役者も混乱してしまうような嘘だらけの物語
煙に巻かれる爽快感と、たくさんの笑いを楽しんでください
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の名作戯曲台を、新たなキャストと演出で創り上げる「KERA CROSS」シリーズの第3弾『カメレオンズ・リップ』。この作品に主演として挑んだのは松下洸平。いまやジャンルレスに活躍する彼が、はたしてどうこの傑作と向き合ったのか。放送を前に稽古、本番の思い出を振り返ってもらった。
松下さんはこの舞台で初主演を務めました。あらためて、ご自身にとってどのような作品だったと感じていますか?
「最初の頃は、主演ということに強い責任感や使命感を抱いて稽古に臨んでいました。でも、稽古が進むうちに、そういったことを考える余裕すらなくなる程大変な舞台だったんです(笑)。冒頭から最後まで、嘘しか出てこないような物語でして。登場人物の誰が真実を言っているのかがわからず、自分が演じた役(ルーファス)でさえ、ときどき“いまのは本音でいいんだよね?”と確認していかないと混乱してしまうんです。共演者の皆さんも同じだったようでしたし、今回の放送をご覧になられる方も、油断していると頭の中に“?”がたくさん出てくるかもしれません。でも、そうした困惑を軽快に、むしろ清々しさえ感じられるように、いかに煙に巻いていくかが、稽古場での僕らの課題でしたね」
プロローグでは純情そうだったルーファスが、その後、詐欺師を名乗る男になっていたのは驚きました。
「役を演じる上で、彼は本来どういう性格で、それがなぜ今のような人物になったのかを深く考えていきました。その背景には、姉(ドナ)の存在が大きいんです。彼女はいつも嘘をついてルーファスを困らせていましたけど、そんな姉をルーファスは大好きだったんですね。でも、姉が突然失踪したことで、彼の生き方も大きく変わってしまう。とはいえ、性根の部分といいますか、やはり彼には悪人になりきれない優しさや素直さがある。そこには、何年経っても姉のことを待ち続けている少年のままのルーファスがまだいるからなんです。それでも、まわりには“俺は成長したんだ”という姿を見せたくて、虚勢を張ったりする。強気に出たかと思えば、次の瞬間には誰よりもビビっていたりして……手強い役でした(苦笑)」
なお、そのドナ役には生駒里奈さん。生駒さんは、見た目が瓜二つでルーファスの使用人であるエレンデイラの2役を演じていらっしゃいました。共演されてみていかがでしたか?
「ドナはルーファスをいつも翻弄するのですが、反対にルーファスはエレンデイラに対してマウントを取り続けようとする。複雑な3つの関係に絡んだ中での2役でしたので、稽古中もよく悩んだり、演技を模索されているようでした。ただ、稽古の終盤に入ったあたりから、徐々に“もうひとりの生駒里奈”が顔を出し始めたんです。しかも、劇場入りし、衣装を着て、照明が加わり、場当たりが始まった瞬間に、“あれ? 人、変わった!?”と思うくらい大きく変化して、驚きました。この作品はルーファスの物語であり、同時にドナの物語でもあるので、僕も生駒さんの演技に何度も引っ張っていただきましたね」
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、後半のお2人の演技と物語の展開には圧倒されました。
「この作品の最後のハイライトシーンで、僕は長ゼリフを話すのですが、このシーンは、そこに至るまで、キャスト全員で流れを作り上げていって到達するシーンです。なかでも、生駒さんは物語の終盤にかけてものすごいエネルギーを放たれている印象がありました。どこか寂しそうな表情をしたかと思ったら、突然爆発的な演技で周囲を圧倒したりして。二面性といいますか、自分の中でもうひとりの自分を飼いならしているような感じすらしたんです。それを思うと、まさに生駒さん自身がドナであり、エレンデイラだったような気がしますね」
また、今回の作品は2004年にKERAさんが書かれた戯曲を、新たに河原雅彦さんが演出されたものでした。お2人とはどのようなお話しをされたのでしょう?
「KERAさんとは昨年の新作舞台『ベイジルタウンの女神』(ケムリ研究室 no.1)で初めてご一緒しました。そのときはKERAさん自身が演出も手がけられ、個人的に大ファンだったKERA作品を演者として体感することができました。その経験が今回の舞台でもすごく役立っていましたね。本番を観に来てくださったのですが、一幕が終わった休憩中に楽屋にいらっしゃって、最初の言葉が『長いなぁ、この芝居』で(笑)。思わず、『KERAさんが書いたんですよ!』ってツッコんじゃいました(笑)。また、河原さんとは2017年の『魔都夜曲』以来でした。俳優と役と戯曲に対してすごく真摯な方で、いつも根気よく我々に付き合ってくださいます。こういうご時世ですので、稽古中は芝居のことしかお話しすることはなかったのですが、たとえ会話が少なくとも120%信頼できる演出家さんだなと、あらためて思いました。……ただ、そう思っているのはたぶん僕だけで、きっと河原さんは僕のことを、相変わらず手のかかる俳優だなぁと感じたでしょうけどね(笑)」
▼プロフィール
Kouhei Matsushita
1987年3月6日生まれ。東京都出身。2008年にCDデビュー。翌年、ミュージカル『GLORY DAYS』で初舞台を踏み、NHK連続テレビ小説『スカーレット』、舞台『母と暮せば』など話題作に多数出演。現在、バラエティ番組『ぐるぐるナインティナイン』にレギュラーで出演中。8月25日にはメジャーデビューシングル『つよがり』をリリース。2021年10月15日より映画『燃えよ剣』が公開。
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取材・文:倉田モトキ
撮影:宮田浩史
ヘアメイク:宮田靖士(THYMON Inc.)
スタイリスト:渡邉圭祐
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CS衛星劇場にて、KERA CROSS 第三弾「カメレオンズ・リップ」をテレビ初放送!
放送日:2021年9月12日(日)午後5:00~8:30
2021年
[作]ケラリーノ・サンドロヴィッチ
[演出]河原雅彦
[音楽]伊澤一葉(東京事変、the HIATUS)
[出演]松下洸平、生駒里奈、ファーストサマーウイカ、坪倉由幸(我が家)、野口かおる、森 準人/シルビア・グラブ、岡本健一
KERA CROSS 第三弾は、甘美な騙し合いが交錯するクライム・コメディの傑作!松下洸平、生駒里奈、岡本健一をはじめ、多彩なキャストが集結!
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の数々の戯曲の中から選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいに創りあげる連続上演シリーズ「KERA CROSS」の第三弾。2004年に堤真一、深津絵里などのキャストで上演された『カメレオンズ・リップ』は、20世紀初頭、ヨーロッパ風の古びた山の邸宅を舞台に、謎の死を遂げた姉に瓜二つの使用人と暮らす男、そこに集ってくる亡き姉の夫、元使用人、医師、姉の友人など、様々な人々がそれぞれに嘘をつき、騙し合い、事態を混乱させ、破綻してゆく…、予測不可能のクライム・コメディ。その予測不能の物語を演出家・河原雅彦が鮮やかに描き出し、さらに音楽は東京事変、the HIATUSのメンバーとして活躍する作曲家・キーボーディストの伊澤一葉が手掛けた。
キャストには、舞台・映像・音楽など様々なフィールドで活躍し、ドラマ『スカーレット』『#リモラブ~普通の恋は邪道~』等でも話題の松下洸平、乃木坂46出身で数々の舞台作品に出演し、『すべての犬は天国へ行く』に続きKERA戯曲への出演となる生駒里奈、女優として音楽アーティストとしてキャリアを重ね、バラエティ番組でも八面六臂で活躍中のファーストサマーウイカ、そして華やかさと卓越した演技力で多くの舞台作品に出演する岡本健一、といった話題のキャストをはじめ、坪倉由幸(我が家)、野口かおる、森 準人、シルビア・グラブという、多彩な実力派のキャストが一堂に会した。
※放送の映像は、2021年5月配信版とは別編集バージョンとなります。また本編終了後に、松下洸平SPインタビューも放送!
(2021年4月14日~26日 東京・シアタークリエ)