2021年第34回東京国際映画祭で注目したアジア映画の中から【TIFFトークサロン】での話を聞いて、さらに面白さを感じた作品をご紹介する記事の、こちらは後編。(前編では「リンボ」をご紹介しています)
ご紹介するのは、
アジアの未来共催:国際交流基金アジアセンター
「アメリカン・ガール」American Girl[美國女孩]
監督:ロアン・フォンイー[阮鳳儀]
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、カイザー・チュアン(庄凯勋)、ケイトリン・ファン(方郁婷)
アメリカに移住したものが、母親の病のために台湾にもどった13歳の少女と家族の物語です。SARSが猛威を振るう2003年を舞台に、少女の学生生活と心情が丁寧に描かれます。
ロアン監督の自伝的要素が挿入された作品だと紹介されていますが、【TIFFトークサロン】に登場したロアン監督によれば「描かれた8~9割は監督自身に起こった出来事。ただし、(映画のように)3か月のうちに起こったことではなく、何年かの間に起こったことで、その順番も映画の順ではない」とのこと。
さらに、本作のプロデューサーのトム・リン(林書宇)も同じような(子供の頃から台湾とアメリカで暮らした)経験があり、共感してもらえたことが本作の制作につながったこと、プロデューサーのトム・リンがカリーナ・ラムに(脚本を渡して)つないでくれたことを語っています。(2015年の東京国際映画祭で上演されたトム・リン監督の「百日草」(原題:百日告別)にカリーナが出演しています。当時の記事はこちら https://www.astage-ent.com/cinema/bairifenbie.html)
そこで思い出したのが、カリーナもバンクーバー生まれで、中学卒業後1996年に台湾で歌手デビューした人だということ。契約問題のため芸能活動を中断してカナダで学生生活に戻ったりする紆余曲折を経て、2002年にアン・ホイ(許鞍華)監督の「男人四十」で俳優として本格的なキャリアをスタートした人だけに、バイリンガルであるだけでなく、トム・リンやロアン監督と同じように異なる文化と生活の経験を持っていることも、この映画で大きな役割を持っているのではないかと思います。
主人公とその妹を演じたのは、台湾のインターナショナルスクールに通う少女とのこと。
学校や生活の様子は今ではなく2003年頃のリアルとのことなので、そのあたりもとても興味深い作品になっていて、家族・文化・子供たちの成長、そして大人の葛藤と、じんわり心を締め付けられるところがたくさんありました。
ロアン監督が脚本を書いていた時にはコロナ禍を想像もしていない時期だったそうですが、コロナ禍のこの時期にSARSの時期を描いた本作を見ることになったのも偶然とはいえ、この作品の強い力を感じさせられました。
ロアン監督の話を聞いた今、またもう一度、本作を見直す機会があれば…と願っています。