「呪怨」「殺人鬼を飼う女」など数々の名作を世に送り出した大石圭の小説「アンダー・ユア・ベッド」を原作にした傑作サスペンス映画が韓国で再映画化!
『うさぎドロップ』(11)、『砕け散るところを見せてあげる』(20)など日本でも評価の高いSABU監督の韓国デビュー作となる映画『アンダー・ユア・ベッド』がいよいよ日本でも公開される。
2019年には高良健吾主演で実写化され話題を呼んだが、ついに海を越えて韓国映画に。孤独な人生を送る男・ジフンに期待の若手俳優イ・ジフン、ジフンが長い間一途に思い続ける女性・イェウンを期待の新人女優イ・ユヌを抜擢。そして暴力を振るうイェウンの夫・ヒョンオを実力派俳優シン・スハンが演じ、SABU監督韓国デビュー作にふさわしい面々が勢揃いした本作。愛と暴力に潜む人間の醜悪な本性を、監督独自のスタイルで表現した衝撃作として関心が集まっている。
韓国に1人で渡り韓国映画として作り上げたSUBU監督に、撮影秘話を含め作品への思いを語ってもらった。
―『アンダー・ユア・ベッド』は、2019年に日本でも映画化されましたが、これを韓国で再映画化することになった経緯をお聞かせいただけますか?
2013年に公開した映画『Miss ZOMBIE』の韓国での権利を買ってくれた配給会社とずっと連絡をとりあっていて、いつか韓国映画を撮ろうと何回か脚本をいただいたこともあったのですが、なかなか実現していなかったんです。そして、今回オファーがあったので撮ることになりました。
― 監督が撮りたいというより、SABU監督に撮ってほしいという要望だったんですね。
撮影が終わってだいぶ経ってから聞いたんですけど、この作品はDVだったり性描写が激しいので、韓国の監督からけっこう断られたらしいんです。それで「助けてくれ」と話が来たんです。だから俺が助けてあげたんです(笑)。
― 監督にとって韓国映画デビュー作となったわけですが、お気持ちはいかがですか?
凄く嬉しかったです。自分のオリジナル作品を韓国で撮りたいとずっと思っていたので。
― 『砕け散るところを見せてあげる』(2020年公開)も衝撃的な作品でしたが、少し韓国テイストも感じます。やはりそういうテイストがお好きなんですか?
いや、別に好きじゃないですよ(笑)。ただ、嘘臭くならないようにやったらああなっただけです。ゴルフクラブで頭を叩くところは、自分で絵コンテ描きながら、「こうなっちゃうけど、いいかな」って思いながら進めていました。
― 今回は暴力シーンや性描写もありますが、画の美しさも相まってバランスよく、緊張感もありながらリズミカルな作品に出来上がっています。どのように工夫して構築されていったのでしょうか?
まず性描写に関しては絶対に美しくないとダメだと決めていました。性描写があるのでR指定は確実。その分暴力シーンは突き抜けてもいいと考えていました。日本では公開することはないと思っていたので。そのバランスと、4対3という画角でアートっぽい作品にしたいと思っていたので、バランスよく撮れたのではないかと感じています。
― 性描写は美しくないとダメだという大きな理由は?
あまりエログロなのはイヤだったし、今後配信もあるだろうし、彼女も新人なのでできるだけ綺麗に撮ってあげたいという気持ちでした。残酷さは体の傷でもある程度表現できるので。
― 美しいほうが逆に残虐さが際立っている?
そうですね。そのほうがいいと思いました。
― 寒々とした冬の風景もエモーショナルな人間に対しての設定だったのでしょうか?
最初は8月に撮影する予定だったんですが、それがどんどんズレて真冬になりました。でも、温かい内容の作品ではないので、その状況を生かせて良かったと思っています。まあ、汗ダラダラしていてもそれはそれで韓国っぽくって良かったかもしれませんけどね(笑)。
― イ・ジフンさん、イ・ユヌさん、シン・スハンさんのキャスティング理由についてお聞かせください。
イ・ジフンさんは主人公として決まっていましたが、オンラインで僕も面接をして真面目な感じでいいなと思いました。イ・ユヌさんとシン・スハンさんはオーディションで決めました。イ・ユヌさんは元アイドルで歌が上手くて、声のトーンがハスキーで独特で可愛い女性だったのでいいかなと。シン・スハンさんは、もともとの脚本はもっとおじさんキャラだったんですが、全然違うので、あとから脚本の内容を直したんです。
― かなりハードな描写を含んだ作品ですが、演者とどのようにコミュニケーションを取って作品の世界観を共有されたのでしょうか?
性描写や暴力シーンは最初に脚本で理解したうえで臨んでもらったし、あとは絵コンテをキッチリ描いて撮影前に見てもらって、どんな演技をするのか理解を得て撮影しました。現場では日本人は僕1人なので、しっかり(絵コンテを)描いて、しっかり理解してもらった状態で進めました。
― 本作の主演のジフンはもちろんですが、他の登場人物のバックボーンもしっかり描かれています。そこに向けての監督の意図は?
最初は自分が日本で書き上げた脚本と、元々あった韓国からいただいた脚本と合わせて作ったのですが、急にエグゼクティブプロデューサーさんが3人の話にしたいと言い出したんです。そうなると全部設定を変えて、それぞれのバックボーンも作らないといけないので全部書き直しました。暴力を振るうことになった理由などの背景をしっかり描いたほうがいいですし。実はイェウンのバックボーンもしっかりあって、お母さんも登場する絵コンテまで描いたのですが、撮影日数が足りなくてできませんでした。
― 韓国で撮影されて、日本の撮影と違うと感じたところはありましたか?
まず12時間(以下の)労働ということがしっかり決まっていて、12時間を超えると撮影ができないんです。週52時間労働も決まっていて、週に2日休みがあります。助手が「みんな帰るよ」というと、カメラマンたちも逆らえないんです(笑)。自分はまだまだ撮れるし元気なのに休まなきゃいけないという・・・。それなのに撮影日数は足らないんですよ(笑)。でも、一番下で働く人たちが賃金は安くて、たくさん働かされるので辞めていく人も多いので、働く環境としてはとてもいいことだと思います。
あとは車両部というのがないんです。ロケバスとか機材車とかはなくて、みんな個人で現場に車で来るんです。でもスタッフのみんながいい車で来るんですよ。ベンツとかアウディとか高級車でバーンと(笑)。なんか面白かったですね。
― 作品の内容とは違って、そんなホワイトな現場だったとは(笑)。ところで、撮影において、室内の照明の使い方がとても独特だと思いますが。
あまり照明を当てすぎないようにという気持ちがあって、カメラマンも同じ考えだったのでやりやすかったですね。ジフンがベッドの下にいるシーンもできるだけ真っ暗にしました。(ジフンが)映らなくてもいいくらいに。
― (画角を)4対3にしたかった理由は?
余白を作りたかったんです。カメラマンも賛成してくれて。本当は4対3のモノクロでやりたかったんですが、カラーグレーディングが上手くいったのでカラーにしました。
― 単にフォトジェニックであるだけでなく、作品のテーマやシーンのコンセプトに沿ったロケーションが選ばれているかと。日本、とりわけ東京はロケーションしにくい街ですが、その点で韓国の制作はいかがでしたか?
撮影が行われた仁川という街は再開発が行われていて、撮影許可が取りやすかったので良かったです。法律で1日12時間以下労働と決まっているのに、ここでドローン飛ばしてもいいの?というところでも撮影できていたので、そういう緩さもあって良かったですね。
― ロケーションに行かれて凄く気持ちが高ぶるものはありましたか?
後半に物凄い数の電線が絡み合ってるカットが出てくるんですが、日本にはない景色なので、絶対に撮りたいと思いました。
― 監督から見た特にお気に入りのシーン、注目してほしいシーンがあったら教えてください。
やはりラストカットです。長いワンカットで撮りましたが、とても印象深いシーンになっていると思います。
― 逆に一番リテイクしたシーンはどこですか?
ヒョンオのアクションシーンがなかなか上手く撮れなくて苦労しました。イェウンのお腹に本当に当たってしまって彼女が泣き出してしまうアクシデントもあって、暴力シーンには時間がかかりました。韓国だから凄いアクション監督が来るだろうと思っていたんですが、テレビの経験しかない方だったらしく・・・ちょっと苦労しましたね(笑)。
― ところで、監督が好きな韓国映画や好きな俳優さんはいらっしゃいますか?
韓国映画では『息もできない』という作品が好きですね。ヤン・イクチュンさんとは、東京フィルメックスでお会いして対談もしましたが、『ポストマン・ブルース』(1997年)が大好きだと言ってくれて、とても素敵な方でした。
―今回、韓国映画を撮影されたことで、ご自分の中で何か新しい発見などありましたか?
画角だったり、その中でスピード感ある撮影ができることの確認もできました。海外で撮影しましたが、本当に日本人は自分1人だったのですが全然問題なかったので、これからも(海外でも)絵コンテさえしっかり描けば大丈夫だなと自信になりました。
― SABU監督の作品はシリアスというか、人の心の中にグッと入ってくる作品もあれば、コミカルな作品もありますが、作品を制作するうえでいつも意識されてることは?
自分のオリジナル作品では、“緊張”と“笑い”を凄く大事にしています。緊張感をしっかり作った上で、スッと抜くから笑えるというようなリズム。コメディータッチの作品も多くありますが、常に緊張感はあるんです。今回の作品は緊張感の連続ですから自分の中では不得意ではないので、面白くできました。
― もう1人のジフンさんが連れられていくときもちょっと笑っちゃいますね。
あれは、ついやっちゃったんです。やりたくなっちゃって(笑)。でも、彼の中では意味のある行動だったんです。
― それでは最後に、これから作品をご覧になる皆さんに向けて監督からメッセージをいただけますか?
社会の歪みや、そのプレッシャーからくる孤独と恐怖というものを抱えてる方がたくさんいると思いますが、この映画がそういうことに声を上げてそれをちゃんと聞く力になれたらいいなと思います。ぜひご覧ください。
撮影:ナカムラヨシノーブ
映画『アンダー・ユア・ベッド』
<STORY>
学生時代から誰からも名前すら覚えてもらえなかった孤独な男・ジフン(イ・ジフン)には忘れられない女性がいた。 それは、初めて大学の講義中に名前を呼んでくれたイェウン(イ・ユヌ)だった。 数年経っても忘れられないジフンは彼女を探し出し再会を果たすも、彼女は覚えていなかった。 再び彼女に強烈に惹かれてイェウンを24時間監視するようになったジフンは彼女が夫であるヒョンオ(シン・スハン)から激しいDVを受けていることを知ってしまうがー
原作:大石圭『アンダー・ユア・ベッド』(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊)
監督・脚本:SABU
出演:イ・ジフン、イ・ユヌ、シン・スハン
配給:KADOKAWA
2023年/韓国/韓国語/99分/カラー/スタンダード/5.1ch/
原題:언더 유어 베드/字幕:北村裕美
映倫区分:R18+
画像クレジット:©2023, Mystery Pictures, ALL RIGHTS RESERVED
公式HP:https://movies.kadokawa.co.jp/underyourbed/
5月31日(金)全国ロードショー