2017年8月24日 渋谷の中心にある劇場・CBGKシブゲキ‼にて、「キング・オブ・スタンダップコメディ~サマーフェスティバル2017@CBGKシブゲキ!!~」が開催された。
日本スタンダップコメディ協会は、2016年7月に、会長・清水宏、副会長・ぜんじろう、会員・ラサール石井を中心に旗揚げされた。
スタンダップコメディとは、1人の芸人がステージ上マイク1本で観客と対峙し笑わせるという究極の話芸。
協会設立以来、ジャンルを問わず様々なゲストを迎えて、積極的に公演が行われてきた。今回は、ゲストスピーカーに、水道橋博士、トークゲストとしていとうせいこうが参加し、CBGKシブゲキ‼に初上陸した。
完売御礼の超満員の客席でオープニングがスタート。
客席からトレードマークのオレンジ色のジャージを着て乱入(?)してきた清水宏は、すでに臨戦態勢。オープニングでスタンディングオベーションをしよう、という謎の展開に観客は乗せられ、会場も準備万端。始めから観客の心のカギを開いてゆく清水の話芸とテンションは唯一無二だ。
トップバッターは、”協会副会長”のぜんじろう。
ぜんじろうは近年アメリカでの活躍が目覚ましい。言語も違う世界のコメディ界の大海原へ、“1人話芸”という身一つの技で漕ぎいで結果を出してきた。同じく、イギリスを始め各国に体当たりの遠征をしてきた清水宏とは盟友であり、このエネルギッシュな2人により作られた協会だけに、ただならぬエネルギーを内在していることは必至だ。
ぜんじろうは、リズム感のある早めの語り口で、観客を飽きさせる事なくトークを進める。挟み込こまれる下ネタも軽妙だ。自ら渡米し肌で体験したぜんじろうだからこそ語れる、日米の笑いの違い、その的確な分析に笑いながらも聞き入ってしまう。そして、かつて彼がギャグラップとして、ギャングスタ・ラップ「Ice Cube」の前座でライブをした時の経験談など、”ここでしか聞けない話”が盛り沢山で、トップバッターから濃厚な話芸に圧倒された。
2番手は、ゲストスピーカーの「浅草キッド」水道橋博士。
時にプロジェクターを使いつつ、時事ネタも織り交ぜながら、シニカル且つ笑える絶妙なトークを展開。水道橋博士自身が体験し、見聞した視点から語られ、臨場感がありながら、きょうびの時事ネタとして共通にイメージできる昨今の話題を提供。その客観性といたずら心の振幅の広さに、異才である事を改めて認識させられた。
水道橋は、「時事ネタでも笑い飛ばすという事が大事で、こういった(笑いの)“共犯関係”をいつまでも続けられるよう頑張りましょう」という言葉を残し、拍手喝采の中、退場。
ここから、トークゲストのいとうせいこうを交えてのトークタイム。
いとうは、日本語ラップの草分け的存在であり、作家、MC、タレント、など、マルチな才能を遺憾なく発揮し、自身もかつて、スタンダップコメディを行っていた。いとうは、清水宏とぜんじろうの活動と試みを「素晴らしい」と称えた。そして水道橋博士とラサール石井も交え5人でのクロストーク。まごうことなく“話芸の鉄人”である5人が舞台上に揃うと、なんとも言えない迫力と贅沢感がある。いたずら心一杯の大人達のトークは、雑談でも聞き逃せず、いつまでも聞いていたいと思う空間だった。
トークコーナーが終了し、ラサール石井が登場。
「みんなゆるやかに騙されている」というテーマで、エンタテインメントやマジック、超能力などトリックの裏側を、辛口でテンポよく解説。聞いてみれば気が抜けるような分かりやすいトリックや、へぇーと思うネタばらしなど、私たち観客がいとも簡単に騙される、エンタメの裏にある作り手の遊び心が覗き見れられた。
そして、真打、“協会会長”の清水宏が、先程のジャージからジャケットに着替え登場。
話題は、日本映画に付けられた英語字幕の残念なニュアンスについて、や、「怒り」を抑える方法について、アイロニックに紹介。また、夫婦で銀行に行った際の行員とのやり合いのエピソードなど。会場は笑いの渦となった。世の中への矛盾や怒りに決して屈せずあきらめず、10倍返しにエンタメに消化させる、勇気が湧いて笑える“清水節”に引き込まれた。
フィナーレは、5人全員が壇上に再登場。改めてこの小さな劇場で、この5名の話芸を堪能できる濃密な時間に幸福感を得た。
ぜんじろうは、「僕ら50代近辺の人々の活動ですが、そういう人たちが、もう一度何かデカいことをやっていく、皆さんとパワーの交換会をしたいです。それで皆さんが勇気づけられたらと思う。皆さんにも来て見て頂くという“支援”をして頂けたら」とメッセージを送った。
最後に、清水宏は、「世の中、色々と気にしなきゃいけない、言っちゃいけない事も多い。でも多分、実は気にしないで済むことも多いんじゃないかなと思います。気軽に色んな事を笑い合ってくれるようになればいいなと思います。そして、コメディアンが普通にライヴで全国を回って、それをお客さんが楽しみにしてくれて、食べていけるような形を、生きてるうちに、よぼよぼになる前に、こつこつ形にしてゆきたいと思います。ささやかなことですが。是非また色んな所でお会いしたいと思います」と話した。
終演後、会場のあちこちで観客たちの溜息に近い感嘆の声が聞かれた。清水宏は会場出口付近で、帰る観客と一人一人と握手をし、この会の“共犯者”を丁寧に見送った。
船出を始めたばかりの「スタンダップコメディ協会」だが、話芸の実力者達が、全力で盛り上げようとする姿、様々なエンタティナーたちが呼応する姿を見て、今後この風が大きな旋風になる日は遠くない、と予感させる会となった。スタンダップコメディ協会の今後の動きが楽しみだ。
<公演データ>
「キング・オブ・スタンダップコメディ~サマーフェスティバル2017@CBGKシブゲキ!!~」
日時:2017年8月24日(木) 会場:CBGKシブゲキ!!
出演:清水宏、ぜんじろう、ラサール石井 / 水道橋博士
トーク対談ゲスト:いとうせいこう
主催:CBGKシブゲキ‼