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舞台『ボクの穴、彼の穴。』 ノゾエ征爾&渡部秀 インタビュー&稽古場取材

劇団はえぎわを主宰し、劇作家、演出家、そして俳優としても活躍。2012年「〇〇トアル風景」で岸田國士戯曲賞を受賞し、活発な活動を続けているノゾエ征爾が、パルコ劇場に初登場。
描くのは、穴に隠れて恐怖と猜疑心にさいなまれるふたりの兵士の物語。イタリア人のデビッド・カリの作品で、松尾スズキが翻訳した絵本を舞台化する。
出演者は、塚田僚一(A.B.C-Z)と渡部秀の二人だけ。

その稽古場を訪ね、ノゾエ征爾と渡部秀に話を聞いた。

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― この作品の舞台化を提案されたのはノゾエさんとお伺いしましたが、キャスティングはどの段階だったのでしょうか?
ノゾエ:「脚本化したらこんな感じかな?」と考える最初は落書き校なんですが、その時にはキャストは考えてなかったですね。その後、戯曲化するときには二人を想定していました。

―当て書きという感じですか?
ノゾエ:当て書きとまでは…。微妙ですが、若者であることや、個体差と言う意味では、どこかでイメージしていたかもしれないですね。

―それは稽古の中で色々と変わってきていますか?
ノゾエ:さらに生きてくればいいなと思っています。やっぱり戯曲の時点ではどうしたって文体でしかないので、“戯曲”は体を通して生きる言葉なので、そうなっていくといいなって思っています。

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― 渡部さんはこの舞台のお話が来た時はいかがでしたか?
渡部:もちろん嬉しかったです。二人芝居が初めてだったのと、以前からテレビで拝見していた塚田さんと一緒ということで、単純に「どんな舞台になるんだろう?」とワクワク半分、心配半分(笑)。結構わからないことだらけの舞台でもあり、二人芝居はやっぱり独特というか、今まで出てきた舞台がわりとキャストの多いものだったので。個がよりフィーチャーされる作品で、ハードルが高いなと、最初の落書き校の段階でも、台本を見ても、思いましたね。
ノゾエ:本当に何も具体的なものが無い段階でオファーを受けたと思うので、怖かったとは思いますね。そこでやろうとした勇気があったわけですから、その時点でもうすでにこの作品に必要なものは一個確保できているというか、そういう状況で受けてくれたのは大きいなと思いますね。

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― HPに上がっている動画では、不安なことについては話をされたとおっしゃっていましたが?
渡部:正直、不安な事はありすぎて逆にないって言うか(笑)。とりあえず、やってみなければ分からない台本だったので、最初は考えすぎないようにしていました。いざ稽古に入ってみると、考えることが増えてきました。動きがつくと色んな事が起きてきます…

―絵本からでは俳優の動きが想像できないです。穴の形状もどう表現されるのだろうかと…
渡部:僕は、蟻の巣の断面図みたいに穴が二つあってというような想像していましたが、イメージとちょっと違っていて、稽古場で「そういう感じなんだ!」って思いました。

― そういうところも想像して劇場に来てもらいたいということですか?
ノゾエ:そうですね。うん。演劇というところの“飛躍感”というのは楽しんでもらえたらいいですね。“想像”と言うものが一つ入ってくるので。

― 原作は絵本ですが、今回お芝居にするに当たって、違いというのは意識されましたか?
ノゾエ:はい。そうですね。絵本というのはどこか普遍的なものであったりするんですけど、こうやって生の体で舞台化していくときには、個を立たせたいと思います。“戦争”というのは、ぼわ~んとしたものですけど、その中にいるのは個々であるひとりの人間。“ひとりの人間”と言葉で言うのは簡単ですけど、本当にひとりの人間ってどれだけの個性があって、周りに何があって…。いざこうやって秀くん、塚ちゃんがやると、そのふたりからしか出てこないものがあるし、そういうものを引き出したいと思っています。

― キャストのおふたりの印象は、稽古に入って変わりましたか?
ノゾエ:変わった!本読みの時より、今は良いふうにしか感じてないですね。「体が立って初めて言葉が生きてくるな」って。本読みの時より俄然良い!人によっては「本読みが凄く良かったのに…」ということがあるんですけど、二人はグーンと良くなったので、凄く良かったと思っています。
本読みではコレでいいなと納得していた部分も、体が立つともっと違う説得力が生れてきて、いい意味で「もうこんな言葉要らないな」「こんなト書き要らないな」っていうことがたくさん出てきたりして、良い修正が生れているのがいいなと思っています。

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― キャストも若い、お客さんも若い方が多くて、もしかするとお芝居を観た事がない方、「敷居が高い」と感じている方もいるのでは…と思うのですが。
ノゾエ:(敷居は)高くないのにね…(笑)。
渡部:台本の台詞の量が膨大であったり、やることが沢山あって難しく捕らえがちになるのですけど、言ってる事や伝えたい事は意外にシンプルだったりするんです。誰もが体験した事のある感情だと思うので、大丈夫だと思っています。
ノゾエ:戦争というところにとらわれないで貰いたいなと思いますね。戦争の中に居る人は、僕らとなんら変わりのない人。その人たちを演じてもらっているわけなので。

― ノゾエ演出はいかがですか?
ノゾエ:席を外そうか?(笑)

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 渡部:ノゾエさんもおっしゃっていますが、個人の内から出てくるものを大切にして下さっているというのは、凄く感じます。塚田さんと僕とでは生きてきた人生も違うし、感じてきたものも違うから、僕がAを演じて、塚田さんがBを演じてもまた全然違うと思いますし、それでもノゾエさんはその人たちから出てくるものを尊重して全く違うものを作って下さると思います。ノゾエさん自身の「ボクの穴、彼の穴。」って言うものが、まだ完成してなくて、僕らがやっていることとノゾエさん自身が考えていることを重ねて、考えて考えて最終的に一つのお芝居を作ってくださる方なので、そういう点では、役者冥利に尽きるといいますか、やっていてやりがいを感じますし、色々とやりたくなります。そして違うものは違うと言ってくださる。こうしたほうがいいということは提案してくださる。「それ、いいね!」っていうものは受け入れてくださる。とても広く受け止めて頂いているという印象があります。
ノゾエ:「対話がちゃんと出来る現場でありたいな」っていつもよく思いますね。僕も役者をすることがありますけど、演出されることが意外と救いだったり、無意識のうちにそこに頼っていたりします。でもやっぱり、役者さんもれっきとした発信者。本当の表現者であるというところで、出てくるものは出して欲しいし、それでしか稽古場の醍醐味はないと良く思うので、いつでも対話のしやすい現場にしたいなと思っています。

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― 今回の作品はどんな方に来ていただきたいですか?
ノゾエ:日本全国の方に来て頂きたいですけど(笑)、今回は若いお客さんやファンもいらっしゃると思うので、その方々も大事にしたいと思っています。何か持って帰って欲しいですね。演劇ファンに限らず、今後日本を支えていくというと仰々しいですけど、次の世代の人たちに演劇の良さも持って帰って欲しいし、この中で描かれている人の愛おしさみたいな想いも持って帰ってもらえたら嬉しいです。普段はそんなこと考えてないんですけど、今回はそういう欲がちょっとあります。
渡部:いろんな人に見て欲しいと思うし、ファンに見てほしいのは大前提として、すごく安易な考え方かもしれないんですが、僕らの世代以外の方にも見ていただきたいです。それはなぜかといえば、僕らより上の方には戦争を体験されている方もいらっしゃるわけじゃないですか。そういった方に見ていただいて、逆に感想を聞いてみたいです。「今の僕らの戦争の価値観はこういうことなんです」って体現する。本当に体験された方々が色んな事を感じると思うんです。「お前らふざけるな!」かもしれないし、色んな意見があると思うんですけど、そういうのも聞きたい。僕ら世代がやるからこそ、僕ら世代以外からも感想が聞きたいと思っています。

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― 塚田さんとの共演はどうですか?
渡部:塚田さんはとても真面目な方で真摯にお芝居と向き合われる方だと思います。まだ実際の会話って言うところまでは行ってなくて、これからだと思うんですけど、普段、稽古終わった後にご飯食べたりしたときに、色んな話をしている感じでは、波長は合うんじゃないかと。性格は真逆ぐらい違うんですけど、だからこそ合うものもあると思うので、そこはまた今後、楽しみにしています。
ノゾエ:二人でご飯に行ったりするの?
渡部:二人ではないですね、何人かと。二人で帰ったことはあります。
ノゾエ:二人がご飯しているところ見てみたい。こっそり(笑)
渡部:ホント違うんですよ。価値観が違うんですかね?
ノゾエ:ホント面白いですよ。結構違う。稽古場でも違いを感じますけど。
渡部:やっぱり感じるんですね。
ノゾエ:感じる、感じる!

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― 渡部さんはドラマや映画、そして今年は韓国語とお忙しい中、舞台作品にも出演し続けておられます。舞台を続けたいという気持ちがありますか?
渡部:もちろんあります。役者として凄くスキルが身に付く場所だと思っていますし、長期戦であるが故に、色々構築して削っていって、最終的に提出するもののハードルがあがるから、試されると思います。短期決戦での映画・ドラマとはまた違いますよね。そして舞台の醍醐味は最初から最後まで本番だというところ。最初に舞台をやった『里見八犬伝』(2012年)では手足が震えるくらい緊張しました。でもそこで他の仕事でも活きることを勉強できました。同じお芝居を何度もするのは、なかなかできないと思うのです。舞台は楽しいですよね。

― では最後に観に来て下さる方、まだ迷っている方へメッセージをお願いします。
ノゾエ:もし、どこかで構えているなら不要でございます。来て見てください!ここにいいものがあります(笑)。
渡部:稽古が始まったばかりで、まだよく分からない部分が多いんですけど、この段階で凄いものが出来るという確信が出来るくらい現場の雰囲気もいいですし、何よりこの演出、脚本と塚田さんという素敵な方がいらっしゃるので、本当にそんな構えずに、とにかく足を運んでいただいて楽しんで頂けたらと思います。どうぞよろしくお願いします!

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【稽古取材】
取材した日は「渡部DAY」。舞台の上には渡部1人。俳優・渡部秀と演出家・ノゾエ征爾が1対1で向き合う。
稽古が始まってからまだ4~5日とのことだったが、渡部が手にするのは機関銃だけ。ひとり語りの長い台詞は、もうすっかり渡部の頭の中のようだ。

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ひと区切りつく度にノゾエは席を立って渡部の傍に行き、穏やかに言葉を交わす。ふたりは一緒になって兵士・渡部の心の内側を探り、その心の動きを全身で表そうとしているようだ。

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ノゾエが「そこの台詞は自分で考えて入れてみて」と渡部に言う。兵士になりきるだけでは足りない。渡部でなければできないことが、1つ1つ丁寧に積み重ねられていくようだ。
静かで穏やかだが濃厚な稽古場の空気に、自分も穴の1つに身をひそめて、兵士の様子を観察する気分になった。

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絵本が描いた戦争が、どんな姿になって現れるのだろう。そして塚田と渡部、ふたりが舞台に立つ姿を想像する。真剣勝負の駆け引き、張りつめた緊張感と精神的エネルギーのぶつかり合い…。そして、遠いはずの世界を間近に感じること…。観劇の究極の醍醐味を味わえそうだ。

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ノゾエ征爾(ノゾエ せいじ)
1975年7月2日生まれ
脚本家、演出家、俳優。松尾スズキ氏のゼミを経て、青山学院大学在学中に「はえぎわ」を旗揚げ。はえぎわの全作品の作・演出を手がける他、海外戯曲の潤色・演出や、高齢者施設における巡回公演、広島や静岡など地方での創作など、外部の活動も精力的に行う。2012年、『◯◯トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞受賞。
8月27日〜9月7日、イマジンスタジオにてはえぎわ新作公演を予定。

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渡部 秀 (わたなべ しゅう)
1991年10月26日秋田県生まれ
2008年度「第21回 ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」準グランプリ受賞。
2010年『仮面ライダーオーズ/OOO』で連続ドラマ初主演。出演作にドラマ『純と愛』、
映画『PIECE 〜記憶の欠片〜』『進撃の巨人』『シュウカツ』、舞台『真田十勇士』『GO WEST』『AZUMI幕末編』など。
現在NHK『鼠、江戸を疾る2』『テレビでハングル講座』、フジテレビ『みんなのニュース』出演中。
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★公演概要★
公演名: 『ボクの穴、彼の穴。』
公演日程:2016年5月21日(土)~5月28日(土)全8回公演
会場:パルコ劇場
原作:デビッド・カリ/イラスト:セルジュ・ブロック/訳:松尾スズキ(千倉書房)より
翻案・脚本・演出:ノゾエ征爾
出演:塚田僚一(A.B.C-Z)、渡部秀
チケット料金:7,000円(全席指定・税込)
お問合せ:パルコ劇場 03-3477-5858  http://www.parco-play.com