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 『怪談 牡丹燈籠』 インタビュー  森 新太郎、柳下 大

7月14日(金)から30日(日)まで、夏にぴったりの芝居『怪談 牡丹燈籠』がすみだパークスタジオ倉で上演される。

「牡丹燈籠」は「四谷怪談」「番町皿屋敷」とならぶ日本の三大怪談話で、「若くして死んだ娘が幽霊となって恋した男の元に通う幽霊話」だとご存じの方も多いだろう。
原作は、江戸末期に生まれ、明治時代に活躍した落語家・三遊亭圓朝によって語られた落語を書き取ったもの。歌舞伎を筆頭に、これまでに幾度も映像化、舞台化されてきた人気物語だ。
実は三遊亭圓朝の原作は22章から成るという大長編で、幽霊となった若き娘・お露と浪人・新三郎の恋話というメインストーリーだけでなく、新三郎の下男とその妻、お露の父と妾に奉公人など、多くの登場人物が繰り広げるサイドストーリーがいくつも複雑に絡み合う人間ドラマなのだ。

この夏上演される『怪談 牡丹燈籠』は、そのサイドストーリーにも焦点をあて、「腹の底から冷え冷えするような、恐ろしい舞台」にするという。

公演が間近に迫った夏の日に稽古場を訪ね、演出の森 新太郎と、新三郎を演じる柳下大にそろって話を聞いた。

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―公演まで約1週間。ズバリ、出来具合や手ごたえはいかがですか?
森:出来具合は・・・(笑)、本番前に自信満々と答えたことはないですが、すごく楽しいです。今回は場面転換が多い芝居なので、具体的な場所を示すような装置は一切なく、1つ大きな抽象的な“ブツ”が舞台上に置かれます。本番1週間前は普通なら固めに入る時期ですが、やっと昨日、その本物の“ブツ”が入って、これまでの芝居を半分くらい壊したので(笑)、僕は楽しいけれど、俳優が楽しいかどうかは…(笑)。楽しいと思ってくれていると信じています。
柳下:昨日までは、その“ブツ”がなくて仮のものでやってきたので、本物が来てみると、印象が変わり、できることが増えていたりもしました。残り1週間しかない中で、たぶん森さんの中でいろいろな可能性が増えたんだと思います。僕は森さんの頭の中に生まれた新たなイメージに追いつく…表現することに必死です。楽しいのは楽しいですが、僕の芝居については、前半は全部変わったので、昨日はぐったりしました(爆笑)。ただ僕の場合は、固定された役を突き詰めていくと行き止ってしまうことがありますが、森さんのようにいろいろ試して下さると、いろいろな可能性の中から軸ができていくような感じがするので、試行錯誤しながら骨も太くなるような気がして、楽しくなっています。
森:無駄なことはないんです(笑)。いろいろ試行錯誤して9割は捨て去るんですが、無駄なことは1つもないと思っています。

―さかのぼりますが、おふたりが稽古前互いに抱いていた印象と、稽古が始まってから、それが変わったかについて教えて下さい。
柳下:僕が最初に森さんの作品を観たのは、最近ですが『BENT』でした。2幕の演出がとても印象的で、この作品のような「相当稽古したんだろうな」と思えるとても台詞が多い作品を「大変だろうけれど、絶対にやってみたいな」と思いました。先日上演されたミュージカル『パレード』の時は、これまであまり気にしてこなかった照明や盆(回り舞台)が観ていて楽しくて、特に照明が印象的だった覚えがあります。
森さんとご一緒させて頂く前に、森さんとやったことがある方から「一回やった方がいいけれど、大変だよ」「稽古が長い」と聞いていました。そういうのが、僕は嫌いだけど嫌いじゃないんです(笑)。稽古中はきついけれど、本番になった時と終わった時に達成感があり「やってきてよかった」と思うので。それで、今回は覚悟を持って臨んだのですが、全然辛くないし、稽古も長いとも感じません。逆に気になっているところは徹底的にやって欲しいので、繰り返しているうちに体も慣れてきましたし、頭も余裕もできて違ったものが見えてきたりもする。辛いだろうと思っていましたが、実際やって見たら全然辛くなかったです。

―森さんが柳下さんに抱いていた印象は?
森:「そんなに舞台が好きじゃなくて、稽古中に厭きられたら嫌だ」と思っていましたが、一緒にやってみて「(柳下さんが)演劇が好きで良かった」と、まず思いました。その人が芝居を好きか嫌いかは、やってみると分かるものです。昨日もモノローグの部分が、一人で閉ざして言うものか、客に開いて言うものか、180度変わったのですが、楽しそうにやっていると思ったので。それ以外にも、他人が芝居をしている時にも、柳下さんはすごくやりたそうに見ているので「舞台が好きなんだ」と分かって嬉しかったですね。他の人の稽古を見ている様子で、芝居が好きか嫌いか分かるんですよ。「ごめんね、まだ君の出番じゃないから待っていてね」「もうちょっと稽古したいんだろうけど」と思っちゃうくらいで、それが何より良かったです。

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―さて作品についてお尋ねします。「牡丹燈籠」は有名ですが、こんなにいろいろなエピソードを含んだ話だったとは意外でした。
柳下:原作を読むまで「怪談 牡丹燈籠」について何も知りませんでした。読んでみて、僕は孝助に魅かれたのですが、舞台によっては孝助が登場しないこともあると聞きました。台本では世間で知られている新三郎とお露、伴蔵とお峰の話以外にも多くのサイドストーリーを2時間できゅっとまとめてあり、展開がすごく早いので「どう演出するのだろう?」と思っていたら、今回のセットになっていました。観て頂くと、あっという間に時間が過ぎてしまうのではないかと思います。
森:フジノサツコの台本を初めて見た時には「自由に書くなぁ。どうやるんじゃい!」と思っていました(笑)。すべての俳優がそう思ったらしいです。圓朝の原作はエピソードが入り組んでいて面白い。削ってしまうと因果話の魅力が無くなってしまうので、今回はエピソードをほぼ網羅していて、原作の豊かさをそのままに出せるのではないかと思います。
幽霊話も怖いですが、それよりも人間の方が…ね。絡み合った、1人の力ではどうしようもなかったんじゃないかというつながりが描かれています。新三郎とお露の幽霊話が中心にあるんだけれども、次々に話が展開していくので、お客様も「この話は、いったいどこに行きつくんだろう?」と興味をもって観て頂けると思います。

―台詞が江戸言葉ですね?
森:フジノサツコと「現代語に直そうか?」話をしたこともあるのですが、現代語に直すとやりとりがやたらと長くなってしまうんです。シェイクスピアもそうですが、日常語で書かれているようで日常語じゃない。飛躍があるんです。そして圓朝の文体には現代語にない、俳優が自然とノッてくる、肉躍るリズムがあるので、フジノサツコが書き足したところもありますが、なるべく圓朝の文体は残そうとしました。それから今回、着物は着ないので、台詞を現代語に直してしまうと完全に現代劇になってしまうんです。江戸の言葉と現代の服で演じることで、お客様の頭の中で再構築されて、江戸の話にも思えるし、我々の時代の話にも思える…。演劇の面白さの半分をお客様に作ってもらおうという余白が面白いと思うので、あえてそういう手法を僕はよくとります。

―普段しゃべらない江戸言葉での芝居はいかがでしたか?
柳下:僕も時代劇は好きで、こういう口調とかは好きです。それでもしゃべれていなかったので、森さんに言われて、今回初めて“外郎(ういろう)売り”(歌舞伎十八番の一つで、その台詞は発声、滑舌のトレーニングのために読まれる)をやりました。
森:みんな、やっているんですよ。
柳下:最初は言葉使いや言い回しで苦戦したので、“外郎売り”は絶対やった方がいいものだと、今までやらなかったからこそ気付かせて頂きました。“外郎売り”ひとつにしても、知れば知るほど面白いです。

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―新三郎という役作りについて、キャラクターつくりについて教えて下さい。
柳下:最初に森さんとお会いした時に「市川雷蔵さんのイメージ」と言われたので、映画『斬る』『薄桜鬼』を観て、本読みに向けて自分の中で好青年・硬派な二枚目をイメージして作っていったのですが、稽古で大きく振って半分戻して森さんに見て頂いて…を繰り返して、どんどん骨ができ肉をつけてきました。結果的には根本は現代でもいるような、リアリティのある人間…ずるい男…ダメな男の子…という感じのキャラクターですね。
僕はお化けが嫌いで、幽霊とかを信じていません。幽霊を信じていない点は新三郎と自分は似ています。信じていないからこそ、目で見たことは信じるけれど、幽霊と分かった瞬間に…今の自分でも幽霊と会話しているのだと分かったら…と考えると、信じていないからこそ一気に変わってしまうという感じを意識してやっています。

―柳下さんに期待する部分は?
森:新しい新三郎像を作ってもらわなきゃ…というところですね。最初に「市川雷蔵で」と言ったのは、「僕が雷蔵が好きだから、雷蔵みたいに男前に作ったらどうなるのかな」と思っていたのですが、やっていくうちに好青年ほど面白くないものは無い。柳下さんを見ているうちに違うイメージも湧いてきて、嫌なところがあってもいいんじゃないかと思えてきた。最初から新三郎はカッコ悪い男で「ロミオにはなれないだろう」と思っていたのですが、彼を見ながら新三郎は浪人だけれども、気位が高いようなところ…プライドの高さや、それゆえの臆病さ、自分の領域に入って来て欲しくない気持ちとかがあっても面白いんじゃないかと思えてきたので「D-BOYSに誰か気位の高い奴いるだろう?その人をモデルにやってみて」と言ったら、すごく面白いのを見せてくれた。誰がモデルかは、いまだにわからないけど(笑)。彼が見せてくれたようなすごく気持ち良いし、繊細なところがある新三郎は想像していなかったので、それが一週間前くらいに出たのは結構大きいです。やってみなきゃ分からなかったところですね。

―お話を伺うと、これまでの『牡丹燈籠』のイメージが覆る感じがします。
森:文学座の『牡丹燈籠』も有名ですが、僕はなるべく見ないようにしています。坂東玉三郎さんの歌舞伎の『牡丹燈籠』は昔見て面白かったのですが、あの世話物ぽいところからなるべく抜け出そうかなと思って、今回は着物も着ていません。「牡丹燈籠の本質を僕なりに探りたい」「現代劇に蘇らせたいな」と思って探った結果として、今回は皆さんが思っている以上にシリアスになるところもあるし、バカバカしくなるところもあると思います。お露の幽霊も、原作でも人間味あふれる感じで描かれているので型にはまった幽霊ではなく「普通の女の子の怖さがあってもいいなぁ」と考えて、自分たちの体験に寄せながら人物を深めて描きたいと思っています。
(怪談話としては、新三郎はお露の幽霊にとり殺されるが)圓朝の原作では、誰が新三郎を殺したか、グレーな感じで終わります。それは圓朝が江戸時代から明治という近代に生きた人で、お化けを怖いと思っているけれど、どっか信じていない、我々に近い感覚があるから、こうした矛盾したようなお話が出来上がったのではないかと思います。
シェークスピアもそうですが、傑作には決して解けない謎がある。今回も圓朝の作った謎は、そのまま生かしていますから、お客様は不思議な感覚になるのではないでしょうか。ご覧頂いて、薄気味悪く感じて頂けるといいなぁと思っています。

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―劇場がすみだパークスタジオというのは?
森:暗闇はそれだけで想像力が拡がるので、今回は暗闇にこだわってやりたいと思っていました。でも大きな劇場ではなかなか暗くすることができないのです。すみだパークスタジオは極限まで暗くできる。そして真っ暗で何も見えなくても、人がそこにいることが皮膚で分かる・伝わる大きさの劇場です。こういう空間でなければ、『牡丹燈籠』はやれなかったなと思っています。
この劇場に来ると「水や火を使うんでしょ」と言われるので、今回は絶対に使わないようにします(笑)。

―最後に見どころのアピールをお願いします。
森:チラシに書いたのでそうするしかないんですが(笑)、恐ろしい舞台、冷え冷えとする舞台になっているはずです。ただ幽霊話だけだと思って来られるとビックリされるかもしれません。よく言われることですが「ホントに恐いのは人間」です。そういうものを観たい方は、ぜひぜひおいで下さい。
柳下:キャラクターが個性豊かで、ストリーが入り組んでいて、怖さも人間の面白さも一度に感じて頂けると思います。特にこの劇場なので、感覚で伝わるものがいっぱいある、今までに感じたことがない舞台だと思います。音も楽しいです。ぜひ楽しんで頂きたいです。

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オフィス コットーネプロデュース
「怪談 牡丹燈籠」
原作: 三遊亭円朝   脚本: フジノサツコ
演出: 森新太郎   プロデューサー: 綿貫凜
出演:柳下大 / 山本亨 / 西尾友樹 / 松本紀保 / 太田緑ロランス / 青山勝 / 松金よね子 / 花王おさむ / 児玉貴志 / 原口健太郎 / 宮島健 / 川嶋由莉 / 新上貴美 / 井下宜久 / 升田 茂

公演期間 2017年7月14日 (金) ~2017年7月30日 (日)
会場 すみだパークスタジオ倉
公式HP http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/botandourou/
チケット 一般 前売:5,500円 当日:5,800円
シードチケット(25歳以下)前売・当日共:4000円
墨田区民割引 前売のみ:5300円 (全席指定・税込)

<カンフェティ取扱チケット>
一般 前売:5,500円 (全席指定・税込)