5月14日より、韓国の大人気創作ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』の日本版再演が開幕する。
著名な心理学者の豪邸で起こった火災事件。ハンスら、博士の4人の養子は家庭教師メリー・シュミットにより助け出されるが、その後メリーは姿を消し、子どもたちは誰一人として事件のことを覚えていなかった。12年後、成長した子どもたちはあるきっかけで事件の記憶を取り戻して行くが――。
日本版オリジナル演出に加え、韓国版とはまた違ったストーリーが話題を集め、早くも再演が実現。2014年の日本版初演に続き、ハンスを演じる小西遼生が、来日中だった韓国版初演で同じくハンスを演じたチョン・サンユンと初対面。作品について、そしてミュージカル俳優同士として意見交換した。
小西遼生×チョン・サンユン
――今回の対談は、日韓『ブラック メリーポピンズ』ハンス役対談です。チョン・サンユンさんは韓国初演(2012年)で演じられて、小西遼生さんは日本版初演(2014)と今回の再演でハンスを演じます。2人は『スリル・ミー』でも同じ役を演じている共通点がありますね。
チョン・サンユン(以下サンユン) 今回の対談のお話を聞いて、当時を思い出しました。数年前のことなので、正直忘れていることも多いんですけど(笑)。とはいえ、初演でしたし、(脚本・作詞・音楽・韓国版演出)のソ・ユンミさんとも初めてでしたから、稽古の過程においては悩みながら、ユンミさんやキャストたちとかなり話しをして臨んだことが思い出されます。ですからいろんな面で僕にとっては印象深い、意味深い作品でしたね。
日本初演(2014年)『ブラック メリーポピンズ』 撮影:難波亮
――日本版の映像も見ていただいたそうですが、韓国版と比べてどんな印象を受けました?
サンユン 韓国版はセットも照明も少し昔の、古い感じを出しているんですが、日本版の白を基調にしている高級感あるセットに驚きました。この作品は観客の皆さんに想像させる部分が多いと思うんですけど、このセットが子どもたちの現在、過去の姿を想像しやすくする感じを受けました。けっこう印象が違うので、韓国の観客が日本版を観たらどう思うか興味がありますね。
――小西さんは、一昨年初演された時の感想はいかがでしたか?
小西 台本を読んだとき、僕は、ソ・ユンミさん1人で、本を書いて、音楽を作っていることが興味深かったというか面白かったです。人物の関係性、話の流れ、音楽も含めて1人の頭の中で出来上がっているから、会話とか音楽の重なり方がすごく筋が通っているというか。
サンユン 作・演出はあるかもしれないけど、音楽までやる人は珍しいですよね。僕も作品の雰囲気に合わせてナンバーが無理なく作られている感じを受けました。
小西 それから、見ていただいた通り、セット以外にも、日本版は韓国版と変わっている部分があるんですよ。
サンユン はい。ストーリーなど変わっていますよね。
小西 そうなんです、韓国版のソ・ユンミさんと相談して日本版を作り変えたと演出の鈴木裕美さんから話を聞きました。ストーリー、演出の見せ方もそうですけど、登場人物のキャラクターも少し違っていると思います。僕も韓国版は映像でしか見てないので、感覚的なことなんですが、兄弟の力関係が日本版のほうがはっきりしているかもと思いました。
サンユン ええ、そうかもしれません。
――ハンスを演じる上で、2人とも苦労したところはありますか?
サンユン 彼は子どもの頃の事件の記憶を無くしているわけですけど、12年経って、ある出来事から少しずつ事件について思い出していきます。それに耐えて行くところは個人としても役を演じるうえでもとても辛かったですね。妹のアンナへの思いも。4人の子供たちのキャラクターのなかでとても弱いキャラクターだったハンスが、一歩を踏み出すときの痛みもほんとうにね…。
小西 わかります。僕も一緒です。
サンユン (笑)。
小西 おそらく日本版と韓国版の演出で、一番の大きな違いはメリーの存在だと思うんです。
サンユン はい。日本版を観てビックリしました。
小西 彼女の存在によって、子どもたちの人生もだいぶ違ってくる。もしかしたら、日本版の僕たちの方が、ちょっとだけ救われてる気がするんです。事実は変わっていないので、辛いことはもちろん変わらないんだけど。
サンユン なるほど、そういう考え方もありますね。
――さて、せっかくの機会なので、小西さんからサンユンさんに聞いてみたいことがあったら…。
小西 歌はいつから好きですか? いつから歌われていますか?…すみません、こんな質問(笑)。
サンユン (笑)子どもの頃から歌うのが好きでしたね。
小西 どうしてこんなことを聞いたのかというと、日本人と韓国人の生活の中で、音楽との距離感がどう違うのかに興味を持ったんです。僕が思うに、韓国の人はすごく音楽と近いような感じがしていて、もしかしたら日本人に比べて、家族で集まった時に歌を歌う文化があるのかもしれない、とか。韓国の文化として音楽が近いのかなって。
サンユン (音楽との距離感が近い)と思います。文化的に。韓国と日本、似ているようで違うんでしょうか。韓国は飲酒、酒の文化に歌がついてくる感じがあります。“興が乗る”ってありますよね(笑)。
小西 興が乗る、ね(笑)。
サンユン 今の話に関連してるか分かりませんが、以前、韓国で上演されたミュージカル『スリル・ミー』の演出を2013年に栗山民也さんが手がけたときのインタビュー記事で、「韓国の俳優は舞台上で実在している」という言葉が印象に残っています。
小西 そう思います。舞台上の人たちが演じていることに“日常感”があるんですよね、僕、先日、韓国でミュージカルを何作品か観たんですけど、非日常的なストーリーだったのにも関わらず、すごくリアリティを感じた。民族的なエネルギーが音楽と近いのかなと思ったんですよね。だから聞いてみたかったんです。僕は栗山さんと3作品でご一緒しているんですが、栗山さんは演劇的なことというよりは、人間的な、その人の本質的なものを求める人。韓国で演出した時の話も聞いたことがあって、すごく楽しかったんだろうなと思っていました(笑)。
――今後、こういう作品に出てみたい、こんな役を演じてみたいとか考えていることありますか?
サンユン 特にこんな作品に出たいとかではなく、演劇やミュージカル、小劇場、大劇場とかを選ばずに、良い作品、キャラクターがあれば。ずっと舞台に立っていたいという思いです。5月からエドガー・アラン・ポーを題材としたミュージカル『ポー』に出演するのですが、悪役を演じるので大きな感心を寄せていただけたらと思います。
小西 まずは『ブラック メリー・ポピンズ』をしっかりとやらせていただきます。ぜひ韓国の皆さんにも観に来ていただきたいですね。その後も出演作品が続いていますが、韓国ミュージカルつながりでいえば、来年1月には『フランケンシュタイン』にも出演します。僕にとって舞台は、自分の生活とか人生を豊かにしてくれる、得難いことを得られる場所。サンユンさん同様、舞台から離れられないですね(笑)。
サンユン いつか同じ舞台に立てたらいいですよね。
小西 はい、ぜひ一緒の舞台で。短い時間でしたが、お話できて光栄でした!
※ プロフィール
小西遼生(こにし・りょうせい)
1982年2月20日生まれ、東京都出身。2003年に舞台デビュー。2005年、ドラマ『牙狼<GARO>』に主演。2007年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演。以降、舞台を中心に活躍。最近の主な出演作に、ミュージカル『NEXT TO NOMAL』『シャーロック ホームズ2〜ブラッディ・ゲーム〜』、『ダブリンの鐘つきカビ人間』。今後の出演作に、7月より東京、大阪、水戸で『End of the RAINBOW』、9月より東京、大阪で『ガラスの仮面』、来年1月より日生劇場にてミュージカル『フランケンシュタイン』。
チョン・サンユン
1981年5月15日生まれ。2004年、『地下鉄の恋人』で初舞台。『オペラ座の怪人』『キム・ジョンウク探し』『ブラック メリーポピンズ』『サリエリ』『JSA』『風と共に去りぬ』『スルー・ザ・ドア』のほか、『Some Girl(s)』『プライド』などのストレートプレイにも出演。海外作品からオリジナル作品まで幅広く舞台で活躍している。ミュージカル『スリル・ミー』では「彼」と「私」の両方を演じたことがあり、その演技力が評価され“スリル・ミーの職人”という呼び名がある。5月24日より、韓国・光臨アートセンターBBCHホールにてミュージカル『ポー』に出演。
取材・文 金本美代
韓国発心理スリラーミュージカル
「ブラック メリーポピンズ」
脚本・作詞・音楽:ソ・ユンミ
演出:鈴木裕美 上演台本:田村孝裕 訳詞:高橋亜子
出演:中川翔子 小西遼生 良知真次 上山竜治 一路真輝
○東京公演 2016年5月14日(土)~5月29日(日) 世田谷パブリックシアター
○兵庫公演 2016年6月3日(金)~6月5日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
○福岡公演 2016年6月9日(木) 福岡市民会館
○名古屋公演 2016年6月17日(金) 愛知県芸術劇場 大ホール
公式サイト(海外からもチケット購入が可能) http://m-bmp2.com
<ストーリー>
1920年代初頭、ドイツの著名な心理学者グラチェン・シュワルツ博士の豪邸で火事が起こり、博士の遺体もろとも、すべてが燃え尽きた。
全身に火傷を負いながら、猛火の中から博士の4人の養子達、ハンス、ヘルマン、ヨナス、アンナを救い出した家庭教師メリー・シュミット。しかし、メリーは失踪。子供たちは誰一人その悲惨な出来事を覚えていない。それから 12年…。当時の博士の手帳の存在を知り、子供たちは再会。彼らの記憶のパンドラの箱が開かれる・・・!
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チョン・サンユン、チョ・ヒョンギュンと「春コンサート」で、ミュージカルナンバーを披露!
今回、チョン・サンユンは、4月2日(土)に東京・古賀政男記念けやきホールで開催した2人コンサート「春コンサート」のため、同じく韓国のミュージカルで活躍する俳優チョ・ヒョンギュンと来日。会場には日本の“韓国ミュージカルファン”が多数駆けつけ、2人の俳優の歌声に酔いしれた。チョン・サンユンは出演したミュージカル『スリル・ミー』より「私の眼鏡」(チョ・ヒョンギュンとデュエット)や、『コレゴレ』より「少年が大人になって」を披露。さらに今回のコンサートのテーマである“春”にふさわしいナンバーとしてK−POPからロイ・キムの『春、春、春』、パク・ヒョシンの『野花』、日本語で中島美嘉の『桜色舞うころ』などを歌い上げた。昨年8月にも2人は来日コンサートを開催し、再び来日することを楽しみにしていた2人は、自らも楽しみながら日本のファンとのひとときを楽しんでいた。
同コンサートを主催した<夢友>は、2014年秋より韓国ミュージカル俳優による来日コンサートの企画・主催をスタート。現在活躍中の旬のミュージカル俳優をキャスティング、俳優が出演したミュージカルナンバーのほか、意外な一面を引き出すために本国・韓国でも披露したことのないナンバーを取り入れるなど、日本の“韓国ミュージカルファン”へ向けて、オリジナリティある企画を届けているほか、韓国で人気の創作ミュージカルの紹介も行っている。
次回公演は6月5日(日)、渋谷・CBGKシブゲキ!!にて、昨年12月に韓国ミュージカル『HARU〜あの日に戻れるなら』来日公演に主演したイ・ゴンミョンによるトーク&コンサート『Musical Show with イ・ゴンミョン』。以降も続々と公演が企画中。
夢友公式サイト>http://www.yumetomo.info/