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楽しく字幕制作を知る 東京フィルメックス 水曜シネマ・アカデミー<字幕翻訳セミナー>

アジアの映画を中心に世界中の独創的な映画が上映される東京フィルメックスが、今年も11月19日(土)~27日(日)まで開催される。
この映画祭のプレイベントとして毎年人気の企画、<字幕翻訳セミナー>が今年も開催された。
写真提供:東京フィルメックス 撮影:明田川志保

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実際にフィルメックスの各作品の日本語字幕を手がけているプロの翻訳家を招いて、その仕事について、リアルにじっくりお話し頂くという貴重なこの企画。
例年、大人気で回を重ねること、今年で8回目。
今年の講師は齋藤敦子さん(映画評論家、字幕翻訳家)。司会は樋口裕子さん(字幕文化研究会、翻訳家)。
会場は、三越伊勢丹が表参道で新たに手がける会員制サロン「3rd_PAGE」。ゆったりとした落ち着いた雰囲気の空間に並べられた椅子は参加者で埋まった。

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齋藤敦子さん     樋口裕子さん

齋藤さんは今年のアカデミー賞作品賞・脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀の スクープ』の字幕も担当。過去8回のこのセミナーのうち6回も講師をつとめたベテランとあって、終始リラックスした笑顔でお話しされた。その親しみやすさに、参加者の緊張感もあっという間に和らいだようだ。

参加者の手元に配られたのは、映画の「字幕制作の流れ」と題された資料と、映画の一場面の台詞。
セミナーは、「字幕はどのようにつくられるのか」という話から始まった。

映画がテープだった時代は、非常に煩雑だったプロセスもデジタル化によって随分と簡略化され、映画素材の受け取りも「ダウンロードして下さい」と言われることもしばしばとのこと。
字幕の基本となる台本ハコ書き(セリフを区切って番号をつける)やスポッテイング(セリフの長さを計る→字幕の文字数が決まる)作業での苦労話が次々に話題に上る。
翻訳も大変だが、実はハコ書きという作業が非常に重要とのこと。日本語のリズムをくずさないようにしなければ、字幕をすんなりと読めなくなってしまうからだ。
齋藤さんは「ハコ書きと翻訳の重要度は、五分五分」と実感している昨今だそうだ。

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字幕制作の流れをざっくりを学んだ後は、実際に翻訳にチャレンジしてみることになった。
題材は、今年のフィルメックス上映される【特集上映 イスラエル映画の現在】からの1本『山のかなたに』。
なんと、映画の上映前であるだけでなく、字幕をつけた齋藤さん自身もまだ完成版を観ていなかった!!
1シーンだけの上映だったとはいえ、フィルメックスの企画イベントならではの貴重な機会だ。

この映画の舞台はイスラエルでセリフはヘブライ語だが、齋藤さんは英語に翻訳された台本から日本語へと翻訳したとのこと。
「最近ではフランス語の映画でも英語から翻訳することもあるくらい、英語から翻訳する外国語映画が多いので、字幕をやりたいなら英語がオススメ」だそうだ。

とりあげた場面は、友人たちと一緒にデモに参加しようとする娘に、車でやってきた父親が「ご飯を食べに行こう」と誘う場面。

まず2回該当場面を見た後、セリフを1つずつ参加者が訳していく。
字幕翻訳の経験者や、セミナーに参加したことがあるという方も多いみなさんは、堂々と訳していき、齋藤さんからはお褒めの言葉が多く出た。
ただ、スポッティングで決められた短い文字数の中で登場人物の関係性や心情を浮き立たせ、しかも読みやすい字幕にするのは簡単ではない。
1つのセリフに、さまざまな日本語を候補に挙げて検討を重ねてみる。参加者からもアイデアが活発に発表されて、全員で考え、さらに齋藤さんからも多くのアドバイスをもらって練り上げた。

最後に、齊藤さんの字幕を見て「答え合わせ」。
さすがにポイントをしっかりと押さえて、分かりやすく、すらりと読みやすい字幕となっている。全員で頭を絞った、その上をいく出来栄えに、全員が納得、感心、感動したところで、ちょうど1時間半。あっという間に時間が過ぎ、お開きの時間となっていた。

豊富な経験と知識を惜しげもなく披露してくれた齊藤さんと、齋藤さんとの息もぴったりで、参加者の思いをタイミングよく代弁してくれる樋口さんの司会のおかげで、楽しく充実した時間となった。
(樋口さんも今回のフィルメックスで1本字幕を担当されるとのこと。どの作品かは、明かされなかったのだが、そちらも気になるところだ)

1つのセリフの字幕にも、深い意味が反映されていることを知り、「知らない国の映画をたくさん見たい。味わいたい」と思わせてもらった興味深いセミナーだった。

第17回東京フィルメックスは、有楽町マリオン有楽町朝日ホールとTOHOシネマズ日劇にて11月19日から開幕。
詳細はhttp://filmex.net/2016/