣彦監督の妻である大林恭子プロデューサーをはじめ、奥山和由プロデューサー、常盤貴子、厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲が登壇。大林恭子氏は、「大林監督は、亡くなるまでベッドで『よーい!スタート!』『まだ終わっていないんだ』と言っていました。生前、黒沢明監督から『僕の続きをやってね』と言われていました。(大林監督も)映画の力を信じて、平和で穏やかな世界になるように未来なる皆さんにバトンを渡せたと思います」としみじみ。登壇者たちも大林監督との思い出を語り、監督との出会いに感謝。観客の皆さんに『ありがとう』という言葉をお伝えできて嬉しく思います」と心を込めて語った。
『ラストレター』の岩井俊二監督は、ふるさとで撮影したことについて、「東日本大震災があり、生まれ育った仙台を再認識しました。なんらかの形で恩返しができればいいと思っていたところ、『花が咲く』の歌詞を書いて、縁が深くなり、映画取ることが叶いました」と作品制作へのきっかけを明かした。
「乙坂鏡史郎をどのように作っていたのか」と聞かれると、「大学時代の彼の青春が書かれていますが、僕は8ミリフィルムを作ることが好きでした。その時はずっと周りも好きなことをやりづづけているんだと思っていました。夢破れた友もいますが、今でも(仲間たちと)繋がっています。人の業を眺めてきた自分もあって、僕らのような仕事をしているからこそ描けるものがあると思います」と自身の生き様から映画を作れたことに胸を張った。
特別賞
『アルプススタンドのはしの方』には、城定秀夫監督、小野莉奈、西本まりん、中村守里、目次立樹が登壇。城定監督は「一緒に作ったスタッフ、キャストをはじめ皆さんのおかげでこの賞を獲れたと思っています。ありがとうございました」と感謝。今年は全国高校野球大会が開催されず、本作はコロナ禍の夏に公開されたが、「何も宣伝されず試写も人が集まりませんでしたが、口込みで広がっていきました。これも皆さまのおかげです」と話し、
一緒に登壇したキャストたちはそれぞれ賞を受けたことに感謝の気持ちを表し、「これからも『アルプススタンドのはしの方』が皆さんに観ていただければ」とアピールしていた。
『音楽』の岩井澤健治監督は、ドスコープという、先に実写撮影してからアニメーションに変える手法で制作。「先に動きがあるので、アニメーションを最初から作るより楽にできるんです。個人制作で長編アニメ―ションを撮るには工夫が必要でした」と明かし、「7年かけて撮ったのでキャスティングに苦労しました」と苦笑い。今後について聞かれると「(7年もかけたので)めんどうくさいと思われて仕事のオファーもありませんが、今後も作家性のある作品がもっと出てくればいいなと思っています」と豊富を語った。
最優秀女優賞
長澤まさみは、この日欠席となったが、代理で大森立嗣監督が登壇し授賞。長澤が演じることについて、監督は「長澤さんの大きな体が、ときに包むこむ母親のように、時として怪物のように見えるようにしたかった」とその魅力を語り、「長澤さんは日本を代表するスターですが、長澤さんの志の高さを感じました。内容的にキツイ部分もあったと思いますが、長澤さんがこの作品を選んでくれたこと自体が、映画界への影響を感じました」と称えた。
「『自分たちのやってきたことに間違いはない、嬉しいね』と言って長澤さんの顔が見たいですね」と監督も長澤の授賞を心から喜んでいるようだった。
水川あさみは、初めて主演女優賞を受賞。「この作品に運命的なものを感じました。素晴らしい人たちに囲まれてこの作品で賞を取ることができました。一生忘れられない作品となり、思い入れが深いです」と感激しきり。「いつも支えてくれるスタッフの二人とこの賞を取れたと思っています。ありがとうございます」と述べ、「今年は色味の違う役を演じることができて、深く映画に関わることができました」と振り返る。『喜劇 愛妻物語』で「共感できるところは?」と聞かれると、「濱田岳くんの隣には監督がいて、二人を見ていると自然とイライラするという状態でした(笑)」と明かし、会場を沸かす場面も。
今後は、(自身に)イメージのない役に挑戦したいという水川。出会ったことのない、地を這うような人間味のある役に挑戦できたらいいなと思っています。面白い人になっていきたいです。これからも頑張ります」と言って最高の笑顔を見せた。
最優秀新進男優賞
北村匠海は、スケジュールの都合で欠席したが、ビデオメッセージが到着! 「新進男優賞という意味のある賞をいただき光栄です。“新進”という言葉が似合う俳優になれるように来年も頑張っていきたいとお思います」と意欲を見せていた。
宮沢氷魚は、「俳優になって3年になりますが、(『his』)は忘れられない作品となりました。この作品をたくさんの人に観ていただいて、たくさんの意見をいただきました。共演の藤原季節くんに本当に助けられました。藤原くんはちょっと変わっていて(笑)、ロケで季節くんと10日間共同生活をしましたが、10日間と分かっているのに、Tシャツ1枚、下着1枚しか持ってこないんですよ。『ちょっと貸して』って言ってきて、すぐに距離が縮まりました(笑)」と暴露しつつも、共演の藤原の存在に感謝していた。また、「今泉監督と出会えたことはとても光栄なことでした。これからも監督の作品に出られるように頑張りたいです」と力を込める。幼少期はアメリカで過ごしていた宮沢。「いつか海外の作品に出てみたいです。そのためにいろんな役の経験をして成長したいと思います」と目を輝かせた。
最優秀新進女優賞
松本穂香は、「ふくだももこ監督と一緒にこの場に立てたことを本当に嬉しく思います。
『酔うと化け物になる父がつらい』は少し変わった作品ですが、これからも違う形でも映画を届けられたらいいなと思います」と話す。「『君が世界のはじまり』では、(松本演じる)えんちゃんも関西弁なので、素の部分が出ていたかなと思います “大切な人がそこにいるだけで嬉しい”と思う気持ちを感じていた、えんのほうが大人びていたと思います」と、役がらについて言及。
ふくだももこ監督は、松本の起用について、「単純に(松本が)好きなんです」とニッコリ。「昔は顔がおもろいなと思っていたけど、どんどんキレイになっていくので驚いています。豊な情熱を持っている、最高の俳優です」と松本をべた褒め。「ずっと一緒にやっていきたい」と相思相愛の二人だが「皆さんに(作品を)純粋に楽しんでいただければ嬉しい」と声を揃えた。
森七菜は、『ラストレター』で初めての二役に挑戦した。「難しさはありましたが、松たか子さんを意識しながら演じました」と振り返り、岩井監督も(森が)アドリブを入れる余裕に驚いたというが、本人は「最初にちょっとやってみたら怒られなかったので。ちょっとだけ自分を出せたらいいなと思って・・・(笑)」と屈託のない笑顔を見せる。
また、コロナ禍の中の自身の生活について聞かれると、「コロナ禍でもマイナスな空気に引っ張られたらよくないなと意識して過ごしました。夜中にカップラーメンを食べたりして、今までしたことないことも経験しました」と、時間を有意義に過ごした様子。さらに、「今年は初めて映画、ドラマの主演をやらせていただきました。誰だこの小娘は?と、(?)ハテナと思った方に、来年は(!)ビックリマークで「なるほど!」と、納得していただけるように頑張りたいです」と意気込んだ。
最優秀新進監督賞
ふくだももこ監督は、先週出産を終えたばかりでの登壇。本作は自身の経験から作品を制作されたとのこと。「素晴らしい若い俳優たちと一緒にできて嬉しかったです」と笑顔を見せ、「私が子どもを欲しいと思ったのは、映画制作において出産や育児をしている人たちに向けて、保育部を作りたいと思っていたから。それには監督に子供がいることが大きいと思ったんです。この業界が働きやすくなればいいなと思っています」とコメント。
HIKARI監督は、(リモートでの参加となり、山口プロデューサーが代理で授与)授賞に「光栄で、ビックリ!嬉しい限りです!」と喜び、「障害に向けて見えない壁をなくしたいという思いで映画を作りました」と語り、「本作では本当の車いすの女性に主演していくことが大切でした。彼女の声にハートを突き抜かれました。彼女が全てのことに素直に反応して演じてくれた、そのことがこの映画の魅力の一つです。本当に素晴らしいキャストの方々に囲まれました」と充実感を滲ませる。今は映画の二作目も予定しているという。今後の活躍にも期待がかかる。
第30回映画祭TAMA CINEMA FORUM
11月21日(土)~11月27日(金)(11月24日(火)は休映)、及び11月29日(日)、東京都多摩地市の2会場にて開催。授賞式のみ府中の森芸術劇場どりーむホール。
公式サイト:https://www.tamaeiga.org/