「水泳が教えてくれた。一生懸命やる気持ち」　ミュージカル『アニー』　藤本隆宏インタビュー

大河ドラマ『真田丸』（2016年）への出演など、俳優としてはもちろん、司会にバラエティ番組にと大活躍。お茶の間でもすっかりお馴染みの顔となった藤本隆宏が、新演出となる2017年のミュージカル『アニー』に出演する。
藤本隆宏がソウル・バルセロナと2大会連続でオリンピックに出場した水泳選手だったことは、最近ではよく知られるようになった。
だが藤本隆宏が俳優となったきっかけがミュージカルで、俳優としてのスタートは劇団四季だったことは、意外に知られていないのではないだろうか。
お茶の間を魅了するナイスガイ、俳優・藤本隆宏のミュージカルへの、『アニー』への思いを聞いた。

―『真田丸』での藤本さんの堀田作兵衛役のお姿が、まだ忘れられないでいます。
ありがとうございます。メンバーが楽しい方々ばかりでした。特に自分は真田の一人でしたので、最初から最後までとてもよかったです。

―ドラマに、司会やバラエティにと多方面で活躍されている藤本さんですが、『アニー』の製作発表で「長い間ミュージカルに出演をしたいと思ってきた」とおっしゃっておられました。　年末年始にかけて『シェイクスピア物語』～真実の愛～ にご出演されましたが、それ以前はしばらく舞台出演からは遠のいておられたのですか？
そうです。舞台出演は8~9年ぶり、本格的なブロードウェイミュージカルについては10年ぶりぐらいの出演になります。

―2009年の『坂の上の雲』以来、たくさんのドラマにと出演されて、今ではテレビでお馴染みの藤本さんですが、今回、改めて出演作品を拝見して、俳優としてのスタートが劇団四季からで、その後はとても多くの舞台に出演されていたと知りました。
はい。本当にミュージカルが好きで俳優になったのですが、映像の方へ行ったので諦めていたのです。でも今回、『アニー』で歌うようになって「（ミュージカルが）やっぱり好きだ！」「音楽はいいな」と思いながら稽古場にいます。

―ミュージカルへの思いをずっと持っておられたということですか？
いえ、そういうわけでもないんです。与えて頂いた仕事を100%やることを常に考えていますから、映像の仕事がずっと続いていて、そっちを頑張ってきました。やはり舞台は2～3年前にお話を頂くので、なかなかお引き受けできずにいたのですが、今回やっと叶いました。

―ボイストレーニングなども続けておられたのですか？
いつかチャンスはあるのではないかと、4年ほど前からまたボイストレーニングを始めました。

―劇団四季時代にしっかりレッスンをされてきた上でのボイトレですね？
また違うところもありますね。劇団四季に入り俳優としてスタートしましたが、その後8年くらいはソロを頂けなくて、ワンフレーズ歌うかどうかでした。公演イメージや役柄に合うように更にレッスンを重ねました。宮本亜門さん演出・振付の『イントゥ・ザ・ウッズ』（2004年2006年出演）で、初めてオーディションで大きな役を頂いた。自分にとっては転機となる特別な作品の一つです。その後、パートが増え1曲歌わせて頂いていましたが、当時は技術的に分かってないことも多かったと思います。今は、新しい発見が多くて、自分なりに極めようと努力しているところです。

―今回の『アニー』では大富豪オリバー・ウォーバックス役ですね。
良い役を頂きました。どうしようかと思っています。（ニッコリ）

―お稽古はいかがですか？
2月の終わりから歌稽古が少しずつ始まり、3月11日から立稽古が始まっています。子供たちはチーム・バケツとチーム・モップと2チームあります。今年から新演出になりまして、アニー役は野村里桜ちゃんと会百花ちゃんの2人ですが、「里桜やってみようか」「じゃ、次は百花やってみようか」と交代しながら2チームが一緒に稽古しています。翻訳台本や振付も変わりますし、いろんな部分でこれまでとずいぶん違うのでは…と思います。

―全体が1つのチームでもあるのですね。2人のアニーは、個性が違うのでしょうか？
うーん、見ていると雰囲気が似ているところもあって「同じ役、主役を演じる子だな」と感じます。「私が、私が」じゃなく、他の人への気遣いがちゃんとできる。謙虚さをもっている。でも芝居になるとどーんと表現できる。そして、アドバイスを受けると、すぐに応えて変えてられる。若さなのかもしれませんが、すごいなぁと思っています。

―藤本さんの役作りは、どう考えて取り組まれたのでしょうか？
台本を読んでも映画を見ても感じることは、ウォーバックスはお金持ちで他人の心が分からない傲慢な人だが、アニーによって変わっていく。そこをなるべく出していきたいと、それだけは心がけています。でもやってみると、演出の山田和也さんから「まだまだ」とダメ出しをもらいます。「人がいいから」「ジェントルマンだから」と…。そうおっしゃって頂くのは嬉しくもあるのですが、「唾を飛ばすような、トランプ大統領のようなイメージで」と指示を頂くので、そこを稽古でトライしています。

―お稽古は楽しいですか？
楽しくはあるのですが、台詞が一番多くあったりしますし、歌もソロはハードルが高いです。歌はかなり暗い重い歌なので「子供たちが観た時についていけるのだろうか」と考えて、発声やテンポを変えたりして、悩みながら作っています。

―試行錯誤しながら作っておられるのですね。
そうです。でも、それも楽しいというか、有難いことです。

―演技や歌だけでなく、座長のポジションでもあり、まとめ役でもあったりされるのかなと思うのですが、そのあたりはいかがですか？
年齢的には上の方が他にもいらっしゃいますし、こういう役割をやったことがあまりないのです…。本当に大きな役ですので、この役を頂いたことに感謝しながら自分の与えて頂いた仕事は絶対にきちんとやる。それ以外にも、チームですから、コミュニケーションをとることも全力でやっていこうと思っています。実はそういうのは苦手なんですが…。

―そうなのですか?!
はい。実は恥ずかしがり屋で、みんなでわいわいやるのが苦手なんです。稽古場では、出来る限り皆さんへの声掛けを心掛け、時間を見つけて世間話などもするように今回は頑張っています！(笑)

―俳優でありながら司会もされる、バラエティにも出ておられる。しかもスポーツマンですし、何でもおできになる方だと思っていました。そう思っている方が多いのではないかと思います。
褒めて頂いて、マネージャーが笑っています。(笑)　運動もできるのは水泳だけ、球技はできませんし、運動神経もそんなに良くないんです。司会も緊張して、毎回「どうしよう…」と思っていますし、実はすごく不器用なんですよ。コンビニで買い物しても、買った物を持たずに出て行ったり…。ダメなところが多いのですが、とにかく一生懸命やることが大切だと思っています。

―意外な素顔を伺いました！　その「一生懸命やる」という気持ちの原動力は、どこにあるのでしょうか？
水泳が教えてくれた…というのでしょうか。水泳が「やれば、ある程度はできる」ということを教えてくれました。「人より練習すれば、記録は早くなる」という方針でかなり厳しい練習をしてきたので、オリンピックまで行けた。メダルは取れなかったけれど、オリンピックまで行けたということは、俳優でもおなじだろうと思って取り組んできました。俳優としては、3年ぐらいまでは全く芽が出ませんでしたけれど、一歩ずつ階段を上がってきたので、「一生懸命やれば、絶対上っていける」と思ってやっています。

―その努力が今のご活躍になり、そして『アニー』の出演となったわけですね。今も水泳の指導をされていると耳にしましたが。
はい。月に何回かだけで、ずっと指導されている先生方に比べると指導力もないのですが、2000年前後に木原光知子さんと知り合ってからずっと続けています。幼稚園のお子さんから「あなた、誰？」って言われたりしながら。(笑)

―では『アニー』というお子様たちがたくさんいる現場と言うのも…
そうなんです。普段子供たちと接する機会がない方に比べれば、近く接することができるのかな…と思っています。

―それも不思議なご縁…ですね。
そうですね。何ごとも結びついていくものですね。

―ミュージカルを志して10年近く舞台に立っておられて、それから映像のお仕事が10年近く続いて、そして『アニー』でミュージカルの世界に戻ってこられた。今、藤本さんは新たなステップに足を踏み入れたという感じを受けました。
自分でもそんな感じがします。また舞台に出演する。新たな気持ちですし、今までやってきたことをもう一度勉強できることを幸せに思っています。それに『アニー』の音楽が本当に良い、物語も良いんです。台本を読みながら涙がとまらなくて、自分の台詞が言えないんです。「やらせて頂けてよかった」と思いながら稽古をしています。

―最後に『アニー』を通じての藤本さんからのメッセージを頂けますか？
僕からのメッセージはないです、懸命に演じるだけです。(笑)　ただ、アニーの１つの言葉、行動で大人たちが気付かされて変わっていく様は観て頂きたいですね。子供の純粋さや、正しいことは正しいと言える力やその大切さは観て欲しいです。そして『トゥモロー』という曲が「前向きに考え方を変えることができれば、素敵な未來が待っている」と言っていますので、是非たくさんの方に観て頂いて元気になってもらえたら嬉しいですね。

藤本隆宏（ふじもと たかひろ）
1970年7月21日生まれ　福岡県宗像市出身
ソウル五輪・バルセロナ五輪で200m・400m個人メドレーに出場。バルセロナ五輪では400m個人メドレーで8位入賞を果たす。
劇団四季『ヴェニスの商人』(97）、『キャッツ』（マキャビティ役/98）等を経て、「リチャード三世」（99）「イントゥ・ザ・ウッズ」（シンデレラの王子・オオカミ役/06）「ハウ・トゥー・サクシード」（バド・フランプ役/07）など、数多くのミュージカル、舞台に出演。
ドラマでは「坂の上の雲」（海軍中佐 広瀬武夫役/09、10　NHK）、「JIN-仁-」（西郷隆盛役/11 TBS）大河ドラマ「真田丸」（堀田作兵衛役/16　NHK）など多数出演。また2012年からは「オリンピックコンサート」の進行もつとめている。

丸美屋食品ミュージカル『アニー』
2017年4月22日（土）～5月8日（月）　東京　新国立劇場　中劇場
2017年8月10日（木）～15日（火）　大阪　シアター・ドラマシティ
2017年8月19日（土）～20日（日）仙台　東京エレクトロンホール宮城
2017年8月25日（金）～27日（日）名古屋　愛知県芸術劇場 大ホール
2017年9月3日（日）　長野県上田市 サントミューゼ大ホール
公式HP：　http://www.ntv.co.jp/annie/

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