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香川照之、1人6役を演じ分けに「全てにモデルがいた」本ドラマならではの手法の提案も! WOWOW「連続ドラマW 災」インタビュー!

【掲載用クレジット付き】香川照之様/WOWOW「災」Astage-9-Edit

世界が注目する監督集団・5月が仕掛ける異色のサイコサスペンス「連続ドラマW 災」WOWOWにて放送・配信中(全6話)だ。本作は 、葛藤を抱えながら現代を生きる罪なき6人の登場人物のもとに “ある男”が現れ、ある“災い”が無慈悲に降りかかる様を描く完全オリジナル作品。

主演は、これまでも数々の作品で圧倒的な存在感を示してきた香川照之。そんな香川が今作では姿を変え、口調を変え、顔つきを変え、まったく別人となって登場人物たちの前に現れる。6人の異なる人間を見事に演じ分け、“男”は何者なのか?“災い”とは何なのか?いつ、誰に“災い”が降りかかるのか…と、多くの謎で心理を揺さぶり、これまでにない恐怖をもたらしていく・・・・。その怪演で視聴者を釘付けにする香川に話を聞いた。

― 今作のオファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。

信頼している5月組の監督たちから誘っていただいたのですが、僕の触手が動くような奇妙なお話だったので嬉しかったです。

― そんな5月の監督の印象は?

5月にはもう1人佐藤監督という東京藝術大学の先生がいるユニットなので、今回は佐藤監督がいらっしゃらないのがとても残念でしたが、2人でもとても楽しかったですし、新しい何かを見た感じがしました。関さんがパイロットで、平瀬さんがコパイ(COPILOT副操縦士)だと思うんです。コパイの平瀬さんはとてもノーブルな顔立ちで、中世貴族みたいな不思議な人物なんですが、凄くこのユニットにとって大きい存在。現場では2人が同時に見て2人が同時に意見を言っています。

― 5月の監督お二人からお話を受け、どのように触手が動いたのでしょうか? また6人を演じる上で、どのように6人の男を捉えて演じてほしいというお話はありましたか?

僕も逆にどうやってこの人たちを分けて書いていたのかを、監督たちに聞きたいと思いましたね。(演じるにあたっては)僕に任せてくれた部分は多かったと思いますが、職業を分け、大体のタイプを分けて書かれて、僕がそれをどう演じるかということを楽しみにされていたのかもしれません。演じ分けると言っても、人間なんて大体同じようなものですから、ちょっと早口で喋りましょうとか、ちょっと丁寧な人にしましょうとか、ちょっと低音で話しましょうとか・・・という提示はしました。

― 1つの作品の中で6人を演じるということはなかなかないことだと思いますが、撮影の日々はいかがでしたか?

ほぼ順撮りだったので新鮮にできました。全然違う僕の姿を見て周りのみんなが喜んでくれていました。服装やメイクも含めてスタッフの皆さんがよく考えてくださったので「全然昨日までの人と違いますね」と言われて楽しかったです。

― 6人を演じ分けるコツはありますか?

僕の中でそれぞれ6人のモデルがいて、その人のモノマネをずっとしていた感じです。でも、自分で見る限り1話は似てなかったなぁ(笑)、2話は似てる! 現場では誰のモノマネか発表しています。3話、4話あたりはもう僕しか知らない人で、6話だけ“香川照之さんという俳優”でやったつもりです(笑)。

自分でセリフを覚えているうちに、この役だったらこう言いたいなという人を引っ張り出して、その人の特徴などを考えるとぴったりな感じだと思いながら、全話スルスルっと出てきました。僕の台本にはその人たちの名前が書いてあります。

「災」第1話_場面写真02

(C)WOWOW

― 今作の役柄で初めて挑戦してみたこと、この作品ならでは試みたことは何かありますか?

役が6つ変わりますが、その橋渡しを1本通す、秘密の1本というのは監督たちと話して共通する視点を作りました。さほど映像的に顕在しているわけではないんですが、そこに不協和音が入るメロディーが入るとか。この難解な話は殺人シーンがなく、残忍なシーンもなく進んでいく中で何が殺意かもわからない。ゲスト俳優の方にはその回の台本しか渡してないので、何のことやら分からないわけです。「誰が犯人なんですか!?」と言ってくる人もいました。そんな中で1本橋渡しをする作業をドラマの中のトリガーを引く瞬間として作る。それを(後で)全部カットしてもいいからやってみようと。僕が3つくらい提示しましたが、上手い具合いにその手法が残されています。あまりわからないと思いますが。ただ何か違和感のポイントとして作っているので、今回のドラマだからこそできる力点を監督と3人で作って、毎回その力点が生じる役者さんに僕が事前に説明して、“こういう反応をしてください”“反応をしなくてもいいです”“自分の好きなように、楽しんでいただいていいです”と、提示をしました。役者同士で話したほうが早くキャッチできるので、僕からお話しましたが。皆さん分かってくださいましたね。

― 橋渡しとして1つの視点を作るために必要だったのですね。

でも、同一性というのは非常に難解で、これは本当に同じ人なのかという疑問を持つわけです。でも本当は同一ではないかもしれない・・・。それをメタファーとして見せているかもしれないし、もっと高尚に考えれば、その存在自体が本当にいるのか否かすら分からない。その災いが起きる人だけに見えている存在で、他の人には見えていないということなのかと、色々考えられます。
台本では、「あの男」という役ですが、あの男が何が好きで、どういう学校を出て、どういう職業で・・・ということが一切書かれていないんですが、役を散りばめたときに、橋渡しをした方が表現として分かりやすいんじゃないかなと。まぁ、それを分かりにくく散りばめているんですけど(笑)、それを見つけた時は嬉しかったし、監督たちも受け入れてくれて嬉しかったですね。視聴者の皆さんも、最初は分からないかもしれませんが、2話3話ぐらいから感じてくると思います。

― 以前、監督たちが「香川さんは顔の可動域が凄い」と仰っていましたが、今作では何か影響はありましたか?

映画『宮松と山下』のときは、監督たちから僕(の顔)を稼働させないように縛っていたんです。「普通にしてください。本当に動かさないで」って(笑)。僕は何が普通なのかというのを久しぶりに考えて面白かったです。眉間にシワが寄る癖があるので、監督たちに「香川さんここです」(眉間を指して)と、言われてそれを取ったイメージがあります。今回はそれを糧として同じ轍は踏まないという意味で、顔の可動域は使わないように役を演じていたつもりですが、最終話のあるシーンで思いきって可動させたら、監督2人とも大喜びしていました(笑)。

【2.25火正午解禁組み画像】WOWOW「連続ドラマW 災」

(C)WOWOW

― ドキュメンタリーを観ているかのようなリアル感のある映像も独特かと。現場の雰囲気で演技が変わったりするのでしょうか?

役者の皆さんそれぞれが持ってくるものが上質キャスティングを含めて、全ての方が最初からこの組の空気感をよく分かられていて、そのドキュメント性というのは撮り方ももちろんですが、役者がかなり楽しんでそちらに寄っていた感じがします。

― タイトルの『災』から、香川さんが考えるテーマとは?

実は、我々は目に見えないところに9割以上支配されていて、その意識がないんです。その記憶を消されてこの世に現れて、精神と物質のその物質に非常に寄った生き方をしていて、肉体という限界のある中に閉じ込められた格好として生まれ、生を全うしてまた目に見えないところに帰る。その物質との付き合いの一生の中で、我々に起こることの最大の悲劇は死であり、病気とか、災とか、そういったものを大きな悲劇として受け入れ、その相対的なものとして、祝福があり幸せがあり、安らぎがあるわけです。全てそれは人間がもたらすというのではなく、目に見えない領域がそこに9割以上働きかけて、宇宙の遥か何億光年向こうの惑星の一つの消滅とかが色濃く影響し、全てが絡み合って、針1本の誤りもなく、宇宙が綿密に作られたその支配を否応なく受けていると僕は思います。その目に見えない領域の一つの表れとして、「あの男」というものを監督が書かれたのだと思います。
「あの男」が悪いのでも偉大なのでもなく、本来は人間というのはそういうものに支配されている。人間が人間に災いを起こすけれど、本来それは偶然じゃなくて必然であり、いろんなことが必然で、そういうものを受け入れていかないといけない・・・それを分からないといけないということをテーマとして僕は受け取りました。

― それでは最後に、このドラマの見どころを教えてください。

色々な映画作品のオマージュも取り入れながら、解決しない上にスカッともしないという新たなスタンスを、関さんと平瀬さんの2人の監督が勇猛果敢に提示するというのが、このドラマの見どころだと思います。それを「なんじゃこりゃ」という方もいれば、「うん、これがいいね」という方も、「さっぱりわからん」という方や、「これは僕自身だ」と肉薄する方もいらっしゃるかと。そういうことでいいと思うんです。ドラマの新しい裾野が広がっているっていうことの一例だと思うし、不思議な魅力が詰まっている。それはこの“5月”のユニットがいつも提示するものなので信頼できます。

撮影:ナカムラヨシノーブ

【フルビリング】WOWOW「連続ドラマW 災」縦KV

(C)WOWOW

【番組情報】
■タイトル:「連続ドラマW 災」(全6話)
■放送配信日時:毎週日曜22時~(全6話)
【WOWOWプライム】【WOWOWオンデマンド】
■公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/sai

<スタッフ、キャスト>
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗(5月)
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:高江洲義貴、日枝広道、伊藤太一、近藤あゆみ
原案:5月
制作プロダクション:AOI Pro.
制作協力:電通
製作著作:WOWOW
出演:香川照之ほか