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スタジオライフ公演『卒塔婆小町』開幕レポート

劇団スタジオライフの『卒塔婆小町』が8月17日、東京・新宿シアターモリエールで初日を迎えた。

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この作品は、文豪・三島由紀夫が能の謡曲を近代劇に翻案した『近代能楽集』所収の一編。1956年の発刊以来、よく知られる美輪明宏版をはじめ、これまで数多くの演出家や劇団が舞台にかけてきた傑作戯曲だ。三島作品は初となるスタジオライフが、原作にとても忠実に、しかし独自の美意識と躍動感を加えながら、これを 2017年に蘇らせる。

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舞台中央から大きくせり出したサブステージを、三方の客席が取り囲む。背景と呼べるものもほとんどなくシンプルに作られた舞台セットは、形状的にも、また観客の想像力を信じ託す効果の上でも、まさに能の舞台を彷彿させるものだ。スタジオライフ版の大きな特徴は、本編が始まる前の同時上演作品として、若手キャストを中心とした 30分 間のオリジナル音楽劇『深草少将の恋』が演じられる点にある。内容は『卒塔婆小町』の元ネタである、小野小町に 恋をした深草少将の「百夜(ももよ)通い」伝説について。百夜通ってくれたなら想いに応えましょう、という小町の 申し出に乗った少将の熱心さがどのようなものであったかを、歌唱を交え分かりやすく解説。この『深草少将の恋』 の存在が、予備知識を全く持たない観客にも敷居をずいぶんと低くしてくれる。演劇を高尚なものにせず、全ての観 客に楽しんでもらいたいという変わらぬ姿勢は、子供向けの影絵劇団をルーツに持つスタジオライフの大きな美点だ。

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自称99才の醜い乞食の老婆(山本芳樹)。夜更けの公園で何度か彼女を見かけ近付いた詩人(関戸博一)に対し、彼女は美人の代名詞である小町を名乗って、「私を美しいと云った男はみんな死んじまった」と語り始める。すると、舞台は80年前の明治時代にタイムスリップ。驚いたことに老婆は気高き20才の生娘となり、奥の殺風景なガラス板もかの鹿鳴館の飾り窓に変身、過ぎし時代の栄華をロマンティックに物語る。詩人はたちどころに女に魅了されてしまうのだった。やがて姿は若く美しいまま、徐々に声色、姿勢、風格が崩れ、老婆に戻っていく山本の怪演には目が釘付けになる。男と女、美と醜、恋慕と嫌悪、生と死、祝福と呪い――さまざまな対比を鮮やかにしつつ、美貌ゆえ己も周りも不幸にしてしまう娘、誰にも見向きもされなくなった老婆、その双方の悲哀をエネルギッシュに表現。それを受ける関戸の、熱を帯びた視線もいい。これは詩人が見ている夢なのか、それとも現実なのか?二人の巡り合わせの意味とは?答えは出ない。飾り窓の中央に咲き誇る芍薬の花一輪が、百夜通いに込めた少将の情念を想わせて―。

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観阿弥という異才が生んだ謎めいた物語を、息子の世阿弥がリメイクし、さらに天才・三島が練り上げたこの戯曲。
その上スタジオライフのベールでくるまれてもいるのだから、二重、三重にかけられた強い魔法のようなものだ。魔宮に入った観客たちはきっと一人として同じ出口に辿り着くことがないが、いずれの出口も正解なのだろう。クライマックスで老婆が、絶望したように口にするセリフ「もう百年!」の意味をどう捉えるか(少なくとも記者は、原作を読んだ時とまるで異なる解釈のヒントを得た)。その捉え方は、あるいは観る者の恋愛観をありのまま映し出す心理テストのようなものかもしれない。ぜひ多くの人に体験し、自身の感性に問うてみてほしい。なお本作ではトリプルキャストが用意されている。日によって、老婆役を味わい深い演技に定評ある個性派・倉本徹が、詩人役をクラシカルな優雅さを持つ仲原裕之や成長株の宇佐見輝が演じるとあり、そちらも気になるところ。

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上演は9月3日まで。
(文/上甲薫)