11月1日からの開幕を控え、10月31日にフォトコールと囲み取材が行われた。
シアターコクーンプロデュース公演として、映画監督・演出家・個性派俳優として名高い岩松了が書き下ろした新作である『青い瞳』は、帰還兵を題材とし、人間の本質的な問題に迫った作品。
岩松作品では『羊と兵隊』以来7年振りにタッグを組む中村獅童を主演に迎え、20年ぶりに岩松作品に挑む勝村政信、3度目の共演となる伊藤蘭に、今作で初参加となる、KAT-TUNの上田竜也、前田敦子と、個性豊かな俳優陣がそろった。
【フォトコール】
タカシマ(勝村政信)のアトリエを訪れる帰還兵ツトム(中村獅童)。昔を懐かしむ会話ながらも、ギクシャクした関係が垣間見られる。一体何があったのかと感じさせる場面。
そこへカオル(瑛蓮)が登場。ツトムは去り、タカシマとカオルの会話が続く。カオルとタカシマの会話は決して穏やかではなく、タカシマの激情に圧倒される。
とある空き地では、コウモリ(金井勇太)が若者に囲まれ痛めつけられている。それを見たミチル(前田敦子)が駆け寄ろうとするのを止めるサム(上田竜也)。ミチルが駆け寄ると、コウモリはグッタリし動かない。
ツトムの自宅。食卓で父(岩松了)が食事をしながらテレビを見ている。ツトムと何気ない会話をしていると、母(伊藤蘭)がはつらつと登場。遠慮がちな父とはつらつとした母が対照的だ。
洗濯物を干す母。その洗濯物は軍服だった。それを見たツトムは怒り狂う。落ち着きを取り戻したツトムに母は優しくツトムが子供の頃の話をする。伊藤演じる優しい母がトゲトゲしたツトムを温かく包み込むようだ。
【囲み取材】
作品について
岩松 「帰還兵っていうのは基本的に人間の陥りがちな本質的な問題をはらんでいると前々から思っていたので、その事を書きたいなと思ってこういうシチュエーションにしました。自分がやってきたことに価値があるのか、ないのかということに対して、非常に問いかけられる立場にある帰還兵って言うものは、我々が生活していく中でもありがちな本質的な問題じゃないかと思いこのシチュエーションを選びました。」
岩松演出についての印象は?
中村獅童「一つ一つの場面を丁寧に作り上げていくので・・・丁寧というのはつまり、何回もやるっていうことですね。体に叩き込まれるっていうか。僕は2回目ですけど毎回勉強させていただいています。楽しいです。」と、はつらつと答えた。
上田竜也「中村さんが仰ったように、何回も何回もするので、台詞がどんどんと自分のキャラクターに馴染んでいくというか、自分の言葉になっていくという瞬間があるので、凄くいい時間だったなって思います。」丁寧に言葉を選びながら語った。
前田敦子「色んな事を教えてくださるので、先生です。」と、しっかりとした答え。
勝村政信「僕は、4作目で、演出は20年ぶりで2回目なんですが、他の方の演出とはまるで違って、岩松さんの本って言うのは裏側には激流みたいなものが流れていてそれを久しぶりに感じました。」と、以前と変わらないスタイルを表現した。
伊藤蘭「やっぱり岩松さんは厳しい演出家だと思います(笑)激しく厳しいという意味ではなくて、ジンワリ効いて来るといいますか、毎日課題を家に持ち帰って、自分で何とかしようという思いの毎日で、この年齢になってまだまだ勉強させてもらっているって感じです。ありがたいです(笑)」と、温かくも力強く答えた。
稽古について
岩松「初めての人もいれば、何度目かの人も居るんですけれども、ゼロから作っていくというのは、いつも大変な事なんですけど、今回は作品自体がちょっとシチュエーション自体暗い感じのものなので、戦争が終わってと言う中に身をおいている人たちの話なので、有る意味殺伐としている心象風景の人たちが多いので、そういう中で役者さんたちが本当に暗くならなければいいなと思ってやっていたんですけど、(会場笑)上田くんと前田さんは初めてで、特に若いし、あまりやった事がないタイプの芝居なんじゃないかと思って、気持ちのどこかで、フォローしてあげなきゃと思いつつ、そんなにフォローしてなかったんじゃないかと思っています。」と、厳しいだけではなく、優しい一面も。
稽古場の雰囲気について
中村「暗いっすねー」の一言で笑いを誘った。「昼から晩までお稽古させていただいているんですが、その間にちょくちょく休憩が入るんですけど、やることが盛りだくさんなので、そんなに会話もなく、暗いですね」とあっけらかんと話す姿に会場が笑いに包まれる中、さらに「体重も5キロくらい減りましたから。こういうお役なので、やせたいと思っていたんですけど、何の努力もせずフツウにやせていきました。」と会場を沸かせた。
上田「岩松さんに言われた事を何度も何度も迷いながら、獅童さんや勝村さんにお話を伺いながら、噛み砕いて説明して下さったり、自分にとっては・・ま、暗かったですけど(会場笑)有意義な経験だったなと思います」と、周りとコミュニケーションをとりながら挑んでいる姿が垣間見えた。
前田「岩松さんがまたに話しかけてくださるんですよ。それが何でなのか今説明・・(会場笑)たまに気さくに話しかけてくださるんで、私はそれに動揺しちゃってたんですけど、あ、優しさだったんだなって」と(笑)を誘うと、岩松より「そうかー、通じてなかったか」と、残念そうな声がかかった。
勝村「暗いだけではありません(会場笑)重さもあります(会場笑)みなさんはあまり体験した事がないと思うですけど、1メートルあるくのに3秒半ぐらいかかるような感じ(笑)階段もこんなに重力があるのか・・・と。一度皆さんも試されてみてはいかがですか?割と楽しいですよ。岩松さんの稽古は癖になりますね。でも家に帰って泣いたりします。」と、さらりとおどけて話し、一層会場を沸かせた。
伊藤「そういえば私、全然話しかけてもらえませんでした。(笑)3作目となると結構ほおっておかれて寂しかったんですけど、ちょこちょこ交し合う視線に支えられて、励ましあって、何とか稽古場を乗り越えました」と、共演者に確認しながら温かく語った。
見所は?
中村「演劇は生で行われているものですから、劇場に足を運んでいただいて生で体感していただきたいなと思います。」舞台人としての言葉が。
上田「この本質を見てもらった上で、自分としては見に来てくださった方に感想をそれぞれ聞いてみたいですね。自分たちが発信したものをどう受け取ってもらって、どう返してくれるのかって言うやり取りをしてみたいです。」と、観客の視線を意識した言葉が。
前田「岩松さんが書いてくださった言葉って、素敵な言葉が沢山出てくるので、全体を通して皆さんがしゃべる沢山の台詞量から、素敵な台詞を拾い取ってくれたらいいのではないかなと思います。」と、答えた。
勝村「出来立ての良さがあるかなと。本も出来立てで僕らも本が出来るドキドキ感も楽しめましたし、出来上がったばかりの暖かさと言うか、美味しさが味わえるのではないかなと思います。」と、新作ならではの見所が出た。
伊藤「今回は場面転換など視覚的に楽しめるようになっていると思うんですけど、私が皆さんのお芝居を見て思うのは、話す言葉だったり会話を良―く聞いていると、なるほどとおもったり、すっと笑ってしまったり、そのあたりを見ていただけたらなって思います。」と優しく語った。
岩松「ここにいらっしゃる役者さんたちが魅力的なので、それぞれを味わって頂きたいって言う思いがありまして、僕は見逃してもらいたい(会場笑)練習量も少ないんでね」と、笑いを誘った。
意気込みを
中村「スポーツでもないから、意気込みって言われてもね。頑張ります!っていうような芝居でもないし、なんていったらいいんでしょう?とにかく。劇場でお待ちしております。じゃぁ、上田くんから」と、上田に振ると、「ヤイヤイヤ・・・」と。
「とにかく一生懸命やらせていただきますので、多くの方に見ていただけたらと思います」と言う言葉で締めた。
【あらすじ】
戦争は終わった。神経のすり減るような戦場での経験を抱え、兵士たちはそれぞれの故郷に帰る。
ツトム(中村獅童)もそうした帰還兵の一人。両親と妹と暮らす家に戻ってきて以来、彼と家族の関係はどこか不自然なものとなっている。厳格だったはずの父(岩松了)はツトムと距離をとり、帰還を喜ぶ母(伊藤蘭)は前のめりなまでに「社会復帰」の大切さを説く。唯一、妹のミチル(前田敦子)だけが。はつらつとした若さで彼を癒してくれるが、それでも本当に心の晴れる日はない。
一方、街の酒場「ブランコ」には、よそから流れてきた若者を中心としたひとつのグループがでいてる。戦争を知らない若者たち。ミチルはグループの一員サム(上田竜也)とつきあってる。ツトムは距離を保ちつつミチルを見守る。
戦場にこそ真実がある、などというつもりはない。ただ、亡くなった戦友たちの魂を思う自分と、故郷での日常にあまりに距離がある。なんのために自分は日々を暮らしているのだろう―?自らの行動の軸を見失い、孤立感を強めるツトムのため、母は子どもの頃の彼を心の迷いから解き放った恩人「タカシマさん(勝村政信)」との再会を取りはからう。
以前のツトムを取り戻したい母、いわくありげな「タカシマさん」の言動、やがてミチルとサムを巻き込む陰惨な事件・・・・・・。さまざまな思惑、状況のなか、ツトムは「今の自分」のよりどころを求め、さすらっていく。
公演概要 シアターコクーン・オンレパートリー2015 『青い瞳』
【作・演出】岩松 了
【出演】
中村獅童 上田竜也 前田敦子
岩松 了 勝村政信 伊藤 蘭
【公演期間】 2015年11月1日~26日
【会場】 Bunkamuraシアターコクーン